4話
武は町屋の一角にある公園のベンチに座り練乳入りコーヒーを飲みながら咲夜を待っていた。
10分程して咲夜がその場所に現れた。
「ごめんなさい、待たせてしまったかしら」
「いえいえ、女性を待つのも男の仕事ですから」
武はそう切り返した。咲夜はそれに対し笑った。
「じゃ、行くとしますか」
そう言いベンチから立ち上がると近くにある木に付着した渦を巻いた歪んだ空間の前へと歩いて行き、その渦に手を伸ばした。
すると一瞬でその場から消え空間移動をした。
「真っ暗」
光一つ無い空間に放り出され武は呟いた。
「光よ光球となりて辺りを照らしたまえ」
咲夜の言葉が紡がれると光球がフワリと浮かび周囲を照らし出した。
「洞窟?いや鍾乳洞タイプか?」
武は光で照らされた周囲を確認しそう言った。
「えぇ小さめの鍾乳洞タイプね」
咲夜はそう助言をした。
「まっ取り敢えずは道なりに進むか」
そう言い二人は洞窟内部を進んでいった。
暫く進むとキーキーと言う声と羽音が聞こえ2匹の巨大な蝙蝠が二人に襲い掛かってきた。
「巨大蝙蝠!行くぞ!」
武はバスタードソードを両手で構えて襲い掛かってくる蝙蝠に対して勢いよく振り下ろした。
「風よ刃となりて敵を切り裂け」
咲夜は呪文を唱えもう片方の蝙蝠を燃やした。
武の敵は一刀両断され咲夜の方は羽を切り裂き本体が地面に倒れていた。その敵を武が串刺しにした。
「デカすぎてキモイな」
2mを超す大きさに武は呟いた。
「あら、でも餓鬼以外の敵よ?」
「おっそういやそうだな、敵の種類も増えてきそうだな気を付けないとな」
そうして二人は道を進んでいった。途中二度ほど巨大蝙蝠に襲われたが怪我も無く撃退した。
暫く歩くと武は急に立ち止まり口に人差し指を当てた。その後、手の平をゆっくりと上から下へと下した。その行動に了解とばかりに咲夜は光球の光度を落としていった。
武はゆっくりと音を立てず一人で前に進んでいき暫くして戻ってきた。
「この先に広間があって篝火の周りにゴブリンらしき敵が5体いる」
小声で武は咲夜にそう伝えた。
「どうするの?」
「まず俺が先に突入して右側の敵を倒す。咲夜は後から入ってきて左側の敵から倒していってくれ」
「えぇ分かったわ。気を付けて」
武はなるだけ音を立てずに広間へと近づいて行った。ゴブリンたちはまだこちらに気が付いていない。武はギリギリまで広間へと近づくと声も発っせず1匹のゴブリンを袈裟懸けに切りつけ血飛沫が舞った。
ギャギャギャと急に現れた武にゴブリンたちは驚き各々の武器を手に襲い掛かってきた。
「火よ火球となりて敵を燃やし尽くせ」
後から入ってきた咲夜は武からみて一番左側のゴブリンへと火球を放った。燃え盛るゴブリンは必死に消そうと転げまわっている。
「おらよっ!」
武は片手でバスタードソードを振り抜くとゴブリンの態勢を崩し腰からショートソードを抜くとゴブリンの首に突き刺した。
突き刺したショートソードはそのままにバスタードソードを両手に持ち替え剣を振り被ってきたゴブリンと剣を合わせた。
ギャ!ギャ!ギャ!と喚きながらゴブリンは武を力の限り切り裂こうとしている。それに対し武はバスタードソードの角度を変え左側へとゴブリンの剣をいなした。
武はいなした速度を生かし体を回転させてゴブリンの背中から突き刺した。
「風よ刃となりて敵を切り裂け」
咲夜は残り1匹となったゴブリンの片足を魔法によって切断した。
武は燃え盛るゴブリンと片足を失ったゴブリンの首を刎ね戦闘は終了した。
「ふぅ~~何とかなったな」
