1話
『迷宮』
それは人類が生まれる遥か以前より地球に存在されると云われている不思議な空間の総称である。
いつ誰が何の為に作り出したのかその答えは誰にも分からない。
ある神学者は言う「それは神々が与えたもう人類への試練である」と
ある科学者は言う「それは他宇宙の存在を示したものである」と
またある学者は言う「それは異世界へと通ずる遺跡である」と
古来より様々な説が唱えられ続けてきているが、未だにもってそれが何であるかはハッキリと解明されていない。
迷宮は生まれては制圧されれば消えるその繰り返しだけ。
そして迷宮探索を職業としている者たちの事を探検者という。
只、一つ言える事は人類は迷宮と共に進化繁栄してきており、その恩恵を受けている事だけである。
日本帝国平成31年10月
武は芝生の上に寝転がり両手を枕とし、ただ青く澄み渡る空を何ともなしに見つめていた。
その時ふと武の頭上に陰隠れた、武は頭を上向きにして一言。
「緑と白のストライプか・・・」
その武の呟きに頭上から女性の冷ややかな声が掛けられた。
「何勝手に見てるのよ。踏みつぶすわよ」
武はそう言われると頭を下向きへと向けた。
女性はその後、武の隣へ芝生の上に座った。
その女性はただただ美しかった。黒々と濡れたような黒髪、愛くるしく涼しげな瞳、スッと通る鼻筋、濡れた野薔薇のような唇。100人が居れば100人が美少女だと言う様な女性だった。
「下着が見たいなら見たいってハッキリ言いなさい。こそこそ盗み見るような真似は恥ずかしいわよ」
女性にそう言われて武は「えぇ~~・・・」とため息と共に吐き出した。
ここは一つチラリズムについて懇切丁寧に説明するべきかと考えもしたが、それが無駄な努力になるだろうと今までの付き合いで分かっているので止める事にした。
「武こんな場所で何してるのよ。一人黄昏ているような空気出して、まさか高校3年生になってまで今更中二病になったんじゃないでしょうね?勘弁してよね」
女性の少し呆れた声に武は勢い良く起き上がり。
「ちっげーよ!黄昏てもないし中二病でもねーよ!!」
「じゃあ何なのよ?」
女性が問いかけた、それに対し武は。
「あと半年だろ?卒業まで」
「そうね武が留年でもしない限り半年後には卒業ね」
「留年なんかしねーよ、ちゃんと平均点をキープしてるっつーの」
「分かってるわよ。武がちゃんと頑張ってるのはちゃんと見てるから」
女性の声が冷ややかな感じから柔らかい声へと変わった。
「あと半年、半年後には探検者になれるんだ。それを考えるとワクワクが止まらないんだ」
武は子供のような笑顔になりながら声に熱が籠っていた。
「そうね。武の小さい頃からの夢だったよね探検者になるのが」
「そう夢だ!やっと夢が叶うんだ!」
武は両手で握り拳を作りそれを見ながらニヤッと笑った。
日本帝国において職業として探検者になるには二通りの方法がある。一つは高校で探検科を選ぶ道、もう一つは普通高校後に2年間の探検者専門学校に入る道の二通りである。それ以外の人間が迷宮に出入りする事は法律により厳しく罰せられる事になっている。
「それより咲夜は本当に俺と一緒に探検科に来て良かったのか?」
武は今まで疑問に思っていた事を聞いた。中学高校と成績はTOPだった事を考えれば他の道もあったのではないかと常々思っていた。
「あら?武は私が探検者になるのはイヤ?」
咲夜は首をかしげならが優しそうに聞いてきた。
「いや・・・そういう積りはないけど、何か俺の夢に無理矢理付き合わせてるんじゃないかって前々から思ってたからな」
「ふふ、安心して武。探検者になる事は私の夢の一つでもあるから貴方が気にする事は何も無いわ」
「そっか!ならもう気にしない」
「そう気にしなくていいのよ。武は夢に邁進して私はそれに付いて行く。ただそれだけなんだから」
日本帝国平成32年3月
卒業式も終わり校内では泣いている者、笑っている者、写真を撮っている者で溢れかえっていた。そんな中、武は一人ボーっと突っ立っていた。
「よう武!一人で何やってんだ?」
