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第八話

 

「のんびりカフェ、本日開店でーす」


 前日までの宣伝効果もあって集客は順調だ。若い客だけでなく中年もいるな。今後の参考にさせてもらおう。


 カフェに入るとまず売店がある。ここで飲み物や軽食を買ってもらい、トレイに乗せて後は好きな個室を選ぶ。あとは使用中の札を裏返すだけ。


 飲み物以外なら持ち込みもOKだ。一応カフェなのでお昼時には時間制限を付けさせてもらった。できればのんびりリラックスしてオナラをだして欲しいがここは我慢する。オナラさえ回収できれば気にする必要はないが、カフェ単独でも黒字にしたいと思っているしな。


 個室としての機能は想像通りだった。事前のチェックでは隣の部屋でネネコがオナラしても気づかなかったほど。頼んだ素材をふんだんに使ったのが良かったみたいだ。匂いも問題ない。


 退店したら素早く清掃だ。オナラが入った魔晶石入りの椅子カバーの交換も忘れてはならない。


 閉店時間は夕飯前に設定した。客の流れをみて変えることもあるだろう。軽食が少し余ってしまったな……。閉店前に値引きしてみるか。


 後は店を閉めて椅子カバーを回収するだけだ。大量の椅子カバーを運ぶネネコの兄弟たち……ちょっと目立ち過ぎだな。小分けにして運ばせるか、クリーニング店でも開いた方が怪しまれないかもしれない。



「みんな!何はともあれ、今日はご苦労だった。明日からも頑張ってくれ!」


 俺たちは家に戻ると盛大に宴を開いた。今日の客入りは初日のご祝儀みたいなものだが順調だった。楽観的だがそれなりに手ごたえはある。従業員の働きも良かった。今日は仕事を覚えてもらうために全員に出勤してもらったが、兄弟仲良く助け合ってうまく回してくれていた。


 特にネネコの兄ヌヌオはきびきびしたいい動きだった。身長もあるし、無口なのもいい。程よい威圧感で変な客が寄り付かないだろうし、オナラもいい感じだ。


 明日からはヌヌオを中心に店舗をまわす予定だ。ヌヌオが休みの日は俺かネネコが入ればいい。他の子たちはまだ小さいので二人一組で仕事をしてもらう。基本的な作業は売店での売り子と、清掃作業に分ける。空いた時間には飲み物や軽食を作る。余った一組は侯爵家で待機だ。


 というのも最近は魔晶石の問い合わせが多くて、対応しなければならないからだ。聞いた話ではジルベルトの社交界デビューが成功したらしいから、目ざとい貴族が気づいたのだろう。魔晶アクセサリの方は供給が追い付かないので、とりあえず魔晶石をそのまま販売して入荷待ちの状況だ。


 肝心の椅子カバーの魔力濃度だが、やはり高くはなかった。庶民の魔力は貴族に比べて濃度が低い。だがそれは元々分かっていたことだ。質が悪ければ数で勝負すればいい。


 そんなこんなで日々忙しく過ごしていた。


 カフェの経営は安定し、ジョナサンの弟子が成長したことで魔晶アクセサリの供給も追いついてきた。魔力再供給(メンテナンス)も順調だ。資金に余裕のできたリーベルト商会は、教会や学校に柔らかいクッションを無償提供する事にした。もちろん細かく砕いた魔晶石入りだ。これは庶民への還元であり、商会の名を広げる目的もある。


 そうして名声を高めていくと、実家からの使者が届いた。


 そろそろ来る頃かなって思ってたよ。どうやら今年の侯爵領は全体的に不作で困窮しているらしいからな。俺は密かに食料を送り込んでいたが、全然足りなかったようだ。


「久しぶりだな、リーベルト」


 やってきたのは次男のロイド兄さんだった。親父と同じように武人然とした見た目通りの性格だが、幾分頭は柔らかい。


「まさか、オナラの研究でここまで儲かるとはな。驚いたよ」

「まあね」


 兄さんから話を聞いて驚いた。親父は今ストレス性の胃痛で闘病中で、長男のフェリブル兄さんが侯爵領を任されているそうだ。


「追い出されたお前にこんな事を言うのは心苦しいが、俺たちを助けてくれないか?」


 兄さんが頭を下げた。


「それは現物支給で?」

「いや、安く買い付ける当ては有るんだ。……頼む、資金援助してくれ」


 ふむ、助ける事に異議は無い。追い出されたとはいえ侯爵領の民もまた俺が救うべき民。


「話は分かった。だけど条件がある。侯爵家のオナ――」

「駄目だ」


 まだ条件を話していないんだが何故断る?


「親父が存命中は侯爵家でオナラを集める事は出来ない。理由は分かるだろ?オナラのせい親父は……」


 何故親父はそこまでオナラを憎む。一体、過去に何があったというんだ……。仕方ない、別の案でいこう。


「カフェは見てきた?」

「ああ、変わった店だが繁盛しているようだな」

「その通り。あれもオナラを集めるのに役立ってるよ」

「あれもオナラのためなのかっ!?」


「いや、カフェ単体でも儲かってるよ。それで2号店、3号店を出そうと考えてるんだけど、信用できる人員がいなくてね」

「そういうことか。それならばこちらで用意しよう。恥ずかしい話だが金がなくて暇を出している使用人がいるんだ」

「できれば店舗を管理できる人を頼むよ」

「ああ、任せてくれ。とびきり優秀な奴を送ってやる」


 それは嬉しいな。


「あっ、そうそう。まだ残っている魔晶石があるだろ?それも全部俺が買い取るよ。ただし保管はそっちでやっといてくれ。保管量は払うからさ」


 魔晶石のストックはまだまだ沢山ある。再利用できるし本当なら必要ない。でもオナラでわかってしまったんだ……ロイド兄さんの栄養状態はかなり悪い。兄さんでこれなら庶民はもっと大変なはずだ。だが必要な金以外は受け取ろうとしないだろう。だから魔晶石の交渉をしたんだけど、受け入れてくれて良かった。


「助かる……」


 いつまでもしんみりするのもな。話題を変えるか。


「そういえば、兄さん、この後はどうするんだ?」

「ああ、王都も大分変わったからな。色々と挨拶する場所もあるし、ぐるっと回ってくるよ」


「だったら兄さん、一つだけ忠告しておく」

「……なんだ?」

「ここは侯爵領じゃなくて王都なんだ。街中で無暗やたらにオナラの話をしない方がいい」

「…………わかったよ」


 ロイド兄さんは辺境から出てきた田舎者だ。ここでの暮らしは俺の方が先輩だから、ちゃんと教えてやらないとな。

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