15話
次の日、武は朝から松濤の屋敷に居た。暫くして、咲夜、薫、朱鳥の三人も現れる。
待っていると家電製品等が次々に到着し運び込まれていく。テレビに冷蔵庫、洗濯機に乾燥機、次々に設置されていく。小物関係は四人で設置をしていく。
家具等も早い物は早速到着していく。1階の部屋は武が使い、咲夜、薫、朱鳥の三人は2階を使う事になっている。武は届いたベッドを組み立てていく。その間に咲夜と朱鳥は細々とした小物、洗剤等やトイレットペーパー等を買いに出ていた。
「そういやノートパソコン買ったのは良いがプロバイダーの契約しないといけないな」
「そういやそうどすな」
薫もそれに同意する。
「後、NKHの契約もしないとマズいな」
「一度に四人の引っ越しともなると色々ありますな」
「あぁ暫くはひっちゃかめっちゃかじゃないか?」
武と薫の二人はそう言い合い笑っていた。その時ピンポンとチャイムが鳴った。出ると新しく届いた家具だった。それを2階の薫の部屋へと入れていく。
「じゃあ俺が組み立てるわ」
「え、うちが自分でやりますけど」
「いいよ、こんなの男の仕事だろ設置場所だけ教えてくれたら良いよ」
ドライバーを片手に武はそう言う。
「ありがとうございます」
薫は設置場所を告げると武は早速組み立てに取り掛かった。組み立ててる途中に。
「あ、布団一式買わないといけないじゃん」
武は思い出したように呟いた。暫くすると買い出しに出ていた咲夜と朱鳥の二人が戻って来た。
「ただいま~」
「ただいま戻りました」
「おー、お帰り~」
武は薫の部屋から大き目の声を出して返事をした。武は薫のベッドを組み立て終わると下へと降りて行った。
「どうだった?」
「えぇ大体の物は揃ってると思うわよ」
咲夜がそう答える。
昼食は咲夜が持ってきておりそれを皆で食べた。弁当箱は加賀蒔絵の5段重箱の立派な物だった。
「そういやさ、布団一式買ってなかっただろ?」
お握りを食べながら武はそう言った。
「そう云えばそうだったわね」
咲夜がそう答える。
「咲夜、明日は薫と朱鳥の二人連れて布団買いに行ってくれ」
「武のはどうするの?」
「俺のは咲夜が適当に見繕ってくれればいいよ、金は着払いでいいから」
「分かったわ、そうしておくわね。武のベッドサイスはセミダブルよね?」
「あぁそうだ」
咲夜の問い掛けに武は答えていった。
四人は食事をしながら今後の事をちょこちょこと話していた。
午後も四人で荷物が届くのを待ち、マッタりと過ごしていた。
「あぁ~引っ越し中だけど、こんな感じで長く休むのは久し振りだなぁ」
武がリビングのソファに座りながら言ってきた。
「確かにそうよね」
「そうなんどすか?」
薫が訊ねてくる。
「あぁ最初の2か月なんて休みなく迷宮に潜ってたしな」
「休み無うどすか!?」
「つっても10級と9級の迷宮だったからなぁ餓鬼の相手ばっかしてたよ」
武は懐かしそうに言う。
「あの頃の武はぶつくさ文句ばかり言ってたわよね」
咲夜もクスクスと笑いながら言ってくる。
「しょうがないだろ実際餓鬼の相手ばかりでウンザリしてたんだから。それから暫くしてかな?薫が加入したのは」
「確かにその頃どすなぁうちが加入したのは」
「朱鳥はどうだったんだ?福岡に居た頃は」
「私ですか?・・・そうですね、基本的に迷宮に2、3日は潜る場合が多かったのでそういう時は迷宮攻略して2日の休みを貰う感じでしたね」
それを聞いて武はう~んと唸っていた。
「どうかされましたか?」
朱鳥が聞いてくる。
「いや、そんな長く潜っている時って飯とかどうしてたんだ?全部携帯食か?」
「あぁそういう場合は臨時で荷運び人を雇っていました」
「荷運び人っていうとポーターって事か」
ポーターとは言葉の通り荷を運ぶ人の事を指し、迷宮で探索する間の寝泊まり用の道具や食料を一手に引き受ける職業の事である。但しスキルでポーターがある訳ではなく他職と兼業でポーターをしている人も居る。
「固定で荷運び人を入れているチームは4級以上の迷宮を潜る人たちばかりですね」
「4級以上っつうと香月のアニキたちもか・・・」
武は腕を組みう~んと唸る。
「あら?武はポーターに興味あるの?」
「いや興味っつうか、俺たちも何度か迷宮内で寝泊まりしてるだろ?必要に迫られてから探すより、まだ7級迷宮潜ってる今の内から探してた方が良い人材が居るんじゃないかって思ってな?」
