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最終話

 

 季節は巡り、もうじき春がやってくる。


 俺は兄さんたちから送られた手紙を読んでいた。あれから数カ月、どうやら無事に冬を越せたらしい。オナラが役に立てたようで何よりだ。


 仕事は侯爵家から送られた者たちがしっかりと管理してくれている。俺は屋敷のテラスで穏やかな風を受けながら、うとうとしていた。


 …………


「ねえねえ、リーベルト様っ!婚約って知ってますか?」

「それくらい知ってるさ。結婚の約束の事だろ」


「じゃあ、私とリーベルト様が婚約したのも知ってますか?」

「えっ!?そんなの絶対だめだ」


「そ、そんなぁ。なんで駄目なの?」

「お前のオナラは臭すぎる。好き嫌いが多いから、そんな匂いになるんだ」


「酷いよぉ……」

「とにかく婚約破棄だ。俺はキノコ臭いオナラの奴なんかと結婚なんて絶対しないぞ!父上に言ってくる!」


 …………


「リーベルト様!リーベルト様!早く起きるニャっ!」


 今のは昔の俺か?……やけにリアルな夢だったな。


「リーベルト様!お客様ニャ!」

「分かった、分かった。すぐ行くよ」


 服装を正して応接室に向かう。相手は貴族だからな。第一印象は大事だ。


「遅くなりました。リーベルト・ログストーンです」


 目の前にいる女性は俺の事をじっと見て視線をずらさない。この女は一体……


「お久しぶりです、リーベルト様」


 久しぶり?……一体どこで……


「元婚約者のことをお忘れですか?酷い殿方ですこと。では改めまして自己紹介を。私、エレナ・ガ――」

「伯爵家のキノコ女かっ!!」

「……思い出していただけて光栄ですわ」


 さっきの夢の女だ。だがどうした。受ける印象が全然ちがうぞ。なんというか、力強さが全く違う。


「どうやら私の変化に戸惑っているようですわね。私のこと……お知りになりたいですか?」

「頼む!知らなくちゃいけない気がするんだ!」


 このゾワゾワする感じ……まるで全神経が調べろって言ってくるようだ。俺が配置に着くと、キノコ女がスカートをたくし上げた。


「では、失礼……」


 プシュ!


「オナラは口ほどに物を言う……でしたわね……」


 な、なんだ、この魔力……樹齢1000年を超える大木のようにどっしりしてるぞ。それだけじゃない。人間の体とはここまで体質が変わるのか。シンプルな味わいかと思いきや、嗅ぐほどに深みが増していく……最後に待つのは決して食べてはいけない禁断の果実。まさに究極のオナラと呼ぶに相応しい。


 ……だがなんだこの違和感は。微かに感じるこの香り……俺は出会った事がある?一体どこでだ……今、笑った?……もしやっ!!


「あのキノコか!!」

「……流石ですわ、リーベルト様」

「だがあのキノコはもっと毒々しい匂いだったはずだ!」


「……リーベルト様が長年オナラを研究していたように、私も伯爵家名産のキノコを研究していましたの。そしてとある成分の抽出に成功したのです。そしてこれと混ぜ合わせたのです」


 エレナが持っているのは……!俺が作った魔晶石か!


「もちろんご存じですよね。リーベルト様が作ったのですから。オ・ナ・ラで」

「…………」

「私、これが貴族の間に出回っていると聞き、すぐに入手いたしました。これだけ大きいものはログストーン侯爵家産しかありませんもの。それが分かれば誰が作ったのか、何が入っているかなど確認するまでも必要ありませんわ」


 ……やるじゃないか、キノコ女め。


「キノコは元々美容にも健康にも良い物……それがオナラと混じりあい、私があの日から取り組んでいた体質改善と合わさって多大な効果を産んだ……ということですわ」


「……なるほど、大したものだ。それで目的は何だ?俺と直接取引して美容品として売り出すのか?」

「ふふっ、それもいいですわね。でも、もっと魅力的な提案がありますの。オナラとキノコが混じりあったようにリーベルト様と私が一緒になるのです。……私と改めて婚約して下さらないかしら?」


 お、俺がキノコ女と?ありえない!


「そ、そんなことするはずないだろ。俺にはオナラの可能性を追求するっていう崇高な目的があるんだ!キノコ女と婚約するなんて!それに勝手にそんなことを決めるわけには……」

「そのことなら両家から既に承諾は受けております。後は私達の合意のみと……。それに、私と一緒になれば毎日オナラを嗅がせてあげますことよ?」


 こっ、この女ぁ~!!俺のことを完璧に理解してやがるっ!俺のストーカーとでもいうのかっ!!


「では、このペアリングを婚約の証としましょう」

「そ、それは!!」


 俺が魔晶アクセサリに付加価値を付けようと提案した、この世に一セットだけのペアリング!!


「さあ、お手を……、嫌なら抵抗してもよろしいのですよ?」


 エレナが俺の手を取って指輪をつけようとしてくる。それなのになぜ俺の腕は動かないっ?!くそっ!!本能が邪魔して抗えないとでもいうのかっ!誰か、誰か助けてくれ!!ネネコっ!!


「観念しろニャ」


 …………


「これで婚約成立ですわね。よろしくお願いしますね、旦那様」


 なんてこった……キノコ女なんかとっ!!くそっ!くそっ!!くそっおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!


 …………


 ……庶民よ。すまない。どうやら俺はオナラの事を学び直さねばならんようだ。だが安心してくれ。近いうちに必ず最高のオナラを披露してみせる。それまでどうか待っててほしい。

読んでくれてありがとうございます。

笑った箇所があったら★1で構いませんので評価お願いします!

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