第二十七話 守る力を手にするために その2
さまざまな勢力の思惑が交差していきます!
〜数日前、とある地下階層にて〜
セイル村とライル村の襲撃の様相はゴルドフの耳にも届いていた。結果は半分成功、半分失敗といったところだろうか。誘惑剤の効果が確認できたことは大成功と言っていいだろう。しかし惹きつけられた魔物が全滅させられたのは大きな誤算だった。
大男は苛立ちを隠せずその拳を壁に叩きつける。その衝撃よって壁が崩れ落ち、周りにいる手下たちにも動揺が走る。
「クソがっ!何が起こりやがったァ?」
ゴルドフのいる部屋には三人組の冒険者<希望の灯>の姿もある。リーダーのマイクが口を開く。
「結果は聞いての通りだ。俺たちは指示通りに誘惑剤を利用して村に魔物を誘き寄せただけだ。こちらに責任を全て押し付けられても困る」
マイクもゴルドフを刺激しないように冷静な口調で弁明する。周囲の空気はぴんと張り詰め少しの刺激で爆発しそうな雰囲気だ。
「結果が伴っていないくせに口だけは達者なようだなァ、マイク。今すぐその生意気な頭を吹き飛ばしてやりてぇがァ、戦力を消耗させるのはお互い特にはならねェ。今回は見なかったことにしてやるよォ」
表面上は冷静を保っているが大きな争いに発展しなかったことを内心ほっとする。
「ああ、それは同意だ。今後どうすべきか対策を練る方が建設的だ。まずは状況を整理したい」
「第七師団が来ることまでは俺も想定済みだったァ。ただライル村では想定以上に苦戦したがなァ」
「そして、俺たち三人が第七師団団長の妹を囮にセイル村へワイバーンを引き付けたところまでは順調だった。だが‥ここからが最大の謎だ。あの距離だといくら師団長といえどもワイバーンの襲撃から全て捌き切るのは不可能なはずだ」
「ああ。そのために俺がァわざわざ裏から手を回したからなァ。そうなると認めたくはないがァ、誘惑剤の効果が想定より低かった可能性はあるなァ」
「いいえ、その可能性は低いわ。お嬢ちゃんに取り付けた誘惑剤は確かにワイバーンの集団を引き寄せたのを確認しているわ。まあそのあとは離れちゃったから分からないけどぉ」
「ロキの言う通りだ。そうなると‥」
「セイル村あるいはライル村に俺たちがァ把握できていなかった実力者がいたァ、なんてそういうことかァ?」
「信じたくないがそうなるな」
マイクの想像通りなら信じられないがワイバーンの群れを単騎で掃討した人間がいるとしか考えられない。本当にそんな人間がいるとしたらそれこそゴルドフ以上の化け物ということになるが。
険しい表情のマイクとは対照的にゴルドフの顔は悪魔のような笑みに溢れていた。
「ハハハァァァ!面白ェ!Aランク冒険者かァ?いやもしかしたらSランクかもしれないなァ!正直言うと今までぇ退屈だったんだァ。どこの誰かは知らねぇががっかりさせるなよォ?ははははっははァァァァァ!」
「待て!これからどうするつもりだ。ゴルドフ」
「そんなの決まってるだろぉ?村の英雄様を盛大にもてなしてやるのさァ!お前らもやられちまわねぇようにせいぜい気をつけるんだなァ」
そう言うとゴルドフは次の手を打つ為別の部屋に消えていった。
「マイク、私たちはどうする?まだこんなところで躓いていられないでしょ?」
「まだ俺たちの故郷のこともあるからな。ここはゴルドフの手に乗るしかないだろう」
「あなたがそう言うならそれについていくだけだわ。やることは変わらないのだから」
マイクとロキ、ペーターは自分たちの目的のため次の一手に移るのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「着いたぜレイ。ここが鉱石のある場所だ。道中魔物にも遭遇しなかったし今日はついてるな」
レイとウィンブルは村から少し離れたところにある鉱山にたどり着いた。洞窟の中は陽のの光が差していて多くの鉱石が眠っていることが分かる。
「おぉこれはすごい。ウィンブルさんは中に入るのは初めてですか?」
「入り口付近までしか行ったことはないな。本格的に調査するのは今日が初めてだ。今日は可能な限り奥まで入って鉱石の確認をしたい。まあ魔物は大丈夫そうだが、レイも手伝い頼むぜ」
「任せてください!」
鉱山の入口はかなり狭いが、中に入るとかなり余裕のありそうなスペースが奥まで広がっていた。
「こりゃぁ、、すげえ。村の連中にも見せてやりたいぜ。ん?こりゃあ銀鉱石じゃねえか!こんなもんがたくさんあるとしたら、村の復興に使えるどころかお釣りが大量にきちまうな笑」
「銀鉱石があれば武器の強化にも使えますね。ウィンブルさん、奥にもなんかありそうですよ」
レイが奥に歩みを進めると緑色に輝く鉱石が一面に広がっていた。ウィンブルもその光景に圧倒される。
「もしかしてこれって緑閃石じゃねえか?まじかよ、、実物見るのは初めてだぜ」
「聞いたことがあります。たしか魔術効率を高める効果がある石ですよね。それがこんなにあるなんて」
「ああ、急いで街の連中にも伝えないとな。こりゃみんな腰抜かすこと間違いなしだな!とりあえず陽が沈む前に今日はここまでにしておくか」
これだけの緑閃石があれば村の復興にも役立てることができるだろう。レイとウィンブルも自然と笑みが溢れる。軽やかな足取りで来た道を引き返していく。
「レイ、ちょっと待て。俺ら以外に鉱山に入ったやつはいないよな?これ見てみろ」
ウィンブルがそういうと足元を指さしている。
「こんな足跡はさっきはなかったはず。これは‥つけられましたね」
「レイ。すまねえが戦闘準備頼んだぜ」
「もともとその想定だったんで問題ないですよ!」
「さすがだな、頼りにしてるぜ相棒」
そして二人の前に追跡者が姿を表す。男が二人、不気味な笑顔を浮かべながらこちらに近づいてくる。
「初めましてお二方。私は優しいので選択肢を与えましょう。ここでこの鉱山のことは忘れて大人しく村まで帰っていただけないでしょうか」
「それはどうもお優しいことで。でも兄ちゃんに気を使われるほどおじさんの腕は訛ってないぜ?それに大人しく帰ったところで村の連中に腰抜けって笑われちまう。だからそれは無理な相談だな」
「俺もウィンブルさんに付き合いますよ。だって相棒ですから」
「言うじゃねえか、レイ」
「そうですか。それでは大変残念ですが‥ここで二人には鉱石の養分になってもらいましょうかねえ!」
こうして鉱山をめぐる戦いが切って落とされた。
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