武はショートソードを拾い上げながらそう言った。
「えぇ上出来な部類よ」
「よしそれじゃあ先に進むか」
そう言い二人は広間の奥へと続く通路を進んでいった。途中二人は2匹のゴブリンと対峙したが何の問題もなく討伐できた。
暫く道なりに進むと通路が二股に分かれていた。
「さて、どっちに進むか」
「武が決めてね」
「なら右だな」
直ぐに決めると二人は右の道を進んでいった。暫く進むと下り坂になってきた。更に進むと開けた場所に出てそこは地底湖になっていた。
「地底湖か何かあるかな?」
武が地底湖へと近づくとバシャリと音がし何かが3体現れた。
「魚人か!?」
武はバスタードソードを構えると魚人へと切り掛かっていった。鋭い歯と爪でこちらに嚙みついてこようとしている魚人に対し武は下から切り上げ応戦した。
「地よ巌となりて敵を打ち砕け」
咲夜は1匹の魚人を岩で圧し潰した。
武は1匹の魚人を切り裂いたがその隙にもう1匹の魚人が武に噛みつこうと迫っていた。武はそれを見てバスタードソードを手放し右手の小手を魚人の口に押し当てた。
ガギッ!という音と共に魚人は齧り付いたが鉄製の小手の為それ以上は噛み進めなかった。その一瞬に武はショートソードを左手で持つと魚人の腹にズブリは突き刺した。
その時バシャリと音がし更に3匹の魚人が地底湖から現れた。
「えぇいクソ!」
「風よ刃となりて敵を切り裂け」
咲夜の呪文と共に風の刃が1匹の魚人の首を刎ね飛ばした。
武は落としたバスタードソードはそのままにショートソードで魚人に応戦する。横並びで襲い掛かってきた魚人に武はショートソードを横払いで振り抜き相手が怯んだ隙に魚人の頭に突き刺した。
そして残り1匹は大きく開けた口に拳を突っ込みそのままの勢いで拳を地面へとぶち込んだ。グチャリという音と共にピクピクと動いていた魚人は力尽きた。
武は拳を引き抜くとすぐさまバスタードソードを拾い上げ構えを崩さなかった。暫く待っていたがそれ以降魚人が現れる気配は無かった。
「終わりか?」
「・・・・・・みたいね」
ふぅ~~と武は大きな息を吐き構えを解いた。
「サンキューな咲夜。サポート助かったわ」
「当然の事でしょ気にしないで。それより武の方こそ手は大丈夫なの?」
「あぁ細かな傷はあるけど問題は無い」
そう言い武は拳をニギニギしてみせた。
「そう良かったわ安心した」
咲夜はホッと息を吐き笑顔を見せた。
「じゃあ道を戻るか」
武はそう言い来た道を戻っていった。二股の道に戻ってくるとそこには3匹のゴブリンが居た。
「火よ火球となりて敵を燃やし尽くせ」
咲夜の呪文と共に戦闘が始まった。
武はバスタードソードとショートソードの二刀を構えゴブリンに突撃していった。各々の剣でゴブリンの攻撃を防ぐと蹴りを放ち1匹を転がした。その間に1匹のゴブリンをバスタードソードで切り倒し、転がったゴブリンの頭めがけてショートソードを突き刺した。そして焼け焦げているゴブリンを始末した。
「あぁ~まさか居るとは思わんかったわ」
直ぐに戦闘を終わらせると武はぼやいた。
「えぇ敵も移動しているみたいね」
「あぁバッタリ会わないように気を付けないとな」
武は今までより注意をしながら道を進んでいった。
途中、3度程ゴブリン3匹、巨大蝙蝠に2度出会ったが武と咲夜のコンビネーションで何の問題も無く討伐していった。
「ちょいと休憩するか」
少し開けた場所へ来た時に武が告げ、その場に二人座り水分補給をした。
「あぁ~水が美味ぇ~」
武はそう言い水を飲み続けた。
