第8章
ハムレットの着ている白の僧服も、彼が身を横たえているハンモックも――実は蚕のように蜘蛛が糸を吐いたものを採取し、機で織って作ったものだと聞いたとすれば、他星人の中には驚く人もあろう。また、機織り職人のほとんどが男性であり、「この大事な仕事を女になど任せておけるか!」という言葉を聞いたとすれば、尚のこと驚くかもしれない。
惑星シェイクスピアには様々な性質の糸を吐く蜘蛛が存在しており、これら野生の蜘蛛にさらに良質な糸を吐きださせるため、やがて蜘蛛は室内で飼育されるようになった。また、野生の蜘蛛のほうでも室内でストレスなく快適に過ごせるようになると――より太く長いしっかりとした糸を作りだすようになるため、この惑星において蜘蛛は幸運のシンボルともなっている。
ここ、ヴィンゲン寺院でも、地下にある洞窟内にて蜘蛛が飼われているが、ハムレットは小さな頃、この蜘蛛の世話が嫌で嫌で仕方なかったものだった。だが、そんなのもほんの最初の頃だけであり、慣れてくると(可愛い)とすら思えてくるのだから不思議なものである。
(でももう、ここでそんな仕事に従事することもこれからはなくなるのか。都に出て立身出世するといったような妄想であれば、幼い頃に抱いたこともあったが……オレがこれから<西王朝>の王になるだって?あの三女神らにそう言われた時には、何やら夢見心地でなんと素晴らしい言葉だろうかとすら思ったが、今にしてみると何やら怪しいな。確かに、あれらの者は何やら神々しい気配を感じさせる、人間よりも霊的位格が上に感じられる存在ではあったが――このオレが<西王朝>の王にだって?そんなバカな!!)
ハムレットはおかしくなってくるあまり、ハンモックを揺らして笑った。
(ロンディーガ大老らが認めたとおり、確かに自分は王家の血に連なる者なのかもしれぬ。だが、その王家の血に連なる王子が、今この十六の歳になるまで、砂と汗にまみれ、明日食べるもののために窮したことすらあるのだぞ。ハッハッハッ!まったくもってお笑い草だ。このオレが一国の王子で、やがては王になるだと?もしあの三女神らの託宣がなく、オレがそんなことを喚きだしたとすれば……ヴィンゲン寺院の僧どもは全員、突然オレの気が触れたかと疑うほどだったろうにな!!)
ひとしきり笑い、その笑いが収まってくると、ハムレットは躁鬱病患者が、躁期から急転直下、鬱期に気分が突入したとばかり、真顔になった。すると今度は彼の青池よりも深く濃いブルーの瞳には涙が滲んだ。
(そうだったのですね、父上……っ!!よもや血の繋がった実の弟に裏切られようとは、想像してもみなかったことでしょう。それでこの上もなく善良で清らかな魂の持ち主である父上は、幼き頃より心を許してきた弟君に裏切られたのですね。しかも、耳から毒薬を流しこまれてなどとは……どれほど悔しかったことでございましょう。しかも、その逆賊である弟に、母上のことまで奪われるとは……)
次の瞬間、ハムレットは今までずっと死んだと聞かされてきた母親が生きていることを思い――最初は信じ難かったその事実が、徐々に本当にそうなのだと実感されて来、今度は喜びの嬉し涙を流した。
(ああ、母上っ……母上は一体今、どこでどうしておられるのでしょう。きっと父上亡きあと、逆賊たる弟に無理に婚姻を迫られたのですね。そこで、何か事情があってやむなく今も后であり続けておられるのでしょう。それに、オレの他にも世継ぎを生んでしまえば、その原因となった男がいくら憎くとも、子供に罪はないのだしな……)
そこまで考えて、ハムレットは溜息を着いた。死んだと聞かされた自分の母親が生きていたのだ。彼はこの時、理想の恋の相手でも心に思い描くように実の母のことを恋い慕い、心の中で話しかけた。
