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「うっ・・・・」
オクタヴィアは意識がなかったが、抱き上げた拍子に体が痛かったのか、うめき声を上げた。
(早く治療をしなくては・・・馬に乗せても大丈夫だろうか・・・・)
馬の揺れに今のオクタヴィアが耐えられるのか不安になる。
「ザカライア、とりあえず馬を探してくる。ちょっと待ってて!」
そう言ってハロルドが走り出そうとしたその時だった。
突然、地響きが森全体に響き渡る。
「またかよ!一難去ってまた一難だな!!!」
ハロルドが剣を抜く。
だが、ザカライアはその音に聞き覚えがあった。
(この音は・・・まさか・・・)
ドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!!
地面が揺れ、音も大きくなる。
猛スピードで現れたのは、あの伝説の馬、キングホースだった。
「は?・・・・・・!!なんだよこれ!?・・えっ!?馬なの?大きすぎるけど・・・これ、馬なの!???」
あまりの迫力にハロルドは驚きのあまり剣を落とす。
黒い巨体が、ものすごい勢いで二人に向かって突進してくる。
「危ないっ!ザカライア、避けろっ!!!!!」
叫ぶハロルド。
だがザカライアは静かに言った。
「大丈夫だ。オクタヴィアの馬だから」
「え?」
その馬は、ザカライアの目の前でピタッと急停止して前足を折り、まるでザカライアに首を垂れて挨拶をしているようだった。
「・・・へ・・・へぇ、お姫様の馬なの・・・・?」
先ほどから目の前の光景が信じられないものばかりで、ハロルドは一旦考えるのをやめた。
ダカッ・・・ダカッ・・・!
大地を蹴る音があたりに響く。
「凄い!!こんな馬、見たことがないよ!」
キングホースの背に乗る三人。
結局、速さを優先し、ザカライアとハロルドはオクタヴィアを抱えたままキングホースに跨った。
後ろを振り返ると、遠くに乗ってきた二人の馬が追ってきているが、一向に距離が縮まらない。
わざと距離をとっているようにも見えなくはないが・・・・
「・・・キングホースは伝説の馬だからな」
「そりゃ伝説だろ!こんなにデカいのに、信じられないぐらい速いし、なんだこの安定感!?」
興奮したハロルドが声を上げる。
「凄いな!お姫様こんなにすごい馬、飼ってたのか?」
「・・・・いいや・・・こいつは野生馬だ」
「野生馬・・・・????」
「そうだ」
「え・・?どういうこと?」
「私もわからないが、オクタヴィアが馬に乗るときにどこからともなく現れるらしい・・・」
「?よくわかんないんだけど・・・」
「私もだ。この馬に乗ったのはデューク王国で一度きりだし、生態も謎のままだ」
「え?・・・お姫さまって・・・いったい・・・」
ザカライアは、動物たちに話しかけていたオクタヴィアの姿を思い出していた。
だが、なぜかこのことを誰かに知られたくなかった。
「ハロルド、このことは秘密だ。今は、オクタヴィアを助けることが重要だから・・」
「うん・・・すごく気になるけど・・・でも、誰かに話すつもりはないよ」
「ああ・・・」
城下町の入口に差し掛かると、キングホースが立ち止まる。
前脚を折り、降りろと言っているようだった。
ザカライアとハロルドもそれに従い背中から降りると、キングホースが立ち上がる。
ヒヒンッ!
キングホースが嘶くと、後ろから来ていた馬が命令を受けたように二人の元へやってくる。
キングホースは鼻先でオクタヴィアに触れブルルッと鳴くと、踵を返して、来た道を猛スピードで駆けていく。
「ここからなら、馬に乗ってゆっくり行っても、数十分で城につく」
ザカライアは、慎重にオクタヴィアを抱き上げながら自分の乗ってきた馬に跨る。
キングホースの去った方向をずっと見ていたハロルドも、自分の馬の手綱を取りザカライアを振り返る。
「ザカライア、俺は商会に戻って、逃げた犯人を見つけるよ!」
ハロルドも自分の馬に跨り、ザカライアとは逆の方に馬を向ける。
「・・・ああ、そうだな・・・頼んだ。犯人を見つけたら、何よりも優先で知らせてくれ・・・」
怒気を含んだ言葉でハロルドにそう伝える。
「・・・ああ・・もちろん!俺だって、お姫様のあんな姿を見たら・・怒りが収まらないよ!ザカライアにすぐに伝える。待ってて!」
そう言って、ハロルドは商会本部へ向けて走り出した。
ザカライアは、オクタヴィアが揺れないよう注意しながら馬をゆっくりと進める。
自分のコートをオクタヴィアにかけ、なるべく人目につかないように城の門までたどり着いた。




