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幽玄神話世界  作者: 元橋
18/23

18話

 ピピピピピとスマホのアラーム音で武は目が覚める。起き上がりう~んと伸びをするとベッドからおりる。15分程部屋の中でジッとして部屋から出ると恐る恐る洗面脱衣所の扉を開ける。昨日の二の轍を踏まない為だ。中には誰も居なかった。武は顔を洗いシェーバーで髭を剃る。

「二人共、おはよう」

 キッチンに居る華林とリビングに居る朱鳥に挨拶をする。暫くすると咲夜と薫も降りてきて挨拶を交わす。今日の朝食は甘めの卵焼きにメザシ、味噌汁にご飯と和風だった。食後、洗濯等を終わらせると各々準備を進めていく。

「じゃあ、行くか」

 武の号令の下、五人は屋敷を後にした。井の頭線神泉駅から乗ると井の頭公園駅で降りる。そのまま井の頭公園内へと入って行く。暫し歩くと渦状に歪んだ空間が見えた。

「ここだな。1週間以上ぶりの迷宮探索だ、準備はいいな?」

 武の問い掛けに四人は頷き、渦に手を当てていく。

「通常の迷宮型か」

 迷宮内に侵入した武がぼやいた。五人は道なりに進んで行くと広間に出た。そこにはホブゴブリンが3匹いた。武と朱鳥は駆け出す、武は和剣を引き抜くとそのまま1匹のホブゴブリンを切り捨てる。朱鳥は2匹目ホブゴブリンの顔面を殴り付けると足払いをし転がし又顔面を殴り付ける。武は2歩進むと振り下ろした和剣を切り上げ3匹目ホブゴブリンを切り裂いた。

「よし!問題無し」

 武は身体が鈍っていない事を再度確認した。更に迷宮の奥へと進む、今回の迷宮は脇道が多く一つずつ虱潰しに捜索をして行く。出てくる敵もホブゴブリンが3匹か4匹で何の問題も無く討伐していく。迷宮を進んで行くうちに。

「武はん、そっちはさっき行きましたで」

 薫がそう言ってくる。

「おう、マジか」

 武は歩を止める。

「次は左側どすな」

 薫は左手の道を指差す。

「サンキューな薫。しかしよく分かるな」

「盗賊と狩人には位置確認のスキルが含まれてるんどすえ」

 武の問いに薫が答える。

「成程、便利だな。又俺が間違えそうになったら教えてくれ」

「分かりました」

 そう言い、五人は左手の道へと進んで行く。暫く進むと扉が現れ薫が罠確認をしていく。罠が有ったらしく薫は慎重に解除をしていく。罠が解除出来ると武が扉を開けていく。中には宝箱が一つ置かれていた。また薫が宝箱周囲及び宝箱に罠が無いかを確認していく。

