14話
半月後、その日は受けた依頼も終わり今回の迷宮探索に問題が無かったか等の話を組合19階のカフェでおこなっていた。
「そういや咲夜、何か相談事が有るらしいな」
武はアイスコーヒーを飲みながら咲夜に聞いてきた。
「そうなのよ」
咲夜は嬉しそうに答えた。
「で、何なんだ?」
武がチーズケーキを食べながら聞いてくる。
「薫さんも朱鳥さんも一人暮らしよね?」
「えぇそうですけど」
「私も一人暮らしですね」
二人はそう答える。
「それで武も合わせて三人共マンスリーマンションなのよね?」
咲夜の問い掛けに三人は頷く。それに対し咲夜は。
「ねぇならいっその事ベース基地を作らない?」
咲夜はそう提案してきた。
「ベース基地っておめぇそりゃ・・・・・・シェアハウスに住むって事か!?」
一般に探検者がシェアハウスする事をベース基地と言う。別々に住むより共同生活した方が何かと利便性が大きい時に探検の基地という意味でベース基地に住むという。都内には探検者共用用のマンションや住宅も数多くある。
「そりゃあ・・・・・・・・・どうなんだ?」
武は三人を見渡す。言い出しっぺの咲夜の方は既に問題は解決してると考えて残りの二人が共同生活どう思うかが問題だ。
「私は問題御座いません。逆に武殿と住居を共に出来る事を光栄に存じます」
朱鳥はキッパリとそう言ってきた。
「うちも別に問題ありまへん。知り合いが居る訳でもありませんし」
薫もそう言ってくる。
「で?武は?」
咲夜が問い掛けてくる。自分以外の三人は問題無いと言い、残りは自分の判断待ちだ。う~んと暫し武は悩み込んだ。
「まぁ・・・三人が良いって言うのならばいんじゃないか?」
「じゃあ決まりね」
咲夜が嬉しそうに言う。
「でも咲夜、今から物件探すとなると迷宮に潜りながらだと時間掛かるし大変じゃねえか?」
武が素朴な疑問を投げかけた。それに対し咲夜は。
「ねぇ武?私は誰?」
「あぁん?咲夜だろ?」
「そう、何咲夜?」
「何咲夜って・・・・・・四ノ宮咲夜だろ?」
「そう私は四ノ宮咲夜なのよ?」
そこで武は、ん?と考え出した。
「四ノ宮咲夜・・・・・・四ノ宮財閥!四ノ宮不動産かっ!」
武が声を上げる。
「その通りよ。立っている者は親でも使えって言うでしょ?存分に使わせてもらったわ。住宅も既に選定済みよ」
咲夜は得意気にそう言ってきた。
「やるなぁ咲夜、ってもしかして半月前の相談事ってこの事だったのか?」
「えぇそうよ。ハッキリさせて話そうと思ってたのよ」
武の問いに咲夜が答える。
「明日にでも早速物件を見に行きましょう」
咲夜がそう皆に言ってくる。
「良いけども何処集合だ?」
「明日の9時にここ組合集合で良いわよ」
咲夜はそう言ってくる。
「なら明日の9時に待ち合わせ室に集合な」
武は薫と朱鳥の二人にそう言った。それに対し二人は頷いた。
そしてその日はそれで解散となった。
次の日、武は8時に組合に来ていた。半月前の本の鑑定が終わったと連絡があったからである。鑑定室に行き、本が古代の医学書だという事で売る事にし120万を手に入れた。
そして練乳入りコーヒーを飲みながら三人が来るのを待っていた。先ずは朱鳥が現れた。
「おはようさん」
武は朱鳥に挨拶をした。
「おはようございます武殿」
朱鳥も武に挨拶を返す。
そして武は朱鳥の姿を上から下まで眺めた。
「そういや朱鳥の私服見るのって初めてじゃないか?」
「そういえばそうですね。変でしょうか?」
朱鳥はそう訊ねる。長めの紺色のプリーツスカートにトップスは白のノースリーブニットを合わせていた。
「いや似合ってるぞ」
武はそう言って朱鳥の服装を褒めた。
暫くして咲夜と薫の二人も現れる。
武は二人に挨拶をし、半月前の本が今日120万で売れた事を報告した。
「それじゃあ行きましょうか」
咲夜の号令の下四人は組合を出て行った。山手線に乗り渋谷駅で降りると京王井の頭線に乗り換え神泉駅で電車を降り暫し歩いて行く。
「ここら辺って松濤じゃね?」
都内きっての高級住宅街に向かっている事に気が付いた武はそうぼやいた。
「松濤ってなんどすか?」
薫が聞いてくる。
「都内きっての高級住宅街だよ」
それに対し薫は驚く。
5分程歩き一軒の住宅の前に行くと門の前で50歳過ぎ頃のスーツを着た男性が立っていた。
