8話
次の日、武は迷宮依頼を受けてから二人が待っているであろう待合室へ向かった。
「おっ居た居た、おはよう」
何やら話しながら待っていた咲夜と薫の二人に挨拶をした。
「おはよう武」
「おはようございます」
二人は武に挨拶を返した。
「今日の迷宮は大崎だ準備はいいか?」
武の問い掛けに二人は頷き三人は組合を後にした。
三人は湘南新宿ラインに乗り大崎へと向かった。大崎駅へと着いた三人は西口から出て品川区立芳水小学校の方へと向かって行った。
「う~ん、この辺りのはずだが」
武は辺りを窺った。
「武さん、これちゃいますか?」
薫が「触るな危険注意!!」と書かれた壁を指差した。
「おっそれだな。小学生用の注意喚起の張り紙の下だな」
張り紙の下のテープのみを剥がし張り紙を捲ると渦状の歪んだ空間があった。
「おし!あった。じゃあ行くか」
武たちは渦に手を当て迷宮へと潜っていった。
「通常の迷宮型だな」
そこは石造りの部屋で扉が一つあるだけだった。
「さっそくうちの出番ですね」
薫はそう言い扉へと近付いていき調べ始めた。暫くすると扉から離れ
「罠はないようです」
そう二人に告げた。
「ならさっそく進むとするか」
武の号令の下、三人は迷宮を進んで行く。道なりに進むとT字路になっておりゴブリンが4匹たむろしていた。
「行く!」
武は叫びゴブリンの群れに突撃していった。1匹目を袈裟懸けに切り殺し振り下ろしたバスタードソードを手放すと左手でショートソードを引き抜き2匹目のゴブリンの頭に突き刺した。
「風よ刃となりて敵を切り裂け」
その直ぐ隣を咲夜の魔法が突き抜けていき3匹目のゴブリンの頭を飛ばした。武は4匹目のゴブリンを蹴りで転がすとマウントを取り心臓目掛けてショートソードを突き刺した。
「よし、問題無し」
武はそう言い戦闘は直ぐに終了した。
「はえぇ~、お二人の連携は流石ですなぁ」
薫は弓を構えたまま感心していた。自分が戦闘に加わる隙が無いまま終了してしまったからだ。
「まぁ慣れだな、薫もその内に慣れるよ」
武はバスタードソードを拾いながら薫にそう言い返した。
「そうですな、うちも早く慣れないと」
薫は両手で握り拳をギュッと作りそう呟いた。
「取り敢えず右に向かうか」
T字路で武はそう言い三人は右の道へと進んで行った。暫くするとL字に曲がり歩き続けると扉が現れた。
「ほな調べますね」
薫は扉に近付き罠の有無を調べ始めた。薫は調べ終わると武たちに近付いてきて
「罠は無かったですけど中に敵がいます、数までは分からないですけど多分ゴブリンです」
そう伝えてきた。それに対し武は頷くと。
「なら俺が突入してその後はその場の雰囲気で援護してくれ」
武はそう伝えると扉へと近付き扉を開き中へ突入していった。
中へ入るとホブゴブリン1匹とゴブリンが4匹居た。武は一直線にホブゴブリン目掛けて歩を進めバスタードソードを振り被り1合2合と剣を合わせ間合いを詰めていく。その攻撃にホブゴブリンはたたらを踏む、武はそれを見逃さず振り下ろしたバスタードソードを両手に持ち替えると真横に振り払った。ホブゴブリンの両足を切り落とすとバスタードソードをそのまま振り上げると袈裟懸けに切り殺した。
「火よ火球となりて敵を焼き尽くせ」
咲夜が呪文を唱え武から一番遠い位置に居るゴブリン目掛けて火球を放つ。薫はそれを見てその隣に居たゴブリン目掛けて矢を放つ1射目で足を穿つと2射目でゴブリンの胸目掛けて放ちゴブリンは倒れた。武は残りのゴブリンと剣を合わせ態勢を崩させるとそのまま首を刎ねた。そして火達磨になっているゴブリンに止めを刺し戦闘を終えた。
「よし問題無し!」
武は満足気に頷いた。
「油断は大敵よ、武」
咲夜はそう武を窘めた。それに対し武はニヤリと笑い。
「分かってるよ。油断して死ぬなんて無様な真似はしねーよ」
「なら良いわ」
そう言い合いながら武たちは迷宮の中を進んで行く。途中2度のゴブリンとの戦闘があったが問題なく切り抜けていった。そして進んで行った先に扉があった。
「じゃあ、調べてきますね」
薫は扉に近付き罠を調べ始めた。暫くすると腰から道具を取り出しカチャカチャとし始めた。武は声を掛ける事をせずにジッと待っていた。
「もう問題なかです」
薫はそう言ってきた。
「何か罠あったのか?」
「はい、ありました」
「どんな罠だったんだ?」
武は興味があり聞いてきた。
「扉が押戸になっていて罠を解除しないままだとギロチンが落ちてくる罠です」
「怖っ!何それ怖っ!」