「罠はなさそうです」

 薫の答えに武たちは室内に入り宝箱を開ける。中には鉄鎧一式が入っていた。

「誰か使う人~居ないよな」

 武の問いに女性四人は首を振る。

「そしたら華林、袋に仕舞っておいてくれ」

「分かりました」

 華林はそう言い無限袋に鉄鎧一式を仕舞い込んだ。

「咲夜、今何時だ?」

「ちょっと待ってね、今は12時少し前かしら」

 咲夜がそう答える。

「そしたらここで昼飯にするか」

 武が提案し皆が同意する。華林が無限袋から道具、食材を取り出し料理を始める。武はその姿をチェアに座りながら眺めている。

「迷宮内でガスボンベって使えるんだ」

 武が華林の料理姿を見ながらポツリと呟く。

「はい、電子機器は使ってない機械式なので使えるんですよ」

 そう言いながら調理を進めていく。暫くすると熱々のホットドックが出来上がった。

「いただきま~す」

 武はホットドックに齧り付く、熱々のソーセージにたっぷりのレタス、ケチャップとマスタードソースが合う。

「旨い旨い」

「まだまだありますからね」

 武はお代わりをする。次に出てきたのは中にメンチカツとチーズがかけてあるホットドックだ。

「いや~携帯食には飽き飽きしてたからな迷宮内でこんなに旨い物食えるとは最高だ」

 3本目のレタスで焼肉を巻いてあるホットドックを食べながら武は言う。

「確かに毎回色々な種類があるとはいえ携帯食だけだと飽きるしね」

 咲夜も同意して残りの二人も頷く。

 食事も終わり華林が片付けをしている最中。

「片付けが終わったら追い付きますから皆さん先に行っていてください」

 そういう事を言ってくる。それに対し武は。

「は?何言ってんだよ?そんな事したら華林が危険じゃないか。食後のコーヒー飲みながら待ってるからゆっくりしていいぞ」

 武は練乳入りコーヒーを見せながらそう言った。

「華林さんも水が足りなくなったら言ってね?幾らでも出すからね」

 咲夜も杖を見せながら武に追随する。

「は、はい!」

 何故か華林は嬉しそうに返事をすると片付けを進めていく。その間、各々が休憩していく。

「片付け終わりました!」

 華林がそう言ってくる。すると皆チェアを無限袋に収納すると武は飲んでいた空き缶をポイ捨てする。

「迷宮の良い所その一。ごみ捨てOK、但し捨て過ぎには注意しましょう」

「何どすかそれ」

 薫が笑いながら言ってくる。

「いや言葉通りだよ。捨て過ぎて裏返りなんて勘弁だからな」

「探検者が捨てるゴミなんて微々たる物よ、気にする必要はないわよ」

 咲夜が突っ込みを入れてくる。

「まぁな」

 武もそれに同意する。五人は迷宮の道を進んで行く。途中の敵はホブゴブリンのみで対処は問題無かった。脇道を虱潰しに探し進むと迷宮から洞窟へと変わっていった。

「随分雰囲気が変わったな」

 武はそう言い慎重に歩を進める。歩いて行くと広間に出てきた、そこには。

「ジャイアント・アントか!」

 巨大な蟻が5匹いた。武は駆け出し1匹目に切り付けるが浅かったのか倒すまでには至らなかった。朱鳥も駆け2匹目の頭に蹴りを入れる。そのまま踏み込むと頭目掛けて突きと放つ。

「風よ刃となりて敵を切り裂け」

 咲夜の魔法が3匹目のジャイアント・アントをズタズタに切り裂いていく。武は倒しきれなかったジャイアント・アントと少し距離を取ると頭目掛けて突きを放つ。薫はジャイアント・アントの胴体目掛けて矢を放つ。武は薫目掛けて向かっているジャイアント・アントに向かって上段から和剣を振り下ろし切り殺した。

「風よ刃となりて敵を切り裂け」

 咲夜の2度目の魔法が5匹目のジャイアント・アントを切り裂いていく。そうして戦闘は終了した。

「アント系は初めてだな」

 戦闘が終了した後、武が言った。

「そうね、今迄出た事は無かったわね」

 咲夜が同意する。

「アント系は幾つか種類がいますからね。気を付ける事が必要です」

 朱鳥が助言をしてくる。

 武たちは洞窟内部を進んで行く。迷宮の様な脇道は無く1本道を進んで行く。途中、ジャイアント・アントに3度遭遇したが何れも3匹だったので問題無く討伐出来た。道を進むと広い空間に出てきた、そこには。

「ジャイアント・アント・ソルジャーです。硬いので気を付けてください」

 朱鳥からの注意が飛ぶ。3匹のジャイアント・アント・ソルジャーは武たちに襲い掛かってきた。武は襲い掛かってきたジャイアント・アント・ソルジャーの牙を受け止めた。ギチギチと歯を鳴らし近付いてくるのを武は腰を落としジャイアント・アント・ソルジャーの下に潜り込み和剣で切り付ける。ガギンッと音がし剣を弾き返した。

「くそっ!関節狙うしかないか」

 武は起き上がり和剣を構え直す。朱鳥はジャイアント・アント・ソルジャーの足を折るのを目的としており2本目の足を折っていた。武もそれを見習い、足を切り落とす事に集中し始めた。

「火よ火球となりて敵を焼き尽くせ」

 咲夜の魔法が1匹のジャイアント・アント・ソルジャーに向かい燃やし尽くそうとするがまだ倒せてはいなかった。薫は矢を放つが硬い外殻に阻まれ刺さる事はなかった。目標を目や口に変え弓矢を放っていく。武は3本目の足を切り落とし敵の移動を阻止していた。朱鳥は5本目の足を折り1匹のジャイアント・アント・ソルジャーは物置と化していた。

