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幽玄神話世界  作者: 元橋
9/23

9話

 二日後、武は新宿組合に10時にやって来た。咲夜と薫の二人は既に組合の待合室へ来ていた。

「おいっす」

「おはよう武」

「おはようございます武さん」

 三人は挨拶を交わした。

「武、傷は大丈夫?」

 咲夜は武に聞いてきた。

「咲夜は心配性だなぁ、ほれ問題無いだろ?」

 武はそう言い蟀谷を咲夜に見せた。咲夜は武の蟀谷を擦りながら。

「大丈夫みたいね」

 咲夜は安心そうに呟いた。

「だろ?それより鑑定室へは俺一人で行ってくるから二人はカフェで待っててくれよ」

 武がそう提案してきた。

「分かったわ、薫さんとカフェで待っているわね」

「あぁ俺の分も頼んでおいてくれ」

「えぇ良いわよ」

「俺はアイスコーヒー・・・」

「アイスコーヒーにガムシロップ4つ、底に溜まらない様に回しながら入れる。そしてガトーショコラ・苺のショートケーキ・チーズケーキの3つでしょ?」

 咲夜は武の言葉を遮り武が言いたい事を全て言った。

「おぉう、そうだ・・・、よく分かったな」

「武の事なら何でも分かるわよ」

 咲夜は微笑みながらそう言った。

「なら後でカフェでな」

 武はそう言うと一人で3階にある鑑定室へと向かった。

「すいません、鑑定をお願いします」

 武は組合の鑑定員にそう告げ、一昨日迷宮の宝箱から手に入れたローブを机の上に置いた。

「はい、鑑定ですね。拝見させて頂きます」

 組合員はそう言いローブを手に取った。暫くローブを見ていると。

「少々お待ちください」

 そう言い組合員はローブを手に取って奥へと入っていった。

 武は15分程一人で待ち惚けをくらった。

「お待たせしました」

 組合員はそう陳謝に武の前へと戻って来た。

「こちらのローブは組合としては350万円で買い取りたいと考えています」

(おぉ~~マジかぁ~~)

