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第24章

 ローゼンクランツ騎士団のほぼ全員が、ギネビア・ローゼンクランツに対し、女性としては最高の剣の使い手と認めていたのは事実であるにせよ、何にもまして彼らが主君の次女を愛したのは、ギネビアの中にこそ尊い騎士精神が宿っていたという、そのことに他ならない。



 少なくとも、一度でも戦争に参加したことのある者であれば、そのことは自明の理というものだった。敵軍には敵軍の、自軍には自軍の、時に詭弁めいた<正義>が存在し、その旗の元戦いを演じなければならない……誰も、多くの軍勢に対し、最初にぶつかっていく歩兵になどなりたくはないものだ。あるいは、攻城戦において一番最初の登攀兵となり、雨あられと弓矢を浴びせかけられ、地上へと落下する一兵卒になど――一体誰がなりたがるものだろうか。


 だが、そうしたいくつもの尊い命の犠牲があって、最終的に訓練された兵の誰かしらが敵陣の奥へ斬り込むなり、城壁の頂上へ辿り着くなどして、徐々に目的とする勝利へ近づいていこうとする……騎士というものは、その中でも戦陣の指揮系統を担っており、自ら手勢を引き連れ特攻することもあるが、それ以上に多いのは、末端の兵士たちをチェスの駒のように捉え、A地点からB地点へ移動させるなど、最終的に勝つための戦略プランを練るということである。


 彼らは無論理解していた。犠牲になる兵士たちのひとりひとりが、ある者はパン屋の息子であるなり、鍛冶屋の息子であるなり、皮なめし職人の息子であるなどして、決して戦争によって粗末にされていい命を持って生まれたのでないということは。だが、ローゼンクランツ騎士団にしても、一度王都テセウスから号令がかかれば、<東王朝>が差し向けてきた軍隊と向き合わなければならない。そうした時、いかに腕に覚えのある彼らといえども、<正義>と<信念>というものがどうしても必要だった。


 その点、ギネビアが自分たちの中心にいるだけで――彼女が自分たちのそばにいるだけで、彼らは自然とそのことを意識した。無論ローゼンクランツ騎士団の主君はローレンツ・ローゼンクランツ公爵であり、ギネビア・ローゼンクランツはその次女である。けれど、そうした血統というものすら越えて、まだ何者の血にも汚されていない<正義>というものをギネビアが真摯に信じ、騎士らしくあろうと振るまう彼女の純粋な精神のありようを、彼らは騎士として『何ものにも代え難く守り抜かねばならぬもの』として感じ続けることが出来たのである。


 ゆえに、ハムレット一行がローゼンクランツ城砦から出立し、ギネビア=ローゼンクランツが短い書き置きを残していなくなった時――まるで騎士道精神の精華が突如として消えてなくなってしまったのではないかというほどの寂しさを、騎士団の面々は味わっていたのである。まず、ギネビアは家族だけで取る晩餐へ姿を現さなかったわけだが、そのことはすべての事情を知る長女のテルマリアが隠した。さらには、その翌日の午餐時にも晩餐時にも姿を見せなくても……「ランスロットと戦った時の打ち身が痛むようで」というマリアの言葉をローレンツは信じていたため、さほど不審に感じなかったということがある。


「ねえ、本当に行くの?ギネビア」


 宮殿にある家族の居住区には、公爵家の五人娘がそれぞれ個室を与えられている場所があった。ハムレット一行が翌日には出立するという前日の夜、ギネビアは心から愛する姉にだけ、そのことを伝えておこうと思ったのである。


「ああ、わたしはあの方についていく。生まれてからこの方、本当の意味でわたしを本物の騎士のように扱ってくださったのはハムレットさまだけだ。そのためにだけでもこの命を捧げる価値が、あの方にはある」


「そう……ハムレットさまがあなたを騎士に叙してくださったあの瞬間から、なんとなくこんなことになるような気はしてたのよ。何より、ハムレット王子を守るためにランスロットとラヴェイユ家のカドールも同行するのだものね。あのふたりが一緒なら、わたしはきっと大丈夫と信頼できるけれど……くれぐれも無茶はしないのよ、ギネビア」


