21話
12月も半ばを過ぎ今日も今日とて迷宮に武たちは潜っていた。今日潜っている迷宮は大鍾乳洞型で敵はホブゴブリン、ゴブリンソルジャー、リザードマン、インプ、魚人、大蝙蝠と多岐に渡っていた。そんな中、武たちは迷宮を進んでいるが。
「道もう無いよな?」
武が後ろを振り返り皆を見る。すると全員が頷く。
「何で迷宮核が出てこないんだ~?」
そう、敵を全部倒し行ける場所全て行っている筈なのに迷宮核が出てこないのである。
「隠し通路でもあるのかしら?」
咲夜が首を傾げながら言ってくる。
「隠し通路か・・・・・・」
武も頭を悩ませるが。
「あっ!」
「何か分かったんどすか」
薫が聞いてくる。
「ちょいと気になる場所がある」
そう言い武は歩き始めた。皆は武の後を付いて行き一つの大広間に出る。そこには綺麗な水を湛える地底湖があった。武はそのまま地底湖へと入っていき、皆はまさかと思い。
「取り敢えず、潜ってみるわ」
そう言い残し武は地底湖の壁際まで泳ぐと水の中へと潜っていった。暫くすると水面にプクプクと泡が浮かんできて武が顔を出す。そのまま泳いで皆の所まで来ると。
「・・・あったわ道」
そう言ってきた。それに女性陣はえ~という顔になった。
「取り敢えずデカい空間が存在した、どうする?」
皆は武にどうすると聞かれても既に道は一つしかない。
「どうするもこうするも道があるなら行くしかないじゃないのよもう!」
咲夜がそう言ってくる。取り敢えず最低限の物だけ身に着け他は華林の無限袋に仕舞う。そして武、華林、薫、咲夜、朱鳥の順番で地底湖に潜っていった。地底湖の壁底には大きな穴が空いておりその中を進む。進んだ先には武の言った通り大きな空間となっていた。皆はずぶ濡れになりながら地底湖から上がっていった。
「取り敢えずキャンプだな」
武の言葉に女性陣は賛成の声を上げる。テントを立て焚き火台で焚き火をする。その後は女性陣がパーテーションを組みお風呂の準備をしている。
「武、こっち見ちゃ駄目だからね」
咲夜の言葉が空洞に響き渡る。
「へ~い」
武はチェアに座りながら焚き火に当たり暖を取っている。背後からは女性たちの賑やかな声が聞こえてくる。
「やっぱり薫さんが一番大きいわね」
何が?
「そんな事ないどす。それよりも咲夜はんの方が綺麗どす」
何が?
「朱鳥さんも大きくてスタイル良くて羨ましいです」
何が?
「華林さんも十分大きくてお綺麗ですよ」
何が?
1時間以上、女性たちはワイワイとお風呂に入っていた。
「咲夜さんのはいつ見ても綺麗ですね~」
何が?
「あら、華林さんのも可愛くて良いわよ」
何が?
「朱鳥はんはシンプル過ぎやしまへんか?」
何が?
「そうでしょうか?薫さんも結構シンプルだと思いますが」
何が?
