第四話
ふむ、両親揃っての出迎えか。事の重要性が伺えるな。
挨拶もそこそこに屋敷の中に案内された。当主のベルグナル・フォルネウスは立派な体格だ。太っているわけではない。親父のように戦闘向きの体つきだ。奥さんのアイリーンは随分若々しく見える。健康的な肉体は、魔力を生み出しやすく若々しく見せる効果がある。オナラの匂いをかげば分かるだろう。二人は幼馴染って噂だが、奥さんが主導権を握っているのかもしれんな。
「素晴らしい邸宅ですな、ベルグナル卿。高価な素材をふんだんに使いながらもそれほど目立たせぬ配慮がある。良い趣味をお持ちの様だ」
とりあえず持ちあげとくか。随分と金回りが良さそうだし。
「ええ、妻が内装にもこだわりましてね」
ふーん。妻……ね。しかし、なんと嬉しそうに言う事か。
「それより、お話をお聞かせくださいませんこと?報告を受けてから気が気でありませんの」
旦那にはあまり話させたくないようにしてるのか?まあいい。既に交渉相手は決まったようだな。
「いや、失礼。あまりにも素敵だったものでつい。それではさっそく本題に」
そういって内ポケットから魔晶石を取り出した。
「これは……魔晶石?それにしてもこの輝きはまさか!?」
「ええ、ご想像の通り。魔力入りのものです」
「触れてみてもよろしいですか?」
「もちろん」
振れたのは当然アイリーン。旦那は知らなかったみたいだな。
「ではご説明を。こちらは私が開発に成功した魔晶石です。これ一つで初級魔法が2度撃てます」
「なんとっ!では魔法が使えない私でも使えるのですかっ!?」
魔晶石はここ数日で濃度を少しだけ高くして2度の魔法を使えるように調整していた。初級魔法が2度使えれば他の貴族に後れを取ることもない。魔法を使える者も日に3度使えればいい方だからな。中級魔法を使えるような者は、魔力量以外にもセンスが必要、なのでさらに減って全体の1%にも満たない。よって初級魔法が2度使えれば充分というわけだ。
それにしても旦那の方が食いつきが良い。どうやら息子は旦那の遺伝が強いみたいだ。
「ええ、もちろん。そしてそちらの……」
ちらりとジルベルトを見た。彼も期待しているのが分かる。だが旦那の方は食いつきすぎだぞ。戦闘狂か?
「確かに質の良い魔力を感じます」
アイリーンさんか……。随分良い質の魔力を持ってそうなんだよな……。できれば彼女のオナラが欲しいが作り方をばらすわけにはいかないし、ここは我慢我慢。交渉はここからが本番だ。
アイリーンさんが座り直した。どうやら向こうも戦闘態勢になったようだ。その瞬間フローラルな香りにまぎれて、オナラが僅かに漂ってきた。どうやらお尻を持ちあげた瞬間にスススとしたようだ。
「それでリーベルト様。どれほどお譲り頂けるのかしら――」
だ、駄目だ!話が頭に入って来ない。こんな匂い初めてだ。だいぶ霧散しているのに、それでも感じるこの魔力。それだけじゃない。隠したって俺には匂いで分かる。豪華な邸宅からは想像できないバランスを考えた食事。肉食を控えて多くの食物から栄養を摂っている様子が目に浮かぶ。そんな環境で生み出された魔力は最高品質。まさに至高のオナラ。
元々の腸内環境のおかげか、オナラに不快感がなく、むしろ清潔さすら感じてしまう。ああ、俺はなんてものに出会ってしまったんだ。こんなんじゃ俺……普通のオナラじゃ満足できないよ……。
「……リーベルト様、リーベルト様」
ハッ!?ついうっとりしてしまった。
「いや失礼。さて、ここにもう1個魔晶石があります。本来であれば1個100万ウェン……と言いたいところですが……未だ試作段階故70万ウェンでどうでしょうか?」
この魔晶石には致命的な欠陥があった。そのための値引きだ。決してオナラの魅力に負けたとかではない。
魔晶石がそのままの形をしているのだ。これでは魔法を使えても魔力を持たないと言っているようなものだ。だからアクセサリーなどにして身に着けやすいものに加工する必要がある。侯爵領には鉱山があったから細工師も結構いるんだが、実家に引き抜かれる可能性を考えたら自前で用意をしたい。まだ見つかってないけど。
とはいえ、魔晶石がそのままで売れないということはない。本番でいきなり魔法を使用するなんて危ういことはできないから、必ず練習してから臨むはずだ。練習用なら形を気にする必要はない。
「まあっ、そんなにお安くて宜しいのですか?」
アイリーンさんはパパンと手を叩いて執事に指示した。庶民にとっては高級品だが、さすがに商売で成功しているだけの事はある。即決、即金だ。正直助かる。
だが俺とて生まれは侯爵家。こんなもので満足するような男ではない。何より金が無ければ庶民に施しもしてやれないのだから。
その後交渉は進んで、月に2個の魔晶石の販売契約を勝ち取った。そしてなんと親戚筋に同様の悩みを抱えた貴族がいるとの話も聞いた。それぞれ2個づつの契約、彼らの分も代わりに支払ってくれるらしい。
転売に対しては釘を刺しておいたが意味はないだろう。今の俺に監視できる力はないし。だけど量産できるようになればそれも解決していくだろう。
ともかくこれで今月の売り上げが420万ウェンになったわけだ。元手が大したことないからほぼ全額が利益になる。税金についても貴族には優遇措置があり、控除額には届いていない。
月に6個の売り上げは現在の生産速度からすれば余裕がある。だが今はまだ量産体制が整っていないから、急に需要が増えても困るんだ。顧客が増えればそれだけ紹介も増えて行くだろう。そうなれば後は芋づる式だ。とても対応できない。この件について口止めもしたが、意味はなかったようだ。量産できない現状で、もし他の貴族に知られたら、爵位の問題で男爵家は後回しになると理解していたからだ。
なんだかんだいっても初めての販売。これまでの研究が報われて、とても嬉しい。帰ったらネネコに報告して、たまにはパアーッと贅沢していい物でも食べるか。ついでにオナラの質も上げて一石二鳥だ。
読んでくれてありがとうございます。
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