第十九話 終わらぬ災難
「すべて切り伏せるのみ!」
セブンラウンズ師団長の一人であるノアのマナ総量は一般人とは桁違いである。基本魔術を行使するだけでも、通常の使い魔と同等かそれ以上の威力を発揮する。
「ジェシカたちをこの状況に置いてしまったのは私の責任。非難されて当然。けれどその前にあなたたちには罰を受けてもらうわ」
身体強化によってノアの速度と筋力が向上。勢いに乗った一振りはいとも容易く敵の筋繊維を切り裂いていく。
残る闇の冒険者と数十頭いたガーゴイルたちはその場に崩れ落ちる。
「何が起きやがったッ、がはっ」
圧倒的優勢であった闇の冒険者たちも突然訪れた劣勢に理解が追いついていなかった。
これこそがセブンラウンズ、Sランクの力なのである。
ジェシカもその様子を見て敵に同情する。
「あれでは敵がかわいそうになってきましたね。さすがに相手が悪すぎた」
リーダ格の男にノアが詰め寄る。
「そこの突っ伏しているあなた。死にたくなければ白状しなさい。誰の命令でこの騒動を計画したのかしら」
「ゴホッ、何も言うことはないですよぉ」
ノアが問いただしても男は口を割らない。そこまで黒幕に忠誠心があるのかとノアも苛立ちを強める。
「何も答えないつもり?あなたの命は保証できなくなるけどそれでもいいのかしら」
ここで男が話し出す。不気味な笑みと共に。
「たった今仲間の通信魔術で情報が入りました。辺境の別の村がすごいことになっているらしいですよ」
「なんですって?ここまでやっておいてタダで済むとは思っていないでしょうね」
ノアもさすがにこれ以上襲撃があるとは想定していなかった。ここまで組織が大きかったとは‥。
男はさらに勝ち誇ったような顔で話を続ける。
「あっ、そういえばこんな情報もありましたねぇ。あなたによく似た少女が私の仲間にまんまと騙されて魔物に襲われている村の様子を見にきたとか」
このとき初めてノアは思い知る。敵は想像していたよりも遥かに厄介で凶悪なことを。完全にしてやられたのだ。
「一体どうして。フィオナをどうするつもり!」
ノアによく似た少女。それはノアの妹で名はフィオナ=ラングナー。
敵が勝ち誇った顔をしていたのはフィオナを魔物に襲わせることでノアの心を折れると思ったからだ。まさにゲスの極みである。
「はやく助けに行かないといけませんねぇ。でもここから間に合えばの話ですが。ははあああああ!」
ノアは怒りに震えながらも冷静に指示を出す。
「ジェシカ。あとから増援を呼んでこの村の安全を確保して。私はもう少し頑張らないといけない」
「私も行きます!フィオナ様のためにも」
「ダメよ。あなたまで危険に晒すことはできない。私は大丈夫だから」
そういうとノアは全速力でフィオナの元へと向かっていった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ライル村出発から20分後―――――。
男の言っていた場所、セイル村はどんなに早くても30分はかかる距離だ。嫌でも最悪の事態を想定してしまう。
(一体何が目的なの‥。そもそもどうしてフィオナが村に来ている?)
正体のわからぬ敵への恐怖心と怒りで情緒が不安定になる。けれどもフィオナを救い出すのに理由など必要なかった。
セイル村にもだいぶ近づいてきてその様子がなんとなく見えてきた。ノアは遠視魔術を発動させ周辺の状況を探る。
「セイル村の南方に黒い影が複数。いやその後ろにもさらにいるわね‥」
男の言っていた通りセイル村に魔物の影が存在していた。おそらくライル村と同じく誘惑剤によって惹きつけられたのだろう。
「数が多い。しかもガーゴイルではない?」
遠視魔術の倍率を上げて確認する。するとそこには思いも寄らぬ影が存在していた。
「あれはまさか―――。ワイバーン!なんてこと‥」
ワイバーンはドラゴン系の魔物でガーゴイルよりも強力である。ノアの実力であれば倒すことは難しくはないが、決して油断できるほどの相手ではない。
セイル村もライル村と同じく一般市民が住んでおり、とてもワイバーンの相手をできるとは思えなかった。ノアが助けに向かわなければ一方的に蹂躙されるだけだろう。
「だけどここからまだ距離がある。お願い、間に合って!」
だが現実はそんなに甘くはない。おそらく間に合わない可能性の方が高いだろう。ノアの心も徐々に絶望に染まっていく。
何かもわからないわずかな可能性に縋るように残りの道のりを駆けていった。
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