武は聞こえてくる会話に悶々としながら焚き火に当たっていた。今は髪を乾かしてる最中らしい。暫くすると女性たちは濡れた衣服等をテントの中で仕舞い、焚き火台へと現れた。地底湖に潜りずぶ濡れだったのが解消し皆笑顔を浮かべている。
「終わったわよ、武も入ってきなさいよ」
咲夜がそう言ってくる。
「俺か?俺はいいよ」
「もうお湯も沸かし直したんだし入ってらっしゃい。ね?」
一度は断るが咲夜がそう伝えてくる。
「そうか?なら入ってくるわ」
武はそう言いテントで着替えを持ち出し臨時の風呂場へと足を向けた。先程まで女性陣が使っていた風呂場は良い匂いがした。その中を武は湯舟に浸かる。ふ~~とため息を吐き湯舟に浸かっていると何とも云えない感覚に捕らわれる。
(な~んかおかしいぞ?俺が考えていた探検者とは何か違うぞ多分)
高校を卒業して早9か月、探検者生活は自分が思い描いていたモノとは何か何かが違うと感じてしまった。何が違うと問われれば分からないが、何か何かが違うと思う。そんな事を考えながら湯舟に浸かっていた。
「お湯捨てちまっていいのか~?」
風呂上がりに武が問い掛ける。
「いいわよ~」
咲夜が答え、武は残ったお湯をその場に捨て始める。そうして焚き火台へと向かった。華林は既に料理の準備を始めており、咲夜、薫、朱鳥の三人は各々のチェアに座り過ごしていた。そこに武も座る。
「なんかこないな場所でお風呂に入ってると温泉みたいな感じがしますなぁ」
薫がそんな事を言ってくる。
「確かにそんな感じがいたしますね」
朱鳥も同意してくる。
「まっ風呂にも入れる事になったし、これで長期の迷宮探索も可能になったって訳だ。まぁこれも華林のお陰だけどな」
武が練乳入りコーヒーを飲みながらそう言ってくる。
「私がどうかしましたか?」
料理をしながら華林が訊ねてくる。
「いや、華林がパーティーに加入してくれて本当に助かってるなって話!」
華林にちゃんと伝わる様に大き目の声で武は話す。
「そんな・・・・・・」
そう言われた華林は照れてしまった、自分の方こそ良いチームに加入出来毎日感謝している位なのだ。華林は鼻歌を歌いながら料理をしていった。暫くすると料理が完成する。
「出来ましたよ~」
華林のその言葉に四人はテーブルへと移っていく。
「今日は寄せ鍋にしてみました」
華林はそう言いカセットコンロの上に鍋を置いていく。皆は華林の料理に舌鼓を打ちながら食べていく。最後の〆は雑炊となった。食後は皆で焚き火台を囲む。
「まぁ道が見つかって良かったわな、今後も今回の様な事が起こる可能性があるって事だ」
武がそう言ってくる。
「毎回、ずぶ濡れになるのは勘弁して欲しいわね」
咲夜が嫌そうに言う。
「ははは、確かにそうどすな」
薫も笑いながら同意してくる。
「しかし級が上がれば色々な迷宮が出てきます。雪山や氷の迷宮、灼熱の大地に常に雨が降っている森の中や砂漠等です」
朱鳥がそう言葉を発した。
「やっぱ級が上がれば色々出てくるもんなんだな」
武はお茶を飲みながら朱鳥の言葉に相槌を打った。
「咲夜もそうだけど、薫、朱鳥、華林には助けられてばかりだよなぁ」
しみじみと武は言う。静寂の中にパチパチと薪の爆ぜる音だけがこだまする。
暫くはしんみりとしていたが、ポツポツと会話が出てきて歓談の場になった。その後、女性陣は就寝の為テントに入り武は寝ずの番を始めるのだった。
5時間程経った時、朱鳥がテントの中より現れる。
「おう朱鳥、交代サンキューな」
武がそう声を掛けるが朱鳥からの返事は無い。
「朱鳥どうした?」
武が再度問い掛ける。
「武様」
朱鳥が武を呼ぶ。
「おいおい様付けは止めてくれって言ったじゃないか」
「いえ、今は敢えて武様と言わせて頂きます」
朱鳥はそう言った。
「そうか・・・、取り敢えず座ってくれや」
何か話があるのだろうと思い武は朱鳥に座るように言った。朱鳥は武の進めでチェアへと座る。
「で?何か話があるんだろ?」
武は朱鳥に問い掛ける。
「武様、私は武様に御役に立てているのでしょうか?」
そんな事を聞いてくる。
