20話
12月にも入り、武たちは相変わらず迷宮へと潜っていた。街はクリスマスムード満載だがやる事は変わらない。2日掛かりの迷宮は少なく1日で終わる迷宮が殆どになっていた。そんな12月のある日。
「武、明日の事覚えてるわよね?」
その日、夜のお茶会の時に咲夜が武に問い掛ける。
「あ?あぁ大丈夫だ覚えてるよ」
武はケーキをパクつきながら咲夜に答えた。
「何かあるんどすか?」
薫が聞いてくる。
「あぁちょいと用事がな。明日は夕方から俺と咲夜は出掛けるから夕食はいらない」
「分かりました」
華林が武の言葉に答える。その後は武はテレビを見ながら、女性陣は会話に花を咲かせながら夜も更けていった。
次の日は休息日で各自各々が自由な時間を過ごしていた。咲夜は15時前にはお風呂に入り、その後に武もシャワーを浴び丁寧に髭を剃る。16時過ぎ頃玄関のチャイムが鳴る。丁度玄関に花を生けていた朱鳥が玄関ドアを開ける。そこには。
「大和武様、四ノ宮咲夜お嬢様のお迎えに参りました」
そう言い丁寧に頭を下げる50代程の男性が居た。
「少々お待ちください」
朱鳥はそう言い武の部屋の扉をノックした。
「武殿」
「おう今出るわ」
そう言い出てきた武はネイビーのスリーピースに薄青のシャツ、ストライプ柄のネクタイをしていた。
「咲夜、来たぞー!」
武が2階に声を掛けると、はーいと咲夜が返事をし1階へと降りてくる。服装は普段着だ。
茶色の革靴を履くと武は朱鳥に。
「じゃあ後は頼むわ。戻りは22時過ぎにはなると思うから」
「分かりました。お気を付けていってらっしゃいませ」
そう言い朱鳥は頭を下げる。
玄関を出ると屋敷の門の前に黒塗りの高級車が横付けされていた。男性が車のドアを開けると武が先に乗り込み運転席後ろには咲夜が座る。そうして車は発進した。
「そうして見ると武って」
「何だよ馬子にも衣裳って言いたいんだろ?俺も服に着られてるって分かってるよ」
「ううん、凄く似合ってるわよ。ねぇ杉本もそう思うでしょ?」
咲夜が運転手の杉本に尋ねる。
「はい。大和様の身なりは大変御立派で御座いました」
「ほら言ったでしょう」
「なら良いんだけどよ」
そう言われるとスーツとシャツをオーダーして買った甲斐があるというものだと武は心の中で思った。
車は都内を走り一つのホテルの玄関へと入っていく。ドアボーイが車のドアを開け、先ず武が降りて咲夜に手を差し出す。差し出された手を取り咲夜は車から降りた。
二人は扉をくぐりホテル内へと入っていく。すると直ぐに一人の男性が近付いてき。
「お待ちしておりました。大和武様、咲夜お嬢様」
そう言い頭を下げた。
「じゃあ案内してちょうだい」
男性に先導され二人は個室へと案内された。咲夜は更に隣部屋へと連れられていった。
「大和様、何かお飲み物は?」
「じゃあコーヒーを」
武はそう答える。暫ししてコーヒーが持ってこられる。そのコーヒーに砂糖を3杯入れ武はコーヒーを飲む。
(さてどんな格好で出てくる事やら)
1時間程待たされて隣へと続く扉が開けられる。
そこには薄青色のオフショルダー、細かい刺繍が施されたAラインドレスを身に纏った咲夜が立っていた。髪も編み込みがされており綺麗に整えられ化粧もきちんとされていた。
「どう?武」
咲夜がその場でクルリと一回転するとスカートがフワリと広がる。
「・・・・・・綺麗だ」
武はただ一言呟いた。
「そう?ありがとう」
咲夜は頬を少し赤くし嬉しそうにお礼を言った。
「じゃあ行きましょう」
そう言い咲夜は腕を出してきた。
「??」
武が不思議そうに出された腕を見ていると。
「エスコートよ、エスコート」
「お、おう」
そう言うと武と咲夜は腕を組んで会場へと向かって行った。その会場へ向かう途中、場はざわついていた。それは咲夜の美しさに男性は見惚れていたからだった。会場の扉に近付くとドアボーイが扉を開けて中に二人は入っていった。
