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第十八話 戦場の女神

ウィンブルさん頑張って!の回です。


第七師団本部  ノアがライル村にたどり着く30分前―。


第七師団本部にいたノアはジェシカの伝書鳩から情報を受け取った。通知が来たということは状況がかなり深刻であることは容易に想像できた。


伝書鳩が見聞きした情報は魔術回路を通して映像として記録することができる。険しい表情でノアが状況を分析する。


「記録をみるとガーゴイルの襲来と闇の冒険者の出現か。同時に襲われたとすると三人程度ではあまりに荷が重すぎる」


感情を抑えきれずにノアが拳を机に叩きつける。なぜこのような悪行が平然と行われるのかという怒りと、今仲間たちが置かれている状況を未然に防ぐことができなかった自分に腹が立っていた。


衝動的な思惑による事件ではないとノアは考える。ガーゴイル襲撃作戦が失敗に終わった時のことを想定して用意された闇の冒険者たちの予備戦力など、明確な計画性をもって実行されていることは間違いないだろう。


冒険者の中には道を外して悪に染まる者も少なくない。それがAランク冒険者、もしかしたらSランク帯の者までいるとしたら、第七師団だけでは対処が難しいかもしれない。


「それでも…相手が誰だとしてもこの報いは必ず受けさせるわ」


団員の一人が心配そうにノアへ話しかける。


「ノア様。ジェシカ様達は大丈夫でしょうか」


「大丈夫よ、必ず私が命を懸けて守り抜く。しばらくここをお願いね」


ノアは魔術紋様が施されたロングソードを腰に備え付け、ライル村に向かって突き進んでいった。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ライル村  ノアの到着の数十分前―。


ガーゴイルが一掃されたと思えば、闇の冒険者とかいう集団が襲ってきやがった。ウィンブルも目まぐるしく変化する状況に困惑していた。


「こいつら数だけは多くて厄介だったな、とりあえずは凌いだか。おいお前ら、けがはないか」


ウィンブルを中心として村人たちも突如現れた闇の冒険者の一味と戦闘を繰り広げていたのだ。


「こっちは数人けが人がいるが、幸い軽い傷で済んだよ。さすがは元一流冒険者だな。ウィンブルさん」


「元っていうのが少し寂しいがな。それにしても闇の冒険者か。また厄介なことになっちまったな。いくら王国騎士団でも消耗している中であいつらの相手はさすがにキツイだろうな」


見たところ集団の中に数人手練れだと思われる奴らがいる。ウィンブルの長年の勘がそう告げていた。


「王国騎士団の嬢ちゃんがやばそうだったら俺もちょっとばかし援護射撃といきますか」


ウィンブルが思考巡らせていると村人が少し明るい表情で駆け寄ってくる。


「みんな、王国騎士団がリーダー格の男を捕縛したらしい!これで全員やっつけたな」


ウィンブルもその報告を聞いて安堵する。自分が出るまでもなかったな、と改めて王国騎士団の凄さを思い知らされる。


周りからも安堵の声が聞こえてくる。しかし、残酷にもその時間も長くは続かなかった。


遠くの方から聞き覚えのある鳴き声が聞こえてくるのだ。嫌な予感がする。


「気のせいならいいんだが、こりゃガーゴイルの鳴き声だよな?」


ウィンブルも周りの村人たちも一気に表情がこわばる。いつまでこの地獄が続くのかと。終わりの見えない恐怖に皆、身も心も疲弊していた。


そしてそれは確信へと変わる。はっきりとした黒い影が続々と空からライル村に押し寄せてきたのだ。


「おいおい、うそだろ…」


目の前の光景に思考がしばらく停止する。回らない頭に鞭を打って、ウィンブルが村人に指示を出す。


「戦える奴らは俺と一緒に来てくれ!残りの奴らは奥に隠れてるんだ」


「分かりました。よし、お前も一緒にウィンブルさんの援護に回るぞ」


「「了解!」」


ウィンブルと村人2人でガーゴイルに立ち向かう。


(とりあえず王国騎士団がこちらの援護に来てくれるまで耐え抜ければいいが…)


まずは身体強化だ。ウィンブルが魔術を発動し筋力強化を付与する。ガーゴイルをまずは地上に落とすことから始めなければならない。


「まずは俺が空中に躍り出て奴らの翼を切りつける。お前たちはそこに追撃をかけてくれ」


「「分かりました!」」


ウィンブルがガーゴイルに向かって一気に跳躍する。そして風魔術を発動させ、一直線にガーゴイルの翼を連続で切り付けていく。


「集団で固まってくれて助かるぜ、ガーゴイルさんご一行よ。根源たるマナと引き換えに力を示せ―。ブラスト・ウィンドウ!」


風の勢いに乗ったウィンブルがロングソードを的確にガーゴイルの翼に当てていく。ガーゴイルの翼は揚力を失い鳴き声を上げながら地上に落下していく。


「ウィンブルさんがやったな、俺たちも追撃にかかるぞ」


「もちろんだ」


村人たちも無我夢中でガーゴイルに攻撃を与える。


「根源たるマナと引き換えに力を示せ―。ファイヤ・ボール!」


「根源たるマナと引き換えに力を示せ―。サンダー・アロー!」


「ギャアアアー!」


ガーゴイルも落下ダメージに加えて追撃が致命傷となり息絶えていく。


「このままいけば耐えきれるかもしれないな!」


村人がかすかな希望を見出すがウィンブルがそれを否定する。


「こんなこと言いたきゃないが、まだ集団がこっちに向かってきてる。こりゃまずいな」


ウィンブルはロングソードを強く握りしめて勝てるかもわからない戦いに身を投じた。


ひたすらに翼を切りつけ、追撃しを幾度と繰り返しどれほどの時間が経過したのかも分からない。実際の時間はそれほどではないかもしれないが、体感は何十時間にも感じられた。


ウィンブルたちも今度こそ限界だった。


集団で押し寄せてくるガーゴイルの鉤爪が容赦なく襲ってくる。防御魔術を張るマナも残っておらず傷だけが増えていく。


「ぐはぁっ!」


口から吐血する。続けざまにウィンブルの右肩がガーゴイルの鋭い爪によって切り裂かれる。出血もかなりひどい。一刻も早く手当てしたいところだが、ガーゴイルはそんな時間は与えてはくれない。


意識もだんだん薄れてきて視界もよく見えなくなってきた。疲労も限界だ。だからといってこのまま寝てしまったら本当に死んでしまうだろう。


「まあ、俺にしちゃあ頑張った方だよな。心残りが無いと言ったら噓になるが―――――」


終わりの時を迎えようとしていた。










―――――否、運命はウィンブルをまだ見捨てることはなかった。


目の前には凛とした可憐な佇まいの少女の姿。けれども圧倒的なオーラを放つ常軌を逸した存在であることも事実だった。


ぼやけてよく見えなかったがそれでも分かる。ウィンブルも人生捨てたもんじゃないと小さく笑う。


「そうか。これが噂に聞く女神様の正体だったってわけだ。この目で直接見れるとはな」


そしてその女神様は閃光のごとくガーゴイルの群れを一掃していくのであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

もう少しで主人公とノアたちの話が交差します。


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