「椎名さんたちが言っていた様に8級迷宮は今迄とは違うわね」
咲夜も水を飲みながらそう言った。
「あぁ全然違うな、規模もそうだけど敵の数や強さも段違いだな。これが一般的な8級迷宮なのかな?」
「それは分からないわよ、何ていっても私たちは最初の8級迷宮なのよ?もしかしたら簡単な部類に入る可能性だってあるわよ?」
「う~ん、そっかぁ~その可能性もあるよなぁ」
武はこれからの迷宮探索について一つの事について悩んでいた。
「まっ、まずはこの迷宮を討伐する事を第一に考えないとな」
そういい立ち上がった。
「そういう事ね」
咲夜も立ち上がりお尻の辺りをパンパンと叩いた。
二人は洞窟内を進み続けた。そして小一時間程歩いた後に視界が開けた、そこは通路からすり鉢状になっている大きな空間だった。武は後ろを着いて来る咲夜を片手を横に出し止めた。
武はその場で腹這いになり空間の底をジッ見つめた。咲夜は何も言われずとも光球の光量を落としていた。暫く眺めていた武は咲夜の居る通路へと戻ってきた。
「下にはゴブリンが8匹、それと図体がデカいのが1匹多分ホブゴブリンだろう。そいつが居やがる」
「どうするの?」
「まずは俺が奴らの場所に戦闘に向かう、その後に通路出口の場所で咲夜が援護する。これで決まりだ」
「ちょっと!それじゃ武が危険過ぎるわ、私も下に向かった方がいいわよ」
咲夜が武の作戦に異論を言った。
「いや俺だけが下に行き注意を引き付ける。道は1本だから俺が通路を塞げば敵は上までは上がってこれない」
「何でよ」
咲夜は食い下がった、それに対し武は。
「俺はテメーの危険よりお前の安全の方が重要なんだよ」
「武」
武は咲夜の瞳をジッと見つめながらそう言い放った。咲夜も武の瞳をジッと見つめ返した。
「・・・・・・・・・分かったわ、私は上から援護するわ」
咲夜はそう言い折れた。
「じゃあ、始めるぞ」
「えぇ武も十分気を付けてね」
「あぁ」
武は返事をすると空洞の底へと駆け出した。
「おりゃーー!!」
敢えて声を出しバスタードソードを手に駆け抜ける。敵は武が来ているのを確認して武器を構えて対峙した。
1匹目のゴブリンに横薙ぎにバスタードソードを振り首を刎ねた、次に2匹同時にゴブリンが武に襲い掛かる。それを片方はバスタードソードで防ぎ、もう片方は小手に当てさせ防ぎ切った。
「火よ火球となりて敵を焼き尽くせ」
咲夜の魔法が最後尾にいたゴブリンに当たり丸焦げにした。
ギャギャと喚きながら更に1匹のゴブリンが武に襲い掛かる、武は小手で防いでいたゴブリンに体重を持っていきバスタードソードを防いでいた剣ごとゴブリンを突き刺した。
しかしその直後、3匹目のゴブリンの剣が武の左の二の腕を切り裂いた。
「ちっ!」
武は3匹目のゴブリンに裏拳を放ち間を開けた。その瞬間逆手にショートソードを抜きゴブリンの顔面に突き刺した。
「風よ刃となりて敵を切り裂け」
咲夜の魔法が後方のゴブリンの剣を持つ腕を切り落とした。その間に武は態勢を崩している1匹目のゴブリンをバスタードソードを強く押し付け間を開けて袈裟懸けに切り裂いた。
ギャオ!と声と共にホブゴブリンが斧を武に振り下ろした。武はそれを左側に転げまわり避けた、その場には腕を切り落とされたゴブリンがギャギャと喚いていた。武はそのゴブリンの顔面に向けてバスタードソードの柄を思い切り振り抜いた。
武は立ち上がるとホブゴブリンと対峙した。
「火よ火球となりて敵を焼き尽くせ」
咲夜の魔法が2匹目のゴブリンを丸焦げにした。