「は?役立ってるに決まってるじゃねぇか、迷宮でも屋敷でも」
「本当にそうでしょうか?先程は助けられてばかりだと仰って下さいましたが本当にそうでしょうか?」
朱鳥は訊ねてくる。
「どういう事だ?」
「今は7級迷宮を潜っているので私も手助け出来ます。5級までは手助けで出来ますがそれ以上になったら私の知識は役に立つ事が出来ません」
「そんな事は無いだろ?元々5級まで潜ってた朱鳥が俺らのチームに入ってくれた事が稀な事なのに。それに4級迷宮なんてまだまだ先の話だぜ?その時は今以上に朱鳥はチームにとって必要になってるだろうさ」
武はそんな事は無いと反論する。
「私は神意を得て武様の下に参りました。神社の家で生まれて神意を得られた事は非常に嬉しかったです。『大和武様に付き従い身も心も捧げよ』その神意を受けた時に私の心は既に武様の物となっていました」
「身も心もって・・・」
その言葉は会った時に聞いた事が無かった。
「私は身も心も武様に捧げきっているのでしょうか?私は本当にお役に立っているのでしょうか?」
朱鳥は真剣な眼差しで武を見てくる。武は想像していたよりも重い問い掛けになけなしの頭を使い考えていた。
「なぁ・・・・・・もし今俺が抱かせてくれって言ったらどうする?」
「それは勿論構いません」
朱鳥は即決する。
「じゃあ身体はくれても心はくれないんだな」
「え?」
朱鳥は戸惑った。
「いえ、そんな事はありません。身も心も捧げて・・・」
「俺そこまで頭良い訳じゃないし、神職にとって神意がどれ程重要かも分かんねぇけど、神意で受けた心って朱鳥の本当の心なのかな?」
「え?」
「もし神意を得ていない状態で俺が抱かせてくれって言ったらどうする?」
「それは・・・・・・」
朱鳥は言葉に詰まる。
「だろ?俺はもしもしも貰えるなら神意を得ていても得ていなくても『どうぞ』って言ってくれる朱鳥の心が欲しいかなぁ~」
武は少し照れ臭そうに言った。
「武様・・・」
「まぁ彼女も居ない男の戯言と思ってくれや。そもそも最初会った時に綺麗でラッキーと思ってたしな」
武は笑いながら言った。
「綺麗でラッキーですか?」
朱鳥は問い返す。
「そっ、屋敷でもチラッと胸見てるし傍を通った時は白檀の良い香りがするなぁとか思ってるし、その程度の男なんだって」
武は敢えて茶化しながら答える。
「さてと、そろそろ寝るから寝ずの番頼むな」
武はチェアから立ち上がると、おやすみと声を掛けテントへと入っていった。
朱鳥はその後ろ姿をジッと眺めていた。
(咲夜さんが固いと言っていたのはこういう事なのでしょうか?)
朱鳥は悩んでいた。武の言っていた事を思い返していた。パチパチと薪が爆ぜていく。
(もっと素直になるべきなのでしょうか?神意に関係なく武様を見るべきなのでしょうか)
寝ずの番をしながら朱鳥はずっと考えていた。
次の日の朝、女性たちは起きてきていた。華林は食事の準備をし咲夜、薫、朱鳥の三人は朝の準備をしていた。
「そろそろ武を起こさないとね」
「あっ私が起こしてきます」
咲夜の言葉に朱鳥が答える。
「そう?ならお願いするわね」
「はい」
朱鳥は答えテントへと入っていく。中では武が寝袋にくるまり眠っている。朱鳥は武へと近付いていき武の頭を優しく撫でる。
「武様、朝で御座いますよ」
耳元で優しく声を掛ける。
「ん、うぅん・・・」
「武様、起きて下さいまし」
「んん?」
武はガバりと起き上がる。
「飛鳥ぁ?」
「はい。おはようございます武殿、朝ですよ」
「今・・・・・・」
「?何かございましたか?」
朱鳥は正座をしたまま不思議そうに尋ねてくる。
「え?いや今・・・」
「武殿、あれから私も考えまして、今迄よりも少し素直に生きてみようと思います」
「あ、そうなのか?」
「えぇ、ですので、これからも宜しく御願い致します」
そう言い深々と頭を下げるのだった。
「お、おう」
「さぁもう朝食の準備も出来る頃合いです。起きて下さい」
そう言うと朱鳥はテントを後にするのだった。武は寝袋から出ると準備をしテントから出て顔を洗った。
「朝食出来ましたよ~」
