激臭物体エッティンコーマン!世界最強に臭いブツのクラフトに青春をかけたクソ田舎少年たちのクソみたいな思い出
エッティンコーマンという言葉に聞き覚えのある奴がいたら、どうか見なかったことにしてブラウザバックしてくれ。
小学校中学年ころの話だったと思う。
当時通っていた小学校の校舎には小さな森と池、それを眺められる石造りの机とベンチがあって、今思えばなかなかに風流であった。
そのベンチでとある友人が緑色の木の実を山と積み、それを水らしき液体の入ったペットボトルに詰め込んでいたので、「何女子みたいなことやってんだよ」などと嘲罵した。
小学生男子にとって、女子と同一視されるのは死刑宣告に等しいので、彼は慌てて否定し、ペットボトルの臭いをかぐよう筆者に求めた。
差し出されたペットボトルからは濃縮された森の空気のような、ちょっと形容しにくいがとにかくひどい異臭がした。
彼はこのクッサい物体を教室で開放するテロリズムを計画していた。
まごうことなきクソガキである。そして筆者は彼のそのクソガキさが好きであった。
「やろう、やろう」
「俺らがアルカイダのビンラディン」
「ちんこビンビンビンラディン。わはははは」
クソガキジョークである。
二人で行ったテロ行為は一定の成功を収めたが、なんとなく臭うかな、というレベルを脱せず、「またあいつらしょうもないことやってる」という物悲しい評判に終わった。
我々は奇行でしか自己表現ができないタイプの悲しいクソガキたちであり、そんな憐憫混じりの評価を向けられるのは大変な屈辱である。
「この物体をもっと臭くするぞ」
そうなるのは自明というものである。
我々は臭くなりそうなものを集めて、やたらめったらに例のペットボトルに詰めた。覚えているものを記す。謎の巨大キノコ、真っ二つに引き裂いたトンボ(この残虐行為はシーチキンと称される。トンボの断面がツナみたいなので)、カエルの干物、薄汚い藻、潰したゴキブリ、百匹近いダンゴムシとワラジムシ、巨大ミミズ、塩をかけて溶かしたナメクジ、ドブ川から採取したヘドロ……
そしてそれを日向に放置すること数日。キャップを開けて臭いをかいだ筆者はえずいた。地獄の底のような臭気である。これはイケる。我々は涙目になりながら確信した。友人が【それ】に名付ける。「エッティンコーマン」。小学生が思いつく【禁忌の言葉=力ある言葉】による名付けは、小学生にのみ作用する魔術的意味をもって脳裏へ刻まれる。
そして我々の学年にエッティンコーマン製造ブームが吹き荒れた。
どこもかしこも、男子はエッティンコーマン作りに夢中だ。
我々はエッティンコーマンの開祖としてちやほやされ、鼻高々であった。
我々は自分たちのエッティンコーマンを【元祖】とし、そのレシピを秘匿した。
大人になった今でも、あの時突っ込みまくった何があそこまでの破壊的臭気を呼んだのか分からないが、とにかく我々の【元祖エッティンコーマン】を超えるエッティンコーマンはしばらくの間、誰も作ることが出来なかった。しばらくは。
「信じらんねえ!あいつらルールを破りやがった!」
数週間後、【元祖エッティンコーマン】敗れる。我々とはそこまで仲良くなかった半ばヤンキーのようなグループが、あまりにもクサい【スーパー・エッティンコーマン】の製造に成功した。
我々は負けるのは良かった。だが、負け方にはこだわりたかった。奴らはエッティンコーマンに小便を入れたのだ!非道!
エッティンコーマンにルールなどない。だが、それは禁忌である。糞尿はダメだろ。常識で考えろよ。それは我々の美学に反する。
だがやはり、人間が生理的に忌避する物体のエネルギーは凄まじいものがある。【スーパー・エッティンコーマン】が入ったペットボトルは発酵によりパンパンになり、フタを開けるとプシッ、という小気味よい音とともにヤバイ臭いが溢れ出す!!
小学生男子は新たな王者の誕生に沸いた。女子は遠巻きに気味の悪いものを見る目をしていた。
もはや、エッティンコーマンといえば小便入り【スーパー・エッティンコーマン】となってしまうのも時間の問題である。
我々の努力の結晶は、ヤンキーどもがひり出した小便ごときに負けるのか。
負けたくなかった。奇行のみで小学生男子の複雑怪奇たるヒエラルキーをのし上がってきたプライドが我々にはある。やってやろう、と。そういうことになった。
そして【元祖エッティンコーマン】に腐った牛乳を入れて日向に放置した。【ハイパー・エッティンコーマン】。無理矢理臭いを嗅がせた女子は泣いた。【スーパー・エッティンコーマン】をも凌ぐその圧倒的臭気で、我々は勝った。
これでエッティンコーマンは正道に戻る、そう思った。だが奴らは小便入り【スーパー・エッティンコーマン】に牛乳を入れ【マスター・エッティンコーマン】を作った。めっちゃ臭かった。無理矢理嗅がされた女子は号泣の後保健室へ行った。我々は完膚なきまでに負けた。そのうちみんな飽きて、エッティンコーマンブームも終わった。
完
こんなことしてる暇があったらちゃんと勉強していればこんなクソみたいな袋小路人生になってないんだぞ
わかっているのか
おい




