【017】 雪の降る朝
朝、カーテンを開けた僕の目に飛び込んできたのはいつもと違う景色だった。
一面の銀世界とまではいかないが、うっすらと雪が積もっていた。
「寒いわけだな……」
僕の部屋も相当に冷え込んでいる。独り言も凍り付いてしまいそうなほどに。
時計を見ると八時の少し手前。長針は11と12のあいだを指している……いつもよりダイブ遅い時間だ。
バタンッ! ドンドンドン――
「…………」
僕はあんまり雪とは縁がない。
こんなに積もった雪を直に見るのはおそらく初めて。
だから雪合戦とか雪だるまを作ったりとか……そんなことには少しだけ興味があった。ガキっぽいから誰にも言えないけど。
もう一度、窓の外を覗いてみた。
斜向かいの家の屋根にも雪が積もっている。
目障りな趣味の悪い色の屋根を降り積もった雪が覆い尽くしてくれていた。
――ドンドンドン、バタンッ!
「…………」
さっきから何やら騒がしい。
あらためて時計に目をやる……八時を回っていた。いつもならそろそろ家を出なきゃいけない時間だ。
「さて。取りあえず起きんべか……」
僕はベッドから抜け出すと、大きくノビをした。
部屋を出たところで幸子と顔を合わせた。
「あんたヨユウね、遅刻するわよ!」
幸子はそう言うと、僕を押しのけるようにして階段を駆け下りていった。
確かに僕は慌ててはいなかったけど、余裕があるわけでもない。もっとも遅刻をする気もさらさらなかったが。
顔を洗って洗面室から出てくると、ちょうど幸子が出ていった玄関のドアが閉まるところだった。
吹き込んできた外の空気の冷たさは僕の部屋の寒さとは比較にならない。
全てを萎えさせるような寒さに、僕は思わず背中を丸めた。
「姉ちゃん、バスで行ったのかな?」
僕は朝飯を頬張りながら、アタマに浮かんだ疑問をクチにした。
「優もバスで行くのかい?」
「ん? まあ、そうかな……」
質問に質問を返してきた婆ちゃんに対し、僕は曖昧に言葉を濁して味噌汁を啜った。
居間の掃き出し窓に目を向ける。
雪はまだ降っている。強くなっている様子はないが、弱まる気配もなかった。
「まったく……ついてないとしか言いようがないよな……」
僕は首を振って、息を吐いた。
三日前からボールを使った練習を解禁していた僕ら。なのにその直後にこの天気……モノゴトってなかなか上手く進まないようにできてるみたいだ。
でも……雪って悪くないと思う。
雪に覆い尽くされた景色って単純にキレイだし、見たくないモノも隠してくれるようだし――。
朝、目が覚めたときから、僕は学校を休むつもりでいた。
寒かったからというのもあるが、何となくナニもする気が起きないっていうか。
「ま、焦ることはなんにもないさ……」
僕は自分に言いきかせた。
理由らしい理由は特にはないけど、高校入学以来たまにある現実逃避したくなる瞬間。
きっと明日にはいつもの自分に戻れる。
多分……この雪が融けるころには。