 この日、ふたりは小さな頃ずっとそうだったように、四柱式の同じベッドで一緒に横になりながら、長く話して過ごした。


「もちろんさ。唯一ランスロットだけ邪魔だが、姉さまのためにあいつが旅先でついうっかりにでも浮気なんかしたりしないよう見張っててやるよ」


「あのねえ、ギネビア……」


(やれやれ)というように、テルマリアは溜息を着いた。妹は小さな頃、ランスロットと騎士ごっこをしながら自分を取り合った時のことを、いまだに何か勘違いしているのではないだろうか。


「ランスロットがわたしを好きとかいうあの話……ギネビアの思い違いなんじゃない?第一、わたしは一応レアティーズ王子と結婚することが決まってるようなものだし……まだ十二歳だけれど、なかなか才気煥発な王子さまだっていう評判だそうよ」


「ふん!あのクローディアス王と売春婦の間に生まれた王子だぞ。そんな王子より、ハムレット王子が王となられたほうが、今よりずっと素晴らしい政治体制を敷いてくださるに決まってる。マリア、よく聞けよ。わたしが王子に自分の命も他のすべても何もかもを懸けるのは、一番に姉さまのことがあるんだ。それは、ランスロットだってきっとそうだろう。クローディアス王がハムレット王子によって倒されれば――姉さまは七歳も年下の洟垂れ小僧なんかと結婚しなくて済むんだ。母さまの話ではな、王宮に住む貴婦人というのは心臓に針を刺されてぽたりぽたりと血が流れても、にっこり微笑んでおらねばならんという神経が凍えるような場所だそうだ。そんなところへマリアを行かせることなんか、絶対できやしない。それに、いずれ外苑州がハムレット王子を旗頭に叛旗を翻したということは、必ずクローディアス王の耳にも届く……その時点でもう姉さまは完全に自由だ。誰でもいい。とにかく、自分が心から愛する男と結婚して、姉さまには幸せになって欲しい」


「まあ、ギネビアったら……ハムレット王子は先王エリオディアスさまとガートルード王妃の間の御子なのよ。まかり間違ってもハムレット王子の目の前でそんな言葉、口にしないでちょうだいね」


「ああ、そうだった。でも、ハムレット王子はガートルード王妃がクローディアス王と結婚する前に出来た御子だから、王妃が売春婦になる前に出来た王子ということでもある……なんていう屁理屈はどうでもいい。そうだなあ。ハムレット王子が無事王位に就けた暁には、テルマリアが王妃ということでもいいかもしれないな。あの方は本当に素晴らしい方だ。何も、わたしを騎士に叙してくださったから、贔屓目で王子のことを見てるってわけじゃない。お顔立ちも凛々しくて、涼しげな目許をしてらっしゃるし、お声だってとても優しそうだ。何より、高貴と高潔が結婚でもされたようなご性格をしておられる上、実に寛容な方でもあられるし……父上とはまた別の、配下の者たちの背筋が思わずピシっと伸びるカリスマ性も持っておいでだ」


「あら、ギネビアったらベタ褒めね」テルマリアはくすくす笑って言った。「確かに、ハムレット王子は素晴らしい方ね。生まれついての王者といった威厳を持ってもおられるし……僧院でずっと過ごしておられたせいかしら。とても博識な方でもあるそうよ」


 マリアがハムレットと交わした言葉は少なかったが、それでも晩餐時などに彼が自分の父や他の騎士らと交わす会話を聞いているだけでも――本物の知性といったものを、ハムレット王子のみならず、彼の従者たちも備えているらしいと窺い知ることが出来た。


「そうか。じゃあなおのこと、マリアの相手に王子は相応しいかもしれないな」


「ギネビア、くれぐれも先に言っておくけれど、旅の最中に嫁にうちの姉はどうかだなんて、それとなくでもアピールしたりするのだけは絶対やめてちょうだいよ。それに、ハムレットさまにはわたしなどより、もっと素晴らしい運命のお相手がいらっしゃるでしょうからね」