 武は言葉に出さずに驚いた。

「いかがでしょうか?」

 組合員は問い掛けてきた。

「えぇそれで構いません」

 武は了承しアプリを起動しチーム口座コードを組合員に提示した。

 組合員は提示されたコードに入金をし鑑定は終了し武は鑑定室を後にした。

「はぁ~マジかぁ~」

 鑑定室を後にした武は言葉に出した。

 武はエレベーターへと向かい咲夜と薫の二人が待つ20階のカフェへと向かった。カフェへと入った武は辺りを見渡しヒラヒラと手を振っている咲夜を見つけ近付いていった。

「待たせたな」

 そう言い武は咲夜の隣の席に腰掛けた。

「別に良いわよ、薫さんとお喋りしてたから」

 ねっ、と薫に言いながら咲夜は笑った。

 武はアイスコーヒーを飲み苺のショートケーキを口にした。

「それで武、幾らだったの?」

 咲夜と薫もアイスコーヒーを飲んでいた。

「聞いて驚け!」

 武はそう言い、チョイチョイと手を動かし三人は顔を突き合わせた。

「・・・350万だ」

「あら・・・」

「そないにですか」

 二人共、350万という数字におぉと驚いていた。

「市場に出るなら1,000万クラスだろうな多分」

 武は二つ目のチーズケーキに取り掛かりながらそう言った。

「・・・でもよかったんですか咲夜さん」

「何がかしら?」

 咲夜は薫の問い掛けに質問で問い直した。

「そないなローブなら使った方がえかったんじゃないかって・・・」

「あらそれなら大丈夫よ」

「何てったって1億数千万の女だからな」

 武はチーズケーキを口にしながらそう茶化した。

「???」

 薫は何の事だか分らなかった。

「ちょっと武!その言い方は止めてって前にも言ったでしょう!」

 咲夜はチーズケーキを口に入れようとしていた武の手を取り真正面から怒った。

「ちょ、悪かったよ。そんなに怒るなよ、カッコいい二つ名だと思うんだけどなぁ」

「ぜんっぜんカッコよくなんかないわよ。むしろ恥ずかしい程よ」

 咲夜はアイスコーヒーを飲みながらプンスカ怒っていた。

「どゆ事ですか?」

 薫の問い掛けに、言っても良いんだろ?と武は目線を咲夜に送り、咲夜は構わないと頷いた。

「こいつの杖とローブ合わせて1億数千万するって話だ」

「え”っ!」

 薫は飲んでいたアイスコーヒーを咽た。

「咲夜の事だから、どうせ親父さんに問い詰めたんだろ?何て言ってたんだ?」

「えぇそりゃ勿論問い詰めたわよ、あの日の当日に。でも話はぐらかしてハッキリとした金額は教えてもらえなかったわ。只、武の言う通り1億数千万するのは確実ね」

「・・・・・・はえぇ~なしてまたそんな金額の装備を」

 持っているんですか?又は貰えたんですか?と薫は聞きそうになった。

「だってこいつ四ノ宮財閥の娘だから」

 武はガトーショコラに取り掛かりながら何でもない事の様に言った。

「四ノ宮財閥・・・・・・って四ノ宮財閥ってあの四ノ宮財閥ですか?」

 薫は武の言った事に驚きで目を見開いた。

「えぇ薫さんの考えている四ノ宮財閥で間違いないわよ」

 咲夜もアイスコーヒーを飲みながら認めた。

「はぇ~~、でもしたら何で探検者してるんですか?」

 薫にとっての一番の疑問はそこだった。何故、四ノ宮財閥のご令嬢が探検者なんて職業に就いたのかが解らない。世界に名立たる四ノ宮財閥の娘が毎日楽しく遊んで暮らしてると言われた方がよっぽど納得がいく。常に危険な仕事ワースト1の探検者になるなんてどう考えても家族が許すはずが無いと思えた。