中に入ると多くの男女が居た。全て四ノ宮財閥関連会社の役職持ちの人たちだ。会場内は立食パーティー形式で1流のシェフたちがそれぞれ料理を作っている。その中を武は咲夜と腕を組みながら進んで行くが咲夜たちが歩く度に道が開けていく。この会場内でドレスを着ているという事は四ノ宮の御令嬢だと全員が分かっているからだ。只、腕を組んでいる武に対しては皆が不思議そうな顔をする。咲夜が親密そうに腕を組んでいる男は一体誰なんだろうと小声が聞こえてくる。
「咲夜の親父さんは何処だろな」
周りの声を耳に入れながら咲夜に尋ねる。
「う~ん、多分あの辺りね」
咲夜が人が行列を成している場所を指差しながらそう言った。
「うへ、あの列に並ぶのか・・・」
武はため息を吐きながらそう言った。
「別に並ぶ必要なんて無いわよ」
咲夜はそう言うと武を連れて歩いて行った。そこには男性と話をしている咲夜の父親、四ノ宮鋼蔵が居た。咲夜は近付いて行くと。
「お父様」
そう声を掛けた。すると鋼蔵はこちらを向き笑顔を浮かべる。
「おぉ咲夜ではないか、とても綺麗だな。・・・・・・それと大和の小倅か」
一転して顔が不機嫌になる。
「どうもお久し振りです」
武は挨拶をする。
「お前がこのパーティーに出てくるとは珍しいな」
武の方を振り向き鋼蔵が言ってきた事に周りはざわついた。四ノ宮財閥の総帥の方が若い男の方を向いたのに周りの男性陣は驚いていた。
「お礼をと思いまして」
「礼だと?何の事だ?」
鋼蔵は武に尋ねた。
「松濤の屋敷の件です」
「あぁその件か。その件ならば娘の為だ、お前が気にする必要は全く無い」
鋼蔵は何でもない様に言ってくる。
「でも筋は通さないといけないと思い来ました。本当にありがとうございました」
そう言い武は頭を下げた。鋼蔵はその姿をジッと眺めている。
「分かった、お前からの礼は受け取ろう。それから今日はパーティーだお前も楽しんでいけ。妻や息子や娘たちも居る会っていけ」
「はい」
武はそう言い咲夜と共にその場を去ろうとした時。
「大和武。わしからの期待、決して裏切るなよ」
そう声を掛けられ武は振り返ると。
「うすっ!」
そう言い、頷くのだった。周りの大人たちは四ノ宮の総帥が一人の若い男をちゃんと認識している事に驚いていた。
咲夜と腕を組み歩いて行くと。
「ふぅ~緊張した・・・」
武はそう言いネクタイを少し緩めた。
「あら緊張する事なんて無いのに」
「そうは言っても親父さんと直接話すのは何年ぶりだ?」
「そうねぇ2年ちょっとじゃないかしら?」
咲夜はう~んと考えながらそう言ってきた。その時、一人の男性が武たちに近付いてきた。
「武!お前来てたのか!?」
武の父親、陽市郎だった。
「あぁ親父、ちょいと用事があったからな」
「あら、お久し振りですわ陽市郎小父様」
咲夜はにこやかに笑いながら挨拶をする。
「は、こ、これは四ノ宮のお嬢様お久し振りでございます」
陽市郎はそう言い頭を下げる。
「あら、昔みたいに咲夜ちゃんと呼んでくださいまし」
咲夜が無理難題を言う。
「は、い、いえそれは・・・・・・」
陽市郎は額に汗をかき困り果てていた。この場でそんな事が言えるはずが無い。言えば周りから何を言われるか分かったものでは無い。
「それより武、お前どうやってこの場にきたんだ?」
「ん?咲夜に頼んで入れてもらった」
武は親指で咲夜を指差しながらそう言った。
「そういった大事な事は前もってこちらにも言っておけ」
「へ~い」
「後、変な行動はするんじゃないぞ?」
「分ぁ~ったよ」
陽市郎の小言に武は馬耳東風だ。
「それでは四ノ宮のお嬢様失礼致します」
「はい、それではまたお会いしましょう陽市郎小父様」
陽市郎はその場を離れるが知り合いなのか何なのか大勢の人に囲まれる羽目になっていた。
「取り敢えず咲夜の兄姉に会いに行くか」
武は咲夜と腕を組みながら会場を歩いていった。
「あら?お兄様があそこに居るわ」
咲夜がそう言うと人だかりの中に一組の男女が笑みを浮かべながら喋っていた。その中を咲夜が歩くと人だかりが分かれている。
