3話
「で!だ!」
その日、武は組合19階にある食堂で生姜焼き定食を食べながら咲夜に問い掛けた。
「何が?」
咲夜はカルボナーラを上品に口にしながら武へと逆に問いかけた。
「この1か月間10級迷宮の潜り続け制圧した迷宮は49!1日で二つの迷宮に潜れるなんてどんだけ簡単なんやねん!敵すら出てこない迷宮もあったじゃねぇか、子供の秘密基地か!しかも敵が出てきても餓鬼ばっか!餓鬼餓鬼餓鬼餓鬼餓鬼餓鬼餓鬼餓鬼!うんざりだっつーの。餓鬼マスターでも名乗ってやろうかって気持ちだぞ」
武は生姜焼きを口に入れ米を搔き込んだ。それを見た咲夜は眉を顰めて。
「ちょっと武、行儀が悪いわよ」
そう窘めた。
「いや俺の行儀作法はどうでもいいんだっつーの。咲夜は迷宮探索について意見はないのかよ?」
そう問い掛けられた咲夜は人差し指を顎に当て。
「遊び?暇潰し?流石、探検者にそう言われるだけのものだったわね。余りにも簡単過ぎて私もビックリしたわよ」
「だろ?そうだろう?そうだったろう?しかも10級迷宮なんて制圧しても依頼料は1万円、どんなに高くても2万円!俺たち二人の依頼料も1か月間で56万円、頭割りで一人28万円!ひと月の生活費にしかならねーよ、税金の事考えると赤字だぞ」
武は我が意を得たりとばかりにそう捲し立てた。
「う~ん、でも私不思議なのよね?」
咲夜は付け合わせのスープを飲みそう言った。
「何が?」
「何がって。武の事だから10級や9級は直ぐに終えて8級迷宮にでも潜り始めると最初は思っていたのよね」
咲夜はそう言い目で問い掛けてきた。
「そ、そりゃ~おめ~・・・・・・」
「何?」
「き、危険なのは俺だけじゃないからな・・・・・・」
武はそう言いそっぽを向いた。
それに対し咲夜は少し驚きで目を見開いた。
「そっか、そうなんだ。武は私の事もちゃんと気にしてくれていたんだ、ありがとう武」
咲夜は心の底から嬉しそうに笑いお礼を伝えた。
「あ、当たり前だろ、もしお前に何かあったら親父さんに何言われるか分かんねーからな」
「そうよね私に何かあったらお父様が何を言うか分からないものね」
武の照れ隠しの言葉に咲夜は何も言わなくても分かっているとばかり敢えて相乗りしてきた。
「そ、そんな事より明日からは9級迷宮探索に移るからな!」
「ふふふ、分かったわ。明日からは9級迷宮ね」
その日咲夜は武と別れるまで終始笑顔だった。
「で!だ!」
その日、武は組合19階にある食堂でとんかつ定食を食べながら咲夜に問い掛けた。
「何が?」
咲夜はシーフードドリアを上品に口にしながら武へと逆に問いかけた。
「この一か月間9級迷宮に潜り続け制圧した迷宮は30!流石に10級迷宮みたいに1日で2つ制圧する事は出来なくなったし、敵が出てこない迷宮もなかった。しかし出てくる敵はやっぱ餓鬼ばっかり!餓鬼餓鬼餓鬼餓鬼ホント嫌になるわ」
武はとんかつを口に入れ米を掻き込んだ。それを見た咲夜は眉を顰めて。
「ちょっと武、行儀が悪いわよ」
そう窘めた。
「いや俺のって・・・何か先月も同じ様な会話しなかったか?」
「う~ん、どうだったかしら?まぁ行儀が悪い武がいけないのよ」
そう言い咲夜は笑った。
「まぁいいや。で、咲夜はこの一か月間の迷宮探索をどう感じた?」
そう問い掛けられた咲夜は人差し指を顎に当て。
「そうね、迷宮は広くなったし敵の数も多くなってきたわね」
「あぁ確かにな。一度に餓鬼が10体出てきた時なんかはちょいと焦ったな」
武はそう言いその時の事を思い直していた。
「えぇ危険ではなかったけれど、最初の時は少し焦りはしたわね」
ドリアを口にしながら咲夜はそう答えた。
「まあな、でも30の9級迷宮を制圧したお陰で依頼料は締めて108万円だ。頭割りで一人54万円だ、生活費・税金の事を考えてもちゃんとした黒字だ」
