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昔の話を思い出し、少し痛ましい気持ちになったが、今の元気なオクタヴィアを見て、気持ちも明るくなった。


「ヴィア、とにかく危険なことはしないようにね」


「もお!スタン兄様ったら、干渉はしないと、お約束したじゃありませんか」


ぷくっと頬を膨らませて怒るオクタヴィアが可愛くて、オーギュスタンは思わず笑い、指でその頬をつつく。


「もう、やめてくださいっ!」


「ハハハ、すまんすまん。」


さらに怒るオクタヴィアを軽くかわしながら、子供のように追いかけっこが始まる。

二人は息を切らして立ち止まった。


「姫様~!」


ナージャが手を振りながら駆け寄ってきた。


「王様が呼んでおられます」


「お父様が?なにかしら・・・珍しいわね?」


オーギュスタンと顔を見合わせて小首をかしげる。

ベロニカに呼ばれることはあっても、デニスに直接呼ばれることは滅多にないので不思議に思う。


「お父様は、執務室かしら?」


「いえ、応接室にいらっしゃいます」


「応接室?どなたかお見えになっているのかしら?」


「・・今日は、来客の予定はなかったと思うが・・・」


オーギュスタンが今日の予定を思い出しながら、首をかしげる。


「なんでしょう?とにかく、スタン兄様、私行ってきますわ」


「あぁ、行ってらっしゃい」


そう言って、オーギュスタンと別れたオクタヴィアは、応接室へと向かった。


コンコン・・・


「入りなさい」


「失礼いたします」


オクタヴィアが扉を開け、部屋に入ると、正面のソファにアービング公爵が従者を伴って座っていた。


慌ててカーテシーをし、公爵へと挨拶をする。


「・・・アービング公爵様、先日の孤児院ではありがとうございました。またお会いできて光栄です」


「オクタヴィア王女、こちらこそ急なお願いにも関わらず、ご対応いただき感謝しております」


デニスは、自分の横の席をポンポンと叩いてオクタヴィアに座るように促す。

オクタヴィアが腰を下ろすと、デニスが話し出す


「アービング公爵が、先日孤児院を案内したお礼に、わざわざ来てくださったんだ」


「まあ、わざわざ・・・」


「はい、たまたまとはいえ、王女様自らご対応いただいたのですから、お礼をするのは当然のこと、それで・・」


アービング公爵は、後ろに控える従者から大きめの箱を受け取り、テーブルの上に置いた。そして、静かに蓋を開ける。


「感謝の印として、こちらをお持ちいたしました。」


蓋を開けた箱をテーブルの上に置き、デニス王へ差し出す。


「デニス王、どうぞ、こちらをお受け取りください」


「これは・・・!」


デニス王へ差し出された箱の中には、金の装飾品がぎっしりと詰まっていた。

ざっと見ても、国家予算一年分は下らないだろう。


「公爵、これは過剰ではないか?」


「いえ、これぐらい当たり前のことです。あの日はとても勉強になりましたし、貴重な王女の時間をいただいてしまいましたから」


オクタヴィアは、目の前に積まれた装飾品を呆然と見つめ、言葉を失った。


しかし、それだけでは終わらなかった。


「それとこちらは、オクタヴィア王女へ」


今度は、小ぶりの箱を侍従から受け取り、オクタヴィアへ差し出す。


「え・・?」


恐る恐る箱を開けると、そこには、見たこともないほど巨大なダイヤモンドのような石が嵌め込まれたネックレスが鎮座していた。


(え?これって、ダイヤよね?・・んんっ???それともこんなに簡単にくれるということは、ガラスなのかしら?でも、ここまで輝いているガラスなんて見たことがないし・・・)


横から覗き込んだデニスも、その宝石のあまりの大きさに、口をあんぐりと開けている。


「あの・・えっと・・公爵様?・・これはいったい?・・」


アービング公爵はにっこりと眩しい笑顔を浮かべ、頷いた。


「私の領地で採れたものなので、大したものではありません。遠慮なくどうぞ」


(アービング公爵様の領地で取れたということは、やはり本物のダイヤモンドだわ!・・いやいや、ありえない・・遠慮なくのレベルが一線を超えている・・)


お母様の宝石箱の中でも、これほど大きな宝石は見たことがない。ただのお礼にもらって良い品物ではないことはわかる。


「アービング公爵様、とても素敵なお品ですが・・・さすがにお礼の品としては高価すぎます。いただくわけにはいきません」


横にいるお父様も、高速でうんうん頷いている。


「オクタヴィア王女、これは私の気持ちです。王女自ら時間をかけて孤児院をご案内いただいたことが私は嬉しかったのです。私の感謝の気持ちを受け取ってはいただけないと?」


