17話
次の日、華林は昨日とは違う感情で松濤の街を歩いていた。共同生活には不安があるがそれ以上の期待が高まっていた。
目指す屋敷の門をくぐり玄関ドアを昨日貰った鍵で開ける。鍵にはお気に入りのキーホルダーを付けている。
「こ、こんにちは~」
華林は小声で挨拶をした。
その時、ガチャリと武の部屋の扉が開いた。玄関の開く音が聞こえ出てきたからだ。
「あ、華林おかえり」
武がそう言うと、華林はパッと顔を輝かせ。
「はい、ただいまです」
そう言い返した。
「引っ越しの準備は終わりそうか?」
「はい、全部持ってきました」
武の問い掛けに華林はそう答えた。
「全部持ってきた?」
「はい、この中に」
華林はそう言い鞄の中から1つの袋を取り出す。
「あっそうか、華林は無限袋持ってるんだったな。そりゃ引っ越しも楽だわな」
武は納得がいったとばかりに話した。
「それで武さんにお願いがあるんですけど・・・」
「ん?何だ?」
「家具を取り出す時に手伝いをお願いしたいんですけど、どうしても重量があるので」
華林は武にそうお願いする。
「おぉ構わないぞ、力仕事なら任せておけ」
武も直ぐに答えた。そうして二人は2階へと上がっていった。華林が使う部屋に入ると早速家具等の設置を始めていく。タンス、机や椅子、ベッドを配置する時には柑橘系の爽やかな香りが鼻腔を擽る。
「そういや無限袋って2種類あるんだよな?」
設置を手伝いながら武が言った。
「はい。私が持っているのは通常型ですけどね。もう片方は停止型ですね」
無限袋には通常型と停止型の2種類がある。通常型はその名の通り時間が通常空間と一体となっているが、停止型は袋の中に物を入れると時間が停止するのである。但し、両方の型共に生き物を入れる事は出来ない。死体等の死んでいる物ならば入れる事が出来る。
「そっかなら何れ停止型も手に入れようぜ。そっちの方が華林も助かるんじゃないか?」
「え、えぇそうですね」
華林は嬉しそうに武の提案に乗った。
「後は小物類なので大丈夫です。ありがとうございました」
華林は武にお礼を言う。
「何か手伝って欲しい事があったら何時でも言ってくれよな」
武はそう言い華林の部屋から出ていった。すると薫とバッタリ出くわした。
「あれ?武はん、どないしたんどすか?」
「あぁ華林の引っ越し手伝いだよ」
「そうなんどすね」
「薫はもう準備終わったのか?」
「うちはもう終わりました、後は今住んでる所からちょっと荷物持ってくるだけどすなぁ」
「俺もそうだな」
そう言いながら二人は1階へと降りていくと丁度チャイムが鳴った。出ると皆が頼んでいた布団一式が届いたのだった。
咲夜と朱鳥も加わり布団一式をそれぞれの部屋に持っていく。そうすると屋敷で住む準備が完了する。華林は自室の整理を終えるとキッチンへと向かい調味料や香辛料等の料理が出来る体制を整えていく。
昼食時、武は華林に
「料理に必要な物って揃ったのか?」
そう訊ねる。
「大体の物はありますが、まだまだ不足している物がありますね」
華林はそう答える。
「そっか、なら午後からかっぱ橋道具街に買い出しに出るか」
「良いわね、皆で行きましょうよ」
武の提案に咲夜が乗る。他の三人にも異論は無かった。
渋谷まで歩き、渋谷駅から東京メトロ銀座線で浅草駅まで電車に乗る。浅草で降りれば歩いて数分でかっぱ橋道具街だ。
「テレビでは見ますけど、実際来ると壮観ですね」
朱鳥がそう言う。
「どすなぁ」
薫も同意する。
調理道具関係なら何でも揃う卸問屋街だ。五人はそこを歩いて行く。
「華林買うのが決まったら言ってくれよな」
「え?自分で買うつもりなんですけど・・・」
「はぁ?何言ってんだよ華林。チームで使う物なんだからチーム予算から出すに決まってるだろう」