「ふ~ん、一理あるわね」
咲夜も少し考え込み。
「ねぇ武?」
少し甘えた声を出してきた。こういった声を出す時は何か咲夜が武にお願いをする時だった。
「何だ?」
「ポーター探しの件、私に任せてもらえないかしら?」
「咲夜にか?」
「えぇ必ず良い人材を連れてくるわ。駄目かしら?」
「う~~ん、・・・・・・まぁ良いか。そしたら咲夜頼むわ」
そう武が言うと咲夜は嬉しそうに。
「ありがとう武。任せておいてね」
笑顔でそう言ってきた。
その日は18時に解散し、明日は武が朝から屋敷に来て咲夜たち三人は10時に組合で待ち合わせる事になった。
次の日、武は朝から屋敷で待機していた。
荷物が次々に届き個人の物は部屋に入れていく。ベッド等は設置場所は昨日の内に聞いていたのでその場で組み立てていく。ピンポンと又チャイムが鳴り出ていくと食器類、タオル類等と書かれたダンボール箱が大量に届いた。武は取り敢えず食器類と書かれたダンボール箱はキッチンに置き、タオル類と書かれたダンボール箱は洗面脱衣所に置いておいた。電気、水道、ガスの再契約も済ませ、インターネットのプロバイダー契約の連絡もしていく。
そして昼になるとコンビニへ行き練乳入りコーヒーとカップラーメンを買って屋敷で食べるのだった。その間テレビを見ていた、やれ何処で事故が起こったの何処で殺人があったのと変わりない日常のニュースがつらつらと流されていく。その中に来年4月にロシア帝国皇帝が日本へ国賓として来日するというニュースが流れた。カップラーメンを食べ終わると武は自室へ行き自分の荷物整理を始めるのだった。
一方の咲夜は9時前には組合に来ており2階のデータベース室でポーターのチーム募集項目を眺めていた。スクロールし咲夜のお眼鏡に適う人材を探し続けていた、何人かにチェックを入れていくが一人の人物を目にすると内容を詳しく見始めた。今迄の実績等を確認し続けていく、そしてニコリと笑いキーボードを操作し始めた。PCの操作を終えるとスマホで時間を確認すると10時15分前だった。咲夜は待ち合わせ室に向かった。
待ち合わせ室に行くと朱鳥が既に来ていた。
「おはよう、朱鳥さん」
「おはようございます、咲夜さん」
二人は挨拶を交わす。5分程すると薫が待ち合わせ室に現れる。
「おはようございます、咲夜さん、朱鳥さん」
「おはよう、薫さん」
「おはようございます、薫さん」
三人は挨拶を交わした。
「じゃあ、早速行きましょうか」
咲夜の号令の下、三人は組合を後にした。
新宿から中央・総武緩行線で秋葉原駅まで行き、そこから山手線に乗り東京駅まで出てきた。東京駅で降りると丸の内にある大型デパートへ向かい寝具コーナーへと行った。咲夜はまず武の寝具を買い始めた。枕、羽毛布団、掛布団、敷布団、ベッドパット、冷感マット、毛布、それに対応するカバーと替え用のカバーを買っていく。武の寝具一式を買い終えると咲夜は自分用の寝具を買い始める。薫と朱鳥の二人も各々が寝具一式を揃えていった。
そして三人は昼食をイタリアンでランチを取っていた。
「これで大体揃うたのとちゃいますか」
前菜の盛り合わせを食べながら薫が言う。
「そうね、後は細々とした雑貨関係かしら?それも後で買いに行きましょう」
咲夜も同じものを食べながらそう言った。
「それにしても、あないな低予算で豪邸に住めるとは思わへんかったどす」
「そうですね、それに関しては咲夜さんに感謝しかありませんね」
薫、朱鳥の二人して咲夜に感謝の言葉を述べる。
「それに関しては二人共何も気にしなくて良いわよ。武の為だもの」
咲夜はジェノベーゼを食べながらそう言う。
「武はんのですか?」
あさりとボッタルガのスパゲッティを食べながら薫が問い直す。
「そう武の為、ねぇ二人は武の事好き?嫌い?」
咲夜は二人にそう聞いてくる。
「そりゃ、好きか好かんか言われたら好きどすけど」
「私は身も心も捧げよとの神意を得ていますので」
朱鳥はボンゴレビアンコを食べながらそう言ってくる。
「あら朱鳥さんは固いわね、武はもっと柔らかい方が好きよ」
「は、はぁ・・・」
朱鳥は戸惑っていた。
「じゃあ薫さんは好きなの?恋してるの?愛してるの?」
「な、ななななな・・・・・・」
薫は驚きで言葉が出てこなかった。この人は一体何を言ってるのだろう?