華林の声が響く。皆でテーブルに着くと塩鮭とほうれん草のおひたしに味噌汁とご飯の朝食だった。
「お代わり」
武は茶碗を差し出す。
「はい、待ってくださいね~」
華林は嬉しそうにご飯をよそう。食事を終えると華林は片付けをし、他の皆はテント等を片付けていく。
「よし、行くか」
武の号令の下、鍾乳洞の奥へと進んで行く。途中、大蝙蝠が現れるが既に敵としては弱く武の和剣と咲夜の魔法で撃退した。更に道を進む。ホブゴブリンを倒しゴブリンソルジャーも倒していく。インプを倒すのは専ら薫の弓矢と咲夜の魔法が役目である。
「敵は問題無いんだけど、広いよなぁ~」
歩きながら武はぼやく。
「そうどすなぁ、今迄で一番大きいとちゃうますか?」
薫も歩きながら相槌を打つ。鍾乳石や石筍を壊しながら進む。
「おっリザードマンか」
行く先には3匹のリザードマンが居た。武と朱鳥は駆け出し2匹を相手にする。
「火よ火球となりて敵を焼き尽くせ」
咲夜の魔法が1匹のリザードマンを火達磨にする。
「せい!」
武は剣を打ち合わせていたリザードマンの剣を弾き袈裟懸けに切り裂く。朱鳥はリザードマンの顔面を殴り付けるとそのまま近寄り首の骨を折る。武は2匹のリザードマンに止めを刺す。
「よし!終了!」
武はそう言い剣を鞘に納め、そのまま歩き続ける。その先には大きな空洞があり迷宮核と宝箱が置かれていた。
「あれ?迷宮核が出てるぞ」
武が不思議そうに呟いた。
「武殿、恐らく今回の迷宮は敵を全て倒すと迷宮核が出るタイプだったのかと」
朱鳥が武にそう伝える。
「ふ~ん、そういうタイプの迷宮もあるんだな」
武はそう言い、薫は宝箱に近付き罠が無いか確認を行っている。
「武はん、罠はないどす」
薫がそう伝えてきて武は宝箱の蓋を開ける。
「ごたいめ~ん」
宝箱の中身を確認すると中から豪華な金の首飾りが出てきた。
「おぉこいつは金になるぞ」
手に持つと金特有の重みを感じる。武はそれを華林に渡すと無限袋へと仕舞う。
「じゃあ迷宮核ぶっ壊すとしますか」
武はそう言い水晶球を壊し迷宮から脱出するのだった。
迷宮から出るとそこは旧芝離宮恩賜庭園だった時間も既に夕方過ぎになっていた。武たちは浜松町駅から山手線に乗り渋谷駅で降りると松濤の屋敷まで10分程歩くのだった。
「ただ~いまっと」
武たちは玄関を上がると華林に預けていた荷物を受け取りそれそれの部屋へと移動する。武は取り敢えず荷物を部屋に置き洗面脱衣所で手洗いとうがいをする。そうして湯舟にお湯を溜めるスイッチを押す。もう少ししればここは女性たちの入浴の時間になる。武は早々に撤退する。
「組合行ってくるわー!」
武は大声で聞こえる様に言い玄関を出ていった。渋谷駅から山手線に乗り新宿駅で降りる。そのまま歩いて新宿組合本部へと入っていった。そして3階の鑑定室へと入っていく。
「鑑定をお願いします」
武はそう言い金の首飾りを出した。
「少々お待ちください」
組合員はそう言い後ろへと下がっていった。10分少々したら組合員は戻ってきて。
「今日の金相場で換算いたしますと3,876,495円となります」
「それで構いません」
武はそう言うとアプリを起動させチーム口座へと入金を終える。階段で2階へと降りるとデータベース室にて明後日の依頼を探していく。データベース室にはまだ何人もの探検者が同じ様に依頼を探していた。依頼を受け終わると組合を出て新宿駅から山手線に乗り渋谷駅で降り歩いて屋敷まで帰って行った。
「ただいま~」
武はそう言い玄関を上がる。そのまま洗面脱衣所で手洗いをしようと扉を開ける。そこにはお風呂上りの薫が下着を着ようと立っていた。
「あっ」
「あっすまん!」
武は慌てて扉を閉めた。そのまま自室へと戻っていった。暫くするとコンコンと扉をノックする音が聞こえる。
「はい?」
「うちどす」
そう声が聞こえてくる。武は扉を開けると顔を赤くしている薫がいた。
「あぁ~さっきはすまんかったな」
武は取り敢えず謝った。
「いえ、鍵を掛けてなかったうちも悪かったどすさかい」
薫はそう言うと沈黙が流れる。
「あぁ~そのぉ~何だ?綺麗だったぞ?」