「火よ火球となりて敵を燃やし尽せ」

 咲夜が再度魔法を唱える。2度目の魔法にジャイアント・アント・ソルジャーは耐え切れずその場で動かなくなった。武も足を5本目を切り落とし移動出来なくした。最後は2匹のジャイアント・アント・ソルジャーを咲夜の魔法で燃やし殺した。すると迷宮核が現れた。

「朱鳥の言う通りカッチカチやったな」

 戦闘が終了し安堵した武がそう言った。

「うちも役にたてしまへんどした」

 薫は残念そうに言う。

「薫はそもそも二役なんだから気にする必要はないぞ」

 武は薫の言葉に反論する。

「そうどすか?」

「あぁ!」

 武は自信を持って返答する。すると薫もホッとして笑顔を取り戻す。

「ジャイアント・アント・ソルジャーは先ず足を狙うのが定石ですね」

 朱鳥がそう言ってくる。

「確かに足を狙って動きを止めると後は単なる的だったな」

 戦闘を振り返り武はそう言った。

「さぁ迷宮核を壊して出ましょう」

 咲夜の言葉に頷きながら迷宮核を壊し迷宮を後にした。

 井の頭公園を後にすると井の頭線井の頭公園駅から電車に乗り神泉駅で降り屋敷へと戻って来た。

「華林、迷宮で手に入れた鎧を出してくれ。俺が組合に持って行って鑑定してくるから。ついでに依頼も受けてくるわ」

「分かりました」

 華林は玄関で鎧を無限袋から取り出した。

「皆は屋敷でゆっくりしていてくれ」

 武は大き目の袋を自室から持ってくると鎧を入れて玄関ドアから出ていった。

「じゃあお風呂に入ってしまいましょうか」

 咲夜がそう提案してくる。薫、朱鳥、華林の三人はそれに同意する。

「まずは華林さんから入ってね」

 華林は咲夜のその言葉に驚く。

「え?いいんですか?」

「だって、華林さんには夕食も作ってもらわないといけないでしょう?なら先に入ってもらわないとね」

 咲夜はそれが当然の如く言ってくる。

「は、はい。分かりました。準備してきます」

 そう言うと華林は2階へと上がっていった。その間、咲夜はお風呂の準備をするのだった。

 華林はお風呂で髪を洗い、身体を洗うと湯舟に浸かった。

(今迄の臨時のチームと違う、ちゃんと私を見てくれるし心配してくれる。良いチームに入れたのかな)

 口元まで湯舟に浸かりそんな事を考える。

(自分には料理しかない。料理でチームに貢献できる様に頑張ろう!)

 ザバッと湯舟から出るとシャワーを浴びお風呂から出てくる。身嗜みを整えると洗面脱衣所から出ていく。

「お風呂いただきました」

 華林はリビングに居る三人に向けてそう言った。

「じゃあ、私たちも順番に入りましょうか」

 咲夜、薫、朱鳥の順番でお風呂に入っていく。その間に華林は夕食の準備を始めていく。

 一方の武は渋谷駅から山手線に乗り新宿駅まで行く。新宿駅で降りると新宿組合本部へと向かう。組合に着くと3階の鑑定室へと向かい鎧の鑑定をお願いする。

「軽量化の掛かった魔法鎧ですね。組合としては100万円を提示します」

「それで構いません」

 武はそう言い支払いを済ませた。階段で2階のデータベース室へと向かい新しい依頼を探す。

「さて、どれにするかな」

 データベースに目を通し目的となる依頼を探していく。依頼を受け終わると組合を出て走って屋敷まで帰るのだった。

「ただいま~」

 武は玄関を開けると声を出す。パタパタとスリッパの音がし華林が出てくる。

「おかえりなさい武さん」

 そう言ってスリッパを出す。

(あれ?何か新婚夫婦みたいじゃね?)

 武がそんな事を考えていると2階から咲夜が降りてくる。

「あら武、お帰りなさい。今お風呂に朱鳥さんが入ってるから行かない方がいいわよ」

「おっそうか教えてくれてサンキュー」

 そう言い武は自室に戻っていった。暫くすると扉がコンコンとノックされる。扉を開けると湯上りの朱鳥が立っていた。

「武殿、上がりましたのでお風呂をお使いください」

「おっそうか、分かった」

 朱鳥の言葉に武は返事をする。着替え等を持って洗面脱衣所へと向かう。洗面脱衣所へと入ると女性特有の匂いがしてくる。服を脱ぎ床に置く。洗濯機の蓋は開けない。浴室に入ると香りが強くなる。

(う~む、この匂いに慣れるんだろうか?)

