2話
「親父、お金を貸して下さい」
武は家に帰り夕食を取った後、父親に向けて頭を下げそう言った。
「幾らだ?」
父親の大和陽市郎はそう問いかけた。
「・・・・・・500万」
武は絞り出すような声で答えた。
「分かった!貸してやろう」
陽市郎が即決すると武はバッと顔を上げ。
「え?マジで?」
「お前が昔から探検者になるって言ってたからな、それ用に金は貯めてあったんだ」
「そうだったんだ・・・」
武は直ぐに話が纏まるとは思っていなかったので安堵した。
「ただし借用書は書いてもらうぞ」
「分かった」
取り敢えずのお金の心配がなくなったので武は次の事を考えなくてはならなかった。
「それより家から出るのか?」
父親にそう問いかけれ武は
「あぁ、まだ場所は決めてないけど家を出て部屋を借りるつもりだ」
「普通の賃貸か?」
「そのつもりだけど?」
武は父親の問い掛けに素直に答えた。
「止めておけ。借りるならマンスリーマンション等にしておけ、探検者は一か所に定住する職業ではないのだろう?他県に住む事もあると聞く、その時に家具電化製品等があれば邪魔になる。マンスリーならばそこら辺は全て揃っているから問題ない」
「成程、確かに」
父親にそう言われ武は素直に頷いた。
「今時は少し割高にはなるが良い物件も多い」
「分かった、そうする」
「それと偶には家にも顔を出せ、母さんも喜ぶ」
武は父親に言われた事には全て頷いた。
次の日からは住む場所を色々と探していた。新宿組合をベースとして迷宮探索をする為に電車1本で行ける場所を中心に探し西日暮里の1DKマンスリーマンションに武は決めた。それからは必要な衣服類等を引っ越し先に持って行くのに1週間程掛かった。
次に取り掛かったのは武具の準備である。武具店は前もって通っていた剣術道場の師範から聞いていたのでそこに行く事にした。
「へい、らっしゃい」
武が店に入るとそう声を掛けられた。店内には剣・槍・斧・槌・弓等の武器等・プロテクター・皮鎧・鉄鎧・甲冑等の防具等が所狭しと飾られていた。
「前田剣術道場の師範からの紹介で来ました」
武は店主と思しき人にそう言った。
「あぁ前田さんの所からの紹介か。で今年の卒業生か?」
「はい、その通りです」
そう言い探検者証明のアプリを見せた。
「ふ~ん、で?得物はもう決めているのか?」
「取り敢えず剣を考えています」
「両手か?それとも片手か?」
そう問い掛けられた武は悩んでいた。
「それなんですよね、両手剣で威力を求めるか片手剣で盾を持ったり二刀流にするかで未だ決めかねてます」
「そうか・・・決めかねてるのか、それならこいつはどうだ?」
そう言って店主は並べられている剣の中から1本持ってきた。長さは1.4m程の柄の部分が長めな細身の剣だった。
「バスタードソードだ。こいつなら両手でも片手でも取り扱える得物だ」
手渡された剣を武は軽く素振りをしてみた。
「あれ?なんかこの剣・・・」
「あぁ重心だろ?そいつは片手半剣だから重心は通常の剣に比べて微妙に違う、それは追々慣れてくしかないな。それにソイツは中古品だから値もそれ程張らないしな、潜り始めるには丁度良いと思うぞ」
でどうする?と店主の目が言っていた。
「そうですねこの剣とサブでショートソードか大型ナイフでお願いします」
「あぁならショートソードにしな。こっちも中古品だが質の良いのが1本ある」
そう言い店主は1本のショートソードを持ってきた。
「ありがとうございます、取り敢えず武器はこれでいいか」
武はショートソードも軽く振り重心を確かめた。
「それで防具なんですがアラミド素材の服にプロテクターでお願いします」
「プロテクターは何処の部位までだ?」
「脛あて・腰あて・肩あて・小手の四種類で」
「鉄か?皮か?」
「鉄でお願いします」
「まっそうだな。兄ちゃん位のガタイなら鉄の方が良いだろうな、ちょっと待ってな奥から持ってくるからよ」
武は身長180㎝を超えがっしりとした体躯をしている。
店長は奥から言われた防具類を取り出してきた。
「ちょいと調整するからアラミド服に着替えてくれ、着替え室なら左手にある」
そういって手渡された服を武は着替え室に行くのが面倒くさいとばかりにその場で着替えた。
「ほう、流石前田先生の所の門下生だな、良い筋肉の付き方をしてやがる」
店主はそう呟き武の身体付きを褒めた。そして身体に合せてバンド等の調整を始めた。
「よし!どうだ?おかしな箇所は無ぇか?」
全身のプロテクターの調整を終えた店主が武にそう問いかけた。
「想像していたよりも重くはないですね」
腰を回したり肩の上げ下げ、スクワット等をしながら武は答えた。
「調子は問題無いようだな。必要な物はこれで終わりか?」
「えぇ必要な物は揃いました。全部で幾らですか?」
「そうさな4つ合わせて90万だ」
「今から支払いますので振込先をお願いします」