(ああ、母上。あなたの初めての息子、清らかな処女が身籠ってのち、その胎を開いて生まれ落ちたるこのハムレットは、いつかあなたにお会い出来ることを思っただけで、喜びのあまり気を失いそうなほどです。女にとって、初めての子というものは他の子供にも勝って可愛いと申すもの……もしこのオレが王座に着いたその暁には、あなたには最上の位と暮らしをお与えすることを、今からお約束しましょう。そうとも……そしてそのあとは、オレと母上とで平和に国を治めて、いついつまでも親子ふたり、幸せに暮らしてゆくんだ……)
薔薇の残り香のような母の優しい面影を夢想するうち、ハムレットはやがて眠りに落ちていった。そして翌日、まだタイスとディオルグが帰還してないのを確かめると、いつも通り食堂で粗末な食事をしようとして――他の僧たちの自分を見る目と態度が百八十度変わったらしいと気づいたのである。
ソバ粉を挽いて焼いた薄パンに、きのうハムレット自身が仕留めた小鹿の肉ではなく、燻製にして保存してあるうさぎ肉の入ったスープ、それにエンドウ豆が少々といったところだった。このヴィンゲン寺院において、ハムレットは常に働き者だった。野に出て動物を仕留めるのが好きなのは、それがひとりで自由に出来る時間だったからだし、他の僧侶らのように陰鬱に岩室に籠もって瞑想したりするよりも、畑を耕して作物の手入れをしたり、羊や山羊の世話をしたりすることのほうがよほど性に合っていた。ようするに、自分が『間違いなくいる』と確信できない神に祈り続けたりするより、あくまで現実的な作業のほうがハムレットには楽に出来る作業だったのである。
ゆえに、僧侶の中には実際にはそう大した信仰心もないにも関わらず、かといって働きたがりもしない怠け者もいると気づいていたが、そのことについて不満を口にしたことすらない。人には向き・不向きがあり、自分にしてももし仮に怠惰な性向を持って生まれたとすれば大体のところ似たようなものだったろうと、そんなふうに理解もする。
ハムレットは今この時まで、他の仲間の僧侶らともうまくやれていると信じてきたが、その人間関係のバランスが、きのうの三女神の訪問を機に崩れてしまったらしいと知った。もっとも、長老らが、どの位階の僧侶にまで真実を語ったかまではわからない。ただ、これまでもそうだったように、長老をはじめとする位階の高い僧侶のみが集められて会議の場を持つといった場合――僧のうちの誰かしらがこっそり盗み聞きをし、それを他の仲間らに『誰にも言うなよ』、『ここだけの話……』として語ったことが、何かの病原菌のように翌日にはすっかり広まっているということなど、これが初めてというわけでもない。
(なるほどな。これはもう、『オレはあんな三女神の託宣なぞ信じんぞっ!オレが<西王朝>の王だって?戯言もたいがいにするがいいっ!!』と叫んだところで、すでにもうここに居場所はない以上、出て行かねばならんわけだ……)
誰も、いつものようには自分の隣に座ろうとせず、それどころか『おはよう、ハムレット』とすら声をかけないのを見て、ハムレットは自分の今後の運命をそのように悟った。と言っても、他の僧侶らから何か悪意のある視線を感じていたわけではまるでない。彼らにしても、今まで何気なく接してきた若造が、王家の血に連なる者だなどと聞き、どう接していいかわからなくなったのだろう。その戸惑いが、むしろ透けて見えるようですらあった。
食事を終えると、ハムレットは空いている祈りの岩室にて、珍しくも「神と一対一となり、時間をかけてじっくり祈りたい」と長老のひとりに申し出ていた。本当は、ハムレットはその日、蜘蛛の糸取り当番に当たっていたが、スミナル長老は「それがよかろう」と答え、ハムレットに岩室に籠もることを許可していたのである。
(そうだ……本当はオレは、王位なぞというものはどうでもいいんだ。ただ、このオレという存在を産み落としてくださった母上に一目でいいからお会いしたい。それ以外のあとのことはどうでもいいほどだ。だが、あの三女神も随分奇妙で面倒なことを言い残していってくれたものだ……血縁の全員を殺してこのオレに王位につけだと!?もし仮にオレに王になれるほどの人望が今この瞬間、民たちの間にこの上もなくあったところで――そんな残虐なことが、このオレに出来ようはずもないのに!!)
