第二十三話 <不死鳥>降臨
今回の話で一区切りになります。ここまで読んでいただきありがとうございます!
ワイバーンの群れがついにレイ達を捉えて襲いかかってくる。
「フィオナ!大丈夫か」
「私はいいからレイさんだけでも逃げて!」
「それはできない。逃げる選択肢なんて俺にはない!」
フィオナへ防御魔術を展開しながら基本魔術を発動する。
腰からショートソードを取り出しワイバーンの羽を切り付けていく。
根本の刃が入りやすいところを狙うが、空を飛んでいるため別の部位に当たってしまう。
「くそっ、外皮が硬すぎる!」
筋力は向上しているが手持ちのショートソードではワイバーン相手には心許ない。硬い鱗に阻まれて刃こぼれしていくのが音でわかる。
ゴリゴリと異様な金属音と共にショートソードが朽ちていく一方でワイバーンは無慈悲にも攻撃を止めることはない。
「グワァーー!」
鋭い鉤爪を立ててレイの首元を狙ってくる。なんとか躱すが身体強化もずっと続いているわけではない。マナが底をつけばもう逃れることはできない。
「これ以上は耐えられない」
だがワイバーンが猛攻を止めることはない。フィオナにかけたシールドもヒビが入りいつ砕けてもおかしくない状態だ。
そこに異変を感知したセイル村の村人達がやってくる。
「おーい君たち!今助けるぞ!」
「ダメだ。こっちは危険です!」
「そんなことはいい!心配するな。よし、おまえ達いくぞ!」
勇敢にも使い魔を召喚した村人達が助けに入ってくれた。ライル村の村民達には助け合いの精神が当たり前として根付いているのだ。
「ワイバーンめ、どっから湧いてきやがった。少しでもいいから時間稼ぎするぞ」
「おい、誰か王国騎士団を呼んできてくれ!俺たちだけじゃワイバーン相手は勝機が薄い。」
「でもここにきてくれる騎士団なんていやしないだろ!」
「大丈夫だ。第七師団ならきっときてくれる!」
村人達が皆、王国騎士団が来てくれると信じて果敢にワイバーンに立ち向かっていく。だが現実は甘くはなかった。
「くっ、こっちに来るな!ぐはっ!」
無慈悲にも振り上げた剣は空を切りワイバーンの鉤爪が村人の肩を抉る。その様子を見て他の者達にも動揺が広がっていく。
レイも必死に打開策を考えるが良い手段が見つからない。
「どうすればいい、なんで俺はいつも無力なんだ!」
肝心なときに何もできない自分がもどかしく、そして腹立たしかった。
そして時間が経過するごとに村人達の戦意も喪失していく。
「ワイバーンの数が増えてないか。もうおしまいだ‥」
ワイバーン達がまるで馬鹿にしているかのように鳴き声を甲高くあげている。
そしてフィオナにかかったシールドもついに破られ牙が向けられる。
残り少ないマナを使って身体強化。フィオナに向けられた牙をショートソードで受け止める。屈強な牙とショートソードがぶつかり合い鍔迫り合いの状態となる。
ワイバーンの息が掛かるぐらいの間合いでレイが全力で押さえつける。
「ここっ‥からっ‥離れろぉおおおああー!」
地面を強く踏ん張るが、ワイバーンの力にだんだんと押されていく。身体中の筋肉が悲鳴をあげ、膝も砕けそうになる。
「レイさん、お願い!早く逃げないとあなたが死んでしまう!」
「だっ、大丈夫だ。騎士団が来るまではここから逃げない!くそぉぉおおお!」
最後の力を振り絞ってワイバーンの体勢を崩す。レイはその隙を見逃さない。
「そこだあああ!」
風魔術で剣速を上げボロボロになった刃の先端をワイバーンの首元に突き立てる。
「グギャアアアアアアアー!」
決死の攻防の結果ワイバーンに致命傷を与えたが、一筋縄ではいかなかった。怒り狂ったワイバーンが守りを捨てレイに鉤爪を立てながら宙に舞い急降下してきたのだ。
「ダメだ、もう動けない!」
最低限のシールドを生成し受け身の体勢をとるが、悉く粉砕されレイの胴体を上から下へと鉤爪が振り下ろされる。
「いやああああー!」
フィオナの目の前で血しぶきをあげてレイがその場に崩れ落ちる。
鎖骨から腰まで一気に引き裂かれたが、寸前のところで魔術を発動させ急所を外すことはできた。とはいってももう戦える体ではなかった。何もしなければこのまま死に絶えるだろう。
村人達も襲われ周りはワイバーン達の独壇場と化していた。
「フィ‥オナ‥ここから、はや‥く逃げ」
レイも必死に言葉を紡ごうとするが意識も朦朧として声をあげるのにも限界だった。
「レイさん!しっかりしてください!お願いだから死なないで‥」
フィオナも泣きながら必死に声をかけるがだんだんとレイの反応が薄くなっていく。だがワイバーンにそんなことは関係ない。まるで最後のメインディッシュと言わんばかりにゆっくりとフィオナに牙を向ける。
フィオナも恐怖のあまりあげる声が言葉になっていなかった。
「あああぁあああ!」
――――――――――遠くの方で叫び声が聞こえてくる。
そうか。俺はまた何もできずに死んでしまったのか。どこへいっても何もできずに終わってしまう運命なのだろう。
