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ザカライアの馬車の前まで歩いていくと、オクタヴィアはそっと彼の腕から手を外し、優雅に一礼した。


「アービング公爵様、本日はわざわざありがとうございました。次回お会いできるのを楽しみにしております」


彼女の手が離れた瞬間、ザカライアはわずかに寂しさを覚えたが、それを悟られないように微笑みながら応じる。


私も、楽しみにしています。オクタヴィア王女、先ほどは無理を言いましたが、あなたとご一緒できると思うと、毎日の楽しみが増えます」


一瞬、間を置いてから、彼は思い出したように続けた。


「明日は、私の屋敷に来られませんか?」


「アービング公爵様のお屋敷に?」


「えぇ、私の屋敷というよりは帝国の所有ですが・・。今、帝国で流行りのお菓子がございまして・・王女は甘いものはお好きですか?」


オクタヴィアの目がわずかに輝く。


「はい、甘いものは好きです」


(よかった! 今夜にでもシェフに流行の菓子を作らせよう!)


内心で拳を握りつつ、ザカライアはさらに微笑みを深める。


「それはよかった。では、昼頃迎えに参ります」


「あ、あの、アービング公爵様、一応父の許可を・・・」


オクタヴィアの言葉で、デニス王へ許可を取ることをすっかり忘れていたことに気づく。


(ちょっと急ぎすぎたか・・・つい嬉しくなってしまったな・・)


「・・あぁ、そうですね。すみません、失念しておりました」


彼は軽くため息をつき、近くで馬車の点検をしていた侍従を呼んだ。


「ドミニク!」


侍従がすぐに傍にやってくる。


「デニス王へ、明日の予定を伝えてきてくれ」


「はい、承知いたしました」


侍従が城へ戻っていくのをオクタヴィアが目で追っていると、ザカライアはふと彼女の前に立ち、その視線を遮るようにした。


オクタヴィアは、不意に近づいた距離に驚き、一歩後ろへ下がる。


(王女は、侍従など見なくてもいい・・・王女には私を見てほしいものだ・・)


彼の胸の奥に、黒い独占欲がわずかに顔を出した。


(つい、ほかの男を見せたくなくて、オクタヴィア王女の目の前に立ってしまったが・・・。少し驚かせてしまったな)


「ところで、オクタヴィア王女は、何がお好きなのでしょうか?」


ザカライアは、場の雰囲気を和らげるように問いかけた。


「あ・・えぇと、私の好きなものですか・・?」


「はい、せっかく友人になったのですから、侍従が戻ってくるまで少しおしゃべりにお付き合いください」


(友人?・・私たちは友人に・・なったのかしら??確かに先ほど友人としてといわれたけれど・・・)


「私は、動物や昆虫が好きです」


「動物と昆虫ですか?ご令嬢としては珍しいですね」


「はい、昔から好きです」


「好き・・・・・、そうですか」


ザカライアは、つい、“好き”の言葉に反応してしまう。


「アービング公爵様は、お好きですか?」


「・・・」


「・・・えぇ、動物は・・・まぁ嫌いではありませんね。昆虫は・・・子どものころは虫取りをしたりして遊びましたね。今は、昆虫をあまり目にしないというか、気に留めることが少なくなった気がします」


「そうですよね、普通の方はそうかもしれません・・・」


少し悲しそうな顔をするオクタヴィア王女になぜか胸が痛み、こう提案してみる。


「では、一日は乗馬で遠乗りなどいかがですか?」


オクタヴィアは驚いたように顔を上げた。


「あの・・私が馬に乗ってもいいのですか!?」


先ほどまでの寂しげな表情が嘘のように、可憐な笑顔が弾ける。その瞳は輝きに満ち、まるで宝石のようだった。


(あぁ、この笑顔は、いいな。なんと可愛らしい・・・)


ザカライアは心の中で悶絶しながらも、顔には出さずに微笑む。


「オクタヴィア王女は乗馬がお得意ですか?」


「えぇ、もちろん、乗馬は大好きです!!」


「残念ながら、私はデューク王国の土地勘があまりありません。乗馬に適した場所をご存じですか?」


「はい、森の中に、小さいですがとても綺麗な湖があります。そう遠くはないので、ご案内できますわ」


(王女は本当に嬉しそうだな。だったら、毎日でも乗馬に誘いたいが・・・乗馬ばかりだと話す時間が短くなってしまう。後で、予定をうまく調整しよう。)


「それは素敵ですね。その日は、お茶ではなくピクニックにしましょうか?」


「ピクニックですか!? 初めてです! すごく嬉しいです!」


オクタヴィアは無邪気に微笑み、ザカライアを見上げた。その表情を見て、彼の胸がまたもやざわめく。

そんなことを話していると、侍従が戻ってきた。


「公爵様、お待たせいたしました。デニス王に許可を頂いてまいりました」


「ありがとう」


そう答えると、オクタヴィアも侍従に向かってぺこりと浅くお辞儀をする。彼女は、誰に対しても優しいのだろう。


(だが、やはり、侍従を見る王女は気に入らないな・・。)


そんな些細な嫉妬を抱えながらも、ザカライアは冷静さを保ち、オクタヴィアに向き直る。


「では、オクタヴィア王女、お話にお付き合いいただきありがとうございました。とりあえず明日は私の屋敷でお茶をしましょう。予定通り昼頃お迎えに上がります」


「はい、承知いたしました。よろしくお願いします」


彼女の柔らかくなった雰囲気を感じ取り、ザカライアは満足そうに微笑む。そして馬車に乗り込み、城を後にした。


(王女との時間をもっと作りたい・・・もっと、私を見てほしいものだ・・・・)


そんな思いを抱きながら、ザカライアの馬車は静かに城を離れていった。


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