ホブゴブリンが再度斧を振り下ろしたのを武はバスタードソードを切り上げて弾き返した。そしてホブゴブリンがたたらを踏んだのを見ると踏み込み切り上げたバスタードソードをそのまま思い切り振り下ろし唐竹割りにした。
残り1匹のゴブリンは武から逃げようと後ろを振り向いたが、背後から武は切り裂いた。そして燃える2匹のゴブリンに止めを刺すと戦闘を終えた。
「武!大丈夫!?」
咲夜が走って広間へと降りてきた。
「おぉ~咲夜~、大丈夫だ。ちょいと左腕を切られただけだ」
武は走り寄ってきた咲夜に対しそう答えた。
「もう!切られたなら大丈夫なんかじゃないわよ」
「つうか俺の血より返り血の方が酷いわ。咲夜、水出してくれ」
「水よその身より溢れ出し清めたまえ」
咲夜がそう呪文を唱えると杖の先の水晶球から水が溢れ出してきた。咲夜は杖の下の方を持ち水晶球が武の頭上にくるようにして簡易的なシャワーとした。
「あぁ~~、さっぱりする」
武は水を浴びながら気持ち良さそうに言った。
「・・・私、この魔法のこの使い方だけはイマイチ納得出来ないのよね」
「え?何で?すっげー便利で良いじゃん」
咲夜のぼやきに武はそう言い返した。
「もう!はいタオル!早く拭きなさい」
咲夜は提げていたカバンからタオルを取り出し武に手渡した。
「おっサンキュー」
武は手渡されたタオルで頭と顔を拭いていった。
「それより武、出てきてるわよ」
咲夜が指し示した先には水晶球が載った支柱がいつの間にか現れていた。
「おっ迷宮核か」
迷宮核とはその名の通り迷宮そのものである。迷宮核を壊す事によってその迷宮は消滅する事となる。
「さっさと壊してこんな辛気臭い所からは出るか」
武は片手で頭をタオルで拭き、片手にショートソードを持って迷宮核に近づき
「そりゃ」
そう言いショートソードで迷宮核を打ち壊した。武が壊して暫くすると空間が歪み始め二人の姿はその場から消え去った。
次に気付いた時には元いた公園の木の目の前に立っており、歪んだ渦は消え去っていた。
「これで依頼は完了っと」
「そうね、お疲れ様」
二人は公園のベンチに移動した。
「咲夜は何飲む?紅茶か?」
武は自動販売機に移動しながら咲夜に問い掛けた。
「お茶でいいわよ」
武は自動販売機で練乳入りコーヒーとお茶を購入しベンチに戻ってきた。
「ほいお茶」
「ありがとう」
二人はベンチに座り、それぞれの飲み物を飲んでいた。
「ふいぃ~~、時間は午後4時前か結構潜ってたんだな」
だらけ切った格好で武は現在の時間をスマホで確認した。
迷宮内に入ると何故だかは未だに解明されていないが電子機械類のものは一切が使用できない。
「もう武ったら、もう少しはシャキッとした格好でその駄々甘いコーヒーを飲みなさい」
「ぶーぶー、良いじゃねぇかやっと通常世界に戻ってきたんだ、少し位は大目に見ろよ。それにこのコーヒーの良さが分からないなんて咲夜はお子様だなぁ」
「お子様なのはどっちよもう・・・」
咲夜も笑顔で武に言い返した。暫くは無言で二人は過ごした。公園の中では子供たちが元気に遊びまわっていた。
「・・・・・・明日は休息だな」
唐突に武は告げた。咲夜はお茶を飲みながら横目で武を見た。
「私は構わないわよ、明後日はどうするの?」
「明後日は組合に8時にデータベース室に集合だ」
「えぇ分かったわ」
二人は飲み終わった缶をゴミ箱に捨て公園を後にし駅へと向かって行った。
「じゃあな咲夜」
「えぇまた明後日ね、武も傷を早く治しなさいよ」
そう言い合い二人は駅で別れた。