武が当然の如く言う。
「は、はい。分かりました」
華林は嬉しそうに答えると、次から次へと調理道具を購入しては無限袋に収納していく。
買い物が終わると五人は喫茶店へと入り休憩した。武はアイスコーヒーとケーキを頼み、他の四人はホットコーヒーを頼んだ。
「武さんは甘い物好きなんですか?」
華林が美味しそうにケーキを食べている武に対して問い掛ける。
「おう!甘い物は大好きだぞ」
武はダダ甘にしたアイスコーヒーを飲みながらそう言う。華林はそれを心のノートに記入していく。
「なら逆に嫌いなものは?」
「嫌いなもの?何も無いな」
「そうなんですね。他の皆さんはどうですか?」
華林が咲夜、薫、朱鳥の三人に尋ねる。
「そうねぇ、私も基本的に嫌いなものは無いわよ。只、余りに辛過ぎるものはちょっとね」
咲夜はそう答える。
「うちも好かんものはなんもなおすなぁ」
薫はそう答える。
「私も嫌いなものは無いですか、関東のうどんは出汁がちょっと苦手ですね」
朱鳥はそう答えた。
「分かりました。基本的に皆さん嫌いなものは無いんですね」
華林は今聞いた事を覚えておく。
「あっそれと一度ここで解散でいいか?今住んでる所から最後の荷物持ってきて今日から屋敷に住もうと思うから」
武がそう切り出した。
「あら、そうしたら私もそうしようかしら」
咲夜も武の提案に乗ってくる。
「ほんならうちもそうしますわ」
「私もそうしましょうかね」
薫と朱鳥も賛成していく。
「それじゃ各々準備して屋敷に集合な」
武は皆にそう言った。
東京メトロ銀座線で浅草駅から上野駅まで乗ると山手線に乗り換え西日暮里駅で降りる。そして歩いて住んでるマンションまで歩いて行く。部屋に入ると最後の荷物を鞄に詰め込んだ。半年以上住んでいたが感慨深いものは何も無かった。部屋の鍵を郵便受けに投入するとこれで最後だ。西日暮里駅から山手線に乗り渋谷駅まで乗る。渋谷駅で降りると歩いて松濤の屋敷まで歩いて行く。屋敷に着くと鍵を使い玄関ドアを開ける。
「ただいま~」
声を掛けると奥からパタパタとスリッパの音が聞こえエプロンを着た華林が現れた。
「お帰りなさい、武さん」
「おう」
武は答えると自室へと入って行き。荷物の整理をする。そんなに多い訳では無く直ぐに荷物整理は終わった。自室を出てリビングへと向かう。キッチンでは華林が料理を作っている。
「サンキューな華林」
「好きでやってる事ですから」
武のお礼に華林は何でもない事の様に言う。
「武さん、時間あるならお風呂入ってきたらどうですか?お湯沸かしておきましたので」
「そうか?なら風呂入ってくるかな」
武は自室へ戻り着替えをもって洗面脱衣所へと向かった。
洗濯物を何気なく洗濯機の中へ入れていく。
浴室へ入っていくが相変わらず広い。シャワーを使い頭から全身を洗い流していくと湯舟へと入る。
「あ”ぁ”~~~」
足先まで伸ばせる湯舟に入れるのは久し振りだ。気持ちがいい。5分程入ると湯舟から出てシャワーを再度浴び浴室を後にした。バスタオルで全身を拭きスウェットに着替え洗面脱衣所を出ていった。
丁度、咲夜が帰ってくる時だった。
「おかえり咲夜」
「ただいま武。お風呂入ってたの?」
「あぁ」
「ふ~ん、そうなんだ」
「何か問題あったのか?」
武は咲夜に尋ねる。
「いいえ、何も問題無いわよ?」
咲夜は笑顔でそう言ってきた。
「???」
武は咲夜が笑顔になる理由がイマイチ分からなかった。
「じゃあ私は自室で整理してくるから」
そう言って2階へと上がっていく。武はリビングへと向かうと薫と朱鳥の二人が居た。
「二人共戻ってたんだ、おかえり」
「ただいまどす」
「ただいま戻りました」
二人は華林の手伝いをしていた。
「俺は・・・」