「お兄様」
咲夜がそう声を掛けると男性が振り向いた。
「やぁ咲夜じゃないか、それと武君久し振りだね」
男性はにこやかに話しかけてきた。
「どうも、お久し振りっす、鋼一郎さん」
武も軽く頭を下げる。相手は四ノ宮家の長男四ノ宮鋼一郎だった。
「咲夜が久し振りにパーティーに出るっていうからどういう事かと思ったら、そういう事だったんだね」
「もう!お兄様ったら」
「ははは、ごめんごめん。家族全員がパーティーに出席するのは久し振りだからね」
「え?咲夜お前そんなに出て無かったのか?」
武は驚きで咲夜を見た。
「何よ?良いじゃないの別に」
咲夜は膨れっ面でそっぽを向いた。
「ははははははは、あぁそれと武君には紹介しておくよ。僕の婚約者の伊集院穂乃香さんだ」
「伊集院穂乃香と申します、どうぞよろしくお願い致します」
そう言い女性は頭を下げてきた。
「彼は大和武君、咲夜の幼馴染なんだよ」
「大和武と言います、よろしくおねがいします」
武も伊集院に対し挨拶をする。
「父上にはもう挨拶はしたのかな?」
「はい先程」
「そっかなら妹たちにも会いに行ってやってくれ。母上は下の階に居るはずだから」
それから二言三言話すと武たちはその場を後にした。鋼一郎と話している最中、周りの男性陣は咲夜の美しさに見惚れていた。
武たちは広い会場を歩きながらシェフの作る料理をつまみ食いしていっていた。ステーキ、蕎麦、寿司、デザート、飲み物等一流の食事が並んでいる。
「咲夜は食べなくていいのか?旨いぞ?」
「私は食べなくてもいいわよ。それにドレス汚れるのも嫌だし。武は気にせず食べてていいわよ」
「そうか・・・」
そう言われて武は自分一人で料理を食べていった。
「あっ、あそこにお姉様たちが居るわ」
咲夜はそう言い武を引っ張っていった。そこには会場の隅っこでテーブルにワインとツマミを置き歓談している二人の女性と男性が一人いた。
「お姉様」
咲夜が武と腕を組みながら声を掛ける。
「あら、咲夜じゃないのやっと来たの?それに武君も久し振りね」
そう声を掛けてくるのは赤いドレスを身に纏った髪型はストレートロングの長女の四ノ宮明日菜だった。
「武くん、おひさし~、咲夜も飲んでる?」
フランクに声を掛けてくるのは緑のドレスを身に纏った髪型はウェーブセミロングの次女の四ノ宮神楽耶だった。三人のドレスは色が違えど形としては同じドレスだった。
「明日菜さんに神楽耶さん、お久し振りです」
武はそう言い軽く頭を下げる。
「もう神楽耶お姉様、少し飲み過ぎなんじゃありませんか?」
「硬い事言わないの、折角のパーティーなんだから楽しまないとね」
そう言い神楽耶はワインを飲みグラスを差し出してくる。
「私たちはまだ二十歳になっていません。なのでアルコールは禁止です、って武何飲もうとしてるのよ!」
「いや、飯食って喉乾いたし・・・」
武は神楽耶からワインを受け取ろうとしていた。
「ちょっと待ちなさい。そこのボーイ!」
咲夜は近くを通っていたボーイに何か伝えていた。ボーイは畏まりましたと言うと直ぐに消えていった。
「ねぇ武くんも喉乾いてるんだし良いよね~?19歳も二十歳も変わらないんだし」
「駄目です」
咲夜は武が受け取ったワインボトルをテーブルに置く。
「ふふふ、咲夜も相変わらずね」
明日菜が楽しそうに笑う。
「そうそう、武君にも紹介しておくわね。彼は後藤春馬さん、私の婚約者よ」
「後藤春馬です。よろしく」
そう言い後藤は武に握手を求めてきた。
「大和武といいます。よろしくお願いします」
そう言い握手を交わした。
「お姉様たちは何故この様な隅っこにいらっしゃるんですか?」
咲夜が訊ねてくる。
「私は挨拶する相手は殆どしたから休憩よ」
明日菜はそう言い。
「私は有象無象が群がってくるから明日菜姉さんに付いてるだけよ」
神楽耶はそう答える。
「パーティーって言っても大変なんすね」
武が少し同情する。
「ははは、パーティーといっても彼女たちは主催者側だからどうしてもね」