「お待ちしておりました四ノ宮お嬢様」
そう言い腰を90度曲げ挨拶をした。
「わたくしこういう者で御座います」
そう言い武たちに名刺を渡してきた。
名刺には、株式会社四ノ宮不動産、代表取締役社長松戸祐輔と書かれていた。
(おいおいマジか社長自らかよ)
住宅には車が2台止められるスペースがあり1台の高級車が止まっていた。運転席には勿論運転手が座っていた。
「じゃあ早速中を見せて」
「承知いたしました」
門を開けると広めのポーチになっており松戸祐輔は玄関扉の鍵を取り出し鍵を開けた。
「私たちで中を見るから貴方はここで待っていて」
咲夜がそう声を掛けると
「承知いたしました。内部清掃も既に終えて御座います」
松戸祐輔は頭を下げそう言った。
「さっ中に入りましょう武」
「お、おう」
咲夜の言葉に武は頷いた。
まず中に入ると大きな玄関とシューズクロークとなっていた。玄関にはスリッパが並べられており靴を脱ぎスリッパを履いた。
室内に上がるとホールになっており上がって直ぐに扉が一つあった、中を開けると部屋になっており凡そ15畳程ありエアコン、ウォークインクローゼット、天井ライトも完備されていた。更に進むとトイレがありトイレの広さも十分あり手洗い設備も完備されていた。トイレ自体は勿論最新式のウォッシュトイレだ。隣の扉は洗面脱衣所となっておりここも十分な広さがあり洗面台は2面ある。扉を開けると中は四人は十分入れる余裕のある浴室となっていた。浴槽はジャグジー完備テレビも見れる様になっていた。
そしてホールを進み奥の扉を開けると中はリビングダイニングキッチンとなっていた。リビングダイニングだけで30畳以上あり内覧用なのかリビングには高級そうなソファー、カーペットとリビングテーブルが備え付けられておりシェード付きシャンデリアも天井からぶら下がっていた。ダイニングにも勿論テーブルと七人用の椅子が備え付けられこちらもシェード付きシャンデリアが下がっていた。エアコンが完備なのも勿論である。キッチンも大きくスペースを取られておりシステムキッチンも最新の物となっていた。庭も整備されておりある程度の広さを保っていた。庭に通じる窓にはこれまた高級そうなカーテン、レースカーテンが下がっていた。
2階へと上がると部屋が6つあり、各々10畳から12畳ありエアコンもウォークインクローゼット、天井ライトも完備だ。そして2階にも洗面台とウォッシュトイレも配置されていた。
「ヤバいな・・・」
武が呟き。
「ヤバいどすな」
薫も続いた。
「ふ~ん、まぁまぁね」
咲夜はそんな感想を抱いた。
物置なども全部チェックして回り一行は内覧を終えた。
「咲夜、探した物件ってここだけなのか?」
「そうよ?中々だと思うわよ?」
「おう、そうだな・・・」
武は家賃が幾らになるのか心配してきた。
「如何で御座いましたか?」
松戸祐輔が聞いてきた。
「中々良いと思うわよ。中に置いてある家具はそのまま使っていいのよね?」
咲夜がそう聞いてくる。
「勿論で御座います」
「そう、ならいいわ」
咲夜はそう言った。喋り方が完全に外向け用だ。
「そ、それで家賃の方なんですけど」
武が恐る恐る訊ねた。
「はい、御家賃の方は水道光熱費を除いて40万となります。勿論敷金礼金等は一切頂戴いたしません」
「「「は??」」」
武、薫、朱鳥は驚きで言葉が出てこなかった。桁が一つ間違えてるとしか思えなかった。
「どう武?良いと思うけど」
咲夜が武に尋ねてくる。
「咲夜・・・・・・」
「なぁに武?」
咲夜はフフンと得意気に聞き返した。
「咲夜、お前もう最高!愛してるぜ!」
そう言い武は咲夜を思い切り抱きしめた。
「武、私もよ。でももう少し力を緩めてくれたら嬉しいかしら」
武は咲夜の甘い花の様な香りを嗅ぎながら思い切り抱きしめ続けた。
その行為に驚いたのは松戸祐輔の方であった。まさか四ノ宮家の御令嬢にその様な行為をして許されている男が居るとは思わなかった。
漸く咲夜を離すと武は松戸祐輔に対して。
「今直ぐにでも契約したい」
そう言った。
「承知いたしました、契約書も持ってきておりますので中で契約に入りたいと思います」
そう言い、皆で屋敷の中へと入って行った。相手側の契約書必要項目は既に出来ており、武がサインと印鑑を押すだけとなっていた。