沈黙に耐えかねて武が妙な事を言い出す。
「何言うてるんどすか、忘れとぉくれやす」
薫は顔を真っ赤にしながら言い返す。
「うち最後どすさかい、武はんお風呂に入っとぉくれやす」
薫はそれだけを言うとパタパタと2階へと上がっていった。武は着替えを持って洗面脱衣所に向かいお風呂へと入った。湯舟に浸かりボーッと天井を見る。
(見ちまったなぁ薫の裸、やっぱ胸大きかったなぁ~)
そんな事を考えながら武は湯舟に浸かっていった。
一方の薫はベッドに横になっていた。
(武はんに見られてもうた)
裸を見られた事に対する嫌悪感は一切無く、只気恥ずかしさのみがあった。共同生活する時に咲夜が言っていた事が頭をよぎる。自分は武を一人の男性として意識し始めているのだろうか。
「もっと色っぽい下着の方がよかったんやろか」
服の下の下着を覗き込みそんな事を言う。
武はお風呂から上がると洗い物を自室へと置きリビングへと向かう。そこにはキッチンで料理をしている華林だけがいた。
「あれ?皆は2階か」
「お帰りなさい、武さん。はい皆さん2階に上がっていますよ」
「ふ~ん」
武はそう言いリビングへ行き、テレビを点けた。ニュースでは今日の出来事、政治経済、クリスマス特集等が放送されている。武はその放送を何とはなしに見ている。
「ご飯出来ましたよ~」
華林が階段へと行き2階に声を掛けている。咲夜、薫、朱鳥の三人がダイニングへと現れる。
今日の夕食は豚の生姜焼きにきんぴらごぼう、豆腐とワカメの味噌汁にご飯の組み合わせだった。武の分は前もって大盛りにしてある。
「「「「「いただいます」」」」」
各々が食事をしている最中に咲夜が。
「ねぇ明日は皆で買い物にでも出掛けない?」
そう言ってきた。
「うちは良いどすが」
「私も構いませんよ」
「私も大丈夫です」
薫、朱鳥、華林の三人がそれぞれ答える。
「武、貴方もよ?」
咲夜が武にそう言ってくる。
「え?俺も?」
「そうよ、貴方持ってる服なんてユニシロばかりで着たきり雀じゃないの。来年には大人の仲間入りするのよ、ちゃんとした服も持っておきなさい」
咲夜がそう忠言してくる。
「へ~い」
武は生姜焼きを食べながら返事をする。
「ちゃんとコーディネートしてあげるから安心して」
咲夜はそう言ってきた。
その後、女性陣は食事をしながらワイワイと何を買うやら話をしながら食事は続いていく。
「あっそういや忘れてた金の首飾り380万で売れたから」
唐突に武は思い出した様に言った。
「あら、思いの外高く売れたわね」
「魔術的要素が付与されてたらもっと高く売れたんだろうがな」
武はそう答える。
「7級だと中々難しいとちゃいますか」
「そうですね。そういった付与魔法が付いてる品は6級からが殆どですね」
薫と朱鳥が答える。
「なら来年からが楽しみだな」
味噌汁を啜りながら武はそう言った。
食事も終わり恒例のリビングでのお茶会の時に武はナショナルジオグラフィティーでアメリカの探検者番組を見ていた。女性陣も探検者の番組とあって一緒に見ている。内容はどの様な生活をしているのか、迷宮の中はどの様になっているのか、敵はどんなのがいるのかが一枚一枚写真で紹介されている。
「迷宮で写真撮れるのな」
武が呟く。
「そりゃそうよ。最新のデジタルカメラは使えなくても機械式カメラなら使えるしね。フィルムカメラが廃れない理由の一つね」
咲夜が答える。
「今でも探検者や迷宮研究者用に最新式の機械式カメラも発売されているんですよね」
華林がそう言ってきた。
「ふ~ん、そしたら迷宮内の写真って金になるのかね?」
武が問い掛ける。
「余程重要な写真ではないと高額では買い取ってくれないと思います。実際写真を撮るのを重視している探検者チームもありますしね」
朱鳥が武の問いに答える。
「何匹目かのドジョウになるか分かったものではないって事か」
武はぼやいた。
お茶会も終わり各々が自室へと戻っていく。武も寝る準備をし自室へと入る。
(明日の買い物は長くなるんだろうなぁ~)
そんな事を思い就寝するのだった。
次の日、朝食を取り掃除洗濯を終えたのは9時頃だった。女性陣はそこから化粧等の準備をし屋敷を出るのは10時頃になった。