後藤がそう言ってくる。
「それより君は・・・」
後藤は初めて見る武に興味を示す。
「彼は咲夜の幼馴染なのよ」
明日菜はそう後藤に伝え。
「そうそう、武くんは咲夜のか」
神楽耶は彼氏と言おうとしたが咲夜の目が暗く澱んでいた。
「か・・・・・・、固い友情で結ばれた仲の良い友人よ」
酔いが少し冷めそう言うのがやっとだった。咲夜はニッコリと笑っていた。
「お飲み物をお持ち致しました」
先程のボーイが飲み物を持ってきた。ミネラルウォーターとアイスコーヒーだった。
「ありがとう」
咲夜はボーイにそう言うとアイスコーヒーを武に渡した。
「ちゃんと甘くしてもらってるから大丈夫よ」
「おう、サンキューな」
そう言うと武はアイスコーヒーを飲んだ。
「うん甘い!」
武は嬉しそうに飲む。
「武君は相変わらず甘い物が好きねぇ~。昔から家に来てた時は甘い物ばかり食べていたしね」
明日菜がコロコロと笑いながらそう言ってくる。
「さっきもケーキを全種類食べてて、見てるこっちが胸焼けしそうだったわ」
咲夜が諦めながらため息を吐いた。
「それより武くんフラグ管理はキチンとしてるの?」
「は?何すかそれ?」
神楽耶の言葉に武は問い返す。
「何ってイベントに決まってるでしょイベント!フラグ管理ちゃんとしてキスだったりバッタリ着替えを覗くとか、お風呂場でバッタリ会うとか押し倒すとか色々イベントがあるじゃない。そういうのは起こったのかって知りたいのよ」
「何なんすかそれ。そんなの起こってないですよ」
「もう!何やってるのよ折角一緒に住んでるんだからイベントの一つでも起こしなさいよ。だらしないわね」
神楽耶は何故か怒っていた。
「他にも女性が一緒なんでしょ?フラグ管理が甘いわよ!徹底しなさい!幼馴染という最大の強みを引き出しなさいよ」
しまいには説教をしてくる。
「神楽耶お姉様、少し飲み過ぎなんじゃないかしら?お姉様がしているゲームと現実は違いますよ」
咲夜が神楽耶を窘める。
「何よ咲夜、他人事みたいにしてるけど起こって欲しくないの?イベント」
「え?そ、それは・・・」
咲夜は言葉に詰まる。そういうイベントを起こす為に共同生活しているといっても過言ではないからだ。
「ほ~~らみなさい。起こって欲しいんでしょ?イベント」
神楽耶は我が意を得たりとばかりに言ってくる。
(咲夜お嬢様と一緒に生活しているだと?しかも他の女性とも。それを四ノ宮の総帥が許しているのか!どういう人物なのだ大和武とは!?)
後藤は女性陣と武の話を聞きながら内心驚きを隠せなかった。
「しょうがないなぁ、ここは神楽耶お姉さんが一肌脱いでやるか」
神楽耶はワイングラスをテーブルに置き、明日菜と咲夜を呼びつける。
「武くん、スマホ持ってるでしょ?」
「え?えぇ持ってますけど」
武は内ポケットからスマホを取り出す。
「じゃあ撮りなさい」
「へ?」
「私たちをスマホで撮りなさいって言ってるのよ」
神楽耶は武に言ってくる。
「え?何で?」
「何でって、四ノ宮美人三姉妹を写真で撮れるのよ?有難いと思いなさい」
明日菜、神楽耶、咲夜はそれぞれタイプは違うが美人なのは万人が認める所である。しかも美女三人がドレスを着ているのである。
「ほら!早く構えて」
神楽耶はせっついてくる。
「あ~もう、分かりましたよ。じゃ撮りますよ」
武は神楽耶が一度言い出したら止まらないのを知っているので不承不承スマホのカメラを起動し写真を撮り始める。神楽耶からの指示で角度や表情を変えたものを何枚も撮る。突如始まった撮影会に聞き耳を立てていた周りに居た男性陣は皆思った。自分も撮りたい!と。それは勿論、後藤も一緒だった。しかしこの会場で無断で四ノ宮家の御令嬢を撮るなんて行為は出来よう筈もなかった。
「よし、そろそろいいわよ」
神楽耶はそう言い武からスマホを取り上げる。
「中々上手く撮れてるじゃないの」
武が撮った写真を見ていく。
「あっこれが一番良いじゃない」
