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明日はオクタヴィアの誕生日で城下町はいつもより活気に満ち、朝から店主達の声があちらこちらから響いている。他国からの訪問者も増え、この機会に町の商人たちは巧みに商売をしているようだった。


「それはよかったわ!!間接的にでも私が皆さんの役に立てたのなら」


庭のティーテーブルの下に潜む、黒白のテンギツネが城下町の様子を教えてくれている。

オクタヴィアはクッキーをつまみながら、かれこれ30分ほどこのテンギツネとおしゃべりしていた。


{ソレト、マーサガ、オンナノコ、ウンダ}


テンギツネも、オクタヴィアからもらったクルミを食べながら楽しそうに話している。


動物の中には、種類によっては人間の言葉をはっきりと話せるものもいる。特にテンギツネのように、考えて文章を組み立てることができる種とは、オクタヴィアもつい長話をしてしまう。


「無事に産まれたのね!よかったわ!!途中体調を崩していたから心配だったのよ」


オクタヴィアは、直接的にはマーサと言う人物を知らないが

動物たちを通じていろいろな話を聞いていると、まるで自分が毎日城下町にいるかのような気分になる。


先程は、通りがかりの花蜜蜂から

「パン屋のオーブリーさんがフライパンを落とした」とか、

「雑貨屋のリーチさんが段差で転びそうになっていた」とか、

わりとどうでもいい話を聞いたばかりだ。

そうして日々情報を得ているうちに、オクタヴィアはすっかり城下町の人々と友達になった気でいた。


「テンギツネさん、産まれた女の子の名前が決まったら、また教えてね!」


嬉しい知らせにオクタヴィアはウキウキしながら、もう一枚クッキーをつまむ。


{ソウイエバ、ファルマンノニンゲンキタ、マチノヒト、タオレタ}


「倒れた?町の人が?・・え?・・攻撃されたとか!?状況がわからないけれど!」


{オーブリー、カミサマキタ、イッテタ}


「神様が来たの?攻撃ではなさそう??」


{タタカッテナイ、オンナ、ミンナ、ボーットシテタ}


「ご婦人限定の病気かしら?ファルマン帝国の方が病気を持ってきたって事!?大丈夫なのそれは・・・」


{ビョーキ、チガウミタイ}


「病気ではないなら、なんなのかしら?ひとまず問題はなさそう・・?」


その時、テンギツネが人の気配を感じ取り、サッと逃げた。

テンギツネとのお話は今日はこれでおしまいらしい。


「姫様〜、そろそろ家庭教師のハザウェイ先生が見えますよ。お部屋にお戻りください~」


「もう、そんな時間なのね・・・ナージャ今行くわ!」


家庭教師の部屋に向かうと、明日の夜会が控えているためか、今日の授業はいつもより短く終わった。


早めの夕食をとり、オクタヴィアはさっさと就寝する。


(明日は朝から忙しいから、早く寝ないとね)


緊張とは無縁のオクタヴィアは、目を閉じるとすぐに眠りについた。



(すごい・・・もう疲れたわ・・・ドレスを着るまでこんなに時間がかかるなんて!話は聞いていたけど、夜会に参加するだけで5キロは痩せそう。お母様はこんなことを毎回平然とこなしているの⁈ 凄すぎるわ!!…)


「オクタヴィア様、息を吐いてください!ドレスを締めますよ!」 


掛け声とともに、ウエスト部分がギュッと締められる。


「うっっっ!苦しいぃぃ…、本当にこんなに締めるの!?私、自分が死なないか心配だわ」


「大丈夫ですよ。のちほど最終調整した時に少し緩めますので、しばらく我慢してください」


「うぅぅ・・拷問のようだわ・・・」


苦しさに震えながら、このまま死んでしまうのではと本気で恐れていると、部屋の扉が開き、ベロニカが入ってきた。


ドレスショップの女中たちは手を止め、一礼して壁際へと下がる。


「とても綺麗ねオクタヴィア。そのシルバーホワイトのドレスも似合っているわ」


「ありがとうございます、お母様。けれど・・私、死にそうですわ」


「ふふ・・・、そうよね。私も初めはそうだったわ」


「お母様が今も生きているという事は、ドレスを着ただけでは死なないとわかり安心しましたわ」


ベロニカはくすりと笑いながら、自分の侍女が持っていた箱を手に取ると、オクタヴィアに差し出した。


「オクタヴィア、本日はこれを」


渡された箱の中には、ネオンブルーに光る宝石があしらわれたネックレスが入っていた。オクタヴィアの瞳と同じ色合いで、キラキラ輝いている。


「まあ、なんて綺麗・・・、お母様ありがとうございます!」


「今日からオクタヴィアも大人の仲間入りね。デューク王国の王女として、皆の為に一層励むのですよ」


「はい!約束しますお母様!!」


「お父様も、オクタヴィアのデビュタントを朝からソワソワして楽しみにしていらっしゃいますよ。立派にお披露目が出来るように、多少苦しくてもやり遂げなさい」


そう言い残し、微笑みながら部屋を出ていくベロニカ。

オクタヴィアは今日一番の悲しそうな顔で、ぽつりと呟いた。


「・・・はい・・・」


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