「その感じだと、まだ只好きなだけか。早く恋して欲しいわね」
「な、言うてるんどすか?」
「あら?言葉通りの意味よ。武の事をどんどん好きになって欲しいのよ」
咲夜は当然の如く言う。
「さ、咲夜はんは武はんの事好きなんちゃいますか?」
「私?私は当然武の事を愛しているわよ?」
咲夜は言う。
「なら他の人が好きんなったら困るんちゃいますか?」
薫は問い質す。
「私は武を愛してるわ。でも他の人も武の事を愛してくれる事が嬉しいのは私の中で同居しているの。そしてそれがチームメンバーなら猶更の事。多分、私の考え方はおかしいと思うわよ?」
咲夜は真剣な眼差しで薫に言う。
「そ、そないな事」
「薫さんが他の人を好きになるのも自由で良いと思うわよ。只、今まで以上に武の事を見て欲しいって想いもあって今回の共同生活を提案した理由の大きな一つよ」
そう言い咲夜はジェノベーゼを口にする。
「今回の件はそういう事だったんですね」
朱鳥が咲夜の言葉に納得した。
「うち、まだ良く分からへんどすけど共同生活するなら今まで以上に武はんの事見える思います」
「ありがとうね、薫さん、朱鳥さん。それに言うじゃない?戀という字を分析すれば糸し糸しと いう心って。少しでも武の事を愛しいと思ってくれたら幸いだわ」
デザートのジェラートを食べながら薫が。
「実際、武はんってどないな人なんどすか?」
「う~ん、基本的にヘタレ、鈍感って所かしら?」
咲夜がキッパリと言う。
「はえ?」
「武がヘタレじゃなかったら今頃私はお手付きになってるわよ」
咲夜はジェラートを食べながら少し怒り気味に言った。
「もしかして手ぇ出されへん事に怒ってますのん?」
「勿論そうよ!」
「それだけ大事にされていると考えられるのでは?」
朱鳥がそう言ってくる。
「そうかしら?こう言っちゃなんだけど、私って結構な美人なはずなのよね?」
結構処の話ではない。美人過ぎて最初出会った時に少し引いたのを薫は思い出した。
「それなのに手処か指1本すら出してこないってどういう事かしら!いや、一度指1本出してきたかしら?」
「いや内覧の時に抱き締められてたやないどすか」
「まぁあれは嬉しかったけど・・・」
武と居る時は見せる事の無い表情を薫と朱鳥の二人に見せている。それを見ながら薫と朱鳥の二人はまぁまぁと咲夜を宥めるのだった。
「あ、忘れる所だったわ。ねぇ二人共、明後日の午後時間をいただけるかしら?」
食後のエスプレッソを飲みながら咲夜が聞いてきた。
「問題あらへんどすけど」
「私も大丈夫ですが」
二人はそう答えた。
「昨日言っていたポーターの面接が組合であるのよ」
咲夜はそう答えた。
「えらい早いどすなぁ」
「今日、二人が来る前に検索して調べておいたのよ」
「今迄の話の流れからすると・・・」
「えぇ勿論、女性よ」
咲夜は二人にそう言った。
武は屋敷のリビングのソファに寝転びながらテレビを見ていた。自室の整理も終わりやる事が無くなってしまったからだった。ぼけーとテレビを見ているので内容は殆ど頭の中に入ってこない。荷物配達のチャイムも鳴る事は既にない。
「CS放送でも契約するかな」
地上波放送のチャンネルを変えながら武は呟く。どの局も似たり寄ったりの情報番組を流していた。暫くすると玄関から、ただいま~と言う声が聞こえてきた。武はテレビを消しソファから起き上がると玄関へと向かった。
「おう、おかえり」
三人はそれぞれ荷物を抱え帰ってきていた。
「何か買ったのか?」
「えぇそれぞれ個人的な雑貨等をね」
咲夜がそう答える。
「ふ~ん、ベッド、タンスや机は言われた場所に設置してるから。それと個人的な荷物も部屋の中に入れてあるからな」
「そう、ありがとう」
「それと食器類やタオル等もダンボール箱で届いているぞ」
武がそう伝える。
「あらそう、なら洗わないといけないわね」
「洗うって何を?」
「食器やタオルをよ」
「何で?」
「何でって、箱に入ったままだからよ」
「ん???」
武にはイマイチ意味が分からなかった。
「箱に入ったままだから綺麗なんだろ?」