武はアプリを使用し伝えられた銀行へと振込をした。
「荷物はどうするんだ?送るか?」
「いえ、このまま持って帰ります」
「そうか、不備等が出てきたら持ってきな。メンテナンスもしてるからな」
「分かりました、ありがとうございます」
武はそう言い買い揃えたばかりの武具を両手にマンションへと帰って行った。
その後1週間程掛けて武は必要となる物資等を揃えていった。
そして武は全ての準備が終わったと感じ自室のベッドに寝転びながら咲夜へと電話を掛けた。
「もしもし咲夜か」
「あら武。やっと電話をしてくれたのね。貴方からの電話を一日千秋の想いで待っていたわよ」
「はっ何だよそれ、それよか今時間は大丈夫か?」
「えぇお風呂にも入って後は寝るまでの時間潰しだから大丈夫よ」
「そっか・・・俺の方は準備が完了した。後は組合に行って迷宮探索の依頼を受けるだけだ、咲夜の方は準備終わってるんだろ?」
「えぇ私の方の準備は私がというより、お父様が全部終わらせてしまったわ。だから私は何もする事がなかったから暇を潰すだけの毎日だったわ」
「咲夜の親父さんも相変わらずだなぁ~、そんな感じじゃ武具等も相当な物を準備したんじゃないのか?」
「えぇ詳しくは教えてくれなかったから分からないけど、お母様があきれ返っていたわよ」
咲夜はクスクスと笑いながらそう言ってきた。
「なら三日後の9時に組合のこの前のカフェで待ち合わせで構わないか?」
「えぇ私はそれで構わないわよ」
「じゃあ三日後にな」
「えぇ三日後ね武」
「じゃあ、おやすみ」
「えぇ、おやすみなさい。チュッ」
そう言って電話は切れた。武は最後のキスの様な音に、う~むと暫く悩んだがまぁいつもの事かと頭を切り替えて眠りに就いた。
三日後、武は予定の9時より10分前に組合に着き20階のカフェへと向かった。
カフェに入ると店内の一角で10数人の男がたむろしている席が目についた。その中に咲夜が座っているのを確認した。やれ彼女にならないか、やれチームに入らないか等々と咲夜に問い掛けてるが咲夜は馬耳東風の為、一方通行の会話が聞こえてくる。
「ま~たか・・・」
そう言うと武はたむろしている男たちの中へと入って行った。
「よっ待たせたな」
周りの男たちは胡散臭そうな目で武の事を見てきたが、武は逆にてめぇらこそ何の用だとばかりに睨みを利かせた。
「女を待たせるなんて良い男のする事じゃないわよ?」
咲夜は笑顔を見せながらそう批判の言葉を口にした。
「うっせぇ、時間前にはちゃんと来ただろ?それよか席を移ろうぜ、ここには邪魔な奴が多過ぎる」
「そうね、そうしましょうか」
咲夜はそう言うと周りの男たちには何の感情も見せずに武の後に付いて行った。後には相手にされなかった男たちの文句の声だけが聞こえてきた。
「それにみても魔法使い!って感じの服装だな」
武は咲夜の全身を眺めながらそう言った。水晶球の付いた樫の杖に桔梗色のローブを身に纏った姿をしていた。ただ胸の大きさが判り辛い事だけが残念だなぁと武は心の中でぼやいた。
「そうでしょう、似合うかしら?」
咲夜はそう言いその場でクルリと一回転した。そうするとローブの裾がふわりとはためいた。
「おぉ似合う似合う。てかお前の場合は基本的に何着ても似合うからなぁ」
「ありがとう。武も戦士風で似合っているわよ」
笑みを浮かべながら咲夜はお礼を言い、武を褒めた。
席を移った二人はコーヒーを飲みながら今後の活動について話し出した。
「まず暫くは慣らしとして10級迷宮を探索する事にする」
日本帝国において迷宮は1級から10級まで区分され、それとは別枠で特急の全11階級に分けられている。この区分はそれぞれ国によって違いがある。
「えぇ私は武のやりたいようにして構わないわよ」
「なら決まりだな」
「それより武、チーム名はどうするの?チーム口座も作らないといけないし」
「あっそうか、それがあったな」
武は咲夜の問い掛けに悩みだした。
「チーム名、チーム名ねぇ~。う~ん、う~~ん」
武は腕を組み頭をグルグルと回しながらウンウンと唸っている。
「もう、チーム名なんて適当でいいじゃない。後から変更する事だって出来るんだから変に凝った名前にしなくてもいいわよ」
「じゃあ、チーム大和」
「それでいいわよ。チーム大和の武と大和の咲夜」
「うん???」
武はあさっての方向を見ながら何かおかしいように感じた。
「あら何か変?チーム大和の武と咲夜。おかしくは無いでしょう?」
「・・・・・・うん、おかしく無いねぇ・・・」
武は何か納得がいかなかったが咲夜の言っている事に間違いは無いので無理矢理納得した。
「じゃあ早くチーム口座を作って依頼を受けに行きましょう」
二人はアプリを起動させるとチーム登録とチーム口座の開設をおこなった。
「依頼料は頭割りな」
「えぇ構わないわよ」
迷宮探索に必要な事柄は全て終えると二人は依頼を受ける為に店を出て行った。