「だろ?そこが不思議だろ?」

 武はガトーショコラを口にしながら固まってる薫に言った。

「不思議どころの話じゃないですよ!意味が解りません」

「らしいぞ咲夜」

 武は話を咲夜に丸投げした。

「えぇと、まず第一に私が探検者になりたいから探検者になっただけよ?」

「それ家族が許したんですか?嘘でしょ?」

 薫は衝撃的だった。まさか家族がそれで許すとは思えなかった。

「そりゃあ最初は許しては貰えなかったわよ?でも何年も掛けてじっくり話を続けて漸く許して貰えたのよ」

 咲夜はそう言った。それに対し薫は唖然としていた。

「へぇ~あの親父さんが折れるって余程の事だろうなぁ」

 武は何とはなしにそう言った。

「あら?武は私がどうやって説得したか知りたいの?」

 咲夜は意味深に微笑みながら聞いてきた。

「え?いやぁ~どうだろうなぁ~?」

 武は咲夜の微笑みから直感的に聞くなと聞いたら後戻り出来なくなるぞと感じた。

「別に知らなくてもいいかなぁははははは」

「そう。知りたくなったら何時でも言って頂戴ね、教えてあげるから」

 咲夜は妖しく笑い武に囁いた。

「二人は昔からの知り合いなんですか?」

 薫が二人に聞いてくる。

「あ?あぁ俺と咲夜は幼馴染なんだ」

「えぇ、4歳の頃からよ」

 二人がそう答えると薫は。

「なら武さんの父親も何か?」

「あん?俺の親父?俺の親父は普通にサラリーマンだぞ」

 武はガトーショコラを食べ終えながら言った。

「まぁそうよね」

 咲夜も相槌を打つ。

「はぁ~、そうなんですか」

 薫は衝撃からイマイチ立ち直れてなく呟いた。

「それよりもう直ぐ正午だし昼飯食いに行こうぜ」

 武はアイスコーヒーをズズッと飲みながらそう言った。

「え?今ケーキ3つ食べたばかりじゃないですか?」

「は?甘い物は別腹だろ別腹」

 薫の問い掛けに武は当然とばかりに言った。

「まぁ昼食にするのは賛成ね」

 咲夜は武に同意した。

「それじゃあ下に降りようぜ」

 武は席から立ち上がり二人を誘った。三人はカフェを出ると階段を使い19階へと降りて行った。

「おっ!二人共ちょい待ち」

「何?」

 咲夜が問い掛ける。

「ちょいとここで待っててくれ後で呼ぶからよ」

 そう言い武は一人で食堂の入り口へと近付いて行った。

「香月パイセン、チッス!」

 食堂の入り口には香月拓馬が居た。

「お?おぉ大和じゃねーか久し振りだな。お前も今から昼飯か?」

 香月は武の知らぬ二人と居た。

「はい、今から昼飯です」

「おうそれじゃあ一緒に食うか、こいつらも紹介しときたいからよ」

 香月は二人を指差しながらそう言った。

「ゴチになります!」

「は?お前何言って」

「ゴチになります!!」

「ちっ!調子のいい奴め。わぁったよ奢ってやるよ」

 香月は呆れながらそう言った。

「あざっす!おいこっち来いよ奢ってくれるってよ」

「は?」

 武が階段の方へ声を掛けると咲夜と薫の二人が申し訳ない様子で出てきた。

「ちょお前、人数増えてんじゃねーか!」

 香月は慌てた。

「あれれ?香月パイセン奢ってくれるって言いましたよね?」

 武はニヤニヤしながら香月に尋ねた。

「香月さん、私たちは自分で支払うので大丈夫ですので・・・」

 咲夜が申し訳なさ気にそう言った。

「えぇい、俺が三人纏めて奢ってやるよ。男のコイツだけ奢って女二人に奢らないなんてあり得ないからな」

 武の頭をゴチンと叩きながら香月はそう言った。

「ふひひサーセン」

 武はそう言いながら笑い、咲夜と薫は香月に頭を下げていた。

「それじゃ中に入ろうか」

 香月がそう言い六人は食堂の中へと入って行く。その途中、咲夜は武の脇を抓り武はイテッと呟いた。

「じゃあ好きなもん頼んで良いからな」

「勿論っすよ」

 そう言い武はステーキ定食ご飯大盛りを頼んだ。

「おめ~は少しは遠慮しろよ」

 香月はハッと笑い武に忠告した。

 そして全員が注文を終えると大人数用の席へと腰をかけた。

「まずは自己紹介しておくか。俺の隣に座ってるのが松田雪人(まつだゆきと)、そんでその隣に座ってるのが上杉雄作(うえすぎゆうさく)。二人共俺のチームメンバーだ」

 二人は自己紹介され、よろしくなと挨拶してきた。

「じゃあこっちも自己紹介を俺が大和武いいます、隣が四ノ宮咲夜でその隣が結城薫です」

「よろしくお願いいたします」

「よろしゅうお願いします」

 二人は挨拶をし頭を下げた。

「俺の方は前に会った涼子と俊の他に新庄菖蒲(しんじょうあやめ)って女が居る六人パーティーだ。大和の方はそっちの結城薫って嬢ちゃんは前には居なかったよな」

「えぇこの頃パーティーに加入したんすよ」

 武は味噌汁を啜りながらそう言った。

「大和たちは今日は依頼でも受けに来たのか?」

「いや今日は鑑定がメインっすね。後で依頼は受けると思いますけど」

「鑑定か、良い値でも付いたのか?」

 香月がかつ丼を食べながら聞いてくる、それに対し武は。

「ふひひひひひひ」

 心底嬉しそうに笑っていた。

「お?その顔じゃ余程良い値が付いたみたいだな」

「そりゃあもうウハウハですわ」

「もぅ武ったら品が無いわよ」

 咲夜が武を窘める。

「まぁまぁ四ノ宮の嬢ちゃん、そう言ってやんなってそういうのも探検者の醍醐味の一つだからな」

「香月さんがそう言うなら」