その写真は三人が笑顔で寄り添っている写真だった。武から見てもその写真は凄く良い出来栄えだった。
「これを待ち受けにしてっと」
「ちょ、何勝手に・・・」
神楽耶はその写真を武のスマホの待ち受け画面に設定した。
「これで良いわよ」
神楽耶が満足そうに言った。
「何がこれでいいんすか?」
武が神楽耶に尋ねる。
「これでフラグが立ったから何かしらのイベントが起こるはずよ。咲夜も武くんが待ち受け画面変更してないか逐次確認しておきなさいよ」
神楽耶は胸を張ってそう言った。
「え?えぇ」
咲夜も曖昧に頷いた。神楽耶は満足そうに頷きワインを飲み始める。
「じゃあそろそろ中に戻りましょうか」
明日菜が休憩も終わりとばかりにそう言った。
「あぁ~あ、また有象無象の相手かぁ~」
神楽耶は嫌そうに言った。
「じゃあ俺たちは下の階に行きますんで」
武はそう伝える。
「えぇ分かったわ。武君も偶には家に遊びに来てね」
明日菜はそう言い。
「フラグ管理は大切なんだからね」
神楽耶はワイングラスを持ちながらそう言ってきた。
「じゃあ武君また」
後藤も挨拶をしてくる。
そうして武と咲夜は三人と別れた。
「ふふ、しかし神楽耶さんは相変わらずだったなぁ」
武は笑いながらそう言う。
「変わらなさ過ぎてこっちが大変よ」
「でも頭は抜群に良いんだから人って分からないよなぁ」
神楽耶は今年で25歳になるが大学院まで行き、今は助教授となっている。
「何れ財閥の研究所に入って所長か何かになると思うわよ」
咲夜がそう答える。
二人は会場を後にして廊下を歩きエレベーターまで向かう。その間、周りの男性陣は咲夜を振り向きその美しさに唖然とする。
エレベーターに乗り1階下の会場へと向かう。下の会場は上の会場の子供や婦人が居て子供がメインの会場だ。ドアボーイが扉を開け二人は中へと入っていく。中は貰った玩具で遊ぶ子供や泣いている子供、ワイワイ楽しんでいる子供たちが沢山居る。中には中学生や高校生の子供もおり、そういった子供たちは席に座り食事をしている。そんな中に武と咲夜の二人は入っていく。一瞬全員の目がこちらを向く。子供たちは直ぐに興味を無くしまた遊びはじめ、中学生以上の男子は咲夜の美しさに見惚れ女子は咲夜を見てため息を吐く。武は咲夜と腕を組みながら一番上座のテーブルへと向かう。
「お久し振りです、百合恵小母さん」
武は一人の和服を着ている婦人に対して頭を下げる。
「あら、まあまあ武君じゃないの元気にしてた?」
咲夜たちの母親、四ノ宮百合恵は立ち上がり武の肩をパンパンと叩く。
「こんなに大きく立派になっちゃってカッコいいわよ」
百合恵はニコニコと笑いながら武を褒めてくる。
「百合恵小母さんも元気そうで安心しました」
「あら私は元気よ。それよりも咲夜が迷惑掛けてない?」
逆に百合恵は聞き返してくる。
「いや、咲夜には助けられてばかりです」
武は率直な感想を言う。
「本当に?この子ったら貴方の事になると目の色を変えるから心配してるのよ?」
「お、お母様!」
「あらなぁに?本当の事じゃない。貴女、高校に入る時だって鋼蔵さんと・・・」
「お母様!その話は今しなくてもいいんじゃないかしら!」
咲夜は顔を赤くし慌てて母親の言葉を遮る。
「あら何、咲夜。貴女まだ隠してるの?」
「隠す?」
武は疑問に思った。
「お母様、その話は今は止めて頂戴」
咲夜はとうとう母親に懇願した。
「まぁいいけど、貴女と武君が出会ってもう15年にもなるのよね。懐かしいわねぇ二人で並んで座って食事してたりする姿を思い出すわ~」
百合恵は懐かしそうに昔を思い返す。
「でも武君がパーティーに来るのは久し振りよねぇ」
「えぇ屋敷の件でも咲夜の親父さんにお礼を言っておこうと思って」
武がそう答えると。
「あら、そんな事気にしなくていいのに。あの人が勝手にした事なんだから」
「でも筋は通さないといけないと思い来ました」
武はそう答える。
「相変わらずねぇ武君も。義理堅い所も変わってないわね」
「いえそんな」
武は謙遜する。
