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城に到着し二人がキングホースからおりると馬は役目は終わったとばかりに先ほどと同じようにすごい勢いで駆け去っていく。


「オクタヴィア、私は明日帰国します、本日までありがとうございました」


「はい、こちらこそありがとうございました」


「後ほど、デニス王に来月の予定についてお伺いを立てさせていただきますね」


「わかりました。よろしくお願いいたします」


「・・・では、お元気で」


「ザカライア様もお元気で・・」


二人は向かい合い、お互いの顔を見つめている。

沈黙の末、先に声をかけたのはザカライアだった。


「オクタヴィア、来月の姉のパーティーに参加が決まりましたら、ドレスをお送りしてもよろしいですか?」


「これ以上贈り物をいただくのは気が引けます。でも・・・参加が決まりましたら、甘えてしまっても?」


「もちろんです。ぜひ、甘えてください」


そう話していると、デニス王が数名の家臣を連れて現れた。

それを目の端でとらえたザカライアは、すぐに姿勢を正し、深く一礼する。


「アービング公爵。本日もオクタヴィアを送ってくれてありがとう。それと、先日の御礼がしたいと家臣が言うものでな」


デニス王の横で深くお辞儀をしているのは、宰相をはじめ、騎士団長や補佐官などの重臣たちだった。

どうやら、ザカライアが国家予算一年分の価値を持つ品を贈った件についての礼のようだ。


「わざわざ恐れ入ります。しかし、あれはオクタヴィア王女への感謝を込めた品ですので、皆さまどうぞお気になさらずに。お顔をお上げください」


それを合図に家臣たちは頭を上げた。

その機械を逃さず、ザカライアはデニス王に話を切り出す。


「デニス王、丁度よかったです。後ほど伺うつもりでしたが・・実は来月、ファルマン帝国では皇妃の誕生日を祝う会が開かれます。」


「ああ、もうそんな時期か。そういえば、アービング公爵はイザベル皇妃の弟君だったな。皇妃はお元気か?」


「はい、おかげさまで変わらず元気にしております・・・先日イザベル皇妃から私のもとに手紙が届きまして、今年はぜひ、オクタヴィア王女にお会いしたいとのことでした」


「イザベル皇妃が、オクタヴィアに?」


「はい、もし許可をいただけるのであれば、今年のパーティーにオクタヴィア王女をお招きしたいのですが」


その言葉に、家臣たちがざわつく。

その反応を見つつ、デニス王は考え込む。


「確かにオクタヴィアは、今年デビュタントを終えたばかりだ。しかし、まだ外交をこなせるほどではない。今年はオーギュスタンを参列させるつもりだったのだが・・・」


「デニス王、イザベル皇妃の希望を叶えてはくれませんか・・・?」


ザカライアとデニス王の視線がぶつかる。

デニス王はすぐに返事をすることもできたが、ふと、ザカライアを試してみたくなった。

あえて即答せず、あいまいな返事を濁す。


ザカライアはじっとデニス王の様子を窺った。


やがて、デニス王の視線がザカライアの隣に立つオクタヴィアへと向けられる。


「オクタヴィア、お前はどう思うのだ?」


「お父様、私はファルマン帝国で見聞を広げてみたいと思います」


「そうか。それならば、出発までにより多くの勉強を積む必要があるだろう。それでもか?」


「はい、ぜひ!」


迷わず返答するオクタヴィアをじっと見つめ、デニス王はしばし考えた。


「・・うむ、わかった。だが、オクタヴィア一人を帝国へ向かわせるわけにもいくまい。今年のイザベル皇妃の行事には、オーギュスタンとオクタヴィアを参列させることにしよう」


デニス王の決定に、ザカライアとオクタヴィアはほっと胸を撫で下ろす。


「デニス王、ありがとうございます。すぐにオーギュスタン王太子殿下とオクタヴィア王女への招待状を手配させていただきます」


「アービング公爵、オクタヴィアはまだ世間をよく知らぬ身。くれぐれも悪い虫がつかぬよう、しっかりと見守ってくれ」


「・・・・もちろんです」


ザカライアは静かに一歩下がり、左手を胸に当て、右手を背に回す。

片足を引いて、深く頭を下げる・・・それは、古くからの帝国式の誓いの挨拶だった。


その場にいた家臣たちの多くは、ただの礼儀作法だと思っただろう。

しかし、この場でただ一人、その意味を正しく理解した者がいた。


デニス王はザカライアと目を合わせると、無言でひとつ頷いた。


『ー自分の心臓が止まるときまで、誰にも手出しをさせず、唯一を守り慈しみますー』


ザカライアの決意を込めたその誓いを、デニス王は静かに受け取った。


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