「いや、わたしは姉さま以上に素晴らしい女というのを、母さま以外では誰も知らないからな。姉さまのように美しく賢い女と結婚できれば……きっとハムレット王子のほうでも政務に集中することが出来、色々な意味で幸せになることが出来るだろうさ」


 すでに未来がそうと決まってでもいるように、ギネビアが薄闇の中で微笑んでいると気づき、マリアは妹に気づかれないように溜息を着いた。


「ねえ、そんなことより今はギネビア、あなたのことよ。あなたこそ、女である以上は……特にうちのような公爵家の場合はね、結局のところ誰かと結婚しなくちゃいけないわ。そのね、ギネビアはわたしとランスロットがどうこう言うけれど、本当はあなたがランスロットとそうなるっていうのでも、わたしのほうでは全然気にしないのよ。ううん、相手がランスロットじゃなくてもいいの。たとえば……ローゼンクランツ騎士団の中で、誰かいないの?彼とだったらそうなってもいいなとか、そういう……」


「ハッ!結婚だって?く~だらないっ!!」ギネビアはまるで、その制度自体を軽蔑しているとでもいうように、足をジタバタさせ、身悶えしている。「なあ、マリア。よく考えてもみろよ。そもそもランスロットなんかわたしの中では論外だ。だが、あいつは我が騎士団最強と謳われる男だからな。となるとどうなる?他の騎士たちはあいつよりも力が劣るということだぞ。そんな奴と毎日寝起きなんか共にしてたら、きっと最後には弱っちいのがこっちにも移ってきてしまうだろうが!あ~、いやだいやだ!!わたしは絶対男となんか結婚なんてしないんだ」


「もう、ギネビアったら……でも、あなただってね、きっといつかわかる時が来るわ。ずっと近くにいながら、ただじっと見守ってくれている誰かの愛に気づいた、なんていうふうにね。そしてその時には……人を愛するっていうことがどんなことか、恋がどんなものかということが、きっとあなたにもわかる時がやって来ると思うの」


「そうさ。わたしはな、姉さま。姉さまや母さまのような素晴らしい貴婦人を守るためにこそ、生涯命を懸けて戦い続けてもいいというほどの気概が湧いてくる。男なんぞというものは、自分で自分の身を守れなきゃ、その時は死ぬなりなんなり好きなようにすればいいさ。だが、女は違う。唯一子供を生めるのは男ではなく女だけなんだからな。まあ、神さまはきっとわたしのことを男ではなく間違って女として誕生させてしまったに違いない。それとも、父上のことを憎む誰かが呪いでもかけてローゼンクランツ家に跡継ぎの男が生まれないようにしたものかどうか……とにかくな、わたしがもし結婚したいとしたら、それはマリア、姉さまのような女さ。そして、自分がこれと思った貴婦人のために命を懸けることこそ騎士の本望というものだ」


「もう、ギネビアったら……」


 ――このあと、妹から返事がしなくなったのを見て、マリアのほうでも眠ることにした。彼女たちは互いになんでも話しあうといった姉妹仲の良さだったが、それでもマリアは、この心から愛する妹に秘めた胸の内をすべては語っていない……という領域が多少なり残っていた。


(明日、あの方もまた行ってしまう。もちろん、ランスロットはハムレット王子の護衛として最適でしょうけれど、よりにもよってどうしてもうひとり選ばれた騎士がラヴェイユ家のカドールだったのかしら……)


 カドール・ドゥ・ラヴェイユは、ランスロットと同じ歳の二十三歳であり、以前、ほんの一時期公爵家で家庭教師をしていたことがある。彼は数学と天文学に特に才があり、文学においては様々な古典作品や詩学、さらには音楽にも通じていた。ギネビアなどは彼の授業を「つまら~んっ!!」と叫んで一蹴していたが、マリアはそうではなかった。彼の博識な言葉のひとつひとつが胸の奥底に美しく響いたものだった。