 そんな事を考えながら武は頭から身体を洗い湯舟に浸かる。ふ~と息を吐きだらけた格好になる。

(この湯舟って皆が入ったんだよな・・・)

 そう考えるとドギマギし変な気分になってくる。暫く湯舟に浸かり何も考えないようにする。風呂から上がるとバスタオルで身体を拭く。バスタオルからも良い香りがしてくる。

(う~~む、やっぱマズい気がする・・・・・・)

 そんな事を考えながら洗い物を手に自室へと戻っていった。リビングへ向かうと咲夜、薫、朱鳥の三人が座っており、キッチンでは華林が料理の準備をしていた。

「あら、出てくるの早かったわね」

「男の風呂なんてそんなもんだろ」

 咲夜の問い掛けに武はそう答えた。武はソファに座りテレビを点ける。NKHにチャンネルを変え今日一日のニュースを見る。事故があっただの何処で火事があっただののニュースが流れる。

「武ってそんなにテレビ見る方だったの?」

 咲夜が何とはなしに聞いてくる。

「え”?」

「いや、ソファに座ると直ぐにテレビつけるから」

 不思議そうに咲夜は聞いてくる。言えない、女性に囲まれてソファに座ってると間が持たないなどとは。かと言って自室に籠ってても何もやる事は無い。

「ま、まぁ見る方かな?好きな番組もあるし」

 武はそう言い訳をする。

「ふ~ん」

「夕食出来ましたよ~」

 華林の声が聞こえてくる。

「おっ夕食出来たってよ」

 武はテレビを消すとダイニングへと向かった。その後ろ姿を咲夜は胡散臭そうな視線で見ていた。

「今日の夕食はカレーです」

 華林はそう言ってカレーにサラダ、コーンポタージュを出してくる。

「おっカレーか良いねぇ」

 玉葱をトロトロに煮て大き目のジャガイモ、人参、牛肉が入ったカレーだった。

「「「「「いただきます」」」」」

 五人でカレーを食べ始める。武は大口を開けバクバクとカレーを食べていく。

「旨い旨い」

「お代わりも沢山ありますからね」

 華林はニコニコしながら言ってくる。

「お代わり大盛りで」

「はいはい待っててくださいね」

 華林は武のお皿を持ってキッチンへと下がっていく。

「男の人ってカレー好きよね」

 咲夜の言葉に

「ハンバーグもですよね」

 薫が乗ってくる。

「おう、カレーもハンバーグも好きだぞ」

 武がそう答える。

「なら近い内にハンバーグも作りますね」

 武のお皿を持ってきながら華林がそう言った。

「俺は明日の朝もカレー食べたい」

 華林からお皿を受け取りながら武は言った。

「分かりました、明日の朝は武さんの分はカレーにしますね」

 笑顔で華林は頷いた。

「もう、武ったら」

 咲夜は呆れ声だった。だが和気藹々とした食事だった。

 食後の食器洗い等は咲夜、薫、朱鳥の三人が行い武と華林の二人はリビングでゆっくりしていた。

「あぁ~その何だ?俺らのチームに参加しての初だったがどうだ?」

 武は話題作りに試行錯誤し言ったのはそんな言葉だった。

「はい、良いチームだと思いました。私は戦う事が出来ないので心苦しいですが・・・」

 華林は少し顔を暗くしそう言った。

「は?そりゃ違うだろ。華林の仕事は食事つくる事なんだから戦闘の事なんて気にする必要無いだろ?」

 武は華林の瞳をジッと見ながら言った。

「そうでしょうか?」

 華林は今迄の事もあり疑心暗鬼だった。

「そうだぞ、無限袋も持っていて皆の荷物も持ってもらってるじゃないか。その上、屋敷での食事も作ってもらってる、色々してくれてるじゃないか」

 武は視線を外さず華林に言った。

「・・・そうですか」

「おう、そうだ。それぞれがそれぞれの仕事をする。それがチームだろ?」

