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【完結】魔法学園最下位の俺がガチで全勝してる理由  作者: ばらん
season1 最低ランクと最強少女
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第5話 ドラゴンの心


 「そろそろ学園最強トーナメントの時期だな……」


 ボンがそう切り出す。

 空気が凍った。

 アシェッタという新しい仲間を向かい入れた俺達は、今までにも増して遊び呆けていて、対戦相手のストーキングから連なる対戦対策を一切行っていないのだ。


 「だっ、大丈夫っ、だよ……新薬の出来が良いから……」


 ドラッグが頼もしい事を言いながら、フラスコを取り出した。

 中には何やら赤い液体が入っている。


 「何それー?」


 アシェッタが覗き込む様にそれを見る。

 ついでにくんくんと匂いを嗅いだ。


 「くちゃい……」

 「良薬は口に苦しってやつだな」


 「匂いは……ふへっ、あの根菜が原因だね……」

 「まっ、俺は今回もお世話になるぜ」


 ボンはそれをひょいと受け取った。


 「効果は数時間、過ぎれば倦怠感と魔力の質がガクンと落ちるから気を付けて」

 「あいよ」


 ドラッグは、薬物の話になると饒舌になる。

 コイツなりに、自分の作品に責任を持っているのだろう。


 「いい目をしてるね、濁ってるけど」

 「アシェッタ……なんだかんだで周りをよく見てるんだな」


 「うん。一番はリューリだし、リューリと二人の時が一番幸せなんだけど、この四人でいる時間はそれとはまた別に楽しいんだ」


 「俺も、アシェッタが楽しいと楽しい。」

 「えへへ、ぎゅーっ!」


 「お熱いねぇ……」

 「ぱちぱちぱちー」


 二人の反応は、何というか慣れがあった。

 まぁ、ずっとくっ付いてるからなぁ……


 「で、今日は何して遊ぶ?」


 「そうだなーって、話が脱線しかけてるぞ」

 「そうだよな! トナメがヤベーんだよ!」


 そうなのだ、学園最強トーナメント。

 出来るだけ勝って、奨学金を得たい。

 そうでなくても、一勝も出来なければ即退学だ。


 「とっ、取り敢えず、コヒュッ……対戦相手見てみたら?」


 ごもっともだ。

 早速俺達は掲示板へ向かった。


 「えーと、リューリリューリ……」


 自分の名前を探す、と同時に、アシェッタの名前も探していた。


 「おっ、リューリの名前あったぞ」


 ボンが俺の対戦カードを見つけた。

 どうやら三ランク格上のCランクが一回戦の相手みたいだ。


 「まっ、ドンマイと言っておこう!」


 俺の肩を叩くボンだったが、その調子に乗った態度は一瞬で崩れるだろう。


 「ボン、お前の名前あったぞ……」


 俺が指挿すと、ボンはそれを目で追い、やがて絶望の表情を見せた。


 「え、Bランク……」

 「まっ、ドンマイと言っておこう!」


 仕返しとばかりにリューリはボンの肩を叩いてやった。


 「あびゃああああああああああああああ」


 このキショい叫び声、ドラッグに何かあったのか!?


 駆け寄って、「どうした?」とリューリが声を掛けると、ドラッグは震える指でトーナメント表を指差した。

 そこにあったのは……


 『ドラッグvsアシェッタ』


 俺とボンは、ドラッグにジュースを奢った。割り勘で。




 放課後、やけドラッグをしようとするドラッグを俺達3人で取り押さえ、俺達四人は作戦会議を開始した。


 「ドラッグ……」


 流石のアシェッタも、真剣な顔をしている。

 そんなアシェッタを見たドラッグは、制服の上に羽織った白衣のポケットをごそごそと漁り、何かを取り出した……


 「あっあへっ……こっ、これで勘弁してくれやせんかねぇ……」


 ドラッグがアシェッタに差し出したのは、ぐしゃぐしゃになった○ックのクーポン券だった。

 コイツ……これで買収しようってのか!?

 しかもよく見ると期限先週までじゃねーか!?


 「えっと、どうしようリューリ……」


 アシェッタは不安そうな視線を俺に向けた。

 流石に、この状況は俺でも困るな……

 だからこそ、真摯に支えてやろう。

 俺の背中はお前に、お前の背中は俺に、だ。


 「アシェッタ、この状況に答えは無いから、お前の好きな様にしろって言われても、お前は困るだけだよな……」


 リューリの言葉に、アシェッタは強く頷いた。


 「だから、アシェッタが答えを出しやすい様に、俺が一緒に考える」


 「リューリ……」


 「まず、この賄賂を断っだとしても、ドラッグはお前を怨んだりしない奴だし、そうだったとしてもそんな事させない」


 ドラッグは、申し訳なさそうに顔を伏せた。

 そんなドラッグに、


 「まぁ、トナメのマッチングは完全に運だしな……」


 と、ボンがフォローを入れた。


 「次に、返事によって未来がどう変わるのか考えてみてくれ」


 「未来……」


 アシェッタは、両手の人差し指を額に当てるという変わったポーズをとりながら、うんうんと唸った。


 ドラッグの賄賂を受けた場合、

 ・アシェッタの学園ランクが下がる。

 ・ドラッグが退学を免れる。


 が表面的な結果で、


 ・アシェッタの寮がランクダウンで失われるかも知れない。

 ・ドラッグに過剰な恩を売ることになり、関係性が崩れるかも知れない。


 が隠れたリスクだ。


 次に賄賂を受けなかった場合、

 ・ドラッグは十中八九退学


 という分かりやすい結果がある。


 私は、リューリとドラッグ、ボン達と一緒に遊んで楽しかった。

 だから、この関係性が壊れてほしくない。

 だけど、リューリとの暮らしを失うくらいなら……とも思う。

 むっ、難しい……ドラゴンブレスで全てを吹き飛ばしてしまいたい!


 「……っ!」


 私が無意識に拳を握ると、リューリはその上に優しく手を被せてくれた。

 手のひらから彼の鼓動を感じる。

 そうしていたら、なんだか力が湧いてきた。


 答えのない二択を、吹き飛ばせる様な力が。


 「ドラッグ、賄賂は受け取れないわ」


 瞳に確かな意思を込めて、


 「だけど、ドラッグを退学させたりはしない。」


 声に想いを入れて、


 「私、ドラゴンだもの、人間ごときの作ったトーナメントなんて、軽く吹き飛ばしてあげるっ!」


 言葉に確信を持って。

 そして最後は胸を張ってキメ顔でピース!

 私ってカッコいい!

 私って素敵!


 「アシェッタ……俺、アシェッタの事惚れ直したかも知れないわ……」

 「まっ、眩しっ……」

 「すげーーーーっ!」


 アシェッタの提案は、どうにかして、トーナメントをめちゃくちゃにして、トーナメントを延期もしくは中止にし、対戦カードの組み直しをさせるというものだった。


 人は正解のない二択に苛まれ続ける生き物だ。

 だが、ドラゴンは違う。

 その圧倒的パワーで、人間の理不尽など軽く吹き飛ばしてくれる!!!


 アシェッタ、お前はすげぇよ。

 人間の社会の中にいながら、考えて、考えて、流されずに自分もちゃんと見て、出来ることなら出来るだろうとドラゴンの力を計算に入れた。


 彼女はドラゴンだ。

 力もそうだが、心も、あの雄大で美しく、そして何よりも強い、最強の存在、ドラゴン。

 彼女はドラゴンの心を持っているんだ。

 リューリはこの時、人生で初めて誰かを強く尊敬した。

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