第八話 予想外の事態と怪しい人影
「いい天気だ…。前世では毎日社畜してたからほとんど外は出ていなかったな」
俺は今薬草採取のクエストを受けている。薬草はポーションに精製することでダメージ回復薬として利用することができる。もちろんマナを消費して回復魔術をかけることも可能だが、単純にマナ消費を抑える目的や、回復魔術を扱えない冒険者もいるためポーションは何個あっても腐らないのである。
「ここら一帯の地形を把握しておくか。アクティベート、サーチ・フィールド」
地形把握の探索魔術を起動させる。本来であれば発動には詠唱が必要だが、前世での知識を持った俺はプログラミングや科学知識の応用といった具合で、魔術理論を結構理解している。そのためほとんどタイムラグなしで魔術を発動できる。
「ここら一帯は大体把握できた。薬草があるとすると、向こうの茂みのあたりだな」
事前に薬草の生えている場所は文献調査を行ったので、ある程度の目星はついていた。近くには野兎が走りまわっており、のどかな風景が広がっていた。
「薬草は…、これか。あとは持てる分だけもって追加報酬をもらうとしよう」
薬草を腰のポケットに入れて、その場を去ろうとした時だった。
かなり近くの場所から低いうなり声が聞こえた。低く轟くその声は次第にこちらへと近付いてくる。
「このエリアにはハウンテッド・ウルフが出るが、夜にしか姿を現さないはず。なのになぜ…」
冷や汗が止まらない。だけど、こんなところでまた何も出来ずにバッドエンドなんかまっぴらごめんだ。
「頭を冷静にして何とか対処法を考えるしかない!」
かつてない状況を前に頭をフル回転させて、必死に解決策を見つけ出す。
「ハウンテッド・ウルフは夜目が利く魔物のはず。それを逆手に取るしかない!」
本来であれば夜にしか姿を現さない魔物だ。目くらましができれば隙を作ることはできる。
風魔術で一気に間合いを詰めて、眼前で閃光を放って隙を作る。それしかない!
「アクティベート、エア・ブロウ! そんでもってブライト・エリア!」
通常よりも早い魔術の連携が予想外だったのか、ハウンテッド・ウルフも目の前に発せられた強烈な光に視界を奪われる。
間髪入れずに腰からショートソードを取り出し目の前の敵へ思いっきり振り下ろす。
「うぉぉぉー!」
魔術で勢いを増した一振りは慣性を失うことなく、ハウンテッド・ウルフの首へ叩き付けられる。
「ゴヴァァー!」
「やったか…」
なんとか窮地を脱した俺は、安心感から一気に腰を地面へと下す。もうこんなのは勘弁してくれ…。腰が抜けてしまった俺はなかなか立ち上がることができなかった。
安心したのも束の間、その時だった。
「ヴォオオオオオアアアアアアアアー!!」
ものすごい雄叫びを上げながら、一度倒れたはずのハウンテッド・ウルフが最後の抵抗とばかりにこちらを目掛けて突っ込んできた。
「おいおい…、冗談だろ…」
手負いの獣ほど恐ろしいことはない。持ちうる限りのマナを使って防御魔術を生成する。とはいってもリズと違って俺のマナの総量では致命傷を避けるのが精いっぱいだ。
いくら魔術への知識があっても、生まれ持った才能ですべてが覆されてしまう現実を突きつけられた瞬間だった。
「だけど…そうだとしても…、俺は最後まで抗うと決めたんだ!」
前世のように何もできずに死ぬのはごめんだ。どうせ死ぬのなら最後まで抵抗してやる!その決意だけは誰にも負けない!
「アクティベート、プロテクション・シールド!」
目の前に突如として現れた障壁を前にハウンテッド・ウルフも勢いを失い、その牙は俺の首までには届かなかった。
致命傷は何とか避けることができたが、受け止めた重量で全身の筋肉が悲鳴を上げていた。
「くそっ!痛てぇ…、だけど作戦通りだ…。肉を切らせて骨を断つ!」
ショートソードを再び持ち直し、渾身の一振りで敵の急所へ切りつける。
「うぉぉぉぉぉぉー!」
言葉にならない叫び声を上げながら、もてる力をすべて剣へと叩き付ける。
「ゴヴァァーギャァァァー!」
悲鳴を上げながら地面へとゆっくりと倒れこみ、今度こそハウンテッド・ウルフも起き上がることはなかった。
「はあぁ、また死ぬところだったな…。俺にも使い魔がいればな…」
持てる力を使い果たした俺は、自身の才能に卑下しながら今度こそ完全に地面へと倒れこんだ。
その時、遠くの方からこちらを見ている人影がある気がしたが、きっと疲れのせいだろう。
こうして俺の怒涛の一日が幕を閉じたのであった。
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