 武はニカッと笑いながら言った。

「そうですね」

 華林もやっと笑顔でそう言った。

「武にしては真面目な話をしてるじゃない」

 洗い物を終えた咲夜、薫、朱鳥がリビングに来る。

「何だよ俺にしてはって」

「言葉通りの意味よ」

 咲夜は笑いながらソファに座った。

「武って余り真面目な話しないじゃないの」

 薫と朱鳥もソファに座る。

「華林はんはようやってる思いますえ」

 薫も武に同意する。

「7級から5級にかけての探検者はどうしてもポーターを下に見る傾向がありますからね」

 朱鳥が武にそう伝える。

「何で?」

「戦えない。という事が大きいのかと」

「意味分かんねぇなぁ~。ポーターに戦う事を要求する方がおかしくないか?」

 武は全然納得していなかった。

「武殿の様に考える人が少ないという事です」

 諭す様に朱鳥は武に伝える。

「そんなに心狭い奴多いのか?探検者って」

「私も探検者になってまだ3年目ですが粗雑な人が多いのは確かですね」

「そんなもんなのかぁ」

 武は未だに納得出来ていない様子だった。

「それと私たちが共同生活している事も関係していると思いますよ」

「あぁそれはあるかもしれまへんなぁ。屋敷での食事も作ってもらっとりますし」

 薫が朱鳥の言葉に同意する。

「それで華林の有難みが更に分かるって事か?」

 武が問い掛ける。

「そういう事よ。私たちの食事は華林さんにおんぶにだっこって事よ」

 咲夜がそう話をする。

「胃袋掴まれてると頭上がらないわな」

 武が笑いながら言う。

「そ、そんな事・・・・・・」

 華林はただただ照れている。

 その日は何時もの夜のお茶会となり夜も深けていった。


 暫くは迷宮に潜っても迷宮内部で寝る事はなかった。

 その日は蒲田まで来ていた。渋谷駅から山手線に乗り五反田駅で降りる。東急池上線で蒲田駅まで乗る。蒲田駅で降りると区立御園中学校を越え西蒲田公園辺りまで来る。

「この辺りのはずだがな。・・・・・・・・・おっとこれだな」

 武が渦状の歪みを発見する。

「それじゃあ行くぞ?」

 武の問い掛けに咲夜、薫、朱鳥、華林の四人は頷き答える。武たちは渦に手を当て迷宮内部へと侵入していった。そこは青々とした木々に囲まれた森の中だった山脈も少し遠くに見える迷宮内の季節は秋の様に感じられる。

「自然型迷宮か、苦手なんだよなぁ~」

 武がぼやく。

「そうなんどすか?」

 薫が訊ねてくる。

「いやだって、イマイチ最終目的が分からないんだよなぁ。通常の迷宮型ならボス倒しぁいいじゃん?」

「あぁまぁ確かに・・・」

 薫も同意してしまう。自然型迷宮はボスを倒す、敵を一定数倒す、特定の物や場所を発見する等、最終目的が多種多様に及んでいる。

「取り敢えず進むか」

 武の号令の下、五人は森の中を進んで行く。途中、鹿や小動物に遭遇するがこちらを見ると逃げていく。狼にも遭遇したが数が3匹だったので何の問題も無く撃退した。

 そして更に森の中を捜索していく。だが一向に敵が出てきたり巨大なボスクラスの敵が出てくる事はなかった。目的分からずに森の中を彷徨っていく。

「咲夜、今何時だ?」

「えぇと、17時過ぎね」

 武の問い掛けに咲夜が答える。

「今日はここでキャンプをしよう」

 森の中で少し開けた場所でキャンプをすると武は言った。すると華林は無限袋からテント等の道具を取り出していき皆で組み立てを始めた。華林は食事の準備を始め、薫と朱鳥はテントの中に籠る。武もプロテクターを外し焚き火台で火起こしを始める。咲夜はドラム缶に水を貯めていく。

