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「こちらの部屋です」


屋敷の奥へと進み、突き当たりの部屋の前でザカライアが自ら扉を開く。


「まぁ!」


オクタヴィアの目に飛び込んできたのは、美しい庭に面したガラス張りの部屋。

大きな窓の外には色とりどりの花が咲き誇り、それを眺めるように配置された優雅なテーブルセット。


「本日、オクタヴィア王女が来られるということで、急遽花を持ってこさせました」


「・・・え?」


「どうぞ、お掛けください。まずはお茶を楽しんでいただき、その後、我が国自慢のお菓子をご用意いたします」


ザカライアは繊細な装飾が施された椅子を引き、オクタヴィアを優雅にエスコートする。


(なんだか、公爵様、今さらっとすごいことを言ったような・・・?)


「・・素晴らしいお部屋ですね」


「そうですね、普段私は使わない部屋なのですが、たまに皇妃がこちらに滞在する時には、この部屋でよくお茶をしているようですね・・・女性には喜ばれる部屋だと思います」


「皇妃様・・・?」


「私の姉ですよ」


「・・!あぁ、そうでした。皇妃様はアービング公爵様のお姉様でしたね」


「はい、昨日姉から手紙が届いておりまして、“もしオクタヴィア王女が訪れる機会があれば、この部屋で寛いでいただきなさい”と」


「まあ、皇妃様がわざわざそのようなお心遣いを・・・大変光栄ですわ」


「姉も、オクタヴィア王女にお会いしたがっていますよ」


「え?皇妃様が?なぜ私などに・・・?」


「聡明な王女だと、私も姉への手紙に書いたからでしょうか・・・・」


「・・そんな、お恥ずかしいですわ・・・」


聡明などと言われ、さすがに尻込みをするオクタヴィア。


二人が席に着くと、侍女がお茶をカップに注ぐ。

さすが、帝国の侍女だ。所作も美しい。

そんな侍女の手元をじっと見ていると、アービング公爵様が話し出す。


「本日は、来ていただきありがとうございます」


「はい、こちらこそご招待いただき、ありがとうございます」


オクタヴィアは手元の小さな鞄から、手のひらサイズのグレーのリボンがかかった包みを取り出した。


「あの、一日もなかったので、お礼をご用意する時間がなく、こんなものになってしまったのですが・・・よろしければ」


「開けてみても?」


「はい、どうぞ・・・・」


丁寧にリボンをほどくと、中から刺繍が施されたハンカチが現れる。

ザカライアの家紋にも使われている鷹と、デューク王国の国花、ユリが繊細に縫い込まれていた。


「お恥ずかしいのですが、私の侍女がどうしても感謝の気持ちは手作りのものをお渡しするべきだと譲らなくて・・・・」


ハンカチを手にしたまま、ザカライアは喜びに打ち震えていた。


(素晴らしい!王女の手作りだと!?王女の侍女になにか褒美をださなくては!!!これは、本国の私の執務室に飾らなくては・・・いや・・・他の者に見せるのも、勿体ないな、私の寝室に飾るとしよう。)


「・・・あの、公爵様?」


ハンカチを見ながら黙り込むザカライアに、さすがにハンカチ一枚はなかったかもしれない・・・と不安になり声をかけるオクタヴィア。


「素晴らしいです!繊細な刺繍ですね、時間もなくかなり大変だったのでは?」


「いいえ、私は刺繍は得意な方なので、それほどには・・・」


「このモチーフはもしかして、私の家紋を取り入れてくださったのでは?」


「はい、公爵様の家紋は複雑でしたので、鷹とデューク王国の国花のユリを取り入れさせていただきました。友情の証というにはおこがましいのですが・・・」


「ありがとうございます。こんなに素晴らしい贈り物をもらったのは初めてです。本国に戻りましたら、私の屋敷に飾らせていただきます」


「そんな・・・飾るなどと、たまにでも使っていただけましたら嬉しいです・・」


そんな話をしていると、扉をノックする音が響いた。


「入れ」


ザカライアの一言で、扉が静かに開く。カートを押した侍女たちが、静かに部屋へと入ってきた。その動きには一切の無駄がなく、統率の取れた優雅な所作に、思わずオクタヴィアは目を奪われる。


カートの上には、宝石のように輝くスイーツがずらりと並んでいた。繊細なグラスに盛られた果実のグラッセ、ふわりと軽やかなスポンジにたっぷりのクリームを挟んだケーキ、小さなタルトの上に花のように飾られた果物・・・どれも見たことのない美しさで、思わず息を呑む。


(すごい!)


思わず目を奪われたオクタヴィアに気づきながらも、侍女たちは静かに仕事を進めていく。テーブルの上に、一つ一つ丁寧にスイーツを並べ、同時に別の侍女が新しいお茶の準備を始める。彼女たちの動きには、一切の無駄がない。


ものの数分で準備が整い、最後にテーブルの配置を確認すると、侍女たちは何事もなかったかのように部屋を後にする。気がつけば、部屋の端にはサービスを担当する侍女だけが静かに控えていた。


「今日は王女が来られると聞いて、邸のシェフが張り切りまして、種類が多くなってしまいましたが、お好きなものをお皿に取りますので、遠慮なくお申し付けください」


ザカライアが微笑みながら促す。


どれも初めて見るスイーツばかりで、目移りしてしまう。どれからいただこうかと迷いながら、テーブルに並べられたカラフルなスイーツを眺めると・・・


そっとオクタヴィアの横に、侍女が控えていた。


彼女はオクタヴィアが目をとめたスイーツを、まるでその視線を読んだかのように、迷いなく皿に並べていく。


(すごい!何も言っていないのに、私が気になったスイーツをお皿に乗せてくれるなんて!どこまで、出来る侍女なのっ!?)


オクタヴィアは感嘆を隠せず、思わず侍女の手元を見つめた。

帝国のもてなしのレベルの高さに、改めて圧倒される。


ザカライアは贈られたハンカチを大切そうにテーブルの横に置いた。


「では、オクタヴィア王女、いろいろとデューク王国の事をお教え願いたい」


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