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「姫様〜〜やっと、王都に着きましたね〜〜!」


「馬車移動だけで三日は、さすがに疲れたわね」


そんな会話をしていた時、コンコンと扉がたたかれる。


オクタヴィアの部屋に入ってきたのは、スッキリとした顔のオーギュスタン。

長旅に慣れているのか、三日間の移動にもかかわらず、まったく疲れの色が見えない。


「オクタヴィア、おはよう」


「スタン兄様、おはようございます」


「朝食の準備ができているそうだ。一緒に行こう」


「私は昨夜遅くに到着したので、まだマーズ子爵にご挨拶しておりません。先に伺いたいのですが・・」


「子爵はすでにダイニングにいるようだ。そこで挨拶をしよう」


ファルマン帝国で、王室の建物を管理しているのは、デューク王国の貴族であるマーズ子爵だ。

彼は人当たりが良く、この屋敷に常駐しながら、時折訪れるデューク王国の王族をもてなし、また、ファルマン帝国との連絡係も担っている。


オーギュスタンとオクタヴィアが揃ってダイニングに付くと、少しふっくらしたマーズ子爵がいそいそとやってくる。


(お父様と同年代ぐらいの男性だわ)


「オーギュスタン王太子殿下、オクタヴィア王女様にご挨拶申し上げます。サイモン・マーズでございます」


「子爵、朝早くからすまないな、紹介しよう、王女のオクタヴィアだ」


「はじめましてマーズ子爵。オクタヴィア・リフタスです。しばらくお世話になります」


「わざわざご挨拶をありがとうございます。私は、残念ながら先日の王女様のお誕生パーティーに出席できませんでしたが、こうして成人後初めての公務をお手伝いできること、大変光栄に存じます」


「まあ、ありがとうございます」


オクタヴィアは丁寧にお辞儀をする。


「子爵、立ち話も何だから、食事をしながら話をしよう」


「オーギュスタン王太子殿下、これは失礼いたしました」


通常は、王族と子爵が同じテーブルに着くことはないが、今日は子爵が案内人となり、一緒にファルマン帝国の城下町に行くことになっている。

別で打ち合わせをするのは、時間の無駄だからと、オーギュスタンが子爵を朝食に誘った。



食事をしながら、子爵は本日訪れる場所について説明を始めた。

どうやらオーギュスタンは事前に見ておきたい場所を伝えていたらしく、そこを中心に街を巡ることになるようだ。


美術館の話題になると、オクタヴィアの知る名前が出てきた。


「こちらの美術館は、アービング公爵家が管理しておられます。もともと、アービング公爵家の所蔵品を、イザベル皇妃様が国民にも芸術の素晴らしさを知ってほしいと、美術品を誰でも見ることができるように開放しておられます」


「まあ、イザベル皇妃様は本当に素晴らしいお方なのですね」


「はい、国民からも人気が高い皇妃様です」


「美術館には、私たちが訪れることは?」


「はい、もちろんお伝えしております。さすがに、護衛をふくめますと大人数になりますから・・・今日はアービング公爵のご厚意で、午後は快く貸切にしてくださいました」


「ふ〜ん、では伝わっているのか・・・」


「?」


オーギュスタンは意味ありげにニヤリと笑った。



ファルマン帝国の城下町は、とても大きく、とにかく人が多い。

護衛騎士たちに守られながら、オクタヴィアはオーギュスタンとともに進む。


(すごい!なんて活気のある街なの! お店がどこまでも続いていて、先が見えないわ。それに、いろいろな人種の方がいるみたい)


オクタヴィアは、どれも新鮮で興味深げに街の様子を観察しながら歩く。


「姫様、凄い人ですね!今日はお祭りかなにかあるのでしょうか?」


後ろからついてきた侍女のナージャが、驚いたように辺りをキョロキョロ見回している。


「はははは!!侍女様、ファルマン帝国ではこれがいつも通りなんです。お祭りは年にニ回ありますが、その時は、この人手の三倍ほどに膨れ上がりますよ」


子爵は笑いながら、さらりと恐ろしいことを言ってのけた。


「三倍ですか!?それはさすがに歩けないのでは!?」


ナージャは目を丸くする。


「そう思われるでしょう? ですが、お祭りの時は皆さん楽しそうに買い物を楽しまれていますよ。・・あ、美術館が見えました。右手にある青い扉の建物です」


子爵の指差す方向を見れば、一際立派な石造りの建物が見える。


建物に近づくと、扉の前がざわざわして人だかりができている。


「・・・?」


「おかしいですな・・午後は貸切だとお約束したはずですが・・・」


子爵は足早に美術館の前へ確認に向かう。

すると、なにやら声が聞こえた。突然人垣が割れ見覚えのある人物がこちらへ歩いてきた。


「オーギュスタン王太子殿下、オクタヴィア王女、ご無沙汰してます。ファルマン帝国へようこそ。デューク王国からの旅路に問題はございませんでしたか?」


ザカライアの登場にざわめいていた民衆は、その言葉で彼らが隣国の王族であることに気づき、一斉に後ろへ下がり、恭しく頭を垂れる。

横を見ると、子爵もまたザカライアに深く頭を下げていた。


「ああ、良い旅路だったよ。アービング公爵、今日は我々のために配慮いただき、感謝します。オクタヴィアも、公爵家の美術品をゆっくり鑑賞できることを楽しみにしています」


「もったいないお言葉です」


ザカライアは静かに顔を上げると、まっすぐにオクタヴィアを見た。

オクタヴィアは久しぶりに会う友人に、にこりと微笑み、小さく頷く。


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