この世界では自分の気持ちに素直に生きていきたいと思ったのにな。まさに正直者がバカをみているんだよな。
結局俺は誰にも必要とされずいいように利用されるだけだったんだ。だったらもうこのまま眠ってしまいたい。何も考えたくない。放っておいてくれ。
そして、見知らぬ声がレイに語りかけてくる。
「おい、レイ。本当にそれが貴様の本心なのか」
誰かは分からなかったがなぜだろうか、初めて会った印象は受けなかったのだ。
「誰だ、おまえは?なぜ名前を知っているんだ」
「なんということか。貴様の一番近くにいたというのに。まあそれもしょうがないか」
声の主は自分の近くにいつもいたのだという。俺のファンがいたというのだから驚きだ。
「もう一度聞こう。貴様は本当に何もせずにこのまま終わりたいのか」
変なこと聞くやつだ。もちろん答えは決まっている。裏切られるだけなら、誰からも必要とされず利用されるだけならこのままでいい。
「ああ。もう疲れたんだ。このままでいい」
だがそこで気づく。自分が涙を流していることに。
「あれ、おかしいな。なんで涙が」
「貴様の心の声をよく考えることだな。もう一度聞くぞ。レイ、本当にこのまま終わってもいいんだな?」
いやだ。目を逸らしたかっただけだった。本当は理不尽を打ち砕く力が欲しかった。自分を信頼してくれる人たちを守りたかった。
そう、最初から答えは決まっていたんだ。
「理不尽を打ち砕く力が。何より大切なものを守る力が欲しい!こんな終わり方はしたくない!」
「そうか。それが貴様の答えでいいんだな?」
「ああ。もう俺は逃げない」
「貴様の決意確かに受け取った。であれば我の力を貴様に託すとしよう。この世界を照らす光とならんことを」
「待ってくれ!おまえは一体‥」
「我が名はフェネクス。たった今貴様の配下となった通りすがりの使い魔だ。またすぐに会うことにあるであろう、待っているぞ」
――――――――――その声の主はそう言って俺のもとから離れていった。
遠くなっていた意識が急激に覚醒していく。気づくと抉られたはずの胴体もなぜか治癒している。
そしてフィオナがワイバーンの牙に襲われそうになっていた瞬間だった。そんなことは絶対にさせない。
「アクティベート、ファイヤ・ボール!」
その魔術はおおよそ基本魔術の威力ではなかった。烈火の如くワイバーンを燃やし尽くす。炎はまるでその存在を許さないかのように骨さえ残すことなく全てを焼き尽くしたのだ。
「この力は一体‥」
自分でも何が起きたかは分からない。でもやるべきことは最初から決まっていたのだ。
「レイさん!本当によかった‥もうダメかと」
拘束魔術も解けてフィオナが泣きながらレイの元に駆け寄ってきた。
「フィオナ‥無事でよかった。もう大丈夫だから」
「本当に死んでしまったのかと‥」
レイが周りを見渡すとワイバーンが空中を旋回し、突如現れた脅威に困惑していたようだった。
時間は短かったが、自分の本心に素直になれたきっかけを彼は与えてくれた。
「フェネクスには感謝しないとな」
フェネクス。自分の本心に向き合うきっかけを与えてくれた存在。そして何より今ならわかる。
――――――――――レイの最強のパートナー<使い魔>であることを。
俺に理不尽を打ち砕く力を。そして大切なものを守り抜く力を。
「不死鳥の使い魔よ。我と誓いし盟約に応じ、力の根源たるマナと引き換えにここに顕現せよ―。サモン!」
レイの目の前に巨大な召喚陣が出現する。大きさは通常のものとは比べ物にならないだろう。聞いたことのない轟音ととてつもない閃光が周辺を明るく照らす。
そして召喚陣の中心にはワイバーンが子虫に見えるほどの存在が出現した。
不死鳥<フェネクス>。使い魔の頂点に君臨する存在―――――神獣である。
初めての召喚だったがフェネクスと契約した今は、全ての力を直感で操ることができていた。
「燃やせ。無限の業火」
不死鳥から凄まじいエネルギーが収束していき、それがワイバーンの集団を容赦なく飲み込んでいく。
一直線に放たれた炎の柱はワイバーンの塵さえ残すことなく全てを燃やし尽くす。
周りの人たちはあまりの一瞬の出来事に理解が追いついていなかった。
「嘘だろ、あのワイバーンが一瞬で‥」
「そうだ‥あれは‥間違いない!神獣だ。あんなことができるのはそれ以外考えられない」
レイも脅威が消えたのを確認すると一気にその場に倒れ込んでしまう。
「さすがにやりすぎたかな」
そのレイをフィオナが優しく受け止める。
「やっぱりレイさんはこの世界を照らす人なんですね。私は間違っていなかったって分かりましたよね?」
少し意地悪な笑みを浮かべながらレイに語りかける。
「そういうことにしておくよ」
こうしてセイル村の脅威は去り闇の冒険者達の計画に大きな狂いが生じ始めたのであった。
そしてこの日、のちに歴史に語り継がれることになる伝説の神獣使いが誕生したのである。
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