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第五話

 

 資金に余裕のできたことで、俺は外出することが多くなっていった。


 目的は細工職人の確保だ。ところが現在アクセサリー需要が高まっており、手の空いている職人は見つからなかった。正確には、いるにはいたんだが、まだまだ職人とは名乗れないようなヒヨコばかりだった。これでは目の肥えた貴族を満足させるものは提供できない。


 熟練の職人を高めの給料で奪うことも考えたが、それには俺自身に信用がないしなぁ。やっぱり商業ギルドで実績を作る必要があるかもな。ログストーン家は貧乏で有名だし。そこで足を使って地道に探しているわけだが、中々見つからない。当たり前だ。普通は皆働いている時間なんだから。


 ふと小汚い酒場を見つけた。以前はこんな店に入ることはなかったが、市場調査も兼ねてたまに入るようにしていた。


「……注文は?」


 店主が愛想なく聞いてきた。


「そうだな、何か腹に溜まるものをくれ」

「あいよ」


 料理を待っていると店の奥にいる客のオナラが聞こえてきた。


 ブブブブブブッ!!


 音も悪いが匂いも悪い。キノコ臭くて最悪だ。魔力なんて入ってないんじゃないかと思うくらい質が悪い。ろくに飯食わないで酒ばっか浴びている奴の匂いだ。こんなんじゃ俺の鼻が腐っちまうぜ。


「ちっ。店主、あの男放っておいていいのか?明るいうちから飲んだくれがいたんじゃ客が寄りつかないだろう」


 店主は俺に料理を差し出すと煙草をふかした。


「すまねえな、兄さん。あいつは婚約者にこっぴどく振られちまってな。ほっといてやるのが優しさってもんよ」


 なるほどな。愛想が悪けりゃ、飯もマズい。客の目の前で煙草も吸うが人情だけはあるってか。


「誰かが話を聞いてやれば、気が晴れるかもしんねえんだがな……」


 そういって店主は頼んでいない酒を2杯寄越してきた。おいおい、俺に話を聞いて来いってか?まあいい。庶民の悩みを聞くのも貴族の仕事のうちさ。


「ジョナサンも腕のいい細工職人だったんだけどな。今じゃ、あの有様さ。女も信用も失って今は仕事もない、ただの飲んだくれ。このままじゃやるせねえのよ」


 ……よく見れば大層な指輪とネックレスを付けているじゃないか。もしあいつが作ったのなら大したものだ。おもしろい。オナラの質は悪いが話してみる価値はありそうだ。


 俺は両手に酒を持ってテーブルを移った。飯は当然そのままだ。あんなもの食ってられるか。


「相席させてもらうぜ。まあ、酒でも飲みなよ」


 俺のおごりじゃないけどな。


「聞いたぜ?こっぴどく振られたんだってな。この世の半分は女なんだ。切り替えて次行けよ」

「ヒック!うるせぇ。俺にはキャミ―だけだったんだ。あいつ以外考えられねえよ」

「済まない。キャミ―さんを悪く言いたいわけじゃなかったんだ。どうだい、俺に話せば気が楽になるかもしれないぜ?」


「……俺とキャミ―は幼馴染だったんだ。俺の家は細工職人、キャミ―の家は商人でな。キャミ―の親父さんはやり手で、どんどん店を大きくしていったんだ。でもキャミ―は俺と結婚の約束をしてくれてさ。細工職人は今でこそ給料も上がったが、当時は酷いもんだった。その分必死で働いたよ。独立して自分の店も出したんだ」


 へー、結構若そうだけどやっぱり腕はいいんだな。


「親父さんが会ってくれるってなった時は飛び上がるほど喜んだよ。でも駄目だった……」

「何があったんだ?」


「俺は当日、朝から緊張しててな……髪を切ったり、風呂に入ったり、高い服を着て屋敷に行ったんだ。話は順調だった。このまま結婚を許してもらえるんじゃないかと思ったんだ。そしたら気が緩んで……尻穴も緩んでしまったんだ。ブブブブブブッ!ってな。その後は……分かるだろ?親父さんは人が変わったように俺を責めた。オナラの臭さは生活の乱れが原因だ、心の汚さだ。そんなんじゃ娘を守れないとも言われたよ。返す言葉がなかった。それほど俺のオナラは臭かったんだ」


 なるほどな。だがオナラで人格を批判するのは間違っているぞ。


「話は分かった。だが納得はできないな」

「そんなの知るか!キャミ―との関係はオナラで終わってしまったんだ!」


「オナラに責任をかぶせるのは……俺は違うと思う。さっき自分でも言っていたじゃないか。細工職人は不安定な職だったんだろ?それなのに、怒鳴られたからといって一度の失敗で引き下がっていたら、大事な娘を預けるなんてできないじゃないか!」

「違っ!……いや、その通りかもしれない。俺は親父さんの言う通り、こうやって昼間っから酔っぱらって……俺の事を見抜いていたのかもしれないな……」


 いや、オナラが原因かもしれないぞ?それほどさっきのオナラは酷かった。


「分かったなら話が早いじゃないか。次の仕事を探してキャミ―さんを迎えに行ってやれよ」

「そうだな……だが今更気づいても、もう遅い。俺は散々仲間を裏切っちまった。仕事をくれるような奴はこの街にはいないだろうさ」


「……それがいるとしたら?」

「なんだってやってやるさ。今度こそ自信を持って彼女を迎えにいくためなら」


 ジョナサンの目に光が戻ったようだな。これなら信じてもいい気がする。それになんだかオナラの匂いも良くなっている気が……いやそれはないか。どうやら俺も話を聞いて肩を入れ過ぎちまったようだな。


「それでどこにいるんだ。俺を雇おうなんて珍しい奴が?」

「目の前にいるだろ」


「ふっ、そういうことか。よろしく頼むよ……ええと」

「リーベルトだ。期待させてもらうぞ」


「宜しくお願いします。リーベルトさん」

「ああ、俺の方こそ頼む。その代わり、生活の乱れを直してオナラも改善させてやるよ」

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