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「ザカライア様、いよいよ明日はご帰国ですね」


「はい、せっかくオクタヴィアと仲良くなったので、まだこちらにいたい気持ちが強いですが・・・」


「少し残念です。私もここ数日間、毎日楽しく過ごさせていただきましたので」


二人はしばし沈黙し、湖から吹く穏やかな風を感じる。

やがて、ザカライアがふと顔を上げ、静かに口を開いた。


「来月、姉の誕生日会があります。よろしければご主席なさいませんか?」


「・・・私がですが?」


「えぇ、先日も言いましたが、姉がオクタヴィアに会いたがっているので、『招待状を送らせてくれないか』と、頼まれました」


「皇妃様が、そんなことを・・・・」


「はい。私からデニス王にはお願いするつもりですが、まずはオクタヴィアが来たいかどうか、それを決めてほしいのです」


「私は・・・」


その時、オクタヴィアの脳裏に例の窃盗団狩猟のドーガンの顔が浮かぶ。


(スタン兄様には止められたけれど・・少しだけなら、帝国の生き物たちと話をするくらいなら、いいのではないかしら・・・)


「オクタヴィア、いかがですか?」


ザカライアが改めて問いかけると、オクタヴィアは顔を上げた。


「ええ、帝国には以前から行ってみたいと思っておりました。皇妃様にもお会いして、お礼もお伝えしたいし、ぜひ、行かせていただきたいです」


その答えを聞いたザカライアは、安堵したように微笑んだ。


「そうですか、では、デニス王にお話しさせていただきましょう」


「ザカライア様、何から何までありがとうございます。お父様がお許しになられないかもしれませんが、お話しいただけるのはとてもありがたいです」


そんな話をしているうちに、二人は侍従たちが昼食の準備を進める場所へとたどり着いた。


湖畔にはすでに敷物が広げられ、バスケットには美味しそうなサンドイッチが並んでいる。

フルーツや焼き菓子まで用意されており、穏やかな湖の景色と相まって、贅沢なピクニックの雰囲気が漂っていた。


「美味しそうです!わざわざご準備してくれたのですね」


オクタヴィアは目を輝かせながら、バスケットの中を覗き込む。


「この場所への案内は、オクタヴィアにお任せしましたから、これぐらいは」


「ザカライア様のお邸のシェフの皆様は、本当にお料理がお上手なので、とても楽しみです」


オクタヴィアの言葉に、ザカライアは小さく笑いながら、そっと彼女の手を取り、敷物の上へとエスコートする。

オクタヴィアが座ると、湖畔の風がそよそよと吹き抜け、二人の間に優しい静寂が広がった。


「本当に、ここは落ち着きますね。良い場所です」


ザカライアは湖を眺めながら、しみじみと呟く。


「そう言っていただけて、私も嬉しいです」


オクタヴィアも微笑み、そっと湖に視線を向ける。水面は穏やかにきらめき、時折、魚が跳ねる音がパシャンと聞こえる。


「私は・・・このような場所で暮らせたら、と思うのです」


ザカライアは湖を見つめながら、ふと漏らすように言った。


「ザカライア様はお忙しいから、余計、そう思われるのでしょうね」


オクタヴィアは彼の肩にのしかかる立場や責務を思い、胸が締め付けられるような気がした。


(どうか、ザカライア様のお気持ちが、この景色を見て少しでも楽になりますように・・・)と、願わずにはいられなかった。



まもなく、ピクニックも終わりの時間が近づいてきた。

遠くから突然、大地を蹴る重い音が響いた。


ドドッドドッ!!


まるで雷鳴のように地を揺らしながら、何かがこちらへと猛スピードで向かってくる。

ザカライアと護衛騎士たちは即座に警戒し、剣の柄に手をかけた。


「オクタヴィア、下がって!」


ザカライアは彼女を庇うように前に立ち、護衛騎士たちも戦闘態勢を整える。


しかし・・・


「大丈夫です。キングホースさんです」


オクタヴィアは落ち着いた様子でそう言うと、音のする方へ視線を向けた。


ドドッドドッ!!!


木々の隙間から、巨大な影が姿を現す。

キングホースだ。


(本当に来たな・・・)


巨体の馬が、凄まじい勢いで駆けてくる。

ザカライアと騎士たちは剣を下ろし、ほっと胸をなでおろしたものの・・・


(あのスピードで・・・止まれるのか!?)


ザカライアは息をのんだ。

湖畔にいる彼らに向かって一直線に突っ込んでくるキングホース。


目にも留まらぬ速さで駆けてきたキングホースは、オクタヴィアの目前でピタリと足を止めた。


(止まった・・・・)


ザカライアは思わず息を飲む。

あれほどの勢いで駆けてきて、ここまで正確に止まれるとは。


「お帰りなさい」


オクタヴィアは微笑みながら、キングホースの鼻先を優しく撫でた。

それに応えるように、キングホースは静かに鼻を鳴らす。


(本当に、この馬とオクタヴィアの関係は奇跡だな・・)


きっと、帝国に帰ってこの話をしたところで、誰も信じまい。

だが、目の前に広がるこの現実だけは、疑いようもなく、本物だった。


(あの鹿の時もだが・・・不思議な王女だな・・・)


ザカライアは馬に話しかけているオクタヴィアを見て、そう思わずにはいられなかった。


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