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第二話

 

 オナラに含まれる魔力を魔晶石に吸収させる。だがこれが思っていたよりも難しかった。


「オナラってのはお尻からでた瞬間から霧散しちゃうんだよな~」

「どういうことニャ?」

「オナラは抑えようとしても勢いよく出ちゃうだろ?だから魔晶石が吸収する前に薄くなっちゃうんだよ」

「解決策はニャい?」


 あるにはあるんだが……


「一番簡単なのはオナラが外にでる前に吸収させればいい。つまりお尻から魔晶石を突っ込んでおくんだ」

「……そ、それは人としてやっちゃいけニャい気がするニャ」


 まあ、ネネコは女の子だもんな。生理的に無理か。


 過去に一度だけ試したことがある。確かに効果はあった。ただ、それでも一回のオナラだけでは魔力量が足りないんだよな。すぐ出てきちゃうし。魔晶石から魔力を引きだせはしたんだけど、魔力が少ない人が使ったとしても魔法を使えるほど量はない。何回分を溜めるのも無理だし。それに……


「衛生的にもヤバい気がするしな」


 うーん。とりあえずそこさえクリアできれば試作できるんだよな。大量に作れなくても見本品があれば販路を開拓できるし。とりあえず魔力濃度は低くて魔法が一回しか使えなくてもいいんだ。


 馬車を進めていると休憩所が見えてきた。


「ちょっと休憩しようか」

「ニャっ!」


 ブブッ!


 ネネコが放屁(ほうひ)で返事した。俺はいつものようにオナラをチェックする。うん、相変わらずいい感じのオナラだ。


 俺は長年の研究のおかげでオナラに含まれる魔力を匂いで判別できるようになっていた。これまでの経験で、オナラというのは食べたもので魔力が変化するということを理解できた。人間の体が食べるものに影響を受けるように、魔力も食べ物に影響を受ける。魔力が多く含まれる食べ物を多く食べればオナラに含まれる魔力も大きい。そして魔力が沢山含まれる食べ物は基本的に美味しい。


 つまり金のある貴族ほど、食事で体内に魔力を溜め込み、貧乏人の庶民は食べ物からわずかしか魔力を補充できないということだ。ただ、生まれながらに自身の持つ魔力量が大きい庶民もいるし、その逆も然りだ。


 ブブッ!ブブッ!


 ネネコ得意の連続放屁だ。今日は調子がいいみたいだな。風がないせいか、さっきのオナラと混ざり合って……っ!?そっ、そうか!一度で駄目なら、二度三度繰り返せば……なんで 俺は気づかなかったんだ。ああ、早く王都に行きたい。でもしっかり馬を休ませた方が結果的に早く着くんだよ。ああ、もどかしい。


「リーベルト様、ニャにか良い事あったのかニャ?」




 休憩を終えると、俺は早く王都に行きたい気持ちを抑えて手綱を握りしめた。今すぐにでも試してみたい。だけど焦りは禁物。なにより目的地の王都は辺境の侯爵領とは比較にならない程の人口だ。


「ネネコ。俺たちの他にもオナラを研究している奴らがいるかもしれない。街中ではオナラの話は無しにしよう」

「そうかニャ~?」


 どうやらネネコは屁とも思わないようだが、用心に越したことはない。ネネコがこんな様子では俺がその分しっかりしないとな。浮かれてちゃ駄目だ。


 数日後、王都に到着した。


 王都に入るべく並んでいる一団がある。俺はログストーン侯爵領を追い出されたとはいえ貴族だ。貴族専門の出入り口に向かって受付を済ませる。庶民は長時間並んで大変なものだな。だが安心しろ。俺たちの研究が成功した暁には、王都がさらに発展することを約束しよう。さすれば人員にも余裕ができて受付の待ち時間も減ることだろう。


 王都に入った俺たちが向かったのは侯爵家の別邸だ。そこで商売するというのが一応の建前になっている。


 ネネコに家の事を任せて、俺は研究にとりかかろう。そう思っていたが甘くなかった。さすがに何年も使用していないし家は埃だらけだ。こんな不潔な環境では良いオナラを集めることなどできない。俺たちは二人で掃除を始めた。メイドと主人なんて関係ない。二人だけの生活なんだ。協力しなければ生きづらいだけだ。


 数時間後、とりあえずの生活空間の整備を終えた。ほとんど休まずに働いていた俺達は漸く食事の準備に取り掛かった。とはいえ、今の手持ちで豪勢な食事というわけにもいかない。ネネコに頼んで食材を購入してきてもらう。俺はその間にイメージしていた仕掛けを作り出す。難しい物ではない。ただの小さな空間だ。


 仕組みは簡単。まず部屋に置いた木箱の中でオナラをする。そして扉を閉めてカギをかける。この時素早く動いてはならない。それによって風が発生してオナラが外に逃げてしまうからだ。そして中にいれた魔晶石に魔力が溜まるのを待つ。ネネコよりも俺の方がオナラに含まれる魔力が大きいので、今回は俺の仕事だ。ネネコにも帰ってからしてもらうが。


 魔晶石に魔力が溜まったら、独特の青黒い光を僅かに出すのでそれを合図に取り出す。この時しっかりとかかった時間を記録しておく。今後、大量生産となった時に効率化を図るためだ。


 この作業を何度も繰り返して数個の魔晶石に魔力を込める。今日はオナラの調子が良いので充分な量を集める事が出来そうだ。


 そして飯の後に、魔力有の魔晶石から魔力を取りだし、更に小さな空間に魔力を送り込む予定だ。その中に魔晶石を予め置いておく。こうすれば魔晶石が壊れることなく自然に魔力を取り込んでいくはずだ。あくまで魔力濃度の高い場所にあるだけだからな。


 ネネコに手順を話したら、だったら俺が予め魔力を空間に満たしておけばいいニャとか言ってきたんだよな。俺たちが普段使う魔力と腸内を通ってきたオナラとでは魔力の質が違う。オナラの方が魔晶石にとって吸収しやすい状態ってことだ。ネネコは空気中の流れが分からないから仕方ないが、もっとオナラのことについて覚えてもらわなきゃな。


 とりあえず10個分の魔力を入れて試してみるか。単純計算だが全てを吸収すれば元の魔力濃度の10倍になるはずだ。明日ネネコに試してもらって使えそうなら完成だ。ネネコは俺よりも魔力が少なくて魔法を使えないから丁度良い。これで駄目なら数を増やすか、もしくは同じことを繰り返して10倍の濃度に高めようか。


 今は金がないから大層な設備を作れないが、これが上手くいけばとりあえずの生活は問題なくできるだろう。後は誰に売るかという問題になるが……。


 おっ、ちょうどネネコの料理ができたみたいだ。食事しながらネネコにこれからの予定を話した。


「この街には沢山貴族がいるからな。その中には魔法を使えない奴もいるはずだ。そういう情報がないか聞き耳を立てておいてくれよ」

「商業ギルドは通さニャいのか?」


 ギルドか……どっちかっていうと庶民向けなんだよな。


「相手は貴族だぞ?それも魔法が使えないことを隠している貴族な」

「じゃあ、どうするニャ?」

「おいおい、俺が誰だか忘れたか?これでも侯爵家の坊ちゃんだぞ?」

「でも追い出されてるニャ」

「外聞を気にしてそんなことにはなってないさ。そうでなきゃここに住めないだろ?」

「それもそうニャ」


 ネネコは仕事はきっちりこなすが、それ以外にはあまり興味がない。まあ、ネネコに話すことで俺自身も考えを整理できるから助かってるけどな。

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