「咲夜、貴女もそうやって着飾ってると綺麗なんだからもっとアタックしないと駄目よ?他にも女性が居るんでしょ?」
「お母様、もう許して頂戴」
咲夜にとうとう泣きが入った。
「何?あれだけ鋼蔵さんに啖呵切ったんだからちゃんとしなさいよ」
百合恵は咲夜をしかりつける。
「はい、分かりました」
咲夜は母親の言葉に只頷く。
「それより武君、息子や娘たちには会ってきたの?」
「はい、上の会場でお会いしてきました」
「そうなら良かったわ」
ニコニコとしながら百合恵は言う。
「今度また家に遊びに来てね」
「はい、また伺わせていただきます」
武がそう言うと。
「絶対だからね?」
百合恵が念を押す。
「はい、必ず」
これで武は近い内に咲夜の実家に行く事が決定してしまった。
「じゃあ良いわ。武君のお母様も子供たちも居るから会ってきなさい」
「分かりました」
「それじゃあ、またね。咲夜、貴女もしっかりしなさいよ良いわね?」
「はい、お母様」
そうして武と咲夜は百合恵の席から離れていった。周りの婦人方は驚きを隠せないでいた。この会場内で一番偉い百合恵が態々席を立ち親し気に若い男性に、しかも自分の娘を叱りつけながら話をしているのを今迄に見た事が無かったからだ。自分たちが挨拶に行っても席に着いたまま喋ってるだけだったのだ。一時会場内がざわついた。
「なぁ咲夜?」
「ごめんなさい武、今は何も聞かないで頂戴」
泣きが入った声で咲夜が言ってくる。
「お、おぉ」
流石の武も咲夜の姿に問い質す事は止めた。
「武!あんた来てたの!?」
武の母親、蓉子が驚きながら武に声を掛けてきた。
「お袋」
「こんばんは、蓉子小母様」
咲夜も一瞬で立ち振る舞いを変え蓉子に挨拶をした。
「こんばんは、咲夜ちゃん元気にしてた?」
「はい」
「それより武。あんたお父さんに来るってちゃんと伝えてたの?」
「いや言ってなかったから上の会場で驚かれた」
「驚くに決まってるじゃないの。こういう場はちゃんと伝えなさい」
「へ~い」
武は母親からの小言に軽く返事をした。
「兄ちゃんだー」
「お兄ちゃんだー」
雄市郎と紗月の二人が武の姿に喜んでいる。
「玩具貰った~」
「お菓子貰った~」
二人は嬉しそうに見せてくる。
「おう、ちびっ子共元気そうだな」
武は二人の髪をわしゃわしゃと撫でる。
「「髪が~」」
二人はいやいやをする。
「こんばんは、雄市郎くん、紗月ちゃん」
咲夜が腰を屈めて二人に挨拶をする。
「こんばんは~咲夜お姉ちゃん。きれー」
「こんばんは~咲夜お姉ちゃん。お姫様みたい~」
二人は咲夜の姿にはしゃいでいた。
「二人共ありがとう」
咲夜はにこやかに微笑みながらお礼を言った。
「咲夜ちゃん、ごめんなさいね。この子迷惑掛けていない?」
「そんな事はありませんよ。皆のリーダーとしてきちんとしています」
「そうなの?そうなら良いんだけどねぇ~。この子喧嘩っ早い所があるからねぇ」
蓉子はため息を吐く。
「いつの話してるんだよ」
武が文句を言ってくる。
「いつって去年までのあんたの事よ。お父さんが何も言わないから私も言わなかったけど、あんた喧嘩のし過ぎよ」
「蓉子小母様、武は私の為に喧嘩していたので、そこまでおっしゃらなくても」
咲夜は自分のせいで喧嘩をしていた事を知っているので武を援護した。
「本当にそうなの?咲夜ちゃんの為なら私も何も言わないけど」
蓉子は疑心暗鬼だった。
「もう余程の事が無いと喧嘩はしないよ多分」
武はそう答えた。
「兄ちゃん喧嘩はダメだよ~」
「ダメだよ~」
雄市郎と紗月の駄目だしに。
「へいへい」
武は軽く答えるのだった。
「咲夜、上に戻ろうぜ。ここに居ると辟易しちまうよ」
咲夜に武は言った。
「そうね、上に戻りましょうか」
咲夜も母親に何を言われるか分かったものではないので武に同意した。
「それでは蓉子小母様また」
「またね咲夜ちゃん。偶には遊びに来てね」
咲夜の挨拶に蓉子もそう返す。
「雄市郎くんと紗月ちゃんもまたね」
「「バイバ~イ、咲夜お姉ちゃん」」