「もう、何言ってるのよ。箱に入ったままだから汚いんでしょ」
「ん???」
咲夜の呆れ声に武は意味が分からなかった。
「武は洗うの手伝ってくれたらそれで良いから」
「おう、分かった」
武はそれだけを答えた。咲夜、薫、朱鳥の三人は取り敢えず荷物を自室へと持っていき1階へと降りてきた。食器等を洗うのは薫と朱鳥。タオル等を洗うのは武と咲夜と別れた。
武たちは脱衣所でタオルの洗濯をしていた。洗濯機、乾燥機共にフル回転だ。乾燥が終わったタオル等は咲夜が畳み棚へ入れていく。
「咲夜の親父さんにはお礼しないといけないなぁ」
「あら、どうしたのよ急に」
「いや親父さんが動いてくれなかったら、こんな良い物件格安で契約出来なかっただろ?」
「気にしなくていいのに」
咲夜は何でもなさそうに言ってくる。
「いや、義理を欠いちゃ駄目だろう」
武は暫し悩み。
「今年のクリスマス会に出るかな」
武はそうぼやいた。クリスマス会とは四ノ宮財閥主催のクリスマス時期に行う盛大なパーティーの事である。四ノ宮財閥関連会社の役職持ちの社員は誰でも家族で参加出来る。子供や婦人方は別室でパーティーを行い子供には玩具やお菓子が配られる。武と咲夜が最初に出会ったのもこのクリスマス会の時である。
「あら?クリスマス会に出るの?」
「あぁあそこの場なら咲夜の親父さんにも会いやすいだろうしな」
武がそう答える。
「武が出るなら私も今年のクリスマス会に出席しようかしら」
「ん?今まで出て無かったのかよ」
「えぇ余り興味も無かったし」
咲夜がバスタオルを畳みながらそう答える。
「別に無理して付き合う事は無いぞ?」
「無理なんてしていないわよ。それに私が居た方がお父様には会いやすいでしょうし、大人のパーティー会場なんてお父様に会うだけで時間が潰れてしまうわよ」
咲夜は何でもない事の様に言う。
「じゃあ一緒に出るかクリスマス会に」
「えぇそうしましょう。私も雄市郎君と紗月ちゃんには久し振りに会いたいしね」
そう言って笑っていた咲夜だが。
「でもあれ?出欠の締め切りって過ぎてたんじゃないかしら?」
「え!マジかぁ~」
11月に既に入り12月中旬に行われるクリスマス会の出欠提出日は過ぎているものと思われた。
「でも私の名前で武を入れておくから大丈夫よ」
「おぉ助かるわサンキュー」
武は何気なく頼んだが、その意味を知るのは当日になってからだった。
「武もちゃんとしたスーツ準備しておきなさいよ?」
「おう、そうだな買いに行かないといけないな」
武はスーツを買う事を頭の隅に入れておいた。
そうして二人はタオル等の整理を進めていくのだった。
一方の薫と朱鳥は食器等の整理をしていた。洗っては拭いていくを繰り返していた。そんな折、薫は朱鳥に尋ねた。
「朱鳥はん、昼間の咲夜はんの話どない思いました?」
「昼と云うと武殿の件ですか?」
「そうどす」
「私は武殿が望まれるのであればやぶさかではないですが」
「朱鳥はんは神様関係してるからそうなんどすなぁ」
「神意が関係無くとも1月少々ですが好意に値する方だと思います。逆に薫さんはどう思われているのですか?」
「うちどすか?まぁ武はんは悪い人では無いと思うけど、好きかと言われるとどうなんやろう?」
薫は皿を洗いながら悩んでいた。嫌いではないのは確かであるが異性として好きかと言われると悩ましい。
「まぁその為の共同生活なのですから、これから追々分かってくると思いますよ」
「そうどすなぁ」
二人は淡々と皿を洗い拭いていく。
「しかし、えろう高そいな食器ばかりどすなぁ」
「くすっ、それは私も思っていました」
箱から出てくる食器類はどれを見ても高級なのが見て取れた。
「これなんて銀のスプーンどすえ」
「箸関係も漆塗りの物が多いですよ」
「やっぱ住む世界が違うんどすなぁ」
「それが一緒に探検者をして共同生活を送る。縁というのは誠に不可思議なものです」
朱鳥がそう言い、後は黙々と食器等を整理していくのだった。
その日は食器等とタオル類の整理で時間を潰して終わった。




