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大きな羽音がした瞬間、白いフクロウが目の前に飛び出してきた。

ザカライアの脳裏に、オクタヴィアが庭でフクロウや鹿に話しかけていた光景がよぎる。

なぜだろう・・このフクロウは、あの時のフクロウかもしれない・・そう思った。


「・・・っ!」


ザカライアは必死に崖を下っていく。

どのぐらい降りただろうか。息を切らしながら下を見下ろすと、崖の窪みに白い布が見えた。


(オクタヴィア!!!)


ザカライアは窪みに飛び降り、白い布を目指して走る。

しかし、そこには数十頭の猿たちが群がり、布を摘んだり、覗き込んだりしていた。


「邪魔だ!」


ザカライアは猿を払いのけながらそれに近づく。

目の前にあったのは・・・・


手にはロープを巻かれ、口には猿轡をされ、見える範囲全てボロボロに傷つき、血にまみれたオクタヴィアが横たわっていた。


「・・・オクタヴィア・・・!」


震える手で首元に触れる。

微かな鼓動が指先に伝わってきた、安堵のため息が漏れた。


だが、それも一瞬。

腹の底から、ドス黒い怒りが渦巻く。


(オクタヴィアを・・・こんな目に遭わせた奴は誰だ・・・・殺すっ!)


腹の底で怒りが暴れて、拳が震える。

しかし、ザカライアは必死に感情を抑え込み、震えを押し殺して優しい声を絞り出した。


「オクタヴィア?・・迎えにきましたよ・・・」


そう言いながら、優しい手つきで猿轡を外し、手に巻かれたロープも解く。


ザカライアは指先で、擦り切れ、血の滲む頬を傷を避けるようにゆっくりと撫でる。

すると、オクタヴィアの瞼がゆっくりと震え、薄く目が開いた。

焦点を合わせようとするその瞳は、揺れている。


「ザ・・カライ・・ア様?・・・わた・・くし・・」


何かを思い出したのか、綺麗な瞳から涙が流れ落ちる。


「もう、大丈夫ですよ・・・・・一緒に帰りましょう・・・」


オクタヴィアの瞳から次々に流れる涙を、持っていたハンカチでそっと拭う。


「・・かえ・・りた・・・い・・・」


オクタヴィアは、安堵したのかそう呟くと、そのまま意識を失った。


「ザカライアー!お姫様は無事か!?」


崖をなんとか降りてきたハロルドが、ザカライアの腕の中のオクタヴィアを覗き込む。

そして、息を呑んだ。


オクタヴィアの身体は傷だらけだった。

紫色に腫れ上がった頬、破れボロボロになったドレス・・・

腕も足も見える範囲すべてに傷があるその姿に、ハロルドの胸が締め付けられる。


(!!・・・顔を殴られてる!・・お姫様が・・・こんなの、許せるものか・・!)


悔しさに目頭が熱くなったが、視線を上げるとザカライアが大切そうにオクタヴィアを抱き寄せ、優しい手つきで彼女の体を確認しているのが見えた。


(・・・ダメだ。いま俺が、恨み言を言っている場合じゃない!)


ハロルドは大きく息を吸い、崖を仰ぎ見る。


(とにかく、ここからお姫様をどうやって運ぶかだ・・・・)


ハロルドは頭を回転させる。

男二人ならこの急な崖を上がれるかもしれないが、怪我だらけのオクタヴィアを抱えての登攀は危険すぎる。


(逆に下に降りるか・・? でも・・・)


崖下を覗き込んだハロルドは眉をひそめた。


(木々が邪魔で見えないな・・下に降りるのも、見えないだけに危険だな・・・)


そう考えていると、突然ガサガサと草が大きく揺れた。


(まずい! 何か来る! 大きな動物だったら・・・!)


腰の剣に手をかける。


「ザカライア、何か来るぞっ!」


ザカライアはオクタヴィアをそっと寝かせ、剣を手にハロルドの横へ並ぶ。


ザザッ!!!!


目の前の草が大きく揺れる。


「来るぞっ!」


ザッ!!!

草の間から飛び出してきたのは、大きな山羊が二頭。


ザカライアとハロルドは剣を向けたまま、その場に静止する。

しかし、山羊たちは二人の目の前まで来るとピタリと止まり、こちらをじっと見つめるだけだった。


(・・襲ってくる感じが全くない・・?)


ハロルドは首をかしげながら、そっと剣を下ろす。


「ザカライア・・この山羊、襲ってこないな・・・」


「・・あぁ・・・」


ザカライアは警戒を解かず、剣先を山羊に向けたまま、じっとその動きを見据えていた。

すると、二匹のうち、大きな一匹がザカライアとハロルドの横をすり抜け、オクタヴィアの方へと近づいていく。


「!!」


ザカライアは慌てて山羊の行く手を塞いだ。オクタヴィアにこれ以上手を出させまいとするかのように。

だが山羊は彼を無視し、鼻先をそっとオクタヴィアの背中に差し込むと、そのまま背中に彼女を乗せた。


目の前で起こった不可解な出来事に、ザカライアとハロルドは思わず立ち尽くす。

さらに、先ほど追い払った猿が数匹、ピョンッと山羊の背に跳び乗り、オクタヴィアの服を咥えて体が落ちないように支え始めた。


(どういうことだ・・・・)


ザカライアは困惑しながら、その奇妙な光景を見つめる。

オクタヴィアを乗せた山羊は、ゆっくりと崖を登り始めた。

ハッと我に返ったザカライアとハロルドは、急いでその後を追う。


二人の背後から、もう一匹の山羊もついてくる。

まるで、もしザカライアたちが足を滑らせたら助けるとでも言うかのように、絶妙な距離感を保っていた。

ザカライアもハロルドも何が起きているのか全く分からないが、どうやら、山羊はオクタヴィアを助けているようだった。


はぁ、はぁ・・・・はぁ・・・・


息が切れそうになるほどの険しい崖道を駆け上がった。

降りる時よりも時間がかかったが、ようやくたどり着く。

崖の上で待っていたのは、オクタヴィアを背に乗せたまま静かに佇む一匹の山羊だった。

支えていた猿たちは、ピョンッとはねると再び崖下へと戻っていく。


「・・・・助けてくれたんだな・・・剣を向けてすまなかった・・・・ありがとう・・」


ザカライアは山羊に向けてそう呟き、そっとオクタヴィアを抱き上げる。

彼女の体が離れたのを確認すると、二匹の山羊は静かに崖を降りていった。


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