第二十一話 偶然か必然か
道中今までの経緯や出来事を話しながらレイとフィオナは冒険者ギルドへと向かっていた。
「フィオナは心眼持ちでその人の本質を見抜くことができるのか。やっぱりすごいな」
「はい。あまり人には言ったことないんですが、レイさんは信用できる人だと分かっていますので」
「なんかそこまで持ち上げられると落とされた時が怖いな‥」
冗談を飛ばしながらフィオナと会話を続ける。
以前のレイであればこんなに可愛い女の子と話すことはかなり困難を極めただろうが、この世界に転生してからは色々と精神も鍛えられているらしく、今では普通に会話できるようになっていた。
「そして最近魔物が近隣の村に出没してるので情報収集のためか‥。でもフィオナだけだと心配だ」
「そのためにレイさんを探していたんです」
「あまり期待には応えられないと思うけどできる限りは頑張るよ」
nullの自分にできることは限られているがここまで信頼してもらえるのであれば断る理由も特になかった。
しばらく歩いていると冒険者ギルドが見えてくる。
「そろそろ見えてきたな。あそこが冒険者ギルドだ。まあ入った瞬間嫉妬や偏見の目が向けられると思うからスルーしてくれるとありがたい‥」
「分かりました。やはり他の人たちは見る目がないですね」
フィオナは少し怒り気味の表情でそんなことを言ってくれる。こんなにありがたいことはない。
そして扉を開けてギルドの中に入る。
いつもは入った瞬間かわいそうな落ちこぼれを見るかの如く一斉にレイへの侮蔑の視線が向けられる。
だが今日はそんな可哀想な青年に不釣り合いの可憐な女の子が一緒にいるのだ。その視線はいつもの比にならないほどこちらに向けられることだろう。
待ってましたとばかりに柄の悪そうな冒険者が絡んでくる。
「そこのnullくんよぉ。使い魔に恵まれないからって女の子を誘拐してきたのかぁ?どんどん落ちぶれていくなぁ、あははは!」
「おいおい、そこまでにしておけよ。あんまり関わると変な運気がこっちまで移っちまうよ」
「ふっははは!それもそうだな。まあせいぜい頑張れよ、未来永劫Eランクのnull君?」
その様子を見てフィオナの表情が怒りで滲む。なぜここまで誠実で良心的な人がこのような扱いを受けなければならないのか。
その様子を見てレイも諦めているかのように何も言い返さない。
「いいんだフィオナ。こういうのにはもう慣れてるから」
「レイさんがそういうなら‥」
内心レイも言い返したい気持ちはあるのだが、それを実行するだけの自信がないのもまた事実であった。弱いままの自分が悔しかったのだ。
だからこそ基本魔術では他の冒険者の一歩上を行くぐらいには努力を重ねてきた。
それが実を結ぶまでは辛抱するしかない。
また別の冒険者が絡んでくる。この冒険者は以前にも別の女性にナンパをして見事に玉砕していたアッシュ=カーソンだ。レイからすればこのような連中は一体何が楽しくて人を貶めようと考えているのか理解に苦しむだけだ。まあ、この男に関していえば単純な自意識過剰バカと言えなくもないが。
「そこのお嬢さん。僕たちのパーティーと一緒にどうだい?そこの役立たずとは大違いだよ。キラッ」
「余計なお世話です。遠慮させていただきます」
フィオナが抑揚のないトーンかつゴミを見るかのような目で即答する。自分にはないその芯の強さにレイも感心する。
(フィオナすごいな‥これには流石のアッシュにも同情するな)
「何という即答。きっと脅しをかけられているのですね‥。キラッ」
フィオナも馬鹿馬鹿しいとばかりに一切相手にしていないようだった。
そんな冒険者ギルドでの洗礼を受けながら、レイとフィオナが受付の近くで今後について相談しているとまた別の冒険者パーティーがやってきた。人数は三人で装備がかなり整えられているのが分かる。防具には魔術紋様が刻み込まれており、レイが身につけている防具とは明らかにレベルが違う。
(次から次へと困ったな‥、しかも一番厄介そうな連中にみえる。どうするか)
レイが対策を考えていると、パーティーのリーダーと思われる男が意外な言葉を口にしてきた。
「初めまして。クエストを探しているんですか?」
「はい。近隣の村で魔物が頻発しているのでその調査とかできればと考えてて」
「それは奇遇だ。我々も実はその調査を頼まれていてね。よければ一緒にどうだろうか」
これは千載一遇のチャンスだ。レイだけだと正直フィオナに何かあった時に守り切れる確証がないが、この冒険者がいれば百人力だろう。
横目でフィオナをみると頷いているのでこの申し出をレイが受け入れる。
その一方で周りはいろいろと騒がしくなっているようだった。
「あの冒険者3人組、たしかパーティー名は<希望の灯>。Aランククエストを何個も達成しているらしいぞ。しかもその中の紅一点すげえ可愛いよな。スタイル抜群で出るところは出てるしな」
「それには同感だな!それにしてもそんなすげー奴らだったのか。ここ最近レイヴンのギルドで少し話題になっていたがあのパーティーのことだったのか」
「でもなんでそんなパーティーがあのnull野郎と話しているんだ?」
「さあな、荷物持ちでもやらせるんじゃないのか」
「ああ、それなら納得だな。nullにはお似合いだわ」
ところどころ自分に対する侮蔑の声も聞こえてくるが今更気にすることでもない。申し出の話を冒険者の男が続ける。
「それは良かった。何があるか分からないから人数は多い方がいいと思ってね。すまない、紹介が遅れたね。私はマイク。タメで構わないよ。そっちいるのがロキとペーターだ」
「紹介を受けたロキよ。よろしく頼むわ」
「俺はペーター。よろしく‥」
ロキは女性冒険者で容姿端麗・スタイル抜群という感じだ。周りの冒険者たちもあわよくばお近付きになりたいと言ったところだろう。
ペーターの方は何を考えているか分からない感じだ。有能な冒険者というのはこういうものなのだろうか。
「俺はレイ、こっちはフィオナだ。こちらこそよろしく」
「フィオナです。よろしくお願いします」
「レイとフィオナだね。短い間だがよろしく。それじゃあ自己紹介も済ませたところだし早速調査に向かうとしようか」
こうしてレイたちは、魔物が出没しているというセイル村へ向かうことになった。
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