雄市郎と紗月もそう返す。
そうして武と咲夜は会場を後にした。残った婦人方は蓉子が百合恵と仲良さ気に話していたのを思い出していた。その息子が咲夜と一緒に居る事に考えを馳せていた。上の会場に戻ると武は咲夜を連れて食事をしていた。周りの視線は咲夜に注がれている。暫くすると四ノ宮鋼蔵の話が始まる。そして最後は三三七拍子で締められた。大人たちは会場を後にしクロークやエレベーターホールや階段へと進んで行った。そんな中、武はスマホを操作していた。
「じゃあ武、別室へ行きましょう」
「お?おう」
武はスマホをなおし返事をした。そして咲夜と一緒に別室へと移動していった。別室に入ると中には誰も居なかった。咲夜はすぐさま隣室へと移動すると思っていたが。
「ねぇ武?」
「ん、何だ?」
「今日ってクリスマスパーティーでしょ?」
「あぁそうだな」
「だからクリスマスプレゼントが欲しいの」
咲夜は甘えた声で武にそう言ってきた。
「何か欲しい物でもあるのか?」
武は咲夜の後ろ姿に問い掛ける。
「えぇ直ぐにでも貰えるものよ」
咲夜はそう答えると振り向き目を瞑ると唇を出してきた。
「お父様も期待を裏切るなって言ってたでしょ?」
咲夜はそう言いジッと待っている。
(こ・れ・は)
所謂、キスを待ってる状態だ。武は困り果ててしまった。
(これってする方が期待を裏切る事になるんじゃね?)
そう思っても咲夜は身じろぎもせずに目を瞑ってジッと待っている。目の前には綺麗なドレスに着飾った何時もとは違う咲夜が居る。その事が武を困惑させている。武は意を決して露出している咲夜の肩に優しく手を添えるとジッと待っている咲夜に優しくキスをした。
咲夜の唇は瑞々しく柔らかだった。5秒程キスをして唇を離した。すると咲夜の目から涙が溢れていた。
「え?すまん!もしかして違ったのか!?」
武は大いに慌てふためいた。自分は間違った事をしてしまったと感じてしまった。
「違う、違うの武。これは嬉し涙なの・・・」
咲夜は心の中では待っていても、どうせ武の事だから額か頬にしかキスしてこないと考えていたが武の方から自分の唇にキスしてくれた事に嬉しくて涙が溢れ出た。
「あぁ武、最高のクリスマスプレゼントだわ」
咲夜は涙を流しながら武の頬に両手を添えると今度は自分から武にキスをした。さっきよりもより強く。これには武の方が驚いた。泣かせたと思ったら嬉し涙だと言いながらキスをしてきた咲夜に。
「ふふふ、着替えるから待っていてね武」
「あ、あぁ分かった」
「絶対だからね?」
「あぁ待ってるよ」
武がそう言うと咲夜は嬉しそうに隣室へと入っていった。暫くするとボーイが室内に入ってきて。
「大和様、お飲み物はいかが致しましょうか?」
「あ、あぁコーヒーを」
「承知致しました」
そう言ってボーイは室内から出ていった。暫くしてコーヒーを持って現れる。武は頭の中がパニック状態になっており砂糖を入れるのも忘れてコーヒーを飲む。味なんて分かったものではない。只、置いたコーヒーカップの縁に咲夜のつけていた口紅が付いた事がさっきの事が真実だった事を伝えてくる。武は自分の唇に指を当て。
(俺、咲夜とキスしたんだ・・・)
その事で頭が一杯になった。
隣室に移動した咲夜は侍女に付き添われドレスを脱いでいた。
「咲夜お嬢様、何か良い事でもありましたか?」
屋敷から来ていた顔見知りの侍女が聞いてくる。
「えぇ今日は人生で最高の一日だったわ」
咲夜は心底嬉しそうな笑顔でそう言う。
「それは良うございましたね」
「このドレス取っておいてね」
咲夜は侍女に伝える。
「承知致しました。屋敷にて綺麗に保管しておきます」
侍女は咲夜に頭を下げるのだった。
松濤の屋敷では薫、朱鳥、華林の三人がリビングでテレビを見ていた。テレビでは四ノ宮財閥主催のクリスマスパーティーの事が放送されていた。パーティーは終了したらしく次々と人々が出てくる中、リポーターが『四ノ宮総帥、今回の事について何か一言!』と突撃するが屈強なボディーガードに阻まれて近付く事すら出来ずにいた。そんな中、四ノ宮鋼蔵は車に妻の百合恵と乗りホテルを出ていくのだった。リポーターは目標を変え手あたり次第に出てくる男性や女性はたまた子供にまでマイクを向けていく。
