◆悲鳴
祝賀式典の後、時を置かず我が第5師団は"勇者の整理"任務に出発することになった。
魔族領方面へと馬を進めながら、ルーイに尋ねる。
「どこへ向かっているんだ」
「通告は魔族との戦闘が発生する可能性が高いものから順次行っていきます」
「今でも魔王軍残党との戦闘はあるだろう。騎士団が各地で残党狩りを行っているはずだ」
「そのとおりです。ですのでこれは戦闘が拡大する可能性が高いものと理解してください」
「了解した。で、はじめに向かうのはどんな勇者のところだ?」
「"なぜか魔族をひきつけてしまう"勇者のところです」
「魔族をひきつけてしまう?そんなことあるのか?」
「理由はわかりませんが、そうなんです。本人の意志と関係なく魔族が寄ってきてしまうので戦う羽目になって、結果として戦闘力が高くなった誰もが同情してしまう"勇者"です。魔族との遭遇の恐れも高いので充分に警戒してください」
***
王国の南、魔族領にほど近い街道脇で魔族の死体の山の中に力なく佇む男がいた。
「彼のようです」
「すごいな、あの死体の山。あれを一人で倒したのか」
彼を刺激しないよう、ゆっくりと近づく。
「"勇者"アトラですか」
「そうですが、なにか?」
うつろな目でこちらをみるアトラ。精神が限界に来ているのが見て取れる。
「王城から使者として参りました。ルーイと申します。戦争が終結したのをお知らせに来ました。もう魔族と戦わなくて良いのです」
「そうはいっても、向こうが勝手に来るんだ。俺だって戦いたいわけではないよ」
力のない笑いを浮かべるアトラ。思わず尋ねる。
「それなら何故こんな魔族領に近いところにいるんだい」
「しょうがないじゃないか。魔族が勝手に寄ってくるんだ。王国深く引き込まないためには国境近くにいるしかないだろう。俺だってこんなところに居たかったわけじゃない」
彼は泣きそうな顔で答えた。
「王城としてもその体質は理解しています。王国の北の端に土地を用意しました。そこまで離れれば魔族もやって来ません。今後はそこで安心して暮らしてください」
「本当かい? もう戦わなくて良いのかい?」
「はい。今までのあなたの働きに報いるためにも今後の生活の一切は王国で保証します」
「ありがとう、ありがとう」
泣き崩れる"勇者"アトラを見て、俺も泣きそうになった。こんな思いをしてきた"勇者"が居るなんて思わなった。どうやら俺は恵まれていたようだ。