「武はんはリビングでくつろいどってください」
薫にそう言われてしまった。しょうがなく武はリビングのソファに座りテレビを点けた。テレビでは夕方のニュース番組がやっていた。ニュース番組では天気予報をやっておりどうやら今年の冬は例年より寒くなるらしい。その他は国会議員の不祥事やら芸能界等のどうでも良いニュースが流れる。
「武さん、もう直ぐで出来ますよ」
華林の声が聞こえてくる。
「りょうか~い」
武はテレビを消しダイニングへと向かった。そこには大皿に青椒肉絲に酢豚、海老チリ、卵スープとご飯が並んでおり良い香りが漂ってくる。
「おぉ旨そうだ」
武はテーブルに並べられた料理を見て素直な感想を言った。咲夜も丁度1階へと降りてきていた。
武は席に着いた、所謂お誕生日席の位置だ、右手前には咲夜、その奥には朱鳥が、左手前には薫が、その奥には華林が座っている。
「「「「「いただきます」」」」」
全員で唱和し食事を始める。
「旨い旨い」
武は旨いを連呼しバクバクと料理を食べていく。それを見ながら華林は嬉しそうにしている。
「まだまだありますからね。沢山食べてください」
華林は武のお皿に料理をよそっていく。
「でも、本当に美味しいわねこれ」
咲夜も褒める。
「うま過ぎて食べ過ぎてまうかもしれしまへん」
薫は食べながら体重の事を気にしてしまった。
「これがスキル持ちの料理という事なんですね」
朱鳥も華林の料理を褒める。
「スキルもありますけど、家が中華料理屋なんで中華は特に得意なんです」
華林はそう言ってくる。
「へぇ~そうなんだ」
武は海老チリを食べながら華林の言葉に頷く。
「じゃあ今度、華林の店に飯食いに行こうぜ」
そう武が提案すると。
「は、恥ずかしいので止めてください~」
「えぇ~何でだよ良いじゃんか~」
そんな和気藹々としながら食事は進んでいった。食後の杏仁豆腐を食べている時。
「これで全部の物が揃ったのかな?」
武が皆にそう言ってきた。それに対し華林が
「皆さん、寝袋とかは渡してくださいね」
「寝袋?」
「はい、迷宮内で寝る時に使うやつです」
「あ”!」
「もしかして買ってないんですか?」
武は住む事に重点を置いていた為、迷宮内での道具等の事をすっかり失念していた。
「すっかり忘れてたわ。なぁなぁ華林、他に何が必要だ?朱鳥も何か知ってるよな?」
武は華林と朱鳥の二人に聞いた。
「私は自分用の寝袋は持っています」
「後はテント等のキャンプ用品類が揃っていると充実しますね」
朱鳥と華林が説明をする。
「そっか~キャンプ用品か」
武は腕を組みウンウン頷いている。
「よし!明日、皆で買いに行こうぜ。渋谷か新宿に行けば揃うだろう」
武の提案に四人は頷いた。
その後、華林は食後の食器洗いをしようとしたが。
「華林さん、洗い物は私たちに任せてちょうだい」
「え、でも・・・・・・」
華林は言葉に詰まる。
「料理は華林さんに任せるけど、洗い物は私たちに任せてね。共同生活でしょ?」
咲夜が優しく諭す。
「・・・はい、分かりました」
華林は笑顔で答えた。
「先にお風呂入ってきててね。それと洗い物で注意点があったら教えてちょうだい。それとお風呂で使うボトル等は置きっ放しでいいからね」
華林は鉄のフライパン等の洗い方を教えると2階へと上がり風呂へと入るのだった。
「俺は?」
武は所在な気に聞いてきた。
「武はテレビでも見てて」
「はい・・・」
武は素直に返事をしてリビングのソファに座りテレビを点けデスカバリーチャンネルを見始めた。
女性三人は何やらお喋りをしながら洗い物をしている。暫くすると華林がお風呂から上がってきた、サイドテールの髪を下ろし雰囲気が違っている。そして順番にお風呂へと入って行く。