 けれどその頃すでに、テルマリアは王家への輿入れが決まっている身でもあったから、それ以上のことは何もなかった。テルマリアにしても秘めた初恋を誰に打ち明けることもなく、カドールはいずれ名門騎士の生まれに相応しく、いずれかの貴族の娘とでも婚約したという話を間接的に聞かされて終わるのだろうと思っていたのだ。


 今年の五旬祭にあった馬上試合は、ハムレット王子の御前ということもあり、いつも以上に慎み深いものとなったが(これは白銀の騎士エイミスの乱入がなかったとすればという意味である)、まだ独身の騎士たちは、想い人の何がしかの品を身に着けて戦いに挑むということがよくある。つまり、そうすることで意中の女性に「自分のほうでも気がありますよ」ということをそれとなく知らせ、試合で勝利したあと、想いを受け明け結ばれるわけである。


 無論、テルマリアはすでに婚約しているにも等しい身の上であったから、誰も彼女に何かの品(たとえば、普段身に着けているリボンなど)を求めることはなかったし、彼女のほうでも「もしおよろしければ、これを身に着けてわたしのために戦ってください」と言える機会自体が最初から奪われていたわけである。


 だから、マリアは時折こんな妄想をした。カドール・ドゥ・ラヴェイユが自分のために何かの品を求めてくれ(正確には彼は彼女の前に騎士らしく跪き、『髪の環飾りでもいただければ、敵の騎士に打ち勝つ勇気も湧いてきましょう』と言い、対するマリアのほうでは『では』と言って、腰の刺繍帯を解き、カドールに与えるのだった。『これをお持ちになってくださいませ。そして、明日は必ずお勝ちになってください』、そののち、カドールはマリアが下賜した刺繍帯にキスして去っていくのである)、彼は翌日にあった馬上試合にて敵側の騎士に打ち勝ち、その後自分にプロポーズしてくれる……そんな甘い、夢のような妄想だ。


 だが、年に数度行なわれる馬上試合において、カドールは常になんらかの恋の素振りのあるところを誰にも見せなかった。騎士によっては何人もの町娘に気のあるところを見せ、数か月前にあった馬上試合の時とはまた別の女性がくれた腰帯の切れ端をそれとわかるところに身に着けて戦う――そんなことを繰り返す騎士道精神に反する行いをする者もいたが、カドールはそうした浮わついたところを見せることが一度としてなかったのである。


 だから、マリアはつい希望を抱いてしまった。(もしや、彼の想い人は自分であって、けれどわたしがすでに王家へ輿入れする身であることを考え、自分の気持ちを抑えているのではないか)との……けれど、それは間違っていた。以前、またしてもギネビアが父親と大喧嘩し、「自分は男になって騎士になる!」などと宣言し、あれほどまでに素晴らしい赤褐色の髪を、自分でざくざく鋏で切り、男のような短髪にしてしまったことがあったが――その時、ギネビアがひとり大騒ぎして大広間の鏡の前で髪を切ると、偶然その場に居合わせていたカドールが、彼女の見事な赤毛をさっと一房床から拾い上げるのを、マリアは見逃さなかった。


 以後、彼が首から下げて胸元に隠している卵形のペンダントには妹の髪が入っているだろうとテルマリアはほとんど確信して疑わない。この時、マリアはショックにはショックだったし、自分の初恋が破れたことを悲しみもしたわけだが……ギネビアのことを一時的にせよ疎ましいと感じることさえなかった。いや、嫉妬と羨望の気持ちがあったのは確かだったが、むしろカドールの想い人がもし本当に妹であったとすれば、彼が気の毒だとすら感じていた。


 というのも、ギネビアのカドール・ドゥ・ラヴェイユに対する人物評というのは、「退屈で真面目な朴念仁」というものであったし、彼自身そんなことは昔からわかっているはずだったからである。


