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「オクタヴィア。改めて、婚約者としてよろしくお願いいたします」


とても嬉しそうに笑うザカライア。


「は、はいっ・・こちらこそ、よろしくお願いいたします!!」


(ザカライア様・・すっごい笑顔・・! 美男すぎて、その笑顔がもう・・私の心臓が、止まりそうだわ・・)


ちらりと視線を壁際のナージャに向ければ、彼女も満面の笑み・・・なのに、大粒の涙をぽろぽろ流している。


(ナージャ・・・情緒が渋滞してるけど、大丈夫かしら!?)


ナージャの様子に気を取られていると、ザカライアにそっと手を握られた。


「オクタヴィア。状況が状況なので・・・陛下と皇妃には、あなたの能力について説明しなくてはなりません。ですが、私が責任を持って、その話が外に広がらないようにいたします」


「はい・・よろしくお願いいたします」


真剣な表情のオクタヴィアに微笑んだザカライアは、ふと思い出したように上着のポケットに手を入れた。


「・・・ああ、あと、これをお返しします」


ザカライアは、オクタヴィアの手の平に見覚えのあるネックレスを置いた。


「嫌な思い出となっていたら、捨ててくれて構いません。これをどうするかは、オクタヴィアにお任せします」


「これは・・・・・」


「はい、私が差し上げたネックレスです。壊れて落ちていましたので拾いました・・・修理はしてありますが、この石を加工して違う宝飾品にしてもいいかもしれませんね・・・」


オクタヴィアは、宝石を手で包み込んで、そっと握る。


「ザカライア様、ありがとうございます。無くなってしまったと思っておりました・・・戻ってきて嬉しいです・・・。でも、私の大切なネックレスです。捨てませんし、加工もしません。お気遣いありがとうございます」


「そうですか・・・」


ザカライアは、少し複雑な表情だ。


「首の怪我が治ったら、また付けさせてもらいますね」


オクタヴィアはザカライアの気持ちも理解した上で、笑顔でそう言った。

ナージャがすぐにネックレスを置く箱を持ってきてくれたので、大切なネックレスをナージャに預ける。


「・・・では、陛下と皇妃のいらっしゃる部屋へ参りましょう」


ザカライアに手を引かれて部屋を出る。


「あっ、あの、ザカライア様っ! 手、・・手をつないだままなのですが・・・!」


オクタヴィアの声に、ザカライアは一度立ち止まり、しっかりと握った手に目を落とす。


「ええ。このままで行きましょう。私たちは婚約したのですから、何も、おかしいことではありませんよ」


「ファ、ファルマン帝国では・・・・こ、これが普通なのですか・・!?」


オクタヴィアの顔は真っ赤になり、心臓の音が自分でもはっきり聞こえるほどに高鳴っている。全てが初めてで、どこまでが“正解”なのかもわからず、頭の中は軽くパニックだ。


「ええ、そうですね・・・普通だと思いますよ」


ザカライアは、“普通”かどうか正直わかっていないが、自分がそうしたいからそうしていた。何のためらいもなく、さらりと嘘をつく。


「わかりました・・これが普通なのですね・・・」


(世の中の人たちは、これが普通なのね!? みんな、どうやって心臓の音を抑えてるの? ・・・顔が熱すぎるわ! 私の顔、いまどうなってるのかしら!?)


そんな状態のまま廊下を進み、やがて騎士たちが見張る部屋の前に到着した。

ザカライアを見ると、騎士の一人が扉をノックして中に声をかける。「入れ!」という声が返ると、扉が開いた。


中ではアーロン陛下とイザベル皇妃が並んでソファに座っていたが、ザカライアとオクタヴィアが入ってきた瞬間、アーロンは目を丸くして固まり、イザベルは弾けるような笑顔で立ち上がる。


「まあ!オクタヴィア王女!!もしかして、ザカライアと!?」


イザベルは勢いよく二人に駆け寄る。


「あ、は・・・はい・・・こ・・婚約を承諾しまして・・・」


そこまで話すと、イザベル皇妃はオクタヴィアに勢いよく抱きついた。

ザカライアと手をつないでいなければ、二人で転んでいたことだろう。


「あぁ・・・・!素晴らしい日だわ!アーロン、私にこんなに可愛らしい妹ができたわ!!」


先程のナージャと同じで、泣きながら笑っているイザベルを見て、またオクタヴィアは心配になる。


(イザベル皇妃様も情緒が渋滞しているわ・・・)


アーロンも、二人に歩み寄ってきた。


「おめでとう!ザカライア!」


ザカライアは空いている方の手でアーロンと固く握手する。オクタヴィアとつないだ手は、どうやら絶対に離すつもりがないらしい。

しかも、イザベル皇妃は未だにオクタヴィアに抱きついたままだ。


「イザベル皇妃、オクタヴィアが驚いています。一度、席に座りましょう」


「えぇ・・・ええ、そうね・・・ごめんなさい・・・オクタヴィア王女・・」


「いえ・・あの、イザベル皇妃様・・・私のことはオクタヴィアとお呼びください」


(ザカライア様のお姉様ですもの。呼び捨てにしていただいた方が自然だわ)


鼻を摺りながら、イザベルはオクタヴィアを見る。


「では・・・オクタヴィアさん、と。私の事も、イザベルと呼んで」


「お名前を呼ばせていただくなんて・・・よろしいのでしょうか?・・・では、イザベル様と・・・」


「ふふ・・・アーロン、聞いた? もう私たち、すっかり仲良しよ! オクタヴィアさん、今度一緒にお買い物に行きましょうね!」


席についても、イザベルはまだ涙をぬぐいながら笑っている。

そんな姿を見て、オクタヴィアは「イザベル様は泣いている姿まで美しいのね」と心の中で感心していた。


「まず、陛下」


ザカライアがアーロンに声をかける。


「なんだ?」


「お人払いをお願いできますでしょうか」


「ふむ・・・」


アーロンはザカライアとオクタヴィアを交互に見つめ、少し考えたあと、部屋に控えていた騎士や侍従に退出を命じた。


「これで話はできるかな?」


アーロンはオクタヴィアに向けて、緊張を和らげるようなやさしい笑みを浮かべた。


「オクタヴィア、私が話してもいいのだが・・・自分で話しますか?」


ザカライアは少し心配そうにオクタヴィアに声をかける。


「大丈夫です。私から説明させていただきます」


先ほどザカライアに語った内容と同じ話を、アーロンとイザベルにも伝える。


話の途中、二人とも「信じられない」といった顔をしていたが、話が終わる頃には、真剣な表情で黙り込んでいた。


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