<西王朝>の現国王であるクローディアス王は、あまりいい王ではないとは、ハムレットにしても噂で伝え聞いてはいた。だが、ここ惑星シェイクスピアにおいて、<国王>や貴族といった特権階級を持つ一部の人間というのは、常にそんなものだったのである。そして、搾取しない善王などといったものも存在した試しが一度もないため、王族や貴族といったものは、自分たちとは隔絶した、それこそ雲の上の存在として、ただ<王族>、<貴族>と聞いただけで崇敬しなければならない何がしかであるといったように、洗脳でもされたように信じ込んでいた。ゆえに、自分たち民草が彼らに血税という名の献上品を捧げねばならぬのが何故かについても深く考えることなく、ただ犬が尻尾でも振るように「世の中そんなもの」として諦め切っていたわけである(簡単にいえば、「あいつらだって自分たちと同じ人間なはずなのに、何故王族や貴族だけが贅沢をして、民衆はいい思いが出来ないのか」……などという考えを持つだけ無駄であるとし、誰も叛旗を翻そうとまではしなかったわけである)。
ここでハムレットは、燃えるような赤い髪の女神が自分に言ったことを改めて思いだそうとした。
『これから、おまえは今<西王朝>の王である叔父のクローディアスを斃し、新王朝を築け。そして、未来に禍根を残さぬために、血縁の全員を皆殺しとし、砂漠にその骸をさらすがいい。ハムレットよ、そのことでは誰もおまえのことを責めはすまい。これが私のおまえに与える第一の託宣だ』
それから、ハムレットが『おそれながら』と口にした上で、『自分を生んだ母のことまで殺すというのは……人の道にもとることと思いますゆえ……もし、我が血縁の中に母と同じく心根の善良な者がおりましたならば、その者のことを見逃すということは許されましょうか?』と問うと、『いいだろう』と、夜空を焦がすかのような赤い髪の女神は言った。『だが、今は私の言うことの意味が十全に理解できなくとも、いずれ、私の言った言葉の意味がおまえにもわかる時がやって来る。自分の血縁全員を皆殺しにするなど、到底並の人間には出来ぬ難事業であろう。だが、今私が<託宣>を与えたことによって、確実におまえの罪悪感は減る。そして、今私が語ったことを、くれぐれも忘れぬよう心に刻みつけておくことだ』と。
(そうだ)と、ハムレットはあらためて思った。(女神たちが言ったことを忘れぬよう、まずは紙にペンで書きつけて、いついかなる時も肌身離さず身に着けておくことにしよう)
『ハムレットよ、おまえはこれから千年ほどの間、不動の王座を築く。無論、おまえは齢い百年と満たずして、墓に葬られることにはなろう。だが、おまえの血から分かれ出た者が、今後平和な時代を築いていく……そしてそのためには、初代の王となるおまえの断固たる最初の決断が重要なのだ。心が迷った時、そのことを決して忘れるでないぞ』
(これは、蒼みがかった闇色の髪に、夜空に輝くスターサファイアのような瞳の女神が言った言葉だ。オレの血から分かれ出た子孫たちが、これから千年もの間、不動の王座を築くだと!?ということは、この僧院で一生独り身で過ごすものとばかり思っていたのに、オレは誰か女と結婚するということか。その相手の女は、今一体どこにいて何をしているのだろう?よく考えたら、その女性の特徴についてでも、詳しく聞いておいたら良かったな……)
自分が間違った相手と結婚してしまう可能性もあるのではないかと、ハムレットは一瞬思考が逸れかける自分のことを戒めた。
(いやいや、結婚や女ということなぞ……それ以前に、これでいくとオレは父上の仇を取るためにも、現王のクローディアス王を斃さねばならんということだろう。向こうは敵である<東王朝>の十万の軍勢とも戦える膂力があるのだぞ。もし仮にヴィンゲン寺院の僧らが全員星神・星母のくだされた託宣を信じ、オレについてきてくれたところで……到底王都テセウスの強固な城砦都市を打ち破れるとは思えん)