先ほどよりも低い声で、静かに言い放つ公爵。


(・・公爵様、怒ったのかしら・・でも、こんなの受け取れるはずが・・・)


さすがに、帝国の公爵様を怒らせるのはまずいと思い、オクタヴィアはなんとか言葉を紡ぐ。


「も・・もちろん、アービング公爵様のお気持ちはとても嬉しく思います。ですが、こんな高価なお品をいただくわけには・・」


「・・・私は帝国の公爵です。一度出したものを引いたことはありません」


毅然とした言葉に、オクタヴィアは息をのむ。


「ですが、そうですね・・オクタヴィア王女がそう仰るのも理解できます。・・・では、こうしませんか?」


「・・・?」


私は、あと六日間こちらに滞在する予定です。友人がおりませんので・・・毎日、お茶の時間を私と過ごしていただけませんか?」


「ま・・毎日??」


「はい。友人として、デューク王国の話を聞かせてください。これは、その時間を含めたお礼としてお受け取りいただきたい」


「いえ、それは・・」


オクタヴィアがさらに断ろうとした瞬間・・・


「オクタヴィア。」


デニスがその言葉を遮った。


「アービング公爵がそう言ってくれているんだ。いただいておきなさい」


デニスは、これ以上公爵を怒らせてはいけないと判断したのだろう。


「アービング公爵、気遣いをありがとう」


公爵は満足げに微笑むと、オクタヴィアの手を取り、箱をそっと握らせる。


「では、お茶の詳細は後ほどご連絡いたします」


「オクタヴィア、公爵に我が国のことを説明して差し上げなさい。そして、良い機会だ。ファルマン帝国の話も聞かせてもらうといい」


その父の言葉でオクタヴィアは気がつく。


(この席は外交の一環なのだわ・・)


それを忘れていた自分を恥じた。

つい、高価な物をいただくのは悪いと言う気持ちが先に立ち、アービング公爵様の好意を何度も断ってしまった。

これでは、公爵様に恥をかかせたようなものだわ・・

隣の父・デニスを見ると、彼は静かに頷く。

オクタヴィアはその意味を理解し、箱を両手で包み込んだ。


「・・アービング公爵様、とても素敵なお品をありがとうございます。大切にいたしますわ」


「もし、よろしければ、今つけさせていただいても?」


アービング公爵の言葉に、オクタヴィアは一瞬息を呑んだ。


(えっ!?・・い・・今・・?)


これまで贈り物をその場で身につけたことがなかったオクタヴィアにとって、それが正しい作法なのかどうか判断がつかなかった。

しかし、公爵の望みをこれ以上拒否するのも失礼にあたると思い、すぐに返事をする。


「え・・ええ、はい・・」


「自領で取れた宝石が、実際に女性の首を飾る様を見てみたいのです。」


アービング公爵はそう言うと、オクタヴィアが持つ箱からネックレスを取り出し、流れるような動作でそっと彼女の首にかけた。


オクタヴィアの首に宝石の重さがずしりとかかる。


(お・・重いわ。宝石って、こんなに重かったかしら???)


「あなたの瞳のほうが美しいが、よく似合っている。その石をお渡しできてよかった」


家族ではない男性に初めて、“美しい”と褒められれば、さすがのオクタヴィアでも頬が赤くなる。


「あ・・・ありがとうございます・・」


アービング公爵は満足そうに頷き、微笑んだ。


「では、デニス王、オクタヴィア王女、本日は急な申し出にも関わらず、お時間をいただきありがとうございます」


「こちらこそ、わざわざお礼に来ていただき感謝する」


「オクタヴィア、アービング公爵をお見送りに行きなさい」


「はい、お父様」


それを聞いたアービング公爵は自然な仕草で腕を差し出した。


(エスコート?私がお見送りに行くのに?この場合、何が正しいのかしら・・・??)


次々と起こる出来事に、すっかり混乱してしまっているオクタヴィア。

だが、差し出された腕を無視するのは失礼にあたることだけは理解できた。


彼女はそっと公爵の腕に手を添え、軽く会釈をする。


「では、参りましょう。」


アービング公爵は優雅な笑みを浮かべると、ゆっくりと歩き出した。

二人はそのまま、城の出口へと向かう。


デニス王は、二人の後ろ姿を見ながら静かに考える。


(先ほどの、あの、アービング公爵の態度・・・・明らかにオクタヴィアに対して何かしらの好意を持っているのは確かだ・・・まさかあの公爵が・・・)


デニス王は、深く息を吐き、重々しく呟いた。


「これは・・・思ったより早くオクタヴィアを送り出す日が来るかもしれないな・・・


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