第二十話 運命の出会い
久しぶりにレイ登場です!
貿易都市レイヴンにて セイル村のワイバーン襲撃の4時間前―――。
ある少女がレイヴンに一人で訪れていた。名前はフィオナ=ラングナー。ノアの妹である。騎士団長であるノアとは違い戦闘系の使い魔ではないので、何か別の手段で姉を手助けできることはないかと日々考えている。
フィオナの使い魔は黒猫<ブラック・キャット>である。戦闘は不得手だがサポート能力には優れている。その中でも特質すべき能力は「心眼」で、直接触れた相手の本質を見抜くことができる。
そして今日はフィオナがその手助けのために計画を実行に移した日であった。人探しである。とある一人の青年に出会うために。
(あてはないけれど街中を散策すれば何か情報が手に入るかもしれない)
フィオナは以前にレイヴンへ視察という形で一家で訪れたことがある。滞在中少し時間ができ街へ買い物に行った時の話である。荷物が多すぎて転びそうになることがあったのだが、とある青年が寸前のところで助けてくれたのである。
そのときは突然の出来事で青年の名前を聞くことができずにいた。ただはっきりと覚えていることがある。その青年が今まで出会った人の中で最も誠実で、何かは分からないが世界を照らす大きな可能性を秘めていることを。
心眼持ちであるフィオナだからこそ気づけたことだった。
(今だからこそやっと分かった。あの方ならお姉様の、第七騎士団の皆様の力になってくれるかもしれない)
最近では魔物の出没や王国での権力争いなど、ノアが厄介なトラブルに巻き込まれていることをフィオナは知っていた。
その中で第七師団の戦力増強をノアが進めていることを知り、手助けがしたいとフィオナも単独で動いていたのである。もちろんノアに気付かれれば危ないからと関与させてくれないので秘密で行動している。
そして現在自分でも馬鹿だなと思いながらあてもなくその青年を探している。名前も知らないのだから無謀なのはわかっていた。
かなりレイヴンの街を歩いたがそれらしき人物には会うことはできていない。
(やはり名前を聞いておけば良かった)
あの時は謙遜して名前を教えてはくれなかったが、無理矢理にでも聞いておけば良かったと後悔するがもう遅い。
歩き疲れたので目の前にあったベンチに腰をかける。
「はあ疲れたー、これじゃあ家出したみたいに見えちゃうな」
家族には内緒でレイヴンまで来てしまったのだ。一応置き手紙はしたが家族は心配しているだろう。
そんなことを考えながら上の方を見上げると、一瞬誰かと目があったような気がした。心眼持ちのフィオナだからこそわかる。何か嫌な予感がした。
(誰かにつけられている?)
自分に向けられていたものであることは直感でわかる。ここで留まっているのはまずいと思いベンチから立ち上がる。
それ以外にも追手がいるようで複数人で自分のことをつけているようだった。
早歩きで道を進んでいく。人の合間を縫うようにして追手を巻き上げていく。
そこで突然、路地裏に潜んでいた男に手をつかまれる。声を上げようとしたが口を塞がれてしまった。
「んんっ!」
「大人しくしてなぁ、かわいい嬢ちゃん。騒いだら俺のナイフが間違えて嬢ちゃんの舌を切り落としちまう」
「おいダッジ、あまり乱暴に扱うなよ。そいつに傷がついたらその後の利用価値も考えると勿体無いだろう」
男たちが碌でもない話をしている。ここから早く逃げ出したいが動きを封じられてしまい、どうすることもできない。
「別に少しぐらい遊んでもいいだろうレニス。減るもんじゃないしよ。まあゴルドフが飼っているイカれた情報屋も伊達じゃないってこったな」
「イカれてようがなんだろうが有用な情報さえ渡してくれればそれでいい。余計なことには興味がないからな」
「食えない野郎だぜ、お前は」
状況を見るとダッジとレニスという男たちは手練れであることは分かる。ダッジは容易に想像しやすい絵に描いたような悪党で、レニスの方は頭が回る計算高そうな男に見えた。
先ほど襲われた際に心眼でダッジのステータスをぼんやりとだが把握することができた。
自分と同じく戦闘系の使い魔ではない。おそらく隠密行動に特化した支援系のものだろう。そうはいっても相手は手練れの悪党。遥かに戦闘能力も自分より上であることは容易に想像できる。下手に動けば殺されてしまうかもしれない。
