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「スタン兄様、昨日は遅かったようですね。お疲れではありませんか?」


イザベル皇妃の昼食会へ向かう馬車の中で、オクタヴィアは目の前に座るオーギュスタンに声をかけた。


「少し遠かったけど、疲れてはいないよ。・・・昨日はアービング公爵のところで夜会用のドレスの試着をしたのだったね。ドレスはどうだった?」


「とても・・・・」


「とても?」


「キラキラ光ってました・・・」


オクタヴィアは何かを思い出すように少し難しい顔をする。その表情は、どこか困惑しているようだった。


「・・・気に入らなかったのか?」


「いいえ! そういうわけではありません。ただ・・・うちの国では、あのような豪華なドレスは見たことがなくて。少し戸惑いました」


「嫌なら、こちらから持ってきたドレスもあるだろう? それを着たらいいんじゃないかな」


「嫌というわけではないのですが・・・帝国のドレスは、思った以上に派手・・・というか、華美でした」


「派手?色が?」


「いえ、色はキナリとブルーで落ち着いた感じです。でも、ドレスに縫い込まれた宝石がキラキラしていて・・・私には少し派手に感じました。ただ、ザカライア様のお邸の侍女長にも褒められましたし、特におかしいわけではないようです。あれが帝国で今、流行しているドレスなのですね」


オクタヴィアはそう言いながら、困り顔で笑った。

オクタヴィアにとって、帝国の華やかさはまだ慣れないもののようだった。


「今着ている昼食会用のミントブルーのドレスもよく似合っているよ。なんなら夜会もそれで出ると良い」


可笑しそうに笑うオーギュスタンに憤慨したオクタビアがトゲトゲしく言う。


「冗談でも笑えません!昼用のドレスで夜会に出席する王族なんて聞いたことがありませんわ。スタン兄様も今着ている服装がとってもお似合いです!それで出ればいいわ」


ぷいっと横を向いて不貞腐れる。


「ハハハハ、それは面倒じゃなくていいね。妹がこの服装が好きだからと、このまま出席しよう」


何のツボにはまったのか、オーギュスタンはおなかを抱えて笑っている。


「もう、知りません!スタン兄様なんて、その格好でみんなから笑われればいいんですわ!」


ひとしきり笑ったところで、城の入口に馬車が到着する。

オーギュスタンは馬車から降りて、まだ怒っているオクタヴィアをエスコートするために手を差し出す。


「さぁ、オクタヴィア。ここからは公務だよ。しっかり努めよう」


そういわれて、すぐに気持ちを引き締める。


「ええ、スタン兄様、がんばりますわ!」


二人は背筋を伸ばして、城へ入っていった。




(なんて大きなお城!ザカライア様のお屋敷も桁違いだったけれど・・・お城はそれどころではないわ)


侍従に案内され、大きな扉をくぐると、中央に石造りの長大なテーブルが置かれたダイニングルームへと通された。

足元にはふかふかの真紅の絨毯が敷かれ、まるで雲の上を歩いているような感覚になる。


(ダイニングもなんて広いのかしら・・・何百人入るのかしら?うちのお城がいくつも入りそう!)


驚きに目を丸くしていると、侍従が椅子を引く。ここがオクタヴィアの席らしい。

上座の二脚には、ファルマン帝国の皇帝陛下と皇妃が座るのだろう。

そのすぐ左隣にオーギュスタン、その隣にオクタヴィアが座る形だ。


正面にはルカルド王国の王族の席が設けられている。四脚の椅子が並んでいることから、国王と王妃、王太子、王女が座るのだろう。

また、オクタヴィアの隣にも二脚の椅子が用意されている。


席に着いてしばらくすると、ルカルド王国の王族が入室してきた。


(あちらが、ルカルド王国のサイラス国王とバーバラ王妃ね。背の高い方がジゼル王太子で、あの女性は・・・第一王女と第二王女は降嫁していて自国の公爵家に嫁いでいるはずだから・・・あの方が第三王女のミネルバ様ね)


頭の中で教科書をめくるようにしながら、ルカルド王国の王族の顔と名前を照らし合わせる。


(よし!覚えたわ!)


視線を感じて隣を見ると、オーギュスタンがこちらを見ていた。


(名前、大丈夫かい?)


と問うような表情に、オクタヴィアは小さく頷く。

ルカルド王国の王族が席に着くと、サイラス国王がオーギュスタンに声をかけた。


「久しぶりだな、オーギュスタン殿下。横にいるのは、今年デビューしたという噂のオクタヴィア王女かな?」


「サイラス国王、お久しぶりです。お元気そうで何よりです。ええ、こちらが第一王女のオクタヴィアです。オクタヴィア、ご挨拶を」


オクタヴィアはにこりと笑い、優雅に挨拶する。


「サイラス国王様、バーバラ王妃様、はじめまして、デューク王国第一王女のオクタヴィアと申します。よろしくお願いいたします。」


バーバラ王妃は小さく顎を引き、興味なさげに頷く。

一方、サイラス国王は少し前のめりになり、オクタヴィアをじろじろと見つめた。


「ほう、これは美しい!今夜の夜会では引っ張りだこになりそうだな!では、私も紹介しよう。王太子のジゼルは以前あったことがあると思うが、その隣が第三王女のミネルバだ」


オクタヴィアにとっては初対面の王太子だが、サイラス国王は当然知っているだろうとばかりに話を進める。紹介されたジゼル王太子は、不躾なほどじろじろとオクタヴィアを眺め、ニヤニヤと笑っている。


(なんだか落ち着かない視線だわ・・・)


少し身じろぎして背筋をただすオクタヴィア。

その様子を確認したオーギュスタンは、すぐに助け舟を出した。


「ジゼル王太子殿下、お久しぶりですね。ミネルバ第三王女様、はじめまして。デューク王国の王太子オーギュスタンです、そしてこちらが第一王女のオクタヴィアです」


ジゼルは相変わらずオクタヴィアを見ていたが、オーギュスタンに声をかけられたことでようやく挨拶を返す。


「やあ、久しぶりだねオーギュスタン殿下、それと、はじめまして美しいオクタヴィア王女・・・」


自分の名は名乗らずに挨拶を返すジゼルにオクタヴィアはビックリする。


(国同士の挨拶なのに、なんて失礼なのかしら。ルカルド王国の王族って、いつもこんな尊大な態度なの?)


内心穏やかではなかったが、オクタヴィアは冷静に挨拶を返した。


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