そうするとリビングのソファにはパジャマ姿の女性が増えていく。朱鳥なんて襦袢を着ている。シャンプーなのか何なのか分からないが良い香りもしてくる。武はまるで自分が狼の群れに紛れ込んだ子羊の様な感覚になった。余りパジャマ姿の皆を見ない様にテレビをジット見つめる。
「寝る前にお茶でもしましょう」
咲夜がそう提案してきて準備を始めた。
「はい、武もどうぞ」
武は出されたお茶に口を付ける。
「熱っ!てか苦っ!」
「もう何やってるのよ、砂糖入れてないなら苦いに決まってるでしょ」
そう言って砂糖の入っているポットを手前に出してくる。
「お、おう、サンキュー」
武は紅茶に砂糖を入れていく。その時、咲夜のパジャマ姿がハッキリ見え、白のレースの付いた薄手のパジャパだった。うっすらと下着の色も見えた気がする。
「それよりその番組そんなに面白いの?」
「あ?あぁ面白いぞ」
確かに番組は面白いが武の頭の中はそれ処ではなかった。女性陣は何やら会話を楽しんでいたが武はジッとテレビを見ていた。
就寝前のお茶会もお開きになり、食器を洗うとそれぞれが部屋へと戻っていく。武は最後までリビングに居り、皆にお休みを言うのだった。
武は部屋に戻る前に洗面脱衣所に行き歯磨きをしていた。
(う~む、ヤバいぞ。何かしら分からんがこれはヤバいぞ)
共同生活1日目にして武は危機感を覚えていた。
(この生活に慣れる?慣れる事は出来るのか??)
武は自問自答しながら歯磨きを終えた。後はトイレへと行き部屋に戻り寝るのだった。
次の日の朝、武は起きると顔を洗うのと髭を剃る為に寝ぼけまなこで洗面脱衣所に入っていた。そこにはバスタオル一枚で髪を乾かしている朱鳥がいた。
「す、すまん!」
武は一瞬で目が覚めると朱鳥に謝り洗面脱衣所を後にした。すると朱鳥が出てきて。
「おはようございます、武殿。洗面台はもう一台あるので中へどうぞ」
そう言ってくる。
「いや、それはマズいだろう」
「いえ、武殿が入ってこないのであれば私が出ます」
朱鳥はそう言ってくる。そう言われると武は入らざるを得ない。武は中に入るともう一台の洗面台の前に立つ。朱鳥は武が入ってくると髪を乾かし始めた。鏡越しにバスタオル一枚の朱鳥が見える。武は顔を洗うとシェーバーを使い髭を剃っていく。
「あ、朝風呂だったのか?」
武は無言の空間に耐え切れず朱鳥にそう聞いた。
「いえ、朝の水行を行っておりました」
朱鳥はそう答える。
「寒くなるのに大変だな」
「いえ毎日の日課事ですので慣れたものです」
朱鳥は長い髪を乾かしながらそう言ってきた。
「じゃ、じゃあ俺は終わったからゆっくりしてくれ」
そう言うと武はそそくさと洗面脱衣所を後にした。
(あぁ~心臓に悪いわ)
部屋に戻ると着替えながらそう思った。着替え終わると武はリビングに向かう。そこには朝食の準備をしている華林がキッチンに居た。
「おはようございます、武さん」
「おはよう、華林」
暫くすると朱鳥も現れ挨拶を交わしている。朱鳥はリビングに設置した神棚へと米、塩、水を備えると柏手を打ちお祈りをしていた。その姿は堂に入っており武はほ~と見ていた。
「何かありましたか武殿?」
「いや流石本職だと思ってな」
「いえ、そんな事はありません」
朱鳥は少し照れながらそう言った。暫くすると咲夜と薫も降りてきて挨拶を交わした。
朝食は中華粥で薬味が何種類か準備しており違う味を楽しむ事が出来た。食後は掃除や洗濯をしていた。武も何かしようと思っていたが咲夜に自室の掃除と言われ自室に押し込められてしまった。
10時過ぎになりキャンプ用品を買いに五人は出掛けていった。渋谷の神宮前に向かい各キャンプメーカーが店舗を並べている。皆で各店舗を覗いて行く。