「これで御契約は成立致しました」
松戸祐輔はそう言うと7本の鍵を渡してきた。
「この鍵は特種な鍵になりますので紛失破損等されますと作り直しに少々お時間を頂きますのでお取り扱いには十分ご注意下さい。また何か不備等の問題が発生した場合は至急ご連絡を下さい。すぐさま対応を致しますので」
そう言い頭を下げると屋敷から去っていった。
暫くはシンとしていたが武がハハハハハと笑いだし。
「いやぁ~マジ咲夜様様だな」
そう言い顔の前で手をこすり合わせ、ありがたや~ありがたや~と呟いた。
「いいのよ、武の為ならなぁ~んでもするから気にしないでね」
咲夜は上機嫌に笑いながらそう言った。
「しかしこれで家賃が半額以下どすなぁ」
「そうですね」
薫の言葉に朱鳥も同意する。
「それな!!」
武もすぐさま同意する。
「それより引っ越しの準備で暫く迷宮攻略は休みな。色々揃えないといけない物もあるしな」
武の言葉に三人は頷いた。
「早速、家電等買いに行こうぜ」
その発言に問題は無く四人は家電を買いに行くのだった。
京王井の頭線に乗り渋谷まで出ると山手線に乗り新宿まで戻る。そこで中央・総武緩行線に乗り換え秋葉原駅まで乗っていった。
「井の頭線に乗らずに渋谷まで歩いて行ってもいいかもしれんな」
秋葉原駅に着くまでの電車内で武はそう提案してきた。
「そうね歩いても10分少々だしそれも良いかもしれないわね」
咲夜も武の言葉に同意する。
秋葉原駅に降りると大型家電量販店へと向かった。大型液晶テレビ、冷蔵庫に洗濯機に乾燥機、掃除機、電子レンジに炊飯器、はたまた電気保温ポットからドライヤーまで多種多様な家電製品を店員を引き連れて買っていく。武はそれを見てるだけで選ぶのは女性三人だ。こういう時に男は黙って付いて行くだけだと武は心得ていた。
家電類を買い終えると武たちは少し遅めの昼食を取っていた。
「家具は何処で買うんだ?」
「有明に大型店があったじゃない?そこでいいと思うわよ」
「あぁあそこな」
武と咲夜は会話を続ける。薫と朱鳥はまだ東京の地理等に不安があるので二人に任せている。
秋葉原駅から山手線に乗り新橋へと向かう。そこから新交通ゆりかもめに乗り国際展示場正門で降りると家具販売店ショールームへと向かった。武はさっさと自分のベッド、タンス、テーブルに椅子を買うとショールームのソファに座り女性三人を眺めていた。
(女の買い物は長いからなぁ~)
今まで咲夜の買い物に何度も付き合っているから分かっているが、きゃいのきゃいの言いながら品物を選んでいる三人を眺めながらそう思った。暫く眺めていたが眠気が襲ってきそのまま寝てしまった。
「・・・ける、たける」
寝ていた武を揺り動かす動作と呼び声が聞こえてくる。
「んあ?」
揺り動かしてたのは咲夜だった。
「こんな所で寝てたの?」
咲夜は呆れた顔をしていた。
「買い物は終わったのか?」
「えぇもう皆終わったわよ」
スマホで時間を見ると。
(うへ、2時間経ってるじゃねぇ~かよ)
「二人も待ってるわよ、行きましょう」
咲夜に手を引かれてソファから立ち上がり二人が待つ場所まで移動していった。
新交通ゆりかもめに乗りながら新橋に戻る途中。
「そういや三人には鍵渡しておかないとな」
そう言い武は咲夜、薫、朱鳥の三人にこれから住む事になる屋敷の鍵を渡した。
「荷物は明後日以降に届くんだろ?」
「えぇそうね、全部届くまで1週間は掛かるんじゃないかしら?」
武の問いに咲夜はそう答えた。
「なら何だかんだで2週間みとけば良いかな」
武はそう結論を言った。
「そういや食器類はどうするんだ?」
「家に箱からすら出していない食器やタオル類があるからそれを送るわ」
咲夜がそう答えた。
「ならそっちは頼むわ」
新橋駅で降りるとそれぞれの電車に向かいその日は解散となった。
次の日、武は今住んでる場所を今月で解約する旨を伝えるとダンボール箱に部屋にあった荷物を纏めて、松濤の屋敷に送る為に運送会社へと持っていった。
「・・・・・・あぁ~、久し振りに戻るか・・・」
武はそう言うと部屋を出て行った。
途中、有名なケーキ店で幾つかのケーキを見繕って買って実家へと戻っていった。
「ただいま~」
武が声を上げて家へと入る。するとパタパタという音と共に武の母親の蓉子が現れた。