そう声を掛けてきたのは同じ剣術道場に通う佐々木隆司だった。
「あぁ隆司か。何って咲夜待ってるだけなんだけど」
「かぁ~~!咲夜を待ってるだけって俺も言ってみたい言葉だよ!!」
隆司は自分の頭をペシッと叩きながら呆れた口調で武に言った。
「どういう事だ?」
武は隆司に問い返した。
「四ノ宮咲夜!彼女に泣かされた男がこの3年間でどれだけ居たと思ってるんだ?告白は全て全滅!学校一のイケメンさえも轟沈した鉄壁の美女!そんな彼女と告白出来ずとも少しでもお近づきになりたいのに親密に付き合えてるのは武お前だけだ!!」
「あぁ?ただの幼馴染なだけだ」
「良いよなぁ、あんな美人と幼馴染だなんて。しかも迷宮ではペア組むんだろ?」
「まぁそうだな取り敢えず暫くは二人で迷宮探索だな」
武がそう答えると隆司はジト目で。
「あんな美人と常に二人!しみったれた迷宮探索も華やかになるってもんだ」
そんな事を言っている隆司に対して武は。
「あいつ見た目美人だけど性格は結構アレだぞ?」
「それでもいいんだよ!」
隆司はそう切り返した。
「まぁそれより武は直ぐにでも潜るのか?」
今までの冗談の言い合いを止め隆司は真面目な顔で聞いてきた。
「う~ん、取り敢えず登録だけは明日して諸々の準備があるから1か月後を目途に考えてる」
「そっか、俺は最低半年はバイトして金貯めないとな武具道具揃えるだけでも結構な金掛かるからな」
隆司はため息をつきながらそう答えた、それに対し武は。
「まぁ俺も親父に借金して金は揃えるからなぁ」
「俺も一部は親が出してくれるとは言ってくれてるけどな」
「「税金がねぇ~」」
二人して空しく呟いた。
迷宮探索はジーパン・Tシャツ・スニーカーで行けばいいものでは無い。
内部には敵もおりトラップ等もある為、準備をしなければ死ぬだけだ。
そして何より特殊とはいえ立派な仕事の一つである。その為に所得税・年金・住民税等の各種税金も払わなければならずある程度の纏まったお金が手元にないと始められない職業なのである。
「まぁ1年目はどうとでもなるけど、2年目の事を考えると手元資金は準備しないとな」
隆司はそう言い武は
「パーティーメンバーが増えれば取り分の問題も出てくるしな」
「それな。俺はクラスメイトの2人との3人パーティーで暫く行く予定だ」
隆司はそう答えると拳を顔の横に突き出した。武もそれに合わせて拳を突き出すと。
『ゴツッ』
「お互い頑張ろうぜ!」
そう言い残して隆司は去っていった。
「男同士の話は終わった?」
いつの間にか咲夜が後ろに来ていた。
「つか、そっちこそ終わったのかよ?結構待ったぞ」
「えぇキリが無いから用事があるって言って別れてきたわ」
「モテる女はツラいねぇ~」
武が冷やかし気味にそう言った。
「誰かさんと違ってね」
咲夜がニコリとしながら切り返した。
「うっせー」
武はそっぽを向いて反論した。
「それで明日は何時に組合に行くの?」
「う~ん、10時に現地集合かな」
『探検者組合』
それは日本帝国において迷宮探索をする上で必ず所属しなければならない組合である。いくら探検者であっても組合に所属していなければ罰の対象になる。しかし組合に所属する事で各種サポートを受ける事が出来る。
「分かったわ。組合は新宿組合でいいのよね?」
「あぁ新宿で構わない」
「じゃあまた明日ね」
「おう!よろしくな」
そう言い合い二人はそれぞれの家へと帰って行った。
次の日、武は新宿にある高層ビルの入り口前にいた。
探検者組合総本部、通称新宿組合は地下2階地上28階の高層ビル。全国に散らばる各組合への指示等も行い、中は探検者や組合員が使用する食堂・カフェ・宿泊施設等も兼ね備えている総合ビルである。
「武、待たせたかしら?」
そう言いながら武の下へとやって来た咲夜だったが待ち合わせ時間の10時には10分程早い。
「いや俺が早く来過ぎたから時間通りだよ」
「そう良かったわ、ならさっそく中へ入りましょう」
そうして二人はビルの中へと入って行った。中へ入ると直ぐ目の前に受付があり二人は受付へと近づき担当者に。
