◆慟哭
「次は大変抑えづらい勇者のところへ参ります」
「抑えづらい?」
「そうです、"復讐"の勇者。故郷を魔族に蹂躙された勇者です」
「……きついな。説得できる自信はないよ」
「そうですが、すでに魔王は倒され魔族との講和はなされています。我慢してもらうしか有りません」
街道をそれ、森を抜けていくと砦が見えてきた。どうやら目的地についたようだ。砦の前まで進み、見張りのものに声をかける。
「王城から使者として参った。第5師団長クリフォードである! "勇者"リーヴィ殿にお会いしたい!」
***
師団の者たちを残し、俺とルーイだけが砦に入る。中を進むと、奥に剣呑な目つきをした若者が木箱に座っていた。
「"勇者"リーヴィ殿ですか。王城から使者として参りました。ルーイと申します」
「…リーヴィだ」
「魔王は討伐され戦争は終結しました。すみやかに武装解除を願いたい」
「…断る」
「なんと申した」
「断るといったんだ! 俺はまだ事をなしていない。奴らを皆殺しにするまで俺の戦争は終わらない!」
「すでに魔族との講和は成りました。これ以上の戦闘は許可できません」
「うるせえ。この地上から魔族の野郎ども消し去るまで俺は戦いをやめない!」
「我が第5師団にも故郷を蹂躙されたものは幾人も居る。なんとか耐えて国の復興に力をかしてくれないか?」
「うるせえって言ってんだろ! もうこっからは王国は関係ねぇ!俺の戦争だ!好きにさせてもらう!」
気持ちはわかるが、説得は難しそうだ。悪いが話はここまでだ。
「貴殿の事情は理解している。しかしこれ以上の戦闘は許可できない。抵抗するなら王国に対する反逆とみなし身柄を拘束する」
「"勇者"相手にできるもんか!」
リーヴィが剣を抜いて切りかかってきた。俺は刃先を交わしつつ足払い、倒れたところを一気に押さえつけた。驚きの目でリーヴィが俺を睨む。
「…悪いな。俺も"勇者"なんだよ。油断したな」
***
師団の連中を砦内に呼び込んで全員の武装解除を行う。リーヴィは手足を拘束、猿轡をかませて王都に連行することになった。
「まさかあなたも"勇者"とは思いませんでした」と、ルーイ。
「そういうこと。戦争中も第5師団が後詰めとして王城に残されていたのも"最後の防波堤"としてさ」
「騎士団長が"この任務はあなたにしか出来ない"といったのはそういうことだったんですね」
「しかし同じ"勇者"を拘束しなくちゃなんねぇってのもいい気分じゃねぇな」
「耐えてください。まだ続きがあるのですから」
「…おい、まさか」
「"勇者"の大半は"復讐者"なのですよ」
「…勘弁してくれ」
「申し訳有りませんが当面は今日の繰り返しです」
「…耐えられそうもねぇな」