第二十八話 守る力を手にするために その3
謎の追跡者との激闘が始まります!
レイとウィンブル、追跡者二人が対峙する。ウィンブルの一声により静寂が切り裂かれ戦いの火蓋が切って落とされた。
「いくぞレイ!覚悟しろよ野郎ども!」
「威勢のいいことだ!それもいつまで続きますかねえ!」
ウィンブルは腰からロングソードを居合様に抜き出しリーダー格の男に切り掛かる。
「ざんねぇ〜ん」
男も腰からショートソードを2本取り出しウィンブルの剣戟を受け止める。追跡者も手練れのようだ。洞窟の中には金属同士の鈍い衝突音が木霊した。
「威勢のいいおじさまですねえ。これは楽しめそうだ」
「俺の居合を受け止めるとはただのチンピラではないようだな、でも最後に泣き言言うんじゃねえぞ!」
一方ではもう一人の男とレイが対峙している。こちらは体格が良くパワーで押し切るタイプの敵に見える。
「ふふぁあーー。あのおっさんと比べてお前は手応えがなさそうなやつだ。俺は楽しめそうにないな‥あまり退屈させないでくれよ。まあ期待はしていないが」
男は欠伸をしながらなんとも興味がなさそうな様子で面倒くさそうに斧を構える。
「はぁーあ。面倒だしさっさとおわらせますか」
「退屈かどうかはまだ分からないよ。脳筋さん?」
男の態度がどうにも腹立たしかったので、思わず反抗してしまう。以前の自分であれば考えられなかった行動だ。しかし自分の可能性にかけてくれたフェネクスや信頼してくれるノアたちのことを考えると根拠がなくとも自然と前に進めるようになった。
(こんなところでくたばっていられない!)
男も癇に障ったのか少しばかり苛立ちを見せる。
「調子に乗るなよクソガキが」
先ほどのやる気のなさから一転、男が斧を上段に構えながらこちらに突進してきた。魔術を行使し速度を増した一撃がレイの頭上に振り下ろされる。
「脳漿ぶちまけながらあの世で後悔しやがれ!」
たしかに男の攻撃は速度も早く、気を抜けば一瞬で洞窟のシミと化してしまうだろう。けれど詠唱速度に関してはレイの方に分がある。
「アクティベート、ファスト・スピード!」
タイムラグなしの魔術行使によりレイの体は元の位置から離れた場所へと瞬時に移動する。
男も一瞬何が起こったのか理解できていなかった。
「詠唱なしだと!どうなっていやがる」
「これで少しは楽しめてもらえましたかね、動きがとろい脳筋さん!」
「おもしれえ!さっきの発言は訂正してやる。だがここでお前がくたばるのは決定事項だがなぁ!」
男は激情に駆られながら自身に魔術強化を付与していく。
「根源たるマナと引き換えに力を示せ。グレート・フィジカル、ファスト・スピード!存分に受け取れぇクソガキ!」
先ほどとは威力も速度も桁違いの一撃がレイに襲いかかる。だがレイはこの瞬間を待っていた。男は冷静さを欠くと斧での一撃に集中しすぎて振りの隙が大きくなることをレイは見抜いていた。だからこその挑発だったのだ。
「アクティベート、ファスト・スピード!」
自身の移動速度を向上させすぐさま男の真横まで移動、斧の勢いを利用してそのまま相手の態勢を崩す。
「なにぃ、ぐはっ!」
逃げ場を失った慣性はそのまま男の体ごと地面へとめり込ませる。すぐさま態勢を立て直そうとするが、その首元にはロングソードが無慈悲にもあてがわれる。
「このまま続けてもお互い得にはならない。諦めてくれないか」
レイが投降を促すがこの男の辞書にそんな言葉は存在しなかった。ニヤニヤと笑いながら男が魔術詠唱を始める。
一瞬の気の緩みによってロングソードが男の首元から離れてしまう。
「こんなところで終わらせてたまるか‥、本番はこれからだろぉ!クソガキ!」
男がサモナーの奥義である召喚魔術を行使する。先ほどまでの優勢は無くなりレイの表情にも焦りが見え始める。
「ジャイアント・ボアーの使い魔よ。我と誓いし盟約に応じ、力の根源たるマナと引き換えにここに顕現せよ―。サモン!」
魔術詠唱と同時に召喚陣がビリビリと音を立てて、使い魔が降臨する。巨大な猪の使い魔だ。
「ここで一気に方をつけさせてもらうぜ。根源たるマナと引き換えに力を示せ―。<インテグレーション>!」
そして続け様にサモナーの切り札である<インテグレーション>を発動させて男の体内から計り知れないエネルギーが放出される。この技を発動させたが最後、ここでレイを抹殺する決意の表れでもある。
「なんで安易にこんなことができるんだ‥!」
この男だけではない。セイル村で襲撃された際にも人の命を奪おうとする連中が暗躍していた。絶対にこんなことは間違っている。だからこそ守るべきものを守れるようにと自分は再び立ち上がったのだ。
「こんなところでは終われない、まだだ!アクティベート、グレート・フィジカル!」
前回はフェネクスの力を借りて咄嗟の召喚魔術を発動させたが、まだ力を制御できない状態で連続して同じことをやるのは心身に計り知れないダメージを負う。その上にマナも不足しており召喚魔術の行使は不可能だった。であれば長期戦に持ち込んでやり過ごすしかない。
「持ち堪えてくれ!俺の体!」
前回のワイバーン襲撃の際に蓄えていたマナを全て出し切ってしまったので、そう長くは持たないことは分かっていた。なんとかウィンブルの助けが来るまでは耐えなくてはならない。
そんなことは関係なく男の攻撃は無慈悲にもレイへと襲いかかる。ロングソードで必死に攻撃をいなすが、このまま力尽きるのは時間の問題だった。
「さっきまでの威勢はどうしたぁ!防御一方じゃジリ貧だぜぇ!オラオラオラぁあああ!」
悔しいがこの男の言う通りだ。ロングソードも攻撃を受けるたびにバリバリ音を立てている。いつ折れてもおかしくない状況だ。マナが力尽きる前になんとか手立てはないか頭をフル回転させる。
「くそっ、せめて最低限の召喚魔術を行使できれば勝機はあるのにっ」
再びの試練がレイに襲いかかろうとしていたーー。
ここまで読んでいただきありがとうございます。気に入って頂けたらいいねやブックマーク、評価をいただけると創作の励みになります。よろしくお願いします!