武はニヒッと笑いながらそう言った。
「嬉しそうね武」
「そりゃ~嬉しいに決まってるじゃねぇか、親に借金もしてるしな」
味噌汁を啜りながら武はそう答えた。
「そっか武は陽市郎小父様に借金返さないといけなかったわね」
「そういや咲夜はこれまでの依頼料はどう使ってるんだ?」
武はふと疑問に思った事を口にした。
「私?私は実家暮らしとはいえ流石に一部生活費としてお母様に渡しているわ。あとは生活用品だったり新しい服も買ったわよ、それと新しい下着もね」
そう言われ最後の新しい下着の言葉に武は頭の中で咲夜のレースの下着姿を想像し少し顔を赤くした。
「ねぇ武?武は見てみたくない?私の新しいの」
咲夜は流し目でそう囁いた。
「はぁ?ばっばっかじゃねぇの!?そのお前の新しいその・・・・・・」
武は口の中でモゴモゴと呟き最後の方は言葉にならなかった。
「あら武は見たくないのね、私の新しい服」
「ふ、ふくぅ~~!?」
「そう新しく買った服よ?結構可愛め目な服なのよ。・・・何?もしかして私が下着姿でも見せるとでも思ったの?武は」
そう問われた武は慌てて。
「は、はん!そ、そんな勘違いする訳ないだろう、この俺が」
「そうよねぇ、武がそんなエッチな事考える訳無いものね」
咲夜はニマニマとしながら武に相槌を打った。
「お、お前の新しい服は今度見せてもらうからな!」
「えぇちゃんと見せてあげるわ、私の新しいの」
そう言い咲夜は妖艶に微笑み囁いた。
その後二人は食事を終えるとカフェへと移動しこれからの話し合いを始めた。
「で!だ!」
武はアイスコーヒーを飲みながらそう切り出した。
「それより武、またガムシロップ4つも入れて、そんなんじゃコーヒーの味なんてしないんじゃないの?」
咲夜はカプチーノを飲みながら甘すぎるアイスコーヒーと皿に載せられた3つのケーキを見ながらため息を吐いた。
「何だよ、この甘さが最高に美味しいんじゃないか」
武はケーキーを食べながらそう反論した。
「まぁ今更よね、相変わらずの甘党なんだから」
「俺は大の甘党だからな、甘い物なら何でもOKだ!ってそんな話じゃなくて今後の事だ」
「今後?8級迷宮に潜るのよね?」
咲夜は首を傾げながらそう問い掛けた。
「そう8級迷宮に潜るがその前に2日の休息を入れる。今まで毎日迷宮に潜ってたからここいらで休みを取って迷宮に挑む事にする」
「じゃあ明々後日に組合で集合なのね?」
咲夜がそう問い掛けると武は首を振り。
「いや依頼自体は今日受けておいて明々後日は現地集合だ」
「分かったわ。私はそれで構わないわ」
「じゃあ2階のデータベース室へ移動しようか」
ケーキを食べ終えると武はそう言い、二人はカフェを後にし2階のデータベース室へと移動していった。
「じゃあ検索するか。都内24区内8級迷宮っと」
PCを使い武がデータベースへとアクセスすると100件以上の登録迷宮が表示された。
「どんな感じ?」
咲夜が後ろからPC画面を覗き込んだ。その時にフワリと甘い香りと背中に当たる柔らかい感触に武はドギマギした。
「お、おう。やっぱ散らばってるな。都内中心部は粗方他のチームに予約されてる感じはあるがな」
「そう。あら?武これなんて良いんじゃないの。町屋に一つあるわよ貴方の住んでる西日暮里から一駅じゃない」
「おっホントだ、なら最初の8級迷宮はここにするか」
武は示された迷宮にチーム大和で予約を入れた。
その時後ろから
「おっ噂の二人組か?」
そう男の声が聞こえた。武と咲夜は二人で後ろを振り返ると20代後半と思しき男性二人と女性一人の三人が立っていた。
「誰っすか?」
武がそう問い掛けると、女性が両手を合わせながら。
「この人がいきなり話しかけてごめんなさいね」
そう言って謝ってきた。
