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【完結】魔法学園最下位の俺がガチで全勝してる理由  作者: ばらん
season2 ぶつかり合う者達
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第33話 ドラッグの聖域




 薄暗く、資料が床に散乱した汚い部屋。

 ここは、我らが美少女マッドサイエンティスト、ドラッグ先生の汚部屋だ。

 今日も今日とて、ドラッグは黙々とクスリを制作している。

 大釜に様々な材料を放り込むその姿は、さながら絵本に出てくる魔女だ。


「そしてこのキノコと……卵のカラザを混ぜれば……」

 これからできるクスリに思いを馳せ、ドラッグは恍惚とした表情を浮かべた。

 ぐつぐつ……ぐつぐつ……

 大釜から小気味のいい音が響く。

 湯気が漏れない様蓋をして、煮込む事数時間。

 龍の瞳の様な美しいオレンジ色をした液体が出来上がった。


「ふへっ……ふへへ……」

 夏休みと言えど変わらないドラッグの日常。

 そんな中での一時、七月の終わりの一幕である。




「しゅ、しゅごい……」

 我ながら恐ろしいモノを作ってしまったと、ドラッグは固唾を飲んだ。

 ザラギア戦の為に作った『ドラゴンの力をリューリが上手くコントロール出来るようになる薬』で余った材料でドラゴンの力を研究していたのだが、それが大当たり。

 ドラゴンの瞳や、ドラゴンの魔力と言った、ドラゴン特有の発達した能力。

 それは常時発動している訳ではなく、体内のホルモン的な何かによって強弱を調整している。

 そこに目を付けたドラッグ先生。

 そのホルモン的な何かを抽出し、人間にぶち込む。

 すると、瞳や魔力の能力が上昇したのだ。

 しかも、これは『セーブしていた能力を無理矢理引き出す』もので、『魔力吸収率上昇』の効果がある以前作った薬と併用ができるのだ!


「な、なーんて言っても、リューリ達ははてなを浮かべるだけなんだろうなぁ……」

 ドラッグの理論はこの世界の数百年先を行っている。

 リューリ達が勉強苦手だという事を差し引いても、理解するのは難しいだろう。

 だが、ドラッグはそんな事で彼等に隔たりを感じる事はない。

 誰にも理解された事がないのだ。リューリやボン、アシェッタも例外ではない。

 それでもいい。

 彼等はドラッグに出来た初めての友人だった。

 ボンやリューリは、最初ドラッグの薬目当てで近付いたのかも知れない。

 それでもいい。

 最初はそうでも、今は気が合うと感じる。

 気を使うなんて出来ない奴ら、きっと私の思い上がりじゃない。

 それに嬉しかった。

 自分の作ったモノを、バカにしたりしないで、喜んでくれたのが。

 何より、一緒に居ると楽で楽しい。

 それだけで、それだけで、ドラッグにとっては十分だった。


「だった、筈、なのに……」

 目の前の薬。

 この薬を使えば、ザラギアと戦った時に見た、アシェッタや、アマミヤや、リューリの様に凄いパワーで凄い強敵と戦えるんじゃないだろうか。

 正直な所気にしていた。

 あの場にいながら、ほぼ見ている事しか出来なかった事を。

 それに、あんな凄いパワーを振り回せたら……


 ドラッグは、見せ付けられ続けた。

 アシェッタの『カウンタースペル』、ザラギアの『審判は回帰せり』、アマミヤの『暗黒大魔法』、リューリの『ドラゴンドラッグガンドレッドパンチ』。

 あれを、あの衝撃を、間近で。


「な、なんだか漫画に出てくる力に溺れる三下みたいな思考になってきたなぁ……」

 少し自分を客観視して冷静になるが、ドラッグの手は既に薬を注射器に詰め込んでいた。

 少し、笑ってしまう。


「わっ、私も……皆んなみたいに……」

 白衣の袖を捲り、ドラッグは左腕を露出させた。

 それは彼女が決して他人に見せない場所。

 紫がかった跡だらけで、もはや肌色の面積の方が少ない痛々しい腕。

 とても年頃の少女の腕とは思えないドラッグの左腕は——————そう、注射の跡で埋め尽くされていた。

 そして、そこに注射針を当てがう。

 慣れたモノだ。

 痛みも少なく、紫の肌に針が沈んでゆく。

 ピストンを押し込み、体内に薬を注入する。

 ドラッグは気を張り、メモを手元に身体の隅々まで意識する。

 少しの異常も書き逃してはならない。

 自らの体で人体実験。

 ドラッグは、文字通り命懸けで薬を製作している。

 もちろん、リューリ達はそんな事知らないし、これから知る事もない。

 ここは聖域なのだ。

 ドラッグという少女が、傷を負いながら、痛みを受けながら、それでも何かを目指す聖戦の場。

 それは誰に知られるべきでもないし、ドラッグもそれを望まない。

 ドラッグが望んだ力の為の自己人体実験。

 少女の秘めゴト。

 そして、研究の夏が始まる——————

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