「じゃあ出掛けるとしますか」
武の言葉に皆頷き屋敷を出る。渋谷駅まで歩き都営地下鉄銀座線に乗り銀座駅まで乗っていく。
「態々、銀座まで行くかぁ?」
電車に乗りながら武が呟いた。
「あら良いじゃない色々揃うんだし。それに武に付き合ってもらってたのは、いつも銀座だったじゃない」
咲夜はそう答える。
「そりゃそうだったけどさぁ、三人はどう思うよ?」
武が薫、朱鳥、華林の三人に尋ねる。
「うちは東京の事殆ど分かってへんさかい」
「私も東京の事は何も分かっていないので」
「銀座に買い物に行くの初めてです」
三人はそれぞれそう答える。
「まぁそんなもんか」
電車に揺られながら武は呟いた。銀座駅で降りデパートへと入っていく。最初に化粧品コーナーへ行き梯子する四人は楽しそうに化粧品を選んでいるのを武は後ろからそれを眺めている。
(見てるだけでも楽しいんだろうなぁ)
男にとって女の買い物は永遠の謎である。暫くすると。
「ねぇねぇ武、どっちの色が良いかしら?」
咲夜が2本の口紅を見せてくる。
「えぇ、どっちも同じじゃね?」
「全然違うじゃないの」
咲夜は膨れっ面をする。
「店員さんはどう思うよ?」
武は店員に丸投げした。
「お客様ならどちらのお色でもお似合いになりますよ」
店員は心の底からそう思っていた。こんな美人なら何を付けても絶対似合うに決まっている。
「ほら武、選んでよ」
咲夜は2本の口紅を見せてくる。武はそれぞれをジッと見詰める。左側の方が少し淡い感じがする。
「う~ん、どっちかっていうと左側かなぁ?」
「そう?なら左側のにするね」
そう言い咲夜は選んでいった。薫、朱鳥、華林の三人も各々が好みの化粧品を選んでいく。次に選んでいくのは服である。四人が服を選んでいくとファッションショーもかくやと云う具合の様相を呈していく。
薫がオレンジ色のフレアニットを着て試着室から出てきた時は思わず。
「ナイス」
と言った。
「武はんのエッチ」
薫は両手で胸を隠し顔を赤くしながら言うが。
「でも・・・、武はんが気に入ったのならこれ買います」
その言葉に武はドキッとした。
その後も女性陣から感想を求められるがどれも似合っているので誉め言葉しか出てこない。女性たちが服を買っては華林の無限袋へと吸い込まれていく。
そして時間も12時をとうに過ぎ昼食を取る為に11階へと行き蕎麦屋へと入った。昼食が終わると今度は下着売り場へと向かった。
「ここだけは勘弁してくれ」
武はそう言いすぐさま退散した。
「そんな直ぐに逃げる事無いのに」
咲夜は呆れ声を出した。
「まぁ男性には居辛い場所どすしね」
「三人は武に下着姿見られるのは嫌?」
咲夜はそう訊ねてきた。三人はそれぞれ考え。
「うちは・・・、嫌では無いどす」
薫は少し顔を赤くし。
「私も武殿に見られるのは構いません」
朱鳥は微かに笑顔を浮かべ。
「私、武さんになら見られても良いですよ」
華林は笑顔で言ってきた。
三人の中で一番積極的なのが華林だった。
「あら?華林さんもしかして・・・、武の事好き?」
咲夜は華林にそう訊ねる。
「はい男の人として好きです。今迄男の人を好きになった事は無いですけど何でこんなにも早く好意を持ったのか自分でもよく分からないですけど好きです」
華林は素直な気持ちを打ち明けた。だけど武と咲夜はどう見ても恋人同士だ、そんな中に自分が入ってしまっていいものか分からず今迄打ち明けずにいた。しかも相手は自分なんて敵うはずの無い四ノ宮財閥の御令嬢なのだ。そんな敵うはず無い相手に自分の気持ちを打ち明けたのだ。だが。
「まぁ嬉しい!華林さん武の事が好きなのね」
咲夜は華林の両手を握り我が事の様に喜んでいる。その事に華林は驚いた。
「嫌じゃないんですか?」
「何故?武の事をもっともっと好きになって欲しいくらいよ」
咲夜はニコニコしながらそう言ってくる。その事に華林は、あぁ自分は武の事が好きな気持ちを持ってていいんだとストンと心の中に落ちていった。
「はい私、もっともっと好きになります」
