第三話 村の子供たち
王国暦901年 ノース村
「きっと私には上位の使い魔が応じてくれるに違いないわ!」
「俺だって負けないくらい強い使い魔が来るに違いないに決まってる!」
村の広場に集められた子供たちは皆そのようなことを口々にして、自分と契約できる使い魔のことに夢中になっていた。
この世界では10歳になった子供たちを対象に使い魔との契約の儀式が執り行われ、使い魔の召喚に成功した者のみがサモナーとして活躍することができる。
使い魔を介した召喚魔術は誰でも扱うことのできる基本魔術と比較しても強力なため、今後の自分の生きていく進路が決まるといっても過言ではない。
特にレイたちのように優秀な王国のサモナー隊を目指している子供は尚更である。もっとも王国サモナー隊には入れるのは、適正者の中でもごく一部の優秀な者だけであるのだが。
そして今日、ノース村でも10歳になった子供を対象に契約の儀式が行われるのである。
リズが楽しそう、でも不安そうにも語りかけてきた。
「ついにこの日が来たんだ。全然実感わかないけどまた夢へ一歩近づけるんだね。私にはどんな使い魔が来るのかな…、そもそも契約できなかたらどうしよう。」
まあリズは俺と違って魔術の才能があるのはよくわかっていた。基本魔術の一つである水生成を前から一緒に練習していたが、明らかにリズのものはおかしかった。俺が生成できたのはせいぜいコップ一杯ぐらいの量だが、一方でリズはというとバケツ10杯分くらいの量をいとも簡単に作り出しているくらいだ。
制御が上手くできなくて頭上に水を生成してしまい、ずぶ濡れになっていたのはかわいそうだから内緒の話にしておこう。
「リズは明らかに魔術の才能が飛びぬけてるし使い魔が来ないのはあり得ないでしょ。」
「そうだといいけど…。レイだって水の量は(笑)ちょっとあれだけど人一倍努力してたし大丈夫だよ!」
リズの悪気の無い事実にちょっとへこんだけど、俺も何かと頑張ってきたし報われると思いたい。
「おっ、そろそろ始まるみたいだ、契約の儀式が。まあ僕たち3人ならなんてことないに決まってるけどね。なんなら僕にはもう黄金の獅子なんかがくる気がするのよ。」
そんな強気な発言をしていたのは、村の子供カーストでも上の方に君臨するジャック=ロドリゲスである。何かと人の弱みに付け込んで自分が優位に立とうとする典型的な嫌な奴だ。たとえ異世界でも人間関係という煩わしさは、どこの世界でも共通なんだなということを痛感する。
俺としてはあまり関わりたくないタイプの人間だ。
「黄金の獅子ってもうそれ神獣に近いんじゃないの(笑)、でもジャックなら引き当ててもなにもおかしくないよな。やっぱり人を引き付ける力があるというか」
「私だってわかっていましたよ。彼は間違いなくほかの子供とは違うと見えま~す。」
「ロイスもやっぱりそう思うよな。これは神獣使い誕生の準備をしなくちゃだな」
そう発言したのは、ジャックに金魚のフンのようについて回る取り巻きのエドウィン=クラークとロイス=グッドマンである。
エドウィンはおそらく自分の保身のためというのもあるのだろうが、ジャックを上にあげて下だと思う人間に対しては、強気に出てくるタイプだ。ロイスは発言こそは大人びた口調だが、言っている内容はエドウィンとそう大差ない。あと口調が独特なのは、まあ許してやるか。
俺は彼らとはなるべく顔を合わせたくないので、離れた場所でひっそりしていたつもりだったのだが、運悪く目を付けられてしまった。
何でこっちに来るんだよ。そんなに俺のことが好きなのか?
冗談は置いといて勘弁してくれ。
「リズさんは相変わらず優雅でかわいいな。魔術の才能もあるのは間違いない。そうだよな、エドウィン、ロイス」
「俺も同感だよジャック。前に練習しているところ見たけど魔術の威力がすごかった。あんなに大量の水生成ができるとは。それに比べ隣のレイはなんてかわいそうな水生成」
「私も同意見ですね。元の才能だけではなく、魔術構築の知識もないとあれほどの魔術はできないと見えま~す。レイ君とつるんでいてはレベルが落ちてしまうと見えま~す」
こいつらいつの間に俺たちの練習を見ていたんだ。もしかしていつも見てるのか?
嫌な感じだと思っていたけどまさかストーカーの属性まで持っているとは。ここまでくると感心するレベルだな。
ジャックがリズに話しかける。
「二人ともそう言ってますよ。リズさん。隣にいるレイとでは練習にならないでしょう。魔術の才能がどう考えても釣り合っていない。どうです、僕たちと一緒にこれから練習しないですか?」
「ジャックさん。誘ってもらえてありがたいけど、遠慮しておきます。私の魔術はそんな大したものではないし、何よりレイと一緒にやるからこそ得られるものがたくさんあります。魔術構築だってレイが教えてくれたものです。」
リズが大人びた対応で、しかしどこか怒りのような感情もこもっているように思えた。
「そうですか。残念ですがいつでも僕たちは歓迎しますよ」
そう言ってジャック達は俺たちのもとを離れていった。
はあ、できればもう二度と来ないでほしいんだけど。でも俺と一緒にいるとリズに迷惑かけてしまうことになる。
「リズ、ごめん。なんか俺といるとメンドクサイ人たちに絡まれるよね、もし嫌ならこれからの練習はもうやらな…」
リズが話を遮って話してくる。
「そういうことは言わないで。レイは何も悪くないでしょ。これは私が決めたことだから」
「ありがとう。リズ、じゃあ二人で絶対に馬鹿にされないような強いサモナーになろう!」
「そうそう、その意気だよ、レイ!」
こんなことを言ってしまっては絶対に最強のサモナーにならなくちゃな。自分のためだけならまだしも、俺のことを信じてくれたリズや両親を裏切ることはできない。
こんなことをしているうちに契約の儀式が始まろうとしていた。
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