武は自分の腕が落ちるイメージが沸きビビった。
「罠の部類では結構メジャーなんですよ、だから解き方も勉強した範囲なんで問題無かです」
薫は何でも無い様に言ってきた。
「ぉお、解除されてるなら問題ないな」
そうして武は少しだけビビりながら扉を押し開けた。部屋の中には宝箱らしき物が一つだけ置かれていた。
「・・・宝箱だな?」
「宝箱ね」
「宝箱ですね」
三人して呟いた。何せ宝箱らしい宝箱に出会ったのが初めてだからである。
「薫、罠調べてもらっていいか?」
「はい、分かりました」
薫は宝箱に慎重に近付いていった。何故なら宝箱自体ではなくてその周囲に罠がある可能性もあるからである。宝箱の目の前まで近付くと薫は更に慎重に罠の確認をしていった。暫くするとふぅ~と息を吐き武たちに振り返った。
「何も罠はありませんでした」
薫がそう伝えると武たちは宝箱へと近寄ってきた。
「じゃあ、開けるか。何が出てくるやら」
武はそう言い宝箱の蓋を開いた。中からは1枚の布の服が出てきた。
「ローブか?・・・・・・えっ!」
細かな刺繍がされたそれは広げてみるとローブだと分かった。そして手に持つと分かるが只の布のローブではなく魔法的な力を持つ物だった。
しかし武が驚いたのはそんな事ではなかった。
「咲夜・・・」
「私は要らないわよ」
咲夜は武の言葉を遮るように言ってきた。
「だよね、じゃなくて!」
武はそう言いローブを薫に手渡した。ローブを手渡された薫はまじまじとローブを見た後ハッとして。
「武さんこれって・・・・・・」
薫は驚きながら呟いた。それに対し武が。
「そう、誰かが使っていたローブだ」
「・・・嘘でしょ?」
咲夜も薫からローブを渡されて確認すると驚いた。
「ネームが入っているわね」
英語でM・ローレンスと名前が入っていた。
その咲夜の言葉に辺りがしんと静まり返った。
「・・・あぁ~、やっぱあの説って改めてマジなんだと実感するわ。何だったっけ?確か・・・」
「全一説の事?」
咲夜が答える。
「そう!それそれその言葉!!」
全一説。それは迷宮学において基本と云われている説の事である。
全にして一、一にして全。
それはこの世界にある迷宮は大元では全てが繋がっているという考え方である。その考え方自体は非常に古く千年以上前からある考え方であり、迷宮が生まれる時コアとなる大元があり大元から湧かれて迷宮が生まれ、迷宮が消滅するとまた大元へと還って行くという考え方である。
何故この様な考え方が生まれたかというと、|人間は迷宮に喰われるからである《・・・・・・・・・・・・・・・》。チームで迷宮に潜り誰か一人死んだとする、その死んだ人物は他のメンバーが連れ出せば現実世界へと死人ではあるが戻って来れる。
しかし迷宮内でチーム自体が全滅してしまえば存在そのものが消失してしまう、この事をして迷宮に喰われるという。再度、他のチームが同じ迷宮に潜ったとしても全滅したチームがその迷宮に居たという痕跡が一切合切全て無くなっている。まるで何事も無かったかのように全てが迷宮に吸収され大元へと一緒に還って行く。
そして今回の様に吸収された人間が使っていた武具道具類が宝箱の中身として再度迷宮へと出てくる事になる。この事をして全一説が生まれたのである。
「あぁ~勉強として頭の中には入ってるが、実際目の当たりにしたら流石にゾクッとするもんがあるなぁ」
「そうね、実物をこの目で見るとなるとね」
「うちもそうです・・・」
三人して黙り込んでしまった。武は敢えて空気を変えるように。
「まぁ戦利品として組合に持って行こうぜ。高値が付くと思うぞ」
ニカッと笑い武はそう言った。
「そうねここで行き止まりみたいだし、最初のT字路に戻りましょう」
咲夜がそう言い三人は最初のT字路に向かい左へと進んで行った。途中3度のゴブリンとホブゴブリンたちとの戦闘と二つの扉があったが戦闘も罠解除も何の問題もなく終了した。
「こいつで最後!」
武は4度目の戦闘で最後のゴブリンを切り倒した。
「そういやさゴブリン種は種類多いんだったよな」
「そうね、一番種類が多いはずだったわね」
咲夜がそう答えた。
「何だっけ、ゴブリン・ゴブリンソルジャー・ゴブリンライダー・ゴブリンアーチャー・ゴブリンソーサラー・ゴブリンシャーマン・ゴブリンキングだっけ?」
武が指折り数えながらそう言い出した。
「それにホブゴブリン種を入れると倍以上になりますもんね」
薫が武の話にのってくる。
「うへぇ~たまんねぇな」