自分はこんな場所で何を打ち明けてるんだろうかと華林は思ったが自分の気持ちに嘘は吐けなかった。
「なら武を悩殺できるような下着を選ばないとね」
「の、悩殺ですか・・・?」
「そうよ、何時見せても良い様にね」
咲夜は笑顔でそう言う。
「飛鳥はん」
「えぇ、薫さん」
二人は華林には負けてられないと思った。薫は自分が一番先にチームに加入して長く一緒に居る自負、朱鳥は神意を得ているのもあるがもう少し素直になると考えたばかりである。頭で考えて行動するのは終わりだ後は感情で動く時がきたのである。
「「負けてられません」」
二人はそう言うと、咲夜と華林の輪に入り四人で下着を選び出した。
その頃、武はエレベーター横にある椅子に座り時間を潰していた。特にやる事はなくスマホを弄ってニュース等を見ていたが食も満たされて午睡へと入っていった。
「武、武」
身体を揺り動かされ武は目を覚ます。
「んあ?ふわぁ~~」
目を擦りながら見回すと女性陣が立っていた。
「終わったのか?」
「えぇ下着は終わったわよ。次は靴やアクセサリーよ」
咲夜がそう言ってくる。
「りょ~かい」
武はそう言い椅子から立ち上がった。エスカレーターで階を移動し女性靴の売り場までやってくる。買った服に合わせるような靴を選んでいく。武はそれを後ろから眺めている。アクセサリーを探している時も意見を求められるが自分には良し悪しが分からないので似合ってるとしか言い様がない。朱鳥はアクセサリーに余り慣れていないのか咲夜が色々進めてくるのに戸惑っていた。
「さて私たちは終わりかしらね」
咲夜がそう言ってくる。時間は既に16時を過ぎている。
「次は武はんの番どすな」
薫がそう言う。
「えぇ~俺は別に構わないんだけどなぁ」
「何言ってるのよ、今日も上から下まで全部ユニシロじゃないの。これを機に服を変えなさい」
咲夜がそう言ってくる。
「じゃあ紳士服売り場に移動しましょう」
華林が進めてくる。そのまま皆でエスカレーターで紳士服売り場の階まで移動していく。そこから先は武は着せ替え人形と化していた。女性陣が持ってくるジャケットやパンツを着ては着替えるの繰り返しである。デパート店員の入る隙間は何処にもない。
「あら、このジャケットなんて良いんじゃない?」
「そうか?似合ってるのか?」
「武殿、凄く似合ってらっしゃいますよ」
「武さん、カッコいいです」
朱鳥と華林は手放しで褒めてくる。手放しで褒められると武も悪い気はしなかった。
「じゃあこのジャケットは決まりね」
咲夜はそう言いジャケットを手にする。
「このパンツなんてどうでっしゃろか?」
薫はそう言いコーデュロイのパンツを持ってくる。
「あら、良いじゃないの。色違いで買うのも有りね」
咲夜も褒めてくる。武はそれを持って着替え室へと入っていく。パンツを履き出ると先程のジャケットを着させられる。
「似合ってるわね。武は身長も高いし足も長いからジャケパンスタイルが良いわね」
咲夜が上から下まで眺めながら言ってくる。
「この前のスーツ姿も凄くカッコ良かったです!」
華林がそう褒めてくる。
「武の場合はスーツはオーダーした方が見栄えするからスーツを買うのは又今度にしましょう」
また今度買いに行くのかぁと武は心の中で思った。
「後はシャツや靴や小物も買わないといけないわね、あっそれとコートもね」
「まだ買うのかよ~」
武のぼやきが入る。
「武、貴方無趣味なんだからこれからファッションを趣味にでもしたら良いんじゃないの?」
咲夜が提案してくる。
「別に無趣味って訳じゃないぞ」
武は反論する。
「あら武に趣味があっただなんて初めて聞くわね?なら何が趣味なのかしら?」
咲夜が問い掛ける。
「え?え~と・・・・・・・・・、クラシック聴くとか」
「なによそれ、私に付き合ってクラシックコンサート行ってただけじゃないの。そんなの趣味なんて言わないわよ」
呆れ果てた様に咲夜は言う。
「うちもカッコいい武はん見てみたいどす」
「私も見てみたいですね」
「私も見たいですカッコいい武さん」
薫、朱鳥、華林の美人三人からそう言われれば武も豚も煽てりゃ何とやらではないがそうかなぁと思ってくる。