「探検者登録に来ました」
「では証明となる物の提出をお願いします」
受付嬢からそう言われた二人は卒業式に貰った探検科卒業カードを提示した。受付嬢はカードの写真と内容に間違えないかを確認すると。
「ではこのQRコードを読み込んで下さい」
そう言い一つのQRコードを見せてきた。二人はスマホでそのQRコードを読み込むと登録一覧表が出てきた。
「登録を終えアプリが起動すれば探検者して認められ内部施設の利用も出来ます。二人がより良き探検者となる事を願っています」
そうして二人は受付近くにある待合席へと移動した。
「えぇと、国民番号・氏名・生年月日・性別・住所・電話番号・口座番号・・・」
武と咲夜は必要項目を一つずつ埋めていった。そして30分が経った頃。
「出来た!」
「私も登録完了したわよ」
二人は必要項目を全部埋めると探検者アプリが起動した。
「へへ、これで本当の探検者になったな」
「そうね、武おめでとう。夢が一つ叶ったわね」
咲夜は嬉しそうにしている武にそうお祝いの言葉を贈った。
「あぁ!これからが本番だ。取り敢えず内部に入ってカフェかどっかで打ち合わせしよう」
二人は起動したばかりのアプリを使い組合内部へと入って行った。
カフェは組合の20階にあり全面ガラス張りになっており今日は天気も良いので遠くまで見通せていた。
「それで武これからどうするの?」
咲夜はカフェラテを飲みながら武にそう問いかけた。
「そうだな。まず色々と準備をしないといけないから迷宮探索は1か月後を考えてる」
アイスコーヒーを飲みながら武はそう言った。
「俺は一人暮らしをするから部屋探しから武具等の準備も考えるとその位はかかるからな。咲夜はどうするんだ?」
「私?私は実家に住む事になっているわ。お父様との約束の一つだから」
「あぁ咲夜の親父さんな・・・そこらへん甘やかしそうだもんなぁ」
「いい加減に子離れして欲しいんだけどね」
咲夜はそう言い苦笑した。
「それと重要なのが咲夜、スロットは何入れたんだ?」
スロットそれは全ての人間が持っているモノである。通常は2つか3つのスロットを持っておりそれに何のスキルを組み込むかは本人の自由とされている。弁護士ならスロットに弁護士スキルを入れ、医者ならスロットに医者スキルを入れる。そうする事によって職業の効率や能力が高まる事が確認されている。ただし勉強等という曖昧なスキルは無く、各科目毎にスキルは分かれている。そして近年の研究により過去の偉人や天才とうたわれた人々は20近くのスロットがあったのではないかと云われている。又、スロットの数は本人にしか分からず差別に繋がる恐れもある事からスロット数を他人に聞くというのは基本的に禁止されている。
「私?私は地水火風光闇の六属性魔法のスキルを入れたわよ」
「そっか全属性魔法ぶち込んだのか・・・」
「えぇ敵に対して苦手な事がないようにしたの。武は?」
咲夜は武に問い掛けたが声音が少し沈んでいた。
「俺?俺は戦士スキルだけだ、まぁワンスロット者だからな」
武は咲夜の声が変わったのを敏感に感じ取り敢えて気楽そうにそう言った。
ワンスロット者。言葉の通りスロットが1つしかない者の事をいう。数千万人に一人の割合で生まれてくるとされているが何故だかは判明していない。また特殊なスキルが入れられるとも云われているが本人にしか分からない事なので研究分野としてはまだまだ確率されていない。
「まぁ考えようによっちゃ無駄に悩まなくていいからな!剣振り回してれば良い訳だし」
「そうよね、武が前面で戦って私が後ろから武を援護するから」
咲夜は優しく微笑みながら武にそう言った。
「取り敢えず、アプリ内にチャットツールがあるから登録しておこうか。今後の連絡等はこのツールを使ってするからな」
そう言い二人は登録をしてカフェを後にした。
「それじゃ1か月後にまたな。詳しい日時は後日送るから」
「えぇ待ってるわね」
武がそう言い二人は新宿組合前で別れた。
帰りの電車の中で武はこれから始まる迷宮探索に思いを寄せワクワクしていた。