「はぁ今の人が咲夜はんのお父さんどすか?」
「そうみたいですね」
「厳めしい人みたいですね」
三人はお茶を飲みながらそんな感想を言う。そんな中、華林のスマホがピコンと音を鳴らした。スマホを確認した華林は席を立ちキッチンへと向かう。
「どないしたんどすか?」
薫が聞いてくる。
「咲夜さんが何も食べてないみたいで何か作ってやってくれって武さんからのチャットです」
そう言うと夜食の準備を華林は始めた。暫くテレビを見ていた薫は。
「あっ武はんに咲夜はん」
偶然テレビに映った二人を発見した。リポーターもとびきりの美人を発見しマイクを向けようとするが、これまた屈強なボディーガードに阻まれインタビューする事は出来なかった。
「二人が映ったんですか?」
キッチンから華林が聞いてくる。
「今、二人が車に乗りました」
朱鳥が答える。
「なら暫くは時間がありますね」
そう言いながら華林は料理の準備をしていく。1時間程して屋敷の前に車が止まる音がする、玄関を開け。
「「ただいま~」」
二人の声がする。3人は玄関に向かい。
「おかえりやす」
「お帰りなさいなさいませ」
「お帰りなさい、咲夜さんお夜食出来ていますよ」
そう声を掛ける。
「え?」
咲夜は華林の言葉に不思議がる。
「武さんから連絡があったんです。咲夜さんが何も食べていないからって」
華林は咲夜にそう伝える。
「武・・・、ありがとう」
「別に何でもねぇ~よ」
咲夜は武に感謝し、武はそっぽを向く。三人は二人の雰囲気におやっ?っと思うが言葉には出さなかった。
「じゃあ着替えて手洗いをしたら直ぐにいただくわね」
咲夜は足取り軽く2階へと上がっていき、武も自室へと入っていった。武はスウェットに着替えると洗面脱衣所で手洗いうがいをしてダイニングへと向かう。キッチンでは華林が咲夜用に煮込みうどんを作って待っていた。
「武さんはどうしますか?」
華林が聞いてくる。
「俺はアイスコーヒーでいいや」
「分かりました」
華林は武のアイスコーヒーの準備も始めた。
「ごめんなさい、待たせてしまって」
部屋着に着替えた咲夜が現れる。
「いえ、今出来上がったので大丈夫ですよ」
そう言い華林はテーブルの上に煮込みうどんを置いた。
「態々ありがとうね、華林さん」
咲夜はそう言い、煮込みうどんを食べ始めた。武は食べている咲夜の事をジッと見詰めていた。
「武、どうかした?」
「いや、何も」
「そ?」
咲夜はそう言うと煮込みうどんを食べている。武は咲夜の唇をジッと見詰めている。
「武・・・、そんなに見詰められると食べ難いわ」
「あ?あぁそしたらリビング行っとくわ」
武はリビングに移動してテレビを点けた。チャンネルをデスカバリーチャンネルへと変える。そして何とはなしに番組を見ている。
「ごちそうさまでした」
そして食器をキッチンへと下げ洗い物をしていく。それが終わると咲夜もリビングへとやって来る。
「美味しかったわ、華林さん」
「良かったです」
咲夜と華林が会話をしている。
「パーティーどうどしたか?」
「えぇとっても良かったわよ。ねぇ武?」
「・・・・・・・・・」
「武はん?」
「・・・お?何だ?」
ボーッとしていた武は声を掛けられドキッとした。
「パーティーの件よ、良かったわよね?」
「あぁパーティーな。良かったぞ」
武はそう答えるので精一杯だった。女性陣は会話に花を咲かせ武はテレビを見るとはなしに見ていた。暫くして女性陣は2階へと上がっていき、武も寝支度をはじめる。ベッドに横になると武はスマホを取り出し待ち受け画面を見る。そこにはドレスを着て笑顔を浮かべている咲夜が写っている。
(キス、したんだよなぁ~)
武は指を唇に当て何かむず痒い感覚をあじわいながら眠りに就くのだった。