「それこそ香月パイセンは何で三人だけで?」

「あ?俺たちか?俺たちはなぁ~」

 そこで香月はため息を吐いた。

「??」

 武は言葉の続きを待った。

「俺たちは馬鹿者共の尻拭いだ」

 松田雪人がそう言ってきた。

「馬鹿者共?」

 武が問い直す。

「あぁ迷宮をお化け屋敷か何かかと勘違いしている馬鹿者共だ」

「あぁ~~~~」

 それだけで何が言いたいのか武たちには分かってしまった。

「で、全員喰われてたんですか?」

「いや、二人死んで二人救助した」

「都合四人で入ってた訳ですか馬鹿だねぇ」

 武はハッと鼻で嗤いながらそう聞いた。

「あぁ、生き残った二人もションベンクソまみれの鼻水涙流しながらガタガタ震えてたぞ」

 松田雪人も嗤いながらそう言った。

「で、俺がチーム内で暇な奴集めて救助に向かった訳だ」

 香月が話を繋いだ。

「で、死体は綺麗なままで?」

 武はステーキを頬張りながら聞いてきた。

「いや、ゴブリン共に食い散らかされてたから持って帰ったのは一部だけだな」

「ありゃまご愁傷様」

 武は南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏と唱えながら食事を続けた。

「まぁそいつ等の不運だったのは出口の無い迷宮だった事だな」

 香月の言った出口の無い迷宮とは言葉の通り一度入れば出口が消え迷宮核を壊すまで出る事の出来ない迷宮の事を指す。

「俺らも何度か出口無しには遭遇したよな?咲夜」

 武は話を咲夜に振る。

「えぇそうね。5回か6回に一度は出口無しの迷宮だったかしら?」

 咲夜はそう伝えた。

「で、救出依頼が出てたんで三人で迷宮潜ったって訳だ」

 日本帝国に於いて探検者以外の一般人が迷宮に入るのは罪に問われる。

 しかし今回の様に迷宮に入ってしまった者は入ってしまったから助けてくれと言われても探検者組合は動かない、ボランティア組織ではなくて営利組織だからである。救出依頼を出し依頼料を振り込んで始めて組合は動き出す。依頼料は基本的に組合と探検者の折半であり例え迷宮内部で全滅していたとしても依頼料は支払わなければならない。

「しっかし何処の子供だ?そんな事仕出かしたのは」

 武は呆れ返っていた。

「それがね大和君、迷宮に入ったのは二十歳過ぎの大学生なんだよ」

 上杉雄作がそう答えた。

「はぁ!?」

「嘘でっしゃろ?」

 武と薫は二人して心底呆れ返った。

「それが嘘じゃないんだよ。二組のカップルが入って相方同士が亡くなっているんだよこれが」

「それ最悪だな、恋人亡くして前科持ちになってりゃ浮かぶ瀬もあったもんじゃねぇなぁ」

 はぁ~と武はため息を吐いた。

「それで僕ら三人は迷宮に潜った訳さ」

「俺は飲み代の足しに、雪人と雄作の二人は家庭の足しにするって事でな」

「家庭の足し?」

 武は問い返した。

「あぁ僕と雪人は家庭持ちなんだよ」

「そうだったんすか!?」

「そうだよ。稼げる時に稼いでおかないと、何かが無い訳では無い職業じゃないか僕らって。生命保険にも加入出来ないからね」

「あぁ~俺ら生命保険無理っすもんね」

 探検者の常識の一つとして生命保険に加入出来ないという事がある。死亡確率が高い為に生命保険会社が断るのである。かと言って探検者組合に代わりになる物があるのかと云えば無い。但し健康保険は探検者組合のに加入は出来る。しかも保険料は一般に比べて割り増しだ。

「大和、だからお前たちもランク上げてきたらそういう依頼も受けた方が良いかもしれんぞ?結構な金額になるからな」

 香月がそう助言をしてきた。

「まぁ俺ら今年始めたばっかなんで、まだまだ先の話っすねそれも」

 武はご飯を食べながらそう言った。

 その後は皆食事を摂りながらぽつりぽつりと会話をしていき食事が終わると席を立った。

「香月パイセン、ゴチになりました」

「香月さん、私までご馳走になり申し訳ありませんでした」

「うちもご馳走になりほんまありがとうございました」

 三人は香月に頭を下げた。

「良いってもんよ、それより大和ちょっとこっち来いや」

 と香月は武を少し離れた場所に呼びつけた。

「何すか?」

「結城の嬢ちゃんの胸スゲーな」

「でしょ?Bigでしょ?」

「おぉBigだなぁ~」

 香月は薫をチラリと見ながら呟いた。

「中々お目にかかれないサイズだな」

「もう福眼すよ福眼」

 武はウシシと笑いながらそう言った。

「おめぇまさか、次も女性探検者狙いじゃないだろうな?」

「まさか、次は男の前衛職を探す予定ですよ」

「まっそうだな前衛職は二枚看板ですると安定するからな」

「暫くは三人で8級迷宮潜る予定です」

「おうそれがいい余り無茶はするなよ?」

「ういっす」

 そうして香月のチームと武たちは別れた。

「そいじゃ今日は依頼を受けて解散にするか?」

「えぇそれが良いと思うわよ」

 そう言い三人は2階のデータベース室へと向かい明日の依頼を選んでいくのだった。

「依頼を受けたから明日は現地集合だな」

「時間は何時頃にするの?」

 咲夜が問い掛けてくる。

「う~ん、9時で良いと思う」

「分かったわ9時に現地集合ね」

「了解です」

 三人は組合を出てそれそれの電車に乗り帰って行った。

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