「一応、自己紹介するわね。私は椎名涼子で彼が橘俊、そしていきなり声を掛けた馬鹿が香月拓馬」
そう自己紹介され武は椅子から立ち上がり。
「あ、俺の名前は大和武っす、で、こいつは四ノ宮咲夜。それと噂って?」
武は噂の二人組という言葉が気になって問い掛けた。
「おう組合員の噂に上ってるぞ。2か月毎日休みもせずに毎日組合に来て依頼をこなしてるってな。しかも女の方はエライ別嬪さんだってな。で実際会ってみると確かにこりゃ別嬪さんだ」
香月拓馬はそう言い咲夜を見てニヤッと笑った。
「ふ~ん、ナンパするんだ」
椎名涼子はそう言い白けた視線を送った。
「ばっ違げぇ~よ!誰が自分の彼女の前で他人をナンパすんだよ」
「私の居ない所ではナンパするんだ」
「居なくてもしねーよ!」
香月拓馬は慌てて椎名涼子に釈明していた。
「二人は2か月間も休まずにいて疲れは出ていないのか?」
橘俊は静かに問いかけてきた。
「いや~疲れっていっても、最初の1か月間で10級迷宮、次の一か月間で9級迷宮に潜っていたんで疲れという程の疲れは出ていないですね」
武は首筋を搔きながらそいう伝えた。
「ほう、それは慎重でなによりだ。探検者足る物その位に慎重なら二人は大丈夫そうだな。もう既に今年の卒業生で一人死人が出たらしいからな」
「「えっ!」」
武と咲夜は驚きで顔を見合わせた。
「・・・・・・その噂って出所は何処ですか?」
武は声をひそめて聞き返した。
「おう!それは噂じゃなくて事実だぞ。1週間程前の話だ。しかも死人は一人じゃなくて二人だ」
香月拓馬がこっちの話に加わってきた。
「「二人・・・・・・」」
武は唖然と、咲夜は悲しげにそう呟いた。
高校に探検者科があるのは東京・大阪・札幌・福岡の四校だけであり、この時期に死亡したとすれは自分たちと同じ高校、つまりは同級生の確立が非常に高い。
香月拓馬はため息を吐きながら
「毎年この時期は結構あるんだよ。何かの拍子でとんとん拍子に事が上手く運びそれを実力だと勘違いする奴らがな。まぁ大方、今年の二人も慢心が招いた結果だろうな。そういう意味じゃ二人の慎重な進め方は正しいんだよ」
「そうね。探検者なんて命のやり取りな職業だから必ず死者は出てしまうわ。でも卒業したばかりの子が死んだとなるとちょっとやり切れないものがあるわね」
椎名涼子そう悲しげに話した。
「つう訳だ。おい武っつったな、お前も迷宮探索に集中するのも良いが横との繋がり、探検者同士の情報交換も大切にしておけよ。どんな情報が転がってるか分からねーからな」
「8級迷宮からは今までの10級や9級の迷宮とガラリと変わってくる。慎重に慎重を重ねて、時には逃げ出す判断も大切になってくる気を付けてな」
橘俊はそう話を繋げた。
「はい!ありがとうございます!!」
武はそう言い三人の向けて頭を下げた。
「せっかくの可愛い彼女を悲しませるんじゃねぇーぞ」
香月拓馬はそう言ったが武と咲夜は同時に
「「いえ、彼女(彼氏)じゃないです」」
「あぁん?ならおめー達何なんだよ」
「「ただの幼馴染です」」
二人同時に答えた。
「ふふっ、ただの幼馴染にしては息がピッタリだな。まぁチームワークには重要な要素だがな」
橘俊はそう言い苦笑した。
「ねぇ四ノ宮さんだったわよね、もしよければローブを少し触らせてもらえないかしら?」
椎名涼子は少し申し訳なさそうにそう言ってきた。
「え、えぇ構いませんよ。どうぞ」
そう咲夜は言い両手を広げてローブを触り易いようにした。
「ありがとうね、それじゃちょと失礼して・・・」
そう言い咲夜のローブを触りだした。ふ~ん、へぇ~、ほほぉ~等と呟き少し所かじっくりと触っていった。
「はぁ~~、ありがとうね」
椎名涼子はため息を吐きながらお礼を言った。
「おう涼子どうしたんだよため息吐いて」