「はぁ~~~」

 火起こしを終え武はチェアに座り一息吐いた。咲夜、薫、朱鳥もそれぞれのチェアに腰掛けた。

「意味分かんねぇ~」

 武がそうぼやく。

「そうねぇ今回の目的は何になるのかしら?」

 咲夜も困り顔で呟く。

「もしかしたら・・・」

 朱鳥が言葉を濁す。

「ん?何?」

 武が朱鳥に問い掛ける。

「もしかしたら、今回の目標は登山かもしれません」

「登山って山登りするって事か?」

 武は少し遠くに見える山脈を見渡す。

「はい。私も何度かありましたが一番高い山の頂に迷宮核が置いてあった事がありました。今回の様に敵も少ないならその可能性が大きいかと思われます」

 朱鳥は今迄の経験を語った。

「山登りかぁ~、それは頭に無かったなぁ」

 武は両手を組み頭の後ろに置くとため息を吐きながら言った。

「なら明日からは山を登るのね?」

 咲夜が武に確認してくる。

「森の中をこんだけ歩いて何にもないなら朱鳥の言葉に乗るしかないだろうな」

 武は明日からの行動を皆に伝えた。暫し皆は無言で過ごした。

「夕食出来ましたよ~」

 華林の言葉が聞こえる。四人はそれぞれチェアを持ちテーブルへと移動していく。

「今夜は八宝菜に鶏がらスープとご飯です」

 華林がニコニコしながら配膳していく。

「「「「「いただきます」」」」」

 皆で夕食を食べ始める。

「うん、旨い」

 武は華林の料理に舌鼓を打ちながら食べていく。

「どんどん食べてくださいね」

 華林加入後初の迷宮内での泊まりになる。片付けは咲夜たちがしようとしたが、迷宮内では自分の仕事だと頑なに譲らず華林一人で片付けをおこなっていた。その間、武たちは焚き火に当たり焼きマシュマロを食べていた。片付けが終わると華林も焚き火に加わる。

「明日からは山登りだ、気を付けていこう」

 武が再度確認の為に皆に言う。夜も遅くなり女性陣はテントへと入り就寝する。武は寝ずの番の為、焚き火台の前でジッとしている。パチパチと薪が爆ぜる音がする。火が弱くなれば薪を足していく。風が強くなり木々の葉が擦れる音が辺りに響く。5時間程、寝ずの番をしているとテントから朱鳥が出てくる。

「武殿、寝ずの番変わります」

「あぁ、ありがとな朱鳥」

「いえ、その様な言葉は必要ありません」

 武と朱鳥が寝ずの番を交代し武はテントへと入る。中では咲夜、薫、華林の三人が寝ている。中は女性特有の香りがしている。

(この中で寝るのかぁ~、寝れるかなぁ)

 武は皆を起こさない様にゆっくりと静かに動き寝袋の中へと入っていく。寝袋の中に入ると目を閉じると次第に眠気が襲ってきて武は眠るのだった。

「・・・ける、武」

 誰かが武を呼ぶ声が聞こえ武は目を覚ます。サラサラとした長い髪が武の顔を擽る。それに次第に頭が覚醒してくる。

「咲夜か、おはよう」

「おはよう武」

 咲夜は優しく微笑みながら武に挨拶をしてくる。武は寝袋から出て上体を起こすと大きく伸びをする。

「もう皆も起きてるわよ」

「うん、分かった」

 武も咲夜とテントを出て皆と挨拶を交わす。テントから出ると水で顔を洗う。華林は既に料理の準備をしており。

「武さん、もう直ぐできますからね」

 そう声を掛けてきた。暫くすると朝食が出来て皆で食べた。メニューはベーコンエッグにサラダ、野菜のスープにパンだった。食後は華林は片付け、武たちはテント等を畳むのだった。

「それじゃあ、山登りと行きますか」

 武の号令の下、五人は山脈を目指す。山頂を目指すといっても現実世界の様に山道がある訳ではない。道なき道を歩き頂を目指していく。途中何度も休憩を挟みながら山を登っていく。しかし一日で登り切れるものではなかった。