「あら武じゃないの、急に帰ってきたりしてどうしたの?連絡くらいしてくれてもよかったのに」
「あぁさっき思い立ったからな」
玄関を上がり武はそう言った。
「夕食は食べていくの?」
「そのつもり。それとこれお土産」
武はケーキ店の箱を渡した。
「あら、態々そんな事しなくてもよかったのに、夕食が終わったら皆で食べましょう」
蓉子は武から受け取ったケーキ箱を冷蔵庫へと入れていった。
武はリビングのソファに座りテレビを点けると昼の情報番組をボーっと見ていた。
「お仕事の方は順調なの?」
夕食の準備をしながら蓉子が聞いてくる。
「う~ん、ボチボチかなぁ」
武は曖昧に答えた。
「怪我には気を付けなさいよ」
「「ただいま~」」
その時、玄関から二人の元気な声が聞こえてくる。
「あっ兄ちゃんだ!」
「お兄ちゃんだ!」
嬉しそうに声を上げるのは今年小学5年生になる弟の雄市郎と妹の紗月だった。二人は二卵性双生児の双子だった。
「おぉーガキンチョ共元気だったか?」
武はソファから振り向き声を掛けた。
「元気だったよー兄ちゃんは?」
「お兄ちゃん、元気なのぉ?」
二人は武に向かってじゃれついてきた。
「おぉ元気だぞ」
二人の髪をわしゃわしゃと撫でた。
「「や~め~て~」」
二人はキャッキャッと笑っている。
「お兄ちゃん一緒に遊ぼう。ゲームしようゲーム!」
「わたしもわたしも」
「おう、いいぞ」
三人はテレビゲームで遊びだした。
「雄くんもさっちゃんも宿題ちゃんと終わらせなさいよ~」
母親の小言が聞こえてくる。
「「は~い」」
二人が元気よく返事をする。
武は二人とゲームをし宿題を見てやりお風呂にも入れてやった。
「ほら、髪乾かしてやるからジッとしてな」
「「は~い」」
雄市郎と紗月の二人はニコニコしながら髪を乾かされるのを待っている。
三人が脱衣所から出てくると父親の陽市郎が帰ってきていた。
「「お父さんお帰り~」」
「あぁただいま」
「久し振り、親父」
「あぁ武お前も久し振りに実家に戻って来たな」
「さぁさっそく夕食にしましょう」
蓉子の声の下、皆でいただきますを言いながら食事を始めた
雄市郎と紗月は今日学校で何があったかを喋りながら食事をしていた。
「で、どうなんだ?」
陽市郎が武に聞いてくる。
「どうとは?」
「仕事は順調なのか?」
「あぁ順調だよ毎日が楽しいよ」
武は陽市郎にそう答えた。
「それで四ノ宮家のお嬢様はどうなのだ?」
「咲夜がどうかしたのか?」
「お怪我等はされていないのだろうな?」
「咲夜は無事だよ。咲夜の親父さんも奮発してすげー武具を用意したみたいだしな」
「そうか、ならばいい」
そうして食事を終え、蓉子は紅茶を用意し武が買ってきたケーキを皆で食べていた。
「そういや俺、引っ越す事になったから」
武は紅茶を飲みながら何でもない事の様に言った。
「あらそうなの?」
母親はのん気にそう言った。
「何?何処だ?」
「松濤」
父親の問い掛けに武は答えた。
「松濤?どういう事だ?」
「共同生活する事になったから」
「共同生活?四ノ宮家のお嬢様とか!?」
武の言葉に陽市郎は驚いた。
「いや咲夜と云うよりチームメンバーと生活する事になったから」
「四ノ宮家のお嬢様がそれを許したのか?」
「いや許すも何も話持って来たのが咲夜本人だし」
武は父親の問い掛けにそう答えた。
「そうなのか・・・、武お前のチームメンバーは何人居るんだ?」
「俺外して三人かな、全員女だ」
「そうか・・・それにしても松濤か家賃は大丈夫なのか?」
陽市郎がそう心配そうに訊ねてきた。
「そこは咲夜が実家の力使ってチョイチョイした」
武はケーキを食べながらそう答えた。
「兄ちゃんどっかいっちゃうの?」
「いっちゃうの?」
双子の弟妹がケーキを頬張りながら聞いてきた。
「いや、ちょっと住む所移動するだけだ。別に遠くに行く訳じゃない」
「「な~んだ」」
雄市郎と紗月は嬉しそうにそう言った。
ケーキを食べ終えると雄市郎と紗月は歯磨きをし就寝の準備に入った。
「じゃあ俺もそろそろ帰るわ」
武はそう言った。
「あらもう帰るの?また何時でも帰ってらっしゃいね」
蓉子は笑顔でそう言った。
「兄ちゃんバイバ~イ」
「バイバ~イ」
「おう、ガキンチョ共も元気でな」
武はそう言うと実家を後にしたのだった。