(それでも彼はギネビアのことが好きなのだろう……)そう思うと、カドールの叶わぬ願いが哀れですらあり、と同時に自分の初恋が哀れでもあった。けれど、人の恋心というのは自分でもどうにも出来ぬものであり、カドールが今もおそらくは妹に気持ちを寄せているのと同じく、マリアもまた彼のことがずっと好きだった――もはやその気持ちは無償の愛にまで妄想の中で高められていたほどに。


 ゆえに、今回の馬上試合においても、テルマリアは実は彼が自分のために隠れた崇高な動機のために戦っていると妄想し、ひとりその素晴らしい妄想恋愛の中で満足の吐息を着いた。そうなのである。マリアはいまやカドール・ドゥ・ラヴェイユに対して感謝すらしていた。いずれ彼もまた、自分と同じように……いや、自分の場合とは違うかもしれないが、それでもただ「騎士の身分に相応しいそれなりの貴族の女性」と結婚することになるだろう。けれど、実際にそうなるまではマリアは夢を見ていられる。あるいは、自分が実際に王都へ花嫁として向かうことになるまで、彼が独身であったなら――結婚式を挙げるというその日になるまでカドールに幸福な恋をしたままでいることが出来るだろう。


 何も本当に心から愛する人と結ばれなかったとしてもいいのだ。テルマリアは片想いであれ、王子とはいえ、よく知りもしない誰かと結婚などする前に、恋をすることの喜び、心から誰かを愛するということがどういうことかを知ることが出来たというだけで……自分のことを十分幸せだと感じることが出来た。そして、そのような想いを与えてくれた相手であるカドールに対し、彼女は心から感謝すらしていたのである。


(ああ、神さま。どうかわたしの愛しい妹のギネビアと、愛するあの方をお守りください。それからもちろん、大切な幼なじみであるランスロットのことも……ハムレットさまも王になるに相応しい器をお持ちの方と信じますが、今は妹と同じく純潔そのもののあの方も、王位を得るという頃には政治というものの持つ醜い側面にも気づき、きっと何かがお変わりになられていることでしょう。ああ、神さま。そんな色々なことに思いを馳せていると、本当に心配で心が千々に裂けてしまいそうです。弱いわたしには祈ることしか出来ませんが、どうか彼らの旅のすべての行程が出来るだけ安楽なものとなりますように、可能な限りお願い致します……)


 そうして祈るうち、心優しいテルマリアは枕を涙で濡らしていた。そして、眠る前に最後、愛しい妹の手にそっと自分のそれを滑り込ませ、いつもはすぐそばにいるのが当たり前だったギネビアと離ればなれになることを悲しみ、そして最後に再び、カドール・ドゥ・ラヴェイユのことを彼女は想った。


(ギネビアがあなたたちの後を追っていったら、カドール、驚きながらもあなたは、そのことをいつもの冷静な顔の下で実は喜ぶのかしら?それともむしろ、離れることで忘れられると思っていた相手が一緒にいることで……むしろ苦しくなるのかしら。でも、今はわたしもギネビアのことが本当に羨ましい。わたしも妹のように、自分の思ったことをはっきりと言い、好きなように行動できる勇気があったら良かったのにと、そう思わずにはいられないわ……)


 この翌日、少しだけ時間を空けてから王子たちを追っていくというギネビアに、十分な仕度と点検をしてから、こっそり裏の通用門にまでマリアは妹のことを送っていった。もちろん、女だてらに王子たち一行に加わろうとするなど、単に彼らには迷惑なだけかもしれない……そうした父ローレンツがギネビアに説教しそうなことについては、マリアにしても重々理解しての上の行動だった。彼女にしても知っていて妹の後押しをしたのだとあとからわかれば、厳しい叱責を免れないともわかっている。でも、それでもマリアは姉として、妹のギネビアには彼女がそうと望むとおりの、自由な生き方をして欲しかったのである。何より、与えられた運命に逆らうことすらしない、籠の鳥のような人生しか選べない、自分の代わりに……。




 >>続く。






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