第三話
翌朝、俺たちは早起きして城壁の外に出た。勿論、前日に作った魔晶石の具合を見るためだ。
「火球ニャ!」
湖に向かって魔法を発動させると見事に飛んでいった。
「実験は成功だな」
「凄いニャっ!これが魔法ニャんだ……」
どうやらネネコは感動しているようだな。俺も初めて魔法を使った時は似たようなものだったが。
「さあ、実験を続けるぞ。あと何回魔法を放てるか調べるんだ。それによって価値が変わるからな」
「ニャっ!」
…………
実験の結果、仕えた魔法の回数は最初の1回だけだった。ただし、まだ魔晶石の中に魔力が残っているのがわかる。つまりネネコが使えるのは1回だけだが、ネネコよりも元々の魔力量が大きい者なら2回使える可能性があるってことだ。それが価格につながるかは微妙だがな。人によって回数が異なるといっても同じ品だ。人によって売値を変えたら信用問題にならないか?
……いや、待てよ。仮に魔晶石に1回半分の魔力が入ってたとしたら、2つあれば3回使えるということになる。となると正確な魔力量を計れるかどうかが今後は重要になってくるな。それと魔晶石の質の均質化もな。それにはやはり今の設備じゃ……。
まあ、今日のところはこれでいい。ネネコも魔法を使えて喜んでいるみたいだしな。
それからの数日、俺たちはそれぞれ生活基盤を整えながら情報を集め始めた。
俺たちの一日は、朝一番に木箱に入ってオナラをだすことから始まる。そしてしっかりと朝食を食べる。健康なオナラをするには、健康な生活が一番だ。それぞれ専用の木箱を作っていつでも好きな時にオナラを出せるようにした。
そして食事も大事だ。質のいいオナラを出すには、やはり質のいい魔力入りの食べ物が必要だ。しかし、魔晶石の買い手がいない現状では無駄な出費は避けなければならない。そこで考えたのは魔物食だ。王都近辺では食べられていないが、侯爵領では普通のことだった。魔物には豊富な栄養があるし、魔力も充分。
魔晶石の均一化テストのために魔法を使うのだから、魔物を倒して食べてしまえば無駄がニャいってことだ。当然周りから変な目で見られるのでこそこそと行う。俺たちの事を調べられると面倒だからな。
昼前までには魔晶石作成を終わらせて、午後からは二手に分かれて行動だ。俺は街を調査して貴族の情報を集める。ネネコは買い出しや、まだ手を付けていない屋敷の清掃だ。
そんな日々を送っていると、街のことも少しづつ分かってくる。貴族の情報はそれなりだが、人の流れは把握できてきた。今後、増産するとしたら庶民のオナラを集めるのも必要になってくる。そのための目星を付けている最中だった。
街中で遊ぶ少年たちの中でひときわ目立つ少年がいた。服装から考えて貴族だろう。彼らが俺の前を通り過ぎた時だった。
ブブッ!
このオナラの匂いは貴族特有の匂いだ。庶民には食べる事の出来ない甘さを感じる。だがおかしい……そうか、そういうことだな。一緒に遊ぶ少年達によると彼の名はジルベルト。仮の名でなければ、男爵家の一人息子のはず。俺はまわり込んで少年を待ち構える事にした。前を見ずに先頭を走るジルベルトの前に俺はそれとなく現れてぶつかっていった。
「いてっ!おっさん、ちゃんと前見ろよな」
生意気な口調だが、庶民相手にはこんなものだろう。まあ、客だと思えば可愛いものよ。
「失礼。すまんな。私はリーベルト・ログストーンという」
「ログストーン……侯爵家!申し訳ありません!」
少年はすぐに姿勢を正して頭を下げた。ふむ、実に堂に入っているではないか。
「そう緊張することはない。実はある噂を聞いてな。私が君の助けになると思うておるのだよ」
「助け……ですか?」
何やら警戒しているようだな。おかしな男が突然現れたのだ。無理もない。俺は周囲を見渡して子供たちを遠ざけるとジルベルトにそっと耳打ちした。
「魔法……使いたくはないか?」
「っ?!……なぜそれを?」
オナラの匂いさ。そんなこと絶対言わないけどな。
「何やら、君が困っていると聞いてな。いや、間違いだったら申し訳ない」
「いえ、そういうわけでは。……リーベルト様、我が家に来て両親に会ってくれませんか?」
ふむ、そうきたか。彼では商売の話は進まないだろうしな。
「もちろんだ。そのために来たのだからね」
俺は満面の笑みで応えた。ジルベルトはどう思ったのだろうな。まあ、うさんくさいだろう。俺の返事を聞くとジルベルトは少年たちの中から一人を呼び出した。どうやらこの少年が先に用件を伝えておいてくれるらしい。少年は全速力で駆け出していった。
「では、我々も行こうか。ゆっくりとな……」
俺は歩きながらジルベルトのことを聞きだしていた。ジルベルトはもうすぐ12歳になるという。12歳というのは社交界デビューの年だと決まっている。社交界では力比べと称して魔法自慢が行われるのが慣例になっている。ったく、どこの魔法自慢のボンボンが始めたのか知らんがつまらん余興だ。ははっ、そのおかげで俺に儲け話がきたので感謝するべきかな。
とにかく、魔法勝負で負けるならともかく魔法が使えないなんてことがばれたら、その後に入学する貴族学院中等部、高等部の合わせて6年間でのカーストが決定してしまう。ジルベルト、いや男爵家にしてみれば是が非でも回避したいだろう。せっかく商売で上手くいっているのだ。こんなところで次代の繋がりを失いたくはないはずだ。
「お待ちしておりました。リーベルト様」
さあ、交渉の始まりだ。






