第六話 貿易都市レイヴン
俺の新しい冒険者生活が始まろうとしていた。
使い魔召喚の能力がないnullとなってしまったが、いつまでも落ち込んでいる暇はない。自分に残された基本魔術の才能を活かして頑張っていくしかないからね。
父さんと母さんも俺が冒険者として頑張っていくことに賛成してくれた。まだ、人生何があるか分からないから諦めてはダメだと励ましてくれたのだ。
話を聞いてみると父さんの兄であるトーマスおじさんが、貿易都市レイヴンに住んでいるということで、そこでしばらくお世話になるといいと話をしてくれたようだ。
ノース村から約6km離れた場所にレイヴンがある。周辺では一番栄えている場所であり、様々な地域から商人たちが取引を行うためにここに集まってくる。
俺が目指している冒険者ギルドも支部がレイヴンにあり、有名なパーティも多く在籍している。
さきほどレイヴンに着いたばかりだが、その賑やかさに圧倒されてばかりだ。
「料理店に武具屋まで、こんなにたくさんのお店が並んでいるのか…、すごいな」
思わず感想が口から洩れてしまう。前世でイメージしていたファンタジー世界の街並みとほぼ一致していたので感動も覚える。
「うちの特産野菜とお魚を使ったスープは絶品だよ!ぜひお試しあれ」
露店の店主が皆、客を引き込むために決まり文句を叫んでいてとても活気にあふれていた。時間に余裕ができたらお気に入りのお店でものんびり見つけたいものだ。
しばらく道を歩いていると、大量の果物が入った籠をふらふらと抱えている女の子に出くわした。今にも前に思いっきり籠を落としそうでかなり危なっかしい。絶対何か起こるぞ…
そんなことを思っていると案の定、女の子は地面の石につまずき思いっきり体勢を崩した。
「危ないっ!」
よし、この距離からならぎりぎり間に合う。女の子までのルートに水生成と摩擦軽減の魔術を同時に発動させ、滑るように距離を一気に詰める。
なんとか間に合った。荷物を支えて女の子に話しかける。
「はぁよかった、ケガとかないですか?」
「あっ、ありがとうございますっ、おかげで助かりました…」
女の子が恥ずかしそうに小さな声で答える。
決して本人には言わないが、すごく華奢な感じでかわいらしい子だった。風になびくサラサラの髪を持ち、ブルーの瞳は見るものを吸い込まんとするほどきれいだった。
「大丈夫そうでよかったです。じゃあ僕はこれで」
女の子が待ってほしいという顔をしながら小さな声で尋ねてくる。
「あの…、お名前聞いてもいいですか…、お礼をしたいです…」
「気にしないでください。名乗るほどの名前でもないので(笑)。それでは失礼します」
女の子は何か言いたげだったが、気を使わせてしまうのもアレなのでその場を早々に立ち去ることにする。正直なところもう少し話をしたかったけど、自分にそんなナンパじみたことはできないので、まあしょうがない。それにほとんど女性経験のない俺(前世も含めて(笑))には、あの子はレベルが高すぎるっ!
人助けもお礼をしてほしいからやっているわけではないしな。少なくとも自分の目の前で起こっていることだったら、助けてしまうことがよくある。でも、自分に感謝してくれる人がいるのはありがたいことだ。
この後、大通りを進んで路地裏に入ったところで、トーマスおじさんと落ち合う約束になっている。道なりに進んでいくとトーマスおじさんが分かりやすいところに先に待っていてくれていた。
「おっ、レイじゃないか!2年ぶりぐらいだな!」
「トーマスおじさんもお久しぶり!これからしばらくお世話になります…」
「そんな遠慮しなくても大丈夫だよレイ。さあさあ家に戻ってたくさん話をしようじゃないか!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
トーマスおじさんが家の中へと案内してくれる。そこには飲み物が用意されていて、トーマスおじさんの奥さんであるローラおばさんが出迎えてくれた。
「あら、見ない間に大きくなったわねレイ。ようこそわが家へ」
「ローラおばさんもお久しぶりです。ここでしばらくお世話になります!」
「さあ、冷めないうちにポルポルをどうぞ」
「ありがとうおばさん。いただきます」
俺はポルポルが大好きなので家でもよく飲んでいた。ちなみにポルポルとはコーヒーのような飲み物で、ポルポルの木の実を煎ってその成分を抽出した飲み物である。
「おいしい!やっぱりこれがないと生きていけない…落ち着くなぁ」
トーマスおじさんが冒険者について聞いてくる。
「父さんから話はもう聞いているが、レイは冒険者ギルドに入りたいんだろう?」
「そうなんだ。もう父さんから話は聞いているかもしれないけど、実は俺…nullなんだ。いつも仲良くしていた子は優秀で魔術学校に入学して…」
「レイが言う通り父さんから話は聞いているよ。でもなレイ。そんなに落ち込むことはないぞ。たとえサモナーの才能があったとしてもそれを活かすことができるかはその人次第なんだ。力におぼれ闇に落ちた人間だってたくさんいる」
「そうよレイ。サモナーでなくたって基本魔術を極めれば、どうとでもなるわ。レイのように優しくて努力できる子ならなおさらね。一番大切なのは生まれ持った才能じゃない。自分の心を強く持つことよ」
おじさんとおばさんが元気づけてくれる。世の中の人たちがみんなこういう考えを持っていたならどれだけ平和だろうか。まあ、現実はそううまくはいかないんだけどね。
「ありがとう。今回この街に来たのも二人が言うように自分にできることを始めようと思って。俺はnullでこのままではみんなに置いて行かれると思ったんだ。それでせめて自分が得意な基本魔術を活かせそうな冒険者をやろうと思うんだ。何かやり始めることで新しい発見があるかもって」
「そうだったんだな。よし、わかった!レイも知っているとは思うが、レイヴンには冒険者ギルドの支部がある。そこで登録を済ませてから簡単なクエストを徐々にこなしていくといい。ギルドに知り合いがいるから話は簡単に通しておくよ」
「トーマスおじさん、ありがとう!」
「でも中にはかなり黒い噂があるパーティもあるから気はぬいてはいかんよ。信頼のおける人を探していくのもうまくやっていく秘訣だからね。基本冒険者は気が荒いんだ、そこは気を付けるんだよ」
おじさんの言う通り冒険者には質の悪いならず者もいる。俺もジャック達のような嫌な奴らと関わってきたからわかる。でもそれ以上にやばい連中もいるってことだから注意しないとな。
俺は早速冒険者ギルドに向かうことにした。
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