表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/101

43

「皇女様、どうぞこちらに」


侍女に促され、オクタヴィアは鏡台の前に腰を下ろした。


(皇女様?・・・聞き間違えかしら・・・)


「急にごめんなさいね」


「いいえ」


侍女が静かに頭飾りを外し始める。オクタヴィアは鏡越しに彼女の動きを目で追った。


「ところで、このお部屋にはあなただけしか侍女がおりませんが・・お一人だけですか?」


皇女様の化粧直しに侍女1名とは珍しいな・・・と思い、さりげなく問いかけた。


「いいえ、私一人ではありません」


「・・・?」


部屋を見回したが、他に誰の姿もない。


(これから来るのかしら・・・?)


その時、不意にいつぞやのヤモリの声が頭に響いた。


{オイ、コイツ、アイツラノ、ナカマダゾ}


「!!」


血の気が引いた。慌てて椅子から立ち上がろうとした瞬間、口元に布が押し当てられる。


(この匂いは!!!吸ってはダメ!眠ってしまうわ!)


あわてて息を止めようとしたが、すでにその薬品を吸ってしまっており、頭がクラクラする。


(ダメだわ・・・思うように息が止められない・・・)


{ニゲロ、ドウシタ、オイ}


遠くで聞こえるヤモリの声がだんだんと遠のいていく。


(あの壺は・・・・・)


視界の隅に、部屋の隅に置かれた大きな壺が映る。


{ナニカ、イレル、ドコカ、イク}・・・


ヤモリの言葉を思い出す。


(あれは・・・・人を入れて運ぶという事だったのね・・・・・・・)


それを最後にオクタヴィアの視界は完全に闇に閉ざされた。



「オーギュスタン殿下、それでどうされるおつもりで?」


「ルカルド王国とは、鉄と銅の取引を縮小するつもりだ」


「・・・それは、ルカルドにとっては大ダメージですね」


「あのままにしておく訳にもいかないしな・・・。ジゼル殿下は100%オクタヴィアを狙っている。放っておくと、正式に婚約を申し入れられてしまう」


「そうですね・・・」


「そうなってしまってからでは・・いかにアービング公爵とはいえ、王族同士の婚約を曲げることは難しくなってしまうだろう。だから少しぐらい仲が悪いほうが都合がよいと思うが・・・・そうだろう?」


「・・・お気遣いありがとうございます」


「それと、気になる事がある」


オーギュスタンはあの令嬢を思い出す。


「なんです?」


「20歳前後の伯爵以上で、金髪、ドレスは緑と金、右目の横に小さなホクロのある令嬢は誰だかわかるか?」


ザカライアは少し考え、すぐに答えた。


「・・・リリア・リンゼン伯爵令嬢かと」


「その令嬢、オクタヴィアをずっと睨んでいた。アービング公爵、何かあるのか?」


「・・正直に言えば、少しつきまとわれていまして」


「なるほどな」


「ですが、オクタヴィアに手を出させるつもりはありませんよ」


「もちろん、そうであってほしいものだ」


オーギュスタンは小さく溜息をついた。


「それで、先程の話ですが・・ここからはザカルド商会の会頭として、商売の話をさせてください」


「そう言えば、アービング公爵は商会も持っていたな」


「ええ。そこで、ひとつ商談を。オーギュスタン殿下、ルカルド王国に卸していた鉄を、こちらに回していただけませんか?」


「鉄を?」


「はい、今までのルカルド王国との取引量の1.5倍の取引が希望です。あと、金額はこれくらいでいかがでしょうか?」


オーギュスタンが提示された紙に目を通した瞬間、目を見開いた。


「なっ・・!今までの二倍の金額!?」


「正規料金に少し色を付けただけですよ。しかし、商売です。すぐに利益を出すつもりですから・・まずは一年の契約で、年ごとに見直していくのはどうでしょうか?」


「わかった、この条件で国に持ち帰ろう・・しかし、ファルマン帝国も鉄の産出はしているだろう?いくら我が国を助けてくれるとはいえ、高すぎでは・・」


ザカライアは笑みを浮かべて首を振った。


「いいえ、助けているつもりはありませんよ。これはあくまで商売です。それに、我が国の鉄は不純物が多い。デューク王国の鉄の品質には遠く及びません。ルカルドが手放すなら、その分を頂くだけです」


「・・なるほどな」


「良いお返事をお待ちしております」


オーギュスタンは時計を見る。


「そろそろ、オクタヴィアも終わった頃だろう。迎えに行くとするか」


ザカライアも時計を見て時間を確認する。


「そうですね、参りましょう」


ザカライアとオーギュスタンは、オクタヴィアの部屋へと向かった。

扉の前で立ち止まる。


(見張りの者がいない・・・?)


ザカライアは、慌ててノックをする。

しかし、中からは何の反応もない。


「オクタヴィア?」

「ヴィアいるかい?」


二人で同時に呼びかけるが、静寂だけが返ってくる。


嫌な予感がした。

ザカライアとオーギュスタンは顔を見合わせ、オーギュスタンが躊躇なく扉を押し開ける。


「オクタヴィア!!」

「ヴィア!!」


部屋へ駆け込んだ二人は、必死に辺りを見回した。

目に飛び込んできたのは床に倒れた二人の見張り、どちらも血に染まり、すでに動く気配はない。

オクタヴィアの名を呼びかけようとしたが、声が喉に詰まった。

そこにいるはずのオクタヴィアが、跡形もなく消えていた。


静まり返る部屋に、ただ風に揺れるカーテンの音だけが響いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