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「姫様、公爵様がお見えになられました」


ちょうど正午になった頃、アービング公爵が迎えに現れた。

正面玄関に立つ彼の姿を見た侍女たちが、ざわざわとざわめく。


それも無理はない。この国では滅多にお目にかかれないほどの絶世の美男だ。

中には、彼の姿を一目見ただけでふらふらと裏方に下がっていく侍女までいる。


「公爵の無駄に色気のあるフェロモンにやられたに違いない」


スタン兄様が面白がるようにくくっと笑い、小声で失礼なことを囁いてくる。

今日は、父と母が抜けられない会議があるため、代わりに兄が見送りに付き添ってくれていた。


「アービング公爵、先日は夜会へのご参列、誠にありがとうございます」


王太子として、オーギュスタンが先に挨拶をする。

二人は握手を交わし、形式的なやり取りを交わした。


「オーギュスタン王太子殿下、わざわざお出迎えいただき、感謝いたします。本日はオクタヴィア王女との、このような機会を頂き光栄です」


「いやいや、妹はまだ世間知らずで、公爵のお話に十分お応えできるかはわかりませんが・・・それでも、本人も今日を楽しみにしていたので、どうか良い時間を過ごさせてやってください」


「ええ、もちろんです」


(なるほど・・・さすが王太子。まずは、牽制してきたか・・・)


ザカライアは、にこやかに握手をしながらも、目の前の王太子を観察する。


("世間知らずで応えられない"・・・つまり、まだ嫁に出せる段階ではないと暗に言いたいわけか)


一方、オーギュスタンもまた、ザカライアをじっと観察していた。


(さすがに、帝国の三大公爵家の当主だけあって、これくらいの牽制では一歩も引かないか、それに、オクタヴィアがしているネックレス・・話には聞いていたが・・・)


「それにしても公爵、昨日は素晴らしい宝飾品を妹と我が国に贈られたとか?」


「私の領地で採掘しているものです。昨日は急ぎだったため、あのようなものしかご用意できず、お恥ずかしい限りです」


(あれが、"あのようなものしか"・・・か。なるほど、確かにすごいな)


「いいえ、とてもありがたいことだと父も申しておりました」


「そうですか、そう言っていただけると幸いです」


微妙な緊迫感を感じたオクタヴィアは、そっと兄の袖を引く。


「どうしたオクタヴィア?」


振り返るオーギュスタンの視線を受けながら、オクタヴィアは口を開いた。


「お兄様、私も公爵様にご挨拶を・・・」


「あぁ、そうだな、すまない。公爵との話が長引いてしまったな」


オクタヴィアは、王太子の後ろから一歩前に出ると、優雅なカーテシーをして挨拶する。


「アービング公爵様、本日はお迎えありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします」


今日のオクタヴィアのドレスは、爽やかなライムグリーン。

髪はナージャ渾身のハーフアップに結われ、首元には、昨日公爵から贈られた(非常に大きな)ダイヤモンドのネックレスが輝いている。


そんな彼女の姿を間近で見たザカライアは、思わず息を呑む。

その可憐な容姿は、まるで妖精かと見間違うほどだった。

つい口元に手を当て、視線をそらしてしまう。


それを見ていたオーギュスタンは、確信する。


(この男・・・やはり・・・)


「ヴィア、お誘いいただいたとはいえ、アービング公爵はお忙しい方だ。邪魔にならないように、今日は早めに帰ってくるのだよ」


「はい、お兄様。そんなに長居はしないようにいたしますわ」


(待て待てっ!王太子にこれ以上余計なことを言われては困るっ!早く出発しよう)


ザカライアは咳払いをひとつすると、オクタヴィアに向き直り、エスコートするため腕を差し出した。


「では、オクタヴィア王女、そろそろ出発いたしましょう」


「はい、では、お兄様行ってまいります!」


オクタヴィアは公爵の腕をとり、にこやかに彼の隣へ並ぶ。


「あぁ、気を付けて・・・」


オーギュスタンは、二人の後ろ姿を見送りながら、心の中で思う。


(ふうん・・・・。まあ、ヴィアにとってはこれ以上ないぐらいの相手か・・・父上も認めているしな・・・)


だが、なんとなく嫌がらせをしたくなるのは、なぜだろうか。

この話が進めば、オクタヴィアはこの国を離れることになる。

幼い頃からずっと一緒にいた妹を取られるようで、妙に癪に障る。


「ははッ・・・・」


オーギュスタンは力なく笑うと、気持ちを切り替え、今日はジェイを誘って鍛錬をしようと騎士団へ向かった。




壮観な邸宅の前で、馬車がゆっくりと止まる。

屋敷の前には、ずらりと整列した使用人たち。

帝国の外交屋敷と聞いていたが、想像以上の規模だ。


ザカライアが先に馬車を降り、優雅に手を差し出す。

オクタヴィアは彼の手を取り、ゆっくり降り立つと、目の前の屋敷を見上げた。


「デューク王国、オクタヴィア王女様、お待ちしておりました」


黒の正装を纏った壮齢の執事が、一歩前に出て深くお辞儀をする。


「わざわざお出迎えいただきありがとうございます。オクタヴィア・リフタスです。本日はよろしくお願いいたします」


オクタヴィアは微笑みながら背筋を伸ばし、優雅に挨拶を返した。


(き・・緊張するわ・・お城より使用人が多いのではないかしら…)


初めての訪問行事。内心、心臓が高鳴る。

しかし、一国の王女として堂々と振る舞うよう教えられている以上、動揺を悟られるわけにはいかない。

左右に分かれて立つ使用人たちの間を、平静を装いながら胸を張って進んでいく。


{ホントウダ、オクタヴィア、キタ}


{ミテ、シラナイヤツ、イル}


{ダレダ}


{トナリノクニノヤツ}


{トナリノ、エライヤツ}


どこからか小さな囁き声が聞こえた。

オクタヴィアがそっと視線を向けると、屋敷の入口から少し離れた生垣の陰に、小さな生き物たちが身を潜めている。


(あれは・・・スローリス?)


{メガアッタ}


{イラッシャイ}


{ココ、ゴハンオイシイヨ}


目が合うと、スローリスたちは嬉しそうに耳をぴこぴこと動かす。

その愛らしい会話と姿に、オクタヴィアは思わずくすっと微笑んでしまった。


「どうかされましたか?」


「いえ、これほど多くの使用人の方々に迎えられ、緊張していた自分が可笑しくて・・」


「そのようには見えませんでしたが」


「ふふっ、そう見えないように見栄を張りました」


オクタヴィアは可笑しそうに笑っている。


(今日も、王女は可愛いな・・・)


くすくす笑うオクタヴィアを見つめながら、ザカライアは心の中で静かに呟いた。


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