そんなまるで現実的でないことを夢想して、ハムレットは再び首を振った。そして、夏の森の緑のように青々とした、緑の髪にエメラルドのような輝く瞳の女神の言葉を思い出す。
『「水と緑を制した者が、この惑星を制す」という有名な言葉を、当然おまえも知っておろう。そのために、おまえに必要な者がいる。その者の名はギベルネと言い、非常に賢い男だ。ここにいる誰よりもだ。いずれ、この男と出会った時……何がどうあろうととにかく家臣とし、手放さずにおくことだ。もし意見で食い違うようなことがあったとすれば、この男の意見を尊重せよ。さすれば、ハムレットよ、おまえの生涯は常に勝利によって光り輝いていよう』
ここでもまたハムレットは、躁病の者が気分でも良い時のようにくすくす笑いだした。このあと、タイスがこのギベルネという男が今一体どこにいるのかと聞いてくれて大助かりだったが、よく考えてみると、彼は緑の女神がギベルネという男に対し『ここにいる誰よりも賢い』と言ったことが気に障ったのかもしれない。
ハムレットは四つ年上の彼の、長老らから神童とすら呼ばれる賢さを尊敬しつつ、どこかコンプレックスも覚えて育った。しかもその彼が、三女神の託宣を確かに共に受けたとはいえ――僧院にて、汗を流しながら畑を耕し、卵を産まなくなったニワトリを潰したり、ブタの腸詰を血まみれになりながら一緒に作った親友を『王になる』と認めた上、さらには自分はその『家臣』であるとまで口にしたのだ。
タイスがディオルグと『ギベルネという名の幸運を逃すな!いや、逃してなるものか』とばかり、慌てたように急いで出立していったゆえに、ハムレットはそのあたりの彼の真意を聞くことが出来なかった。もしかしたら、そのギベルネという変わった名前の男など、幻の如く存在していまい――タイスが実はそう思っていた可能性というのもなくはない。その場合は、(自分よりも知恵でも知識でも劣るハムレット如きが<西王朝>の次期王にだと?そんなこと、いくら三女神の託宣だとて、起きるはずなかろう)と彼が心密かに軽蔑していたことをそれは意味しているかもしれない。
(まあ、いい。とにかくオレはこのまま、祈っている振りだけして、タイスとディオルグが戻って来るのを待つとしよう。だが、ふたりがともに砂の城砦跡から戻って来た時、『ギベルネという男どころか、砂ギツネ一匹姿を見せなかった』と言ったとすれば……オレは一体どうすればよいのだろうな。『いんや、オレは三女神の託宣を信じるぞォッ。これから一人ででも、草の根分けて、いやいや、砂粒をかき分けてでもギベルネという男を捜しだしてやるうっ!』とばかり、この僧院から出ていくべきなのかどうか……)
そしてこの瞬間、ハムレットはふとこう思った。問題はそのギベルネという男の実在云々ではないと。とにかく、自分は自分を産んでくださった母さまが生きていると知った以上、ガートルード王妃に会いたくて堪らないのだ。いや、一目会えるというだけでもいい……ハムレットはそう思った。そして、そのためにはまず、王都テセウスへと出かけてゆく必要があるだろう。ゆえに、タイスとディオルグが手ぶらで戻ってきたにせよ、自分はその翌日にはこの僧院を出、王都を目指す――ハムレットはそうはっきり、この時覚悟を決めていたのである。
そのように行動の指針が定まると、ハムレットはすぐにも旅支度をはじめたくもあったが、何分『今日は祈りの岩室にいて祈祷に専念したい』といったように申し出たのは自分のほうなのである。また、彼が考えるに時間のほうもまださして経過してないはずなのだ。そこでハムレットは、今まではその存在について半信半疑であった星神・星母に対して、本当にこの方こそが唯一の神とばかり、心からの熱意をこめて祈りを捧げ始めたのである。
