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(ああ、イライラする!)


リンゼン公爵の娘、リリアは落ち着きなく自室を行ったり来たりしていた。

夜会で見たデューク王国の王女は、アービング公爵をずっと傍に侍らせていた。

しかも、隣国の王太子にまでちょっかいを出していた。


(なんなのよ!あの女!)


(お父様にあの王女を何とかするよう頼んでも、「待っていろ」としか言われないし・・・なんなの!?)


(そもそも、アービング公爵も、いくら隣国の来賓だからって気を使いすぎよ!あんな小国の王女なんて気にする価値もない!)


リリアはイライラと考えを巡らせていた。


「お嬢様、旦那様がお呼びです」


執事が部屋に入ってきて告げる。

この執事は、最近お父様が新しく雇った者だ。

じっとりとした目つきが気持ち悪く、リリアは苦手だった。


「い・・嫌よ、今はそんな気分じゃなわ!」


「すぐに来るようにとの事です」


有無も言わせぬ口調できっぱりと言い、じっとリリアを見る。


「・・・」


「・・・わかったわよ!行けばいいんでしょ!行けば!」


コンコン・・


「入れ」


リリアは、不貞腐れながら入室する。


「お父様、私、今日はお話しする気分ではございませんの」


公爵はリリアの発言を無視して話し始めた。


「お前の結婚が決まった」


「え・・・・?」


「喜べ、相手はルカルド王国のジゼル王太子殿下だ」


「ジゼ・・ル・・・・?」


「すぐに男の子を産めば、将来王妃になれるかもしれないぞ?」


「お・・・お父様?」


リリアの手が震える。


「わ・・私は、アービング公爵様をお慕いして・・・・」


「決定事項だ。異論は認めん」


ずっとアービング公爵との結婚を望み、父にも何度も訴えてきた。

好きにすればよいと言われていたので、理解してもらえていると思っていた。

なのに、なぜ今になって隣国の王太子と結婚しろなどという、到底信じがたい命令を受けるのか。


「明日、サイラス国王たちはルカルド王国に帰るそうだ。お前も一緒に行け」


「そんな・・・・・お母様は、このことを・・ご存じでしょうか・・・」


震える声で問う。


「お前の母親にはまだ言っていないが、反対することもなかろう」


(まだチャンスはあるっ!お母様に泣きつけば・・・)


「わかったなら、もう出ていけ。私は仕事がある。部屋に戻って、明日の準備をしろ」


どうやって母の部屋まで来たのか、覚えていない。

気づけば、リリアは扉をノックしていた。


「お母様・・・」


「リリア、どうしたの?涙だなんて流して・・・」


「お・・お父様が、私をルカルド王国のジゼル王太子殿下と結婚させるって・・・・」


「まぁ!本当に?凄いじゃない?将来王妃になれるわね!」


母親は、にっこり笑ってリリアを抱きしめた。


「わ・・わたしは、アービング公爵様をお慕いしています・・・行きたくありません・・・嫌なんです・・・・」


「まあ、リリア。もう夢みたいなことを言うのはおやめなさい。確かにアービング公爵様は美しい方だけれど、あなたを選ぶことはないわ。ずっと追いかけているのに、振り向いてももらえないでしょう? もう諦めなさい。せっかくお父様が決めてくださったのよ。ジゼル王太子殿下との結婚を、素直に受け入れなさい」


母親は、何でもないことのように言った。


「お母様・・・?」


「私はね、リリア。あなたが誰よりも地位の高い方へ嫁げれば、それでいいのよ。ファルマン帝国にはまだ王太子がいないから、近隣ではジゼル殿下が実質一番地位の高い方になるわ。もちろんアービング公爵様も高貴だけど、王族ではないものね」


「お・・・お母様・・・そんな・・」


「それならば、すぐに嫁げるよう準備しないとね! 大丈夫よ、リリア。安心して。私も準備を手伝いますからね!」


母は楽しそうに、にこにこと笑いながら言う。


(違う!!・・・私はそんなこと、望んでいない!・・・)


「お母様!私は行きたくないのです!!!お父様に、この結婚をやめるように・・・」


バシっ!!


大きな音が響いた。


リリアは何の音か一瞬考えたが、頬の熱さを感じて気づいた。


(お母様に・・叩かれた・・・?)


「リリア、何を勘違いしているの? あなたがルカルド王国に行くことは、すでに決まったことなのよ。お父様に言われたのでしょう? ならば、断る権利はないわ。決まったことに従いなさい!」


目から涙がぽろぽろとこぼれる。

もはや母親の言葉が、理解できなかった。


(いつも優しく見守ってくれていた母は、なんだったのか・・・・)


リリアは泣きながら、叩かれた頬を押さえ、痛みをこらえながら、侍女に次々と指示を出す母を呆然と見つめていた。

父も母も何も聞いてくれない。いきなり動き出してしまった結婚話がリリアを苦しめる。

兄に至っては、ずっと疎遠の仲で何も頼りにならない。


(明日・・私は隣国に行かなければならない・・・もうこの国には帰ってこれないかもしれない・・)


リリアは頬の痛みとは違う理由で涙が止まらなくなっていた。


(・・・あの、小国の王女はアービング公爵様に優しくされていい気になっているのに、私は・・・・)


意にそぐわない急な結婚話に、リリアの思考回路はまともに動いていない。


「そうだわ・・・夜会の時に、ジゼル王太子殿下もオクタヴィア王女の事を嫌そうにしていたじゃない!?もしかしたらジゼル王太子殿下がオクタヴィア王女を痛い目に合わせることを賛成して力を貸してくれるかもしれない!」


今まで沈んでいた心が晴れていくように感じた。


「どちらにせよ、ジゼル王太子殿下に嫁げば、私も王族になれる。 そうなれば、あの王女よりも私のほうが位が上よ! あの女を痛い目に遭わせるのは、結婚してからでも遅くないわ・・」


リリアの口元がゆるむ。


「隣国の王族なんですもの・・・そのうちアービング公爵とも親しくなれるはず・・」


そう考えると、胸が高鳴る。

リリアは、自分の考えに浮足立ち、前向きな気持ちになりながら自室へと戻った。



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