「今日はここで宿泊しよう」

 森林地帯を抜け、岩や石が辺りを覆う場所で告げた武の言葉に女性陣が頷く。

「華林、食事の方は大丈夫か?」

「はい、1週間分はあるので大丈夫です」

 武の問い掛けに華林は笑顔で答え、皆でテント張り等の準備を始める。焚き火台で焚き火を灯す。

「咲夜、シャワー魔法使ってくれ」

 プロテクターを外した武は咲夜にそう言う。

「いいけど・・・」

 咲夜は武に言われた通りシャワー魔法を使った。

「あぁ~~サッパリする」

 頭から水を浴び汚れを落としサッパリする武。そしてそれをジト目で見ている女性陣。

「お?おぉ?何だ?」

 武は白けた目をした咲夜に尋ねた。

「武は良いわよねぇ~そうやって水浴びして綺麗になって」

「は?咲夜たちも浴びればいいんじゃね?」

 何気なく武はそう言った。

「そんな事出来る訳ないでしょ!替えの下着も無いし服も無い、ボディーソープやシャンプー・リンス・コンディショナー・化粧水・乳液どれをとっても無いのよ?」

 咲夜がそう捲し立ててきた。

「武はんは羨ましいどすなぁ」

「一日なら我慢も出来るんですけどね」

 薫と華林も突っ込んでくる。朱鳥は何も言ってこないが目が語っている。

「お?おぉ?」

 四対一でどう考えても分が悪い。

「分かった!わぁ~ったから!何か考えよう。それでいいよな?なっ?」

 武は対策案を作る事で事態の収束を図ろうとした。

「ちゃんと考えてよね」

 咲夜はプリプリ怒りながらそう言ってくる。

「はい」

 武に出来る事はそれに素直に頷くのみだった。

 焚き火に当たりながら武たちは夕食が出来るのを待つ。華林の出来ましたの声に皆でテーブルへと移る。今日の夕食はコロッケにキャベツの千切り、豚汁とご飯だった。皆でいただきますを言い食事を始める。

「半分は登ってきてるはずだから、後は一番高い頂を目指すだけだな」

 武は豚汁を啜りながらそう言った。

「そうですね。迷宮核は一番高い山でなければなりません」

 朱鳥がそう助言をしてくる。

「じゃあ明日には登山も完了して迷宮から出るぞ!」

 武の言葉に皆が頷く。食後、華林は片付けを行い他の四人は焚き火に集まっている。就寝が近くなると女性陣はテントの中へと入っていき武は寝ずの番を開始する。

(う~~~ん、風呂かぁ~)

 武は先程の件について考え込んでいた。

(まさか、あそこ迄反発があるとはなぁ~)

 どうすべきか武はうんうんと唸っていた。そして一つの妙案っぽいものを捻り出し、迷宮から出ると実行してみようと考えていた。数時間後テントから現れたのは咲夜だった。

「お、咲夜どうしたんだ?」

「寝ずの番の交代よ、朱鳥さんに言って今日は私がするのよ」

「大丈夫か?」

 武が心配そうに言ってくる。

「これでもチームの一員よ?大丈夫よ」

「・・・分かった、じゃあ頼むわ」

「えぇ任せてちょうだい」

 武はチェアから立ち上がりテントへ向かおうとする。

「ねぇ武」

「何だ?」

 咲夜が武に近寄ってくる。

「私の匂い嗅いでみて」

「はぁ?まぁいいけど・・・」

 武は咲夜に近付くと咲夜の匂いを嗅いでみた。何時もと変わらず花の甘い香りが漂ってくる。

「何時もと同じ良い匂いだぞ?」

「本当にそれだけ?」

「まぁ汗の匂いも若干するけどな」

「・・・やっぱり」

 咲夜はため息を吐いた。

「でも咲夜の汗の匂いも良い香りだぞ?」

「ぷっ何よそれ」

 咲夜は呆れ笑いで言ってくる。

「本当だぞ?」

「分かったわよ、それじゃ武お休み」

「あぁお休み」

 武はそう言ってテントの中に入り就寝に入るのだった。

 次の日は早々に朝食も終え山登りの準備が出来ると五人で山登りを再開する。山の峰々を進み続けて行く。

「多分、あの山が一番高そうだな」

 武は一つのヤマを指差し皆に伝えた。

「そうですね、ここら辺から見渡してもあの山が一番で間違え無いでしょう」

 朱鳥も賛同してくる。そうして五人は一つの山を目指して歩き続ける。2時間も歩き続けると一番高い山の近くまで来る。

「あと少しだから皆頑張れよ」

 武が掛け声を掛ける。五人が山の頂に立つとそこには迷宮核が佇んでいた。

「ホントにあったよ・・・」

 武は呆然と呟いた。

「さぁ、ささっと壊して迷宮から出ましょう」

 咲夜がそう言ってくる。

「おう、そうだな」

 武たちは迷宮核の水晶球を壊し迷宮から脱出した。そこは現実世界の蒲田に出た。

「先ずは屋敷に帰ってからお風呂よ」

「そうどすなぁ」

 咲夜の言葉に薫も同意する。朱鳥と華林の二人も頷く。

 こうして初の3日間の迷宮探索は終了したのだった。

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