香月拓馬は不思議そうに椎名涼子に尋ねた。
「・・・この子のローブ、私が普段身に纏ってるローブより数段上の物だわ。確実な数は分からないけど魔法効果付与も幾つも付与されているし、ローブの生地自体の質も高いわ」
「えぇ?おい涼子お前のローブって結構な値が張るって自慢して言っていたよな」
「えぇ杖は見ただけでも高級品と分かるし、杖とローブ合わせた金額でも確実に1本は超えているわね」
「1本って1,000万って事っすか?」
武が椎名涼子にそう問い掛けると、違う違うとばかりに首を振り。
「違うわ1億よ。確実に1億数千万はしてるわね」
「はあぁ~~!?」
武は素っ頓狂な声を上げ咲夜を見たが、咲夜の方も驚きで知らないとばかりに首を横に振る。
「私も杖もローブも父が準備した物なので全然そういうの分からないんです」
「四ノ宮って苗字だったよな、もしかして四ノ宮財閥の関係者か?」
橘俊はそう咲夜に問い掛けてきた。
「えぇ、はいそうです。四ノ宮財閥の三女です」
咲夜はそう言った。
「何、凄い所のご令嬢じゃないの何でわざわざ探検者なんて職業選んだのよ?」
椎名涼子は驚きでそう問い掛けた。
「いえ、まぁ色々ありまして・・・」
咲夜は言葉を濁した。
「まぁ親御さんに大層愛されてるって訳だ、それで良いじゃねーか」
香月拓馬はこの話は終わりだとばかりに締めくくった。
「ふっそうだな、二人共8級迷宮は初だから十分気を付けてな」
橘俊はそう助言をした。
「そういや三人はチームで・・・」
武がそう言い掛けると香月拓馬は手をブンブンと振り
「あぁ違う違う。俺たちは六人パーティーで4級迷宮を中心に潜ってる。偶に合同で3級迷宮に潜ったりもしてけどな。今年で10年目だ」
そう武の勘違いを香月拓馬は訂正をした。
「4級迷宮っすか・・・」
武は目の前の三人の実力が確かな事を確信した。
「おう!武、4級迷宮は良いぞ~儲かるからな」
親指と人差し指で円を作りニヤニヤと笑いながら香月拓馬は言った。
「マ、マジっすか!?」
「おうマジマジ、依頼料だけでも普通に200万超えるし迷宮内で手に入れたものを売っぱらったら更にウハウハだ」
「マジかぁ、うぉーテンション上がるな~~」
「しかもな・・・・・・・・・」
武と香月拓馬は二人で盛り上がっていた。
「はぁ大和君ってあの馬鹿と気が合いそうねぇ」
「ですねぇ~」
咲夜と椎名涼子は二人白い目で盛り上がる二人を眺めていた。
「まっ今度他のメンバーも紹介するからよ。見掛けたら声掛けてくれや」
「「はい、ご指導ありがとうございました」」
武と咲夜の二人は改めて三人に礼を言い当たらを下げた。
「おう、じゃあまたな」
そう言いヒラヒラとさせ三人は去っていった。
「良い人たちだったわね」
「あぁそうだな。確かに迷宮探索ばかりで他の同級生や先輩たちの事は気にしてなかったのはマイナスだったな」
「えぇ今後は人との繋がりも大切にしていかないとね」
二人は言い合い今後の課題を認識した。
「しっかし、1億数千万の女ですかぁ~」
武はジックリと咲夜の全身を眺めながら囃し立てた。
「ちょっと武、そういう言い方止めてよね本当に怒るわよ」
咲夜は武の冷やかしに怒り顔でそう言った。
「すまんすまん。しっかし咲夜の親父さんはガチだったんだなぁ」
「もう!私も今日家に帰ったらお父様に問い詰めないといけないわ」
「俺も久しぶりに実家に帰るかな」
武はそう呟いた。
「え、何?もしかして武、この2か月間一度も顔出していなかったの?」
「え?そうだけど」
「あっきれた、陽市郎小父様や詩織小母様きっと心配してるわよ。さっさと顔出しておきなさい」
「へいへい」
武は咲夜の忠言を軽く流した。
「それよか明々後日は現地に9時集合な」
「えぇ分かったわ」
二人は確認しあいその場を後にした。