大き目な7人用のテントを買い寝袋、マット、チェア、テーブル、焚き火台、カセットコンロ、クーラーボックス、クッキング用品等を次々と買っていく。その途中。
「ねぇねぇ彼女たちチョー可愛いじゃん、俺たちと一緒に遊ばない?4対4でちょうどいいしさ」
武が支払いをしている時に20代半ば四人組の男が咲夜たちをナンパしていた。
「ねぇ良いじゃん。凄ぇ気持ちいい事もしてあげるしね~」
咲夜たちが嫌がるのも構わずナンパを続ける。
「おい」
武は何時もと違う目が据わりドスの効いた声を出した。
「なんだ?」
ナンパ男は武を見て胡散臭そうにしている。
「てめぇ俺のツレになにしてんだ、あ”ぁ”ん?」
「うっせぇな、てめぇこそ消えろよ邪魔なんだよこのガキが」
ナンパ男はシッシッと失せる様に手を振る。
「てめぇこそさっさと失せやがれこのドチビが!」
「何だと!てめぇ!!」
ナンパ男は武の胸倉を掴む。それを見て武は
「おい、この手は何だ?・・・何だって聞いてんだろうがっ!!!」
武が大声で怒鳴る。すると辺りを歩いてる人たちが武たちの事を見る。
「てめぇこっち何人居ると思ってんだ?」
胸倉を掴むナンパ男は武に言う。
「んな事関係ねぇんだよ!この手は何だって聞いてんだろうが!!」
武は相変わらずドスの効いた声を出す。
「電話する?」
その時、咲夜が何でも無い様に聞いてくる。
「おう、頼むわ」
武は咲夜にそう答える。
「おい、胸倉掴むだけで何してんだよ、殴るならさっさと殴れよ!俺がてめぇを殴れねぇだろうが!!」
武は相手に追い込みを掛ける。
「もしもし先生ですか?はいお世話になっております。はい、はい、何時も通りです。場所が神宮前なのでその辺りの所轄になると思います。はい、ではよろしくお願いします」
咲夜は何時もの如くスマホで電話をしている。辺りは武たちを囲み騒然とし始めた。
「武、電話終わったわよ」
咲夜がそう声を上げる。
「おうサンキュー」
咲夜には何時もの声音で声を掛ける。
「おい!殴るならさっさと殴れや!!」
武はナンパ男に更なる追い込みを掛ける。
「ちょっと待て。武ってお前まさか大和武なのか?」
四人の中で一番ガタイのいい男が驚きで聞いてくる。
「あ”ぁ”?何だてめぇ。てめぇ如きに呼び捨てにされるいわれは無ぇんだよ」
武は胸倉を掴まれたまま聞いてきた男を睨み付ける。男の身長は170㎝程しかなく身長が180㎝を超える武からは上から睨み付ける形になる。
「くそっ!止めだ行くぞ!お前もその手を離せ」
「あ?お前何言ってんだよ」
「いいから手を離せ!!」
ガタイのいい男が頭らしくナンパ男は渋々手を離す。
「大和武なんてやってられるか」
その場を立ち去ろうとすると。
「おい!てめぇワビはどうした!」
武は去ろうとする男たちに追い打ちを掛ける。
「あ?何だてめぇ!」
ナンパ男は又カッとして突っかかろうとする。
「止めろ!!」
ガタイのいい男は止める。そして他の三人も無理矢理頭を下げさせ。
「すんませんでした。勘弁して下さい」
深々と頭を下げた。
「ちっ!さっさと失せろや!」
「はい、分かりました」
男たちはその場をそそくさと去っていった。20代半ばの男たちが20代にもならない男に頭を下げてる光景に回りはざわつき出した。
薫、朱鳥、華林の三人は今あった出来事に付いて行けず唖然としていた。
「先生ですか?はい相手が武の事知ってたみたいで納まりました。はい、又の時はよろしくお願いします」
咲夜はまたスマホで電話をしていた。
「さて、買い物続けようぜ」
振り返った武はさっきまでと違い何時も通りだった。
昼はチェーン店のレストランで食事をし買い物を終え屋敷へと帰ってきた。夕食を終えると武は鈍った身体をほぐす為と言い走って新宿組合まで行き依頼を受けてくると言って出ていった。咲夜、薫、朱鳥、華林の四人はお風呂に入り食後のお茶会をしていた。