(ここは大人しく従うしかない‥)
フィオナも諦めかけていた時、新しい人影が近づいてくる。また悪党の仲間が合流したのだろう。だがどこか違う雰囲気も感じる。
恐る恐る顔を上げると見知った顔がそこにはあった。
「ここで何をしているんですか、しかも女の子を囲って」
男たちが声を上げる。
「誰だぁてめぇ?関係ないやつは引っ込んでな」
「あなたには関係ないですね、、おや?ああ、これはこれは。すみません、彼女に道を訪ねていただけですよ」
ダッジは不思議そうな顔をしていたがレニスが耳打ちをする。ダッジはにやにやとした笑みを浮かべながらわざとらしくフィオナに感謝の言葉を述べる。
「嬢ちゃん道案内ありがとうな。それじゃ俺たちはこれで失礼するぜ」
「では私もこれで」
二人が何事もなかったかのように立ち去っていく。レイも内心ドキドキしていたが、街中で戦闘は流石に仕掛けてこないだろうと賭けに出ていた。それがなんとかうまくいったようだ。
レイがフィオナに声をかける。
「何か変なことはされていない?あれ?もしかして君はあの時の」
見間違えるはずがない。ブルーの瞳に見る者を惹きつけるその美しい容姿は以前助けた少女と同じだった。
「あなたは!以前にも助けていただきありがとうございました。私はフィオナ=ラングナーと言います。フィオナで大丈夫です。ずっとお礼を言いたくてあなたを探しておりました」
探していたなんてそこまでしなくてもと思うが、フィオナのレイに対する真剣な眼差しが本気であることを語っている。少し照れ臭そうにレイも答える。
「そこまで人に感謝されたこと今までなかったな。こちらこそありがとう、フィオナ。俺はレイノルド=アイザック。レイで大丈夫。君みたいな子がもっと増えてくれればいいんだけどな」
それは心からの本音であった。自分が起こした行動で感謝されたことはあまり記憶にない。ノース村の嫌な三人組を筆頭に周りからはnullであると蔑まされてずっと生きてきた。
今所属している冒険者ギルドでもお前がいるとギルドの品が落ちるとか言いがかりをつけてくる嫌なやつもたくさんいるからだ。だが少しでも自分の味方になってくれる人がいるだけで人は強くなれる。
「レイさんは冒険者なんですか?」
「Eランクだけど一応ね。だけど冒険者ギルドでは腫れ物扱いだよ。nullで冒険者になった世間知らずってね」
「そうなんですか。でも私にはそんなことは関係ないです。レイさんはすごい人でこれからたくさんの人を救う存在になります!私が保証します」
レイさんのことを何も知らないくせに、とフィオナが急に怒ったような口調で話し出す。少しびっくりしたが、自分のことで怒ってくれるなんて幸せだなとレイも感じる。
「ありがとう。でもその役目は王国騎士団に譲ろうかな」
「ではレイさんが王国騎士団に入れば解決ですね」
フィオナが冗談なのか本気なのかは分からないが、レイのことを本気ですごいと思ってくれているのは事実のようだ。
「そういえばこれからフィオナはどうするの?一人だと危ないからな。あっそうだ。冒険者ギルドで受付の人に事情話せばなんとかしてくれるかも」
「本当ですか?私を冒険者ギルドに連れていて下さい。あとできればレイさんにしばらく同行させてもらえないでしょうか」
「それはいいけど、もっと強い冒険者といた方が安全じゃないかな。あとは王国騎士団とか」
「ダメです!私はレイさんにお願いしたいんです!」
フィオナがそこだけは絶対に譲れないと言わんばかりにレイに詰め寄る。天使のような少女にここまで言わせてしまえば断ることはできない。
「分かった、分かったよ。でももし予測不能なことがあったら全力で逃げるって約束だ。Eランクでは役不足過ぎるから」
「分かりました。全力でレイさんをサポートします!」
「さ、サポート?まあ、いいか‥」
どうやら話が通じていないようだったがここで問いただすのも野暮というものだろう。
レイとフィオナは冒険者ギルドへと向かっていった。
そしてこの出逢いがレイの運命を大きく変えることになる。
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