そうして女性四人による武のコーディネートが進んで行く。靴を買う時などは
「革靴は伸びるから最初はキツい位の方が良いわよ」
咲夜のアドバイスが出る。シューツリーとメンテ用品を買うのも忘れない。
そして紳士用下着コーナーへと向かう。
「おいおい勘弁してくれよ~」
武は女性を連れて下着コーナーへ行く事に困り果ててしまった。それに対し咲夜は。
「武いい事?良い男ってのはね下着にも拘るものよ」
「それ本当かぁ?」
「えぇ私は嘘は言わないわ。良い物を選ぶから任せて頂戴」
咲夜は真面目な顔で言ってくる。それを見てるとそんなもんなのかぁと思ってしまう。
そして女性陣が武の下着も選んでいく。武の服装一式は全て四人が選び武は支払いのみをする。武の買い物が終わった時には時間も18時を過ぎていた。
「晩飯もここで食っていくか」
武の提案に女性たちは賛成し12階にある寿司屋へと入っていった。食事が終わると地下鉄に乗り屋敷へと戻っていった。屋敷へ入るとリビングで各自買った物をそれぞれ受け取り自室へと持っていく。
「武、お風呂は先に入ってね~」
咲夜のそんな声が聞こえてくる。部屋で買った服を整理しながら。
「お~分かった~!」
そう返事をした。取り敢えず今日買ったパジャマと下着を持って洗面脱衣所へと向かった。風呂に入り今日一日の疲れを癒す。今日は珍しく長風呂をしていた。
その頃、リビングでは女性陣が話をしていた。
「咲夜はん、武はんが無趣味ってほんまどすか?」
「えぇそうよ。普通の男子がハマる様なマンガやアニメやゲームにも興味示していなかったしスポーツにも興味なかったし、あぁ偶に本は読んでたわね。熱中していた事って云えば剣術くらいじゃないかしら?後は強いて上げれば喧嘩?」
咲夜はそう答える。
「はぁ~そうなんですかぁ」
華林が呟く。
「だからこの際、ファッションに興味持たせようと思ってね。そうしたら少しは充実した生活にもなるんじゃないかしら」
咲夜がそう言う。
「それに見てみたくない?カッコよくなっていく武」
「見たいです!」
華林が食いついていく。
「そういえば武殿はお風呂の洗う物の一つだけですね」
朱鳥がそう言う。
「そうよ頭から顔や身体まで1本で洗える物よ。そういうのも少しづつ意識を変えていかないといけないわね」
咲夜はそう答える。
「自分好みに変えていくっちゅう事どすか?」
「勿論そうよ。武にはカッコよくあって欲しいのよ」
薫の問い掛けに咲夜はハッキリと答える。
武は風呂から上がるとバスタオルで身体を拭いていく。そして今日買ったばかりの下着を履いた。確かに身体にフィットして動きやすいし鏡で見た感じも悪くない。だが下着からはみ出ている毛が無様無粋に感じる。
(剃るか?)
武はそんな事を考えながらパジャマを着ていく。
「おーい、出たぞ」
リビングへ行き声を掛ける。
「分かったわ、じゃあ順番に入っていきましょう」
咲夜はそう言い武を眺める。
「うん。やっぱりスウェットよりパジャマ姿の方が良いわよ」
「そうか?」
「えぇ」
咲夜は笑顔で答える。女性陣はお風呂に入り武はリビングのソファに座りテレビを点ける。女性たちはお風呂から上がるとリビングに集まってくる。全員集まると恒例のお茶会へと入る。今日買った物の話等をしている。お風呂に入る時間が早いと女性たちは部屋着を着ているが、今日の様に遅い時間だとパジャマ姿でお茶会をするので武にとっては目のやり場に困る。
「ねぇ聞いてるの武?」
「ん?あぁ聞いてるよ」
なるべく女性たちの方を見ない様にしながら答える。
「本当かしらもう」
(お前のその姿が目の毒なんだよ)
レースのパジャマ姿の咲夜をチラ見しながら武はそう思う。他の女性たちも似たようなものだ。兎に角、パジャマ姿に目がいかない様にしている。お茶会が終わると女性陣は2階へと上がっていく。リビングに残ってるのは武だけとなった。
「はぁ~~~~~、慣れるのかねこれ」
武はリビングで一人ぼやいた。暫くリビングに居ると寝る準備をする為に洗面脱衣所に行き歯磨き等を終え自室に戻り就寝するのだった。