(おお、運命の星を導く星母、そしてその娘たちよ。もし、タイスとディオルグがギベルネという男を連れて来なかったとしても、オレはこの僧院を出、王都へ母上に会いにいこうと思っています。その時にはどうぞ何卒、このオレの旅の安全を守り、無事母であるガートルード王妃と一目でも会うことが叶いますように……)
ここ、ヴィンゲン寺院に伝わる神々の伝説は少々変わっている。まず、その創世神話には、ここ惑星シェイクスピア以外にも多くの星々があると語られており、主神ゴドゥノフは、夜空を覆う暗黒そのものだと言うのだ。<この世界が誕生した時、そこには無と闇しかなかった。だが、無と闇そのものである主神ゴドゥノフは星々を誕生せしめ、その中でも一等素晴らしい輝きを放つ娘惑星を娶り妻としたのである。そして彼女にゴドゥノワという、自分に等しい名を与えた。こうして星母となったゴドゥノワは、暗黒そのものであるゴドゥノフの暗闇を星々の輝きによって満たし、夫のことをこの上もなく喜ばせたのである……>また、夜空に輝く星々にはそれぞれ名がつけられているのだが、大抵がティターニア、オフィーリア、エステル、コーディリア、デズデモーナ、ラヴィニア、ヴァイオラ……などなど、女性名である場合が多い。ゴドゥノフとゴドゥノワは夫婦とされているが、彼らの立場は対等であり、生まれた娘惑星たちは、他の男たちと結婚しては星の数を増やしていった――ということもなく、惑星神たる娘たちは、おのおの自分の星の中で子たる星々を養い育み続けていくのである。
一方、<東王朝>の神々は多分に人間的なギリシャ神話的神々であり、<東王朝>においては、毎日が何がしかの神か聖人の日に当たっている。1月から13月に至るまで、たとえば、1月1日は暁の神メーデルローエの日、1月2日は、砂漠の神ロスリエの日、1月3日はオリーブの女神ミルテの日、1月4日は薄荷の神、ミルトスの日……といったように、暦のほうは毎日、神か女神、あるいは聖人の名によってすべて埋まっているといった具合である。また、<西王朝>のほうでもこの<東王朝>の影響を受け、日々何がしかの神や女神、あるいは聖人の守護を割り振る暦が存在するというわけなのだった。
とはいえ、<西王朝>の人々も<東王朝>の人々も、夜空を眺める時などには、なんでも自分たちに都合よく解釈し、「おお、運命を導くという星々の女神ゴドゥノワよ」などといったように感傷的に祈ったりすることはよくあったと言える。そして、この場合ハムレットも大老ロンディーガもタイスもディオルグも、第二神殿に現れた三女神が何者であると理解していたかといえば――彼女たちは星母ゴドゥノワの娘の女神たちが有難くも人に近い姿を借り、降臨してくださったに違いない……という、大体のところそうした理解だったわけである。
この日、ハムレットが今後の自分の願望等について女神たちに並べ立てるような祈りをするうち、だんだん眠たくなりうつらうつらしていると――突然、岩室と岩室の間に響く風の音とともに、「タイスとディオルグが戻ったぞ!!」という、僧侶の大きな声が響いた。「見たことのない男も一緒だ!!」と。
(見たこともない男だって!?)
ハムレットはハッとすると、岩室から出て、廊下を走っていく僧らの後に続いた。自然、胸が動悸とともに高鳴った。(まさか……)と思った。(もしや本当に、ギベルネという男が見つかったのか!?)
僧侶たちが大広間に集まっているのを見ても、ハムレットは彼らをかき分けてまでも、その先へ進んでいこうとはしなかった。これで本当に自分の今後の運命が決まってしまうのだと思うと――その真実と対峙するのが、何故だか突然にして恐ろしくなってきたのである。
>>続く。