「昼間の武見てビックリしちゃった?」
咲夜が三人に聞いてくる。
「あないな武はん見るの初めてやさかいビックリしました」
「そうですね。あんな武殿には驚きました」
「怖くてビックリしました」
三人がそれぞれ答える。
「武ってねぇ実は喧嘩が凄く強いのよ。学生の頃は喧嘩ばかりしてたわ」
咲夜がそう答えた。三人は咲夜の言葉に耳を傾ける。
「私って自分で言うのも何だけどそれなりな美人なのよね」
三人はそれに激しく同意する。咲夜は何処からどう見ても美人だ。
「それで私をナンパしたり力尽くでどうにかしようとする人が多かったのよ」
咲夜は当時を懐かしそうにそう言う。
「それを防いでくれていたのが武なの。相手が手を出して来たら殴り返すそれの繰り返し。高校では一年生の時には既に高校で番を張っていたわ。私たちが一年の頃の三年生が力尽くで私をどうこうしようとしたみたいでね。入学早々に親の呼び出しよ」
紅茶を飲みながら咲夜は続けた。
「昼間のナンパで武の普段は見せないもう一面が出てきたのよ。普段はヘタレの鈍感で奥手なんだけどね」
咲夜はクスクス笑いながらそう言った。
「なら武はんって有名なんどすか?」
「えぇそうね。不良?界隈って言うのかしら?そこでは有名人ね。だから昼の時も途中で納まったでしょ?」
「そうだったのですね」
朱鳥が納得する。
「何時、何処で、相手が何人だろうと武にとっては関係ない。相手がナイフを出してきたとしても武は止まらない。最初電車内で喧嘩が始まった時は私もビックリしたわよ」
咲夜はコロコロと笑いながら当時を思い返していた。
「なら、咲夜はんが電話してたのって」
「法曹部の弁護士の先生よ。いつもの事だから先に電話をしておくのよ」
「そうだったんですか」
華林も納得した。
「だから三人も気を付けてね」
咲夜がそう言ってくる。
「「「え?」」」
薫、朱鳥、華林の三人が問い直す。
「武が守る範囲は狭くて深いわ。その中に三人も既に入っているわよ?」
「そうなんどすか?」
「えぇ武のチームメンバーに入るって事はそういう事よ」
咲夜はそう言い紅茶を飲む。三人はそれぞれ考え込んでいた。華林は何故か顔を少し赤くしていた。
「ただいま~」
玄関から武の声が聞こえてくる。
「あら、帰ってきたみたいね」
「おっお茶飲んでるのか?」
「お帰りなさい武」
皆が武に挨拶をする。
「依頼受けてきたぞ。これで明日から迷宮に潜れるぞ」
武はそう言いニカッと笑った。
「分かったから早くお風呂に入ってらっしゃい」
「おう、そうだな」
そう言うと武は自室に戻り着替えを準備して洗面脱衣所に向かった。洗面脱衣所に入ると何だか雰囲気が変わってる気がした。よくよく見ると洗面台の棚には多種多様な瓶やボトル等が並んでいた。
(なんだこりゃ・・・)
女性の化粧水や乳液等を知らない武にとっては異様な光景だった。武は服を脱ぎ洗濯機に洗い物を入れようとして蓋を開けるとすぐさまバタンと閉めなおす。チラリと女性用の下着が見えたからである。
(あかん!これはあかんやつや!開けたら駄目なやつや!!)
風呂に入るとそこには又ボトル等が20種類程並んでいる。
(な、なんつう光景だよ・・・)
武は頭から顔、全身を洗える1本だけである。しかも風呂内は何やら良い香りが漂っている。武はシャワーだけ浴びるとそそくさと浴室を後にした。バスタオルで全身を拭くとバスタオルからも良い香りがしてくる。洗濯物も自室に持ちかえる。
女性陣が全員2階へ上がると武は洗面脱衣所に行き歯を磨く、後はトイレに行き自室に戻る。
(はぁ~共同生活ってヤバいなぁ~)
武はそんな事を考えながら就寝するのだった。