「上級迷宮では100匹以上のゴブリン・ホブゴブリンがロードやキングに率いられて軍隊組織として現れるとも言いますもんね」
「1匹1匹は弱くても軍隊組織で率いられて襲ってくるゴブリンやホブゴブリンは嫌だなぁ」
武はため息を吐いた。
「そんなのが出てくるのは3級迷宮以上よ。私たちにとってはまだまだ先の話よ」
咲夜がそう言って話を締めくくった。
そして三人は更に迷宮の奥へと進んで行く。すると目の前に両開きの扉が現れた。
「ここが最後っぽいな」
武そう言い薫に視線を送った。薫は了解とばかりに扉へ近付き罠の有無を調べ始めた。
「罠は無いようです」
薫は武たちに近付きそう伝えた。
「よし、じゃあ突入するか」
武がそう言いバスタードソードを構え扉を開いた。中にはホブゴブリンが4匹いた。武はショートソードを引き抜くと両剣を使い3匹のホブゴブリンに切り付けた。
「光よ光矢となりて敵を貫け」
咲夜の魔法が1匹のホブゴブリンに命中するが左腕を切り落としただけでホブゴブリンの勢いは止められない。そこに薫が弓矢で応戦をした。しかし襲い掛かってくるホブゴブリンの勢いは止まらない。
「ちっ!」
武は相対していた3匹のホブゴブリンの1匹をバスタードソードで首を刎ねる。そのまま残り2匹に背を向け左手で持っていたショートソードを咲夜目掛けているホブゴブリンに投げつけた。投げられたショートソードはホブゴブリンの左足に刺さり勢いを弱めた。
「風よ刃となりて敵を切り裂け」
咲夜の魔法が襲い来るホブゴブリンの首を跳ね飛ばした。
そして敵に背を向けた武は2匹のホブゴブリンに切り付けられた。
「つぅ!」
背後から切り付けられた武はホブゴブリンへと向きを変えバスタードソードを構えた。2匹のホブゴブリンは再度武を切り付けようとし剣を振るう。それに対し武は一つをバスタードソードで防ぎ、もう一つを小手で防ごうとするが、ホブゴブリンの剣の勢いに力負けし小手を滑りながら剣が武の蟀谷を切り付け血が飛び散る。
武は一歩後ろに下がりバスタードソードを後ろに引く、するとホブゴブリンが前にたたらを踏み切り付けてきたホブゴブリンと絡まった。その隙を逃さず武はバスタードソードを両手で逆手に持ち替えると切り付けてきたホブゴブリンの頭蓋目掛けて突き刺した。そして残りのホブゴブリンを蹴り付け距離を取る。
「咲夜!!」
「火よ火球となりて敵を焼き尽くせ」
武の叫びに咲夜は瞬時に応えた。尻もちをついているホブゴブリン目掛けて火球が迫り火達磨となる。武は転げ回るホブゴブリンに近付きバスタードソードで止めを刺した。
「武!無事!?」
咲夜が走って武の所まで来て切られた蟀谷に手を添えた。
「はっ、なんだ何で泣きそうな顔してんだよ、こんなの怪我の内に入らねぇよ」
「本当に?大丈夫なの?」
「あぁ大丈夫だ。何の問題も無い。逆に咲夜、お前の手が血で汚れてるぞ」
そう言い武は咲夜に微笑みかけた。
「そう・・・なら良かったわ」
咲夜はホッと呟いた。
「薫、俺の背中どうなってる?」
武は薫に問い掛けた。
「背中も少し切れてます。血が滲んでいる程度です」
「やっぱりか・・・」
武は自分の蟀谷に添えられたままの咲夜の手をそっと外した。
「咲夜、取り敢えずシャワー頼むわ」
ニカッと笑いながら咲夜に頼んだ。
「えぇ、分かったわ、水よその身より溢れ出し清めたまえ」
武は咲夜の杖先から溢れ出る水で身体中の血を流し落としていった。傷が少し沁みたが顔には一切出さなかった。
「はい武、タオルよ」
「サンキュー咲夜。お前も手の血を洗い流せよ」
「えぇ分かったわ」
咲夜も自分の手に付いた武の血を洗い流していった。
そして全て終わると水晶球を壊し現実世界へと戻って来た。
「さてと迷宮討伐も終わったし組合へ行くとするか」
武がそう言い歩き出そうとすると。
「ねぇ武、今日はもう解散しない?」
咲夜がそう言い出した。
「え?何で?」
武が不思議そうに問い返した。
「武も怪我をしたでしょう?大事を取って早めに休んだ方が良いと思うの。組合には何時でも行けるじゃない。ね?」
咲夜は切なそうな瞳でジッと武を見つめる。
「うちもその方が良い思います」
薫も咲夜の案に乗ってくる。
「・・・う~ん、そうか?まぁ二人がそう言うならそれで構わないけど」
「えぇそうしましょう」
「じゃあ明日に組合集合か?」
「明後日にしましょう。時間は10時で良いと思うわ」
咲夜がそう提案してきた。
「分かった明後日な」
武は咲夜の提案にのり、三人は電